4.13.目的地
すっかり日が昇って明るくなった道を、ゆったりとした速度で馬車が動いている。
レミがスゥに御者のやり方を教えており、馬車の中では木幕、テール、メルが座って話をしていた。
「お主らには、某の力について教えておかなければな」
目を閉じたまま、木幕はそう言った。
彼の力は未知数だ。
今後旅をしていくにあたって理解しておいた方がいいという判断なのだろう。
どんなことを聞いても驚かないように気を引き締めながら、二人は木幕の言葉を待つ。
「某が呼び出せる魂には制限がある。普通に呼び出す分には一割の力で呼び出せるが、奇術を使わせるのであれば四割の力を必要とする」
「……?」
説明を聞いてみたが、いまいち理解することができなかった。
どういうことなのだろうかと、二人は顔を見合わせるがそれで理解できるわけがない。
すると、御者にいるレミがこちらに顔を覗かせた。
「昔から善さんは説明が下手くそだから、私が説明するね」
「む」
「まず、善さんは十一人の魂を体の中に抱えてるの。んで、その一人を普通に呼び出す場合は善さんの力の一割を使わないといけない。だけど魔法を使わせるようにする場合は、善さんの力の四割を一人の魂に使わないといけない」
「魔法を使わせるようにすることができるんですか?」
「そうだよ。でも魔法を使えるようにした魂は同時に二人までしか呼び出せない。一割でも力は残しておかないと善さん倒れちゃうから、呼び出せるのは最大九人。もちろんその場合は皆魔法は使えない。ちなみに、メルちゃんが戦った西形さんは一割の力で呼び出した魂ね」
一割の力で呼び出した魂だけでも、相当な戦力になると実際に戦ったメルは理解する。
あれに魔法が使える様になったのであれば、もう手が付けられなくなるだろう。
それと魂が倒されてしまった場合は、数日間呼び出すことは不可能となる。
西形は甘んじてメルの攻撃を受けたのだが、それによって残り二日は魂の体力を回復させなければならいらしい。
悪いことをしてしまっただろうかとメルは不安になったが、それは大丈夫だとレミが慰める。
「あの人すごい変だから大丈夫大丈夫。魂の中でも若いからそんなに気にしてないよ」
「そんなものですか……?」
「そうそう。あ、それと今から向かう場所はルーエン王国って場所ね」
「ルーエン王国!」
「あれ、テール君は知ってるのかな?」
知っているも何も、カルロからよく聞いていた国の名前だ。
旅をする事になるとは思っていなかった頃のテールは、生涯行くことはないだろうと諦めていた場所なのだが、あそこは今持っている砥石が作り出された原点ともいえる場所である。
あの場所で砥石が作られたとれており、研ぎ師であれば一度は行ってみたい国。
そこに行くとなったのだからすでに興奮している。
「い、いつ頃着きますか!?」
「えーと、とりあえず海を渡らないといけないから、四ヵ月後くらいかなぁ? 昔に比べて道はしっかりしているだろうし、そんなに長くはかからないと思うよ」
「やったっ!」
しかしその道のりはそう簡単ではない。
今から向かう港で船に乗り、そこからアテーゲ王国へと向かわなければならないのだ。
長い航海が待っているので、船酔いは覚悟しておいた方がいい。
大きな国のアテーゲ王国には石の転移魔法陣が作られているので、ルーエン王国まではすぐに行くことができるはずだ。
大魔法使いのテディアンという人物がそれを作ってしまったらしい。
なのでこの二ヵ月は基本的に船での移動だと思っておいた方がいいだろう。
だがそこまで時間がかかるのであれば、辻間の風魔法で飛んでいけばすぐなのではないかと思ったが、それは旅ではないとの事。
急ぎの旅ではあるが、テール自身が成長しなければ達成はできない話なので、ここはゆったりと進んで研ぎの技術を旅している最中に教えるらしい。
遅い移動にもしっかりとした理由があるようだ。
「ルーエン王国に到着したら、テール君の砥石を採掘しに行くよ」
「え!? いいんですか!?」
「もちろん。その為に行くんだもん。沖田川さんが全部教えてくれるから、その辺は期待していいと思うよ」
「分かりました!」
本当に今から楽しみである。
一体どんな砥石があるのだろうかと、勝手に想像する。
カルロがやっていた刃物の形に砥石を合わせるやり方や、もっと刃の乗り方がいい砥石もあるかもしれない。
採掘と言っていたので、砥石を採掘することができる鉱山があるのだろう。
現地にいる研ぎ師とも話をすることができたらいいなと考えると、到着が尚更楽しみになった。
「あ、メルちゃんは私と特訓ね」
「レミさんが稽古をつけてくれるんですか?」
「そうよー。多分魂の中では私が一番弱いからね」
「ちなみに西形さんは……」
「あの人は~……魔法を使えば四番くらい。メルちゃんが戦った状態だと下から数えた方がいいかもね」
「ま、魔法でそんなに変わるんですか……」
「西形さんはね。特殊だから」
パンッと手を叩いて、レミがこの話の区切りをつける。
御者の仕事に戻る前に、とメルにもう一度話しかけた。
「特訓は明日から。今日はできるだけリヴァスプロ王国から離れたいしね。というわけでテール君もね。明日に供えて今日はゆっくり休んでね。眠れ」
「「えっ」」
片手を軽くこちらに向けたレミは、魔法を唱えた。
その瞬間睡魔が襲い掛かり、瞼を開けていられなくなって閉じた瞬間には既に眠りに落ちていたのだった。




