4.11.移動開始
いつもながら早起きのテールは、日が昇ってきたと同じくらいに目を覚ます。
体感的にはそんな感じだったのだが、窓の外を見てみればまだ日は昇っておらず、まだぼんやりを明るい程度だった。
昨日は色々あってぐっすり眠れるとは思っていたのだが、起きなければならないと前日の夜に覚悟しておくと、案外スッと起きられるものだ。
ベッドから降り、荷物を背負う。
顔を洗いたいが、恐らくそんな時間はないだろう。
廊下から聞こえてくる足音を聞いて、ノックをされる前に扉を開けて外に出た。
すると、ドーレッグが感心したように声をかけてくる。
「お、起きていたか。おはよう」
「おはようございます。その辺の宿よりいいベッドでした」
「まぁ臨時医務室のベッドだからな。で、もう一人は?」
「起こしに行かないと多分……」
と思っているとメルが寝ていた扉が開かれた。
ずいぶん眠そうにしているが、身なりは整えられている。
大きな欠伸をしながらこちらに歩いてきた。
「おはようメル」
「おはよー……」
「んじゃ揃ったな。これからすぐにでも西の城門に向かう。大丈夫か?」
「はい!」
「大丈夫です……」
「本当に大丈夫か?」
起きたばかりで眠いのは分かるが、これからは気を引き締めてもらわなければならない。
テールが軽くメルの背中を叩く。
気休め程度にしかならないだろうが、少しでも目を覚ましてもらいたいと思ってのことだ。
とはいえ歩いていたら目を覚ますだろう。
そう思い、ドーレッグはすぐにギルドを出ることにした。
二人もその後を続いていく。
周囲の警戒をしながら顔を覗かせたドーレッグが安全を確保する。
誰もいないことが分かったので少し速足で移動を開始した。
ここから西の城門まではしばらく時間がかかる。
周囲の警戒を怠らないようにして安全を確保しつつ、目的地へと足を進める。
「……ドーレッグさん」
「なんだ?」
「僕たち以外に護衛してくれる人っていないんですか?」
先日の話から、信頼できる冒険者に協力を要請するということが決まっていたはずなのだが、周囲を見渡してみてもそれらしい人物は見えなかった。
一緒についてきているわけでもないし、後ろから追従してきているわけでもない。
ようやく目が覚めてきたメルも、話を聞いて周囲を確認してみるが確かに冒険者らしき気配は近くにはないようだった。
話と違うなと思っていたのだが、そんなことはなかったらしい。
「いるよ」
そう言って上を指さす。
見上げてみると、屋根の上で走って付いてきている人物が見て取れた。
風魔法の使い手なのか、とんでもない跳躍力を見せて屋根を飛び移っている。
「Aランク冒険者のソレイアだ。あいつは弓使いでな。いろんな音が鳴る弓を使って味方との連携を取ることを得意としているし、その腕もなかなかのものだ」
「そんな使い方があるんですね」
「アイデア次第で戦闘は劇的に変わるからな。さぁここからはお喋り禁止だ」
口をチャックする様にジェスチャーをしたドーレッグを見て、二人も口をつぐんだ。
それから三人は地上を移動し続け、何事もなく西の城門に到着することができた。
ずいぶんと分厚い城壁で、門は二重にされているらしい。
開いていないので外に出ることはできないが、ここで待ち伏せされているということはなかったようだ。
道中何もなかったので肩透かしを食らった気分ではあるが、問題はここからのような気がする。
西行はここまで連れて来いと言っていたが、それからどうするのかはまったく聞いていない。
とりあえず到着した三人だったが、足を止めて待つしかなかった。
「ここでいいはずだが……」
「誰も居ませんね」
「うん」
そこで風が吹いてきた。
ちょっと強めの風だったので顔を腕で庇う。
屋根の上で索敵をしていたソレイアが風魔法を使って降りてきたようだ。
身軽な服装のため、着地も静かだった。
「ドーレッグさーん。なんか仙人様がいるであろう場所に凄い軍隊みたいな数の兵士がいるんですけど」
「上から見えるほどの?」
「ええ」
城壁の上から見た限りだと、森の隙間から見える程の兵士が居たという。
よく一日でそれだけの数を集めて国の外に動かしたなと感心するしかないが、彼らなりの移動手段というものがあるのだろう。
だがこのままではやはり徒歩で仙人たちと合流することは叶わない。
まだ日も出ていないので門も開くことはないだろうし、今のところここで足止めを喰らっている状況だ。
どうしようかと考えていると、この状況を打開できる人物が現れる。
「お待たせー」
「あ、西行さん」
「やっ。とりあえず襲われずに来ることができたみたいだね。お疲れさんドーレッグ」
西行はドーレッグの肩とポンと叩いてから、テールとメルの前に立った。
「よし、行こうか」
「「あ、ちょっと待ってください」」
テールとメルが西行を止め、後ろにいるドーレッグとソレイアを見る。
ここまで一緒についてきてくれた人なのだ。
礼もなしにお別れとなるのは良くない。
「ドーレッグさん、いろいろありがとうございました!」
「レミさんからの最後の仕事だ。気にするな」
「ソレイアさんもここまで一緒に来てくれてありがとうございます」
「仕事だからいいのよー。ま、これからこの国は面白いことになるだろうけどね。まぁ君たちも頑張ってね」
「「はい!」」
「挨拶も終わったかな? んじゃいくよー」
どうしても早く行きたいのか、西行はすぐに黒い影を地面に作り出した。
その中に入るように二人へと促し、テールとメルは意を決してその中に飛び込んだ。




