4.6.疑問
メルの言葉に、テールは首を傾げる。
隣で話を聞いていたドーレッグは確かに、といった風に頷いた。
「と、いうと?」
「私たちに危険が及ぶって仙人さんたちは絶対分かってたよね? だったらあの家に泊まらせてくれたらそれでいいはず。何かあっても守ってくれるし」
「そう言われれば……確かに」
守るべき対象が手の届く範囲にいるのであれば対処はしやすいはずだ。
だが彼らは二人をリヴァスプロ王国へと帰した。
まるで自らに迫りくる危険を何とかして来いと言わんばかりに。
もうここから修行が始まっているのだろうか?
そう考えると既に難易度がとても高いことに気付いてメルは頭を抱えた。
「こ、これドーレッグさんがいなかったら本当にやばかったんじゃ……」
「仙人様のことだから何かしら理由はあると思うが……。あの人たちのことは儂もよく分からん。レミさんがお前たちに言伝を頼んだのは、ある程度の救済処置か? んんー……」
「とりあえず、すでに起こっていることをまずは優先させて解決しましょう」
「それもそうだな」
彼らの目的がどうであれ、今は作戦を練らなければならない。
状況を把握しただけで具体的な方針はまだ決まっていないのだ。
居住まいを正したドーレッグは、先ほどの話を一度置いておいて話を戻す。
「とりあえず二人にはここに泊まってもらう。ちなみにもう外出はさせられない」
「ですね」
「あとは儂の方で仲間を集う。今晩は防衛、未明に出発。馬車では目立つから徒歩で行くぞ。外套は支給してやるからいいとして、あとは退路の確保と合流方法だな……」
再び地図を見る。
冒険者ギルドから仙人の住まいはずいぶん離れており、片道だけでも一時間はかかってしまうだろう。
だがそれは普通に移動した時に移動時間であり、今回は隠密での移動を要求される。
なので到着時間はもっとかかると思ってもいいはずだ。
できればこの周辺に詳しい冒険者を仲間に引き入れたい。
それとできるだけ腕っぷしの強い人物。
まぁそれはどうとでもなるので大丈夫だろう。
一番の問題は、合流方法だ。
「さっきも話したが、仙人様の住まいの周辺は包囲される可能性が高い。二人が来るということが分かっているのであれば、そこで待ち伏せするのが妥当だろう」
「仙人さんたちが出て来てくれたらいいんですけどね……。でも合図を送ることもできそうにないですし……」
「どこかでツジさんと合流できたらいいね」
「どうだろうね」
彼の持つ風魔法であれば、移動は非常に簡単だ。
周囲に被害を出してしまうことは否めないが、ただ強力な風が吹くだけなので怪我をするくらいで終わるだろう。
しかし合流できるとは思えない。
そんな淡い期待をするのは良くないだろう。
それに仙人がこちらの状況を把握しているとは思えなし、増援を寄越してくれる可能性は極めて低い。
「なんにせよもう少し煮詰めないといけないな。だが……そろそろあいつが帰ってくる」
「ディネットさんですか?」
「ああ。恐らくだが、君たちを逃さないために今日一日はついて回るはずだ。あいつがレミさんの話を聞いていたのであれば、ここに来て儂に二人に行方を聞きに来るな」
「……見つかったらヤバいですね?」
潜伏先がバレてしまえば、一気に襲撃の可能性が高くなる。
それを阻止するためには、とにかく商会関係者との接触を遮断しなければならなかった。
テールの回答に、ドーレッグは頷いて肯定する。
「その通りだ。よし隠れろ!」
「「えっ」」
バッと立ち上がったドーレッグはすぐに二人の首根っこを掴んで部屋にある本棚に向かう。
メルを手放して自由になった片手で本棚をぐっと掴み、一度引いて横にスライドさせた。
すると地下へ降りるための階段が出現する。
「ギルドマスターの部屋の緊急脱出口だ。とりあえずここに隠れていてくれ」
「おお……」
「分かりました!」
二人が中に入ったことを確認した瞬間、先ほどと反対の工程でその隠し扉を閉める。
パンパンッと手を払って、落ち着いた足取りで椅子に座った。
それと同時に、扉がノックもなしに開けられる。
「……ノックもなしに開けるんじゃない。ディネット」
声を掛けられてにこやかに笑う彼だったが、未だに不安の表情はぬぐい切れていないようだった。




