4.3.報告
宿を確保した二人だったが、あまりに豪華すぎるので居心地が悪くなってしまったので外に出てきていた。
ディネットが急に話を進めてしまい、無理に宿に連れていかれてしまったのでレミに頼まれたドーレッグに話をするという頼みごとが完了していないのだ。
なので今は来た道を戻り、冒険者ギルドに戻ってきたところだ。
それにしても、宿のことに関しては文句を言いたいところがある。
何故二人部屋なのか。
説明しなかった自分も悪かったと思ったが、何も聞かなかった従業員にも問題がある。
同じ年だし確かにそう見られてしまうこともあるかと無理矢理納得しようとするが、やはり頭を抱える結果となってしまった。
だがしかし、メルは超上機嫌だ。
テールと一緒の部屋で寝られることがとても嬉しいらしい。
なんなら宿から出るときに従業員に感謝したくらいだ。
本当にそれでいいのだろうかと眉を顰めて考えるテールであったが、なんだかもう既に違う部屋にしてくださいとは言える雰囲気ではなくなっていたので、今回はこちらが完全に折れることにした。
メルのことは嫌いじゃないし何かするということもないが、年頃の異性が同じ部屋で寝るというのはなんだかどぎまぎするものだ。
何か対策を考えなければと思っていると、丁度こちらに気付いたドーレッグが声をかけてくる。
「お、お前ら戻ったのか」
「戻りましたー!」
「ど、どうも……」
「んん?」
既に疲れているテールを見て、ドーレッグはニヤニヤと笑いながら近づいてくる。
「フフフフ、どうだった仙人様は。会うだけで疲れただろ」
「手合わせしてもらいました!」
「な!?」
「僕は仕事を見てもらいました」
「うぇ!? な、な……お前らナニモンだ……?」
二人の言葉を聞いて二度驚く。
彼が木幕に会った時は若い頃で、その時は何も相手にしてくれなかったと記憶している。
ただ会うだけでドッと疲れてしまい、その日は仕事もせずに寝てしまったものだ。
だというのに一人は手合わせをしてもらって、もう一人は仕事を見てもらえたという。
彼らが何かしらの興味を引かないとそんなことは絶対にしてくれないだろう。
驚いている彼を無視して、テールはレミから言われていたことを伝えることにした。
「ドーレッグさん。レミさんって覚えていますか?」
「……え? レミさんっつたら、儂の話に少しだけ耳を傾けてくれ人だな……」
「レミさんがドーレッグさんに、明日にでも旅に出るから、それを伝えておいてくれって言ってました。僕たちもその旅に同行します」
「……あ、あのレミさんが儂のことを……覚えていたのか?」
「みたいですよ」
「……ははぁー……」
あの時、レミとは軽い話をした程度だ。
確かに自己紹介はしたが、何年前の話だというのだろうか。
彼らともあろう人物の一人から覚えてもらっていたということに、ドーレッグは感動した。
何を話したのか、既に覚えてはいなかったがこの結果だけでも嬉しいものだ。
それと同時に、自分がやらなければならないことも自ずと見えてきた。
彼らは商人に利用されている。
ドーレッグが二人にできれば解放してやって欲しいと言ったのは、まさにその願いが込められていたのだ。
こんなところでいつまでも隠居していい人たちではない。
しかし本当にこの二人が彼らを解放してくれるとは思っていなかった。
淡い期待だったのだが、人は見かけにはよらないようだ。
「ってなると、色々根回しが必要だな……。おい、ディネットはどこに行った?」
「ディネットさんですか? 僕たちと別れてどこかに行ってしまいましたけど」
「この場合はどっちだ……? こっちか? あっちか……?」
仙人がこの国から移動するとなれば大問題となることは間違いない。
それで生計を立ててきた国なのだから、彼らがいなくなれば様々な商売は次第に勢いを落としていくことになるはずだ。
それを何とか阻止しようと、商会は全力で阻止をしてくるはずである。
しかしドーレッグにはそれがどちらに向けられるのか分からなかった。
テールとメルの二人か、仙人たちか。
二人に危害を加える可能性は大いにあった。
だがそんなことをすれば旅への同行を認めてくれた仙人たちが怒って何かしてくるはずである。
それを考慮しないわけがないし、そんな事をされてしまえばこの国が死んでしまう。
機嫌を取り続けるためにもこっちの案はあまり現実的ではないと考えていた。
とはいえ、仙人たちに直接力技でこの国に留めるなんてことができるはずもない。
最強と言われているだけあって、その力は未知数。
万に一つも勝てる見込みはないはずだ。
「んー……」
「え、あの……。どうしたんですか?」
「ああ、いや……。あ、そういやお前たち、宿はどこを取ったんだ?」
「さっきディネットさんからの紹介で、経営している凄い高級そうな宿に泊まることになりました」
「てなると、前者か……」
ディネットはこの二人が仙人と会っている間、そのやり取りもすべて聞いている。
となると、仙人がこの国を去るということも知っているはずだ。
その原因を作ってしまったテールとメル。
彼らを経営する宿に招き入れ、好きなように始末するのが目的かもしれない。
それに気付いたドーレッグはすぐに行動に移ることにした。
だがまずはこの二人に話を聞いておかなければならない。
「メル、その宿には荷物を置いて来たか?」
「いえ、まだ置いてないです。それに冒険者は身軽ですから」
「テールは?」
「僕は荷物を常に持ち歩くようにしています。なので宿に荷物は置いていませんが……それが何か?」
「この場にあいつがいないのは幸運だったな……。よし、お前らその宿にはもう絶対に帰るな。このギルドに泊まれ」
「えー!! なんでですかー!?」
「事情は上で説明する。とりあえず来な」
メルは納得いかないようで頬を膨らませている。
一方テールは助かったと胸をなでおろし、歩いていってしまうドーレッグを追いかけたのだった。




