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呪い研ぎの研ぎ師  作者: 真打
第五章 盗賊と海賊
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5.3.夢で聞いたこと


 夢から目が覚めた瞬間、テールは跳ね上がるように起き上がった。

 目が覚めた後も、夢の中で藤雪と名乗る不気味な人物との会話はしっかりと覚えている。

 これは早く木幕たちに説明しなければならないと思い、彼らを探す。


 周囲を見渡してみると、ここはレミに眠らされた時にいた馬車の中のようだ。

 隣では未だにメルが寝ている。

 起こさないようにして馬車から顔を出して周囲を見渡してみると、外は真っ暗だった。


 焚火が一つあり、その手前にはレミが座っており、彼女にもたれかかるようにしてスゥが寝ている。

 レミは寝ているわけではないようだが、微動だにしていない。

 こちらに背を向けているので寝ているかどうかも分からないが、とりあえず降りて声をかけることにした。


「レミさん」

「あれ? もう起きちゃったの? 明日の朝まで眠るように魔法をかけたつもりだったんだけどなぁ」

「ていうか何で眠らせたんですか……」

「体、軽くない?」

「え?」


 いわれてみれば、確かに体が軽い気がする。

 数日の旅ではあったがそれだけでも初めて国を移動したテールにとってはなかなかつらい経験だった。

 なので筋肉痛と戦っていた日もあるのだが、それがすべて消えている。

 疲れも取れているようで、肩が非常に軽いということにも気が付いた。


 この魔法は眠ると同時に体の不調や体力を回復させてくれるものだそうで、主にメルのために掛けた魔法であったようだ。

 西形との稽古のあと回復はさせたが、それだけでは足りなかったらしい。

 なので今回でしっかりと休んでもらおうと考えたようだ。


「すごいですね……」

「普通よ」

「いや、普通じゃないです。あ、木幕さんは?」

「少し歩きたいみたい。まぁずっとあの場所に居たからね。動けるかどうかの確認も含めて体の調子を確かめたいんだと思う」

「そ、そうですか……」


 できればすぐにでも話したい事ではあったが、これはレミに話しても理解してくれるのだろうか?

 藤雪は木幕の方がよく知っているような口ぶりだったし、それに彼らは同じ世界から来た人物のようだった。

 そのことなら聞くことができるだろうか。


「レミさん、一つ聞いてもいいですか?」

「いいわよ」

「木幕さんって違う世界の人なんですか?」


 その言葉にレミの雰囲気が少し変わった。

 ゆっくりとこちらを振り向き、驚愕の表情を浮かべながら聞き直す。


「……なんて?」

「えっと……木幕さんって違う世界の人……なんですか?」

「なんで知ってるの?」

「合ってるんだ……。ええと、藤雪さんって人に教えてもらいまして。夢の中で……」

「藤雪……?」


 レミはそのまま下を向き、深く何かを考えるようにして固まった。

 ぼそぼそと何かつぶやきながら思案している。


 レミの反応から、木幕が本当に異世界の人間だということが分かってしまった。

 ということは、魂たちもそうなのだろう。

 

 神がそんなことをするとは思っていなかったので、少なからずテールはショックを受けた。

 しかし藤雪が言っていた通り、神にも感情がある。

 なんでもできてしまうからこそ、少し道を踏み外すだけで取り返しのつかないことをしてしまうのかもしれない。


 そこでレミが顔を上げる。


「テール君。もう少し詳しく説明してくれる?」

「はい。寝ている時に夢を見まして、そこで藤雪万っていう人と会いました。僕の夢の中に入り込んできたみたいです。で、その人は神様に挑んで負けた、と言っていました」


 それからテールは、あの空間で聞いたことをレミに話した。

 木幕たちは殺し合いをさせるためにこの世界に呼ばれた事、呪いは主に木幕とテールへと向けられており、木幕の魂を解放することができるテールに藤雪たち十二人の侍がこれから襲ってくる事。

 そして彼らとかかわった魂が目覚め、同じ様に襲ってくる事。


 どれもにわかには信じられない話ではあるが、レミは真摯にその話を聞いてくれた。

 彼女なりにその話を頭の中で整理し、今までの経験と知識から自分が納得できる情報へと変換していく。


「……うんうん。てことはナリデリアっていう神様は生きているの?」

「神様は死んでいるって言ってました。でも、呪いは生きていたって……」

「なるほどね。じゃあこれからテール君を殺すために十二人の侍と、私たちが関わってしまった人たちが襲いに来る、と……。大体分かったわ。要するにかかってくる敵は倒しちゃえばいいわけね」

「ええー……いやまぁ、そうですけど……」


 意外と脳筋思考のレミに少し驚く。

 彼女はやる気満々といった様子で腕を軽く叩いていた。

 守ってくれるのであればありがたいことこの上ないが、それでは彼らに負担がかかってしまうのではないだろうか。


 相手は過去の人間であり、情報は一切ない。

 藤雪たち十二人の侍もどんな人なのかまったく分からないし、彼らの使う魔法も聞きだすことはできなかった。

 出たとこ勝負の戦いになるのは明らかだ。

 しかし、レミは心配ないと胸を張って答えた。


「こちとら数百年隠居生活だったからね。暴れたくて仕方ないのよね!」

「いや、あの。最強と言われている人たちが暴れるとどうなるか分かったものじゃないので……」

「手加減はするけど相手によるわ。私たちと同じくらい強い相手であれば本気を出さざるを得ないし」

「でも強いかどうかは分かりませんよ?」

「善さんと同じ世界からやってきた人たちは、総じて強い。まぁ例外はあるけど、彼らの魔法は絶対に侮っちゃいけないわ。でもなんとなかなるなる、大丈夫大丈夫」


 脅威に対してあまり恐怖を感じていないどころか、危機感すら持っていなさそうな軽い答えを聞くと少し心配になった。

 だがレミがそう言うと、本当に何とかなる様な気がしてくる。


 とにかく自分がしなければならないことは彼らの魂を解放するために必要な技術力だ。

 彼らの役に立てるように、自分は自分にできる事を優先してやっていくのがいいのかもしれない。


「でもまぁ、この事は善さんに話しておかないとね」

「あ、それと……初めに来るのは里川器っていう人だって言ってました」

「里川だと?」


 いつの間にか帰ってきていた木幕が、テールの言葉に反応した。


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真打Twitter(Twitter) 侍の敵討ち(侍の敵討ち)
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