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呪い研ぎの研ぎ師  作者: 真打
第三章 仙人たちとの出会い
73/422

3.29.許可


 冷えた風が流れ込んでくる。

 汗をかいているメルにその風は心地よく感じた。


 だがさすがに疲れが出てしまったようで、その場に倒れる。

 しかしそれを誰かが優しく支えてくれた。


「まったく、善さんも西形さんも容赦ないんだから……」

「レミさん……」

「はいはい、合格よ。おめでとう!」

「……はぁー……」


 一気に肩の力が抜ける。

 手にしていた剣を手放してしまう、レミの腕の中で脱力してしまった。

 すると小さな足音がこちらに向かってやってくる。


「め、メル大丈夫!?」

「だいじょー……」

「じゃないみたい……。はぁ、もう見てられなかったよ……」

「ふへへ」


 傷だらけだが、とりあえず生きていることにテールは安心した。

 今は休ませてあげなければならないだろう。

 落としてしまった剣を拾い上げ、鞘に入れてあげる。


「で、でもレミさん。なんでこんなことを……?」

「分からない?」

「わ、分かんないです」


 テールは何故メルにだけここまで過酷なことをさせるのかが理解できなかった。

 ただ連れていくかどうかを決めるだけなのに、ここまでする必要はないはずだ。


 しかし、レミはその本質を理解していた。

 もちろん刃を交え合った西形もすぐに気付き、彼女に本質を教えようとしたのだ。

 それはというと……。


「テール君は私たちを解放してくれるために、覚悟を決めたでしょ? でも善さんは覚悟を決めたのが貴方だけっていうのが気に食わなかったのよ。だからメルちゃんにも、足りないものを教えると同時に覚悟を決めさせた」

「ええ……。やっぱり分からないです」

「ふふ、確かに戦わない人にはあまり分からないことかもしれないわね。まぁ深く気にしない気にしない! これで一緒に旅に出られるんだからねっ!」

「そ、そうですね」


 彼らの考えている事というのはやはりよく分からない。

 長く生きると様々なことへの価値観なども変わっていくのだろうか?


 兎にも角にも、これでメルも一緒に旅をすることができる。

 木幕の方を見てみると、笑いはしないが満足げに二度頷いた。

 そして立ち上がる。


「……メルよ」

「!? え、あっはい! いたたた!」

「そのままでよい。レミ」

「分かってますよ。治れ」


 レミがメルの体に手を当てる。

 すると淡い白色の光が体を包み、先ほどの西形との戦いでついた傷が消えていく。

 掠り傷はもちろん、蹴られた時の打撲やら打ち身などもすべて治った。


 高度な治療魔法。

 それもとんでもなく短い詠唱でそれをこなしてしまうレミを見て、近くにいた二人は驚いた。

 立ち上がっても何の痛みもない。

 体の何処を見ても怪我は一切なく、なんならいつもより体が軽い気がした。


「大丈夫かしら?」

「え、あ……すご……」

「普通よ普通」

「「いや普通じゃない!!」」

「……では、メルよ」


 低い声を聞いて、メルはぴしっと背筋を正した。

 すぐに木幕の方を向き、話を聞く。


「見事であった」

「あっありがとうございます!」

「お主の同行を許そう。されど守るべき者がいるのであれば、いつしか苦難に直面する。西形正和はそれをお主に教えた。神に許された突きを放つ男だ。しかとその教えを胸に刻むと良い」

「は、はい!」


 ようやく認めてもらえたと、メルはほっと胸をなでおろす。

 短い褒め言葉ではあったが、最強と言われている人物からこうして褒めてもらうのは嬉しいものだ。


 良い返事を聞いて、木幕は頷く。

 次に顎に手を当てて何かを考え始め、沖田川とテールを交互に見た。


「さて、沖田川だけが弟子を取るというのも気に食わぬ」

「なんじゃ?」

「故に、お主は某の弟子として迎え入れよう。師は十二人居る。そのすべてから、守る力を教わると良い」

「……へ!?」

「わぁ、よかったねメルちゃん! 私と同じよ~!」

「こりゃおもしれぇ。おいおい木幕、何百年ぶりの弟子だぁ? クックックック」

「えっ!? へっ!?」


 願ってもない話ではあるが、急にこう言われると動揺してしまう。

 しかしすでに決定事項だと言わんばかりに話が進み始めていた。


 話をしている彼らは楽しそうだ。

 これから目的のある旅ができるという楽しみと、自分たちの武器を探すという今まで考えても居なかったことを成そうとしている。

 長い旅になるのは確実だが、それも楽しみの一つである。

 いくつかの問題は抱えているが、その辺は何とかなるだろうと考えていた。


 ツジは伸びをして肩を回す。

 やる気十分といった様子だ。 


「よぉーし、じゃあ武器探しの旅だな! なんで六百年も放置してたんだか……」

「そもそも皆さんを御霊呼びで呼び出せるようになったのは三百年前ですし、そんな考えは持ち合わせていませんでしたしねぇ」

「ああ、そういやそうだったなぁ。よし、テール、メル。今日は帰れ。こっちにも準備があるから、明日の朝にでもまた来てくれや」

「あ、分かりました」

「向こうまでは私が送っていくわ。辻間さんとスゥちゃんは、この辺のことを宜しくお願いしますね」

「おうおう、任せろ」

「っ!」


 ツジは腕を叩き、スゥはピシっと敬礼をする。

 そういえば、先ほどから気になっていたことが一つだけあった。


「あ、あのー……ツジさんって本名ではないんですか?」

「あっ。そ、そうだった。いやぁすまんな、亡霊共に『本名さらけ出すとか忍びの風上にも置けねぇぞ』って言われちまって、咄嗟に偽名作ったんだ」


 パンッと手を合わせ、胸を張った。


辻間鋭次郎(つじまえいじろう)。これが俺の名前だ。改めて宜しくな。テール、メルちゃん」

「「よろしくお願いします」」

「おうよ!」

「あ、そうだ。辻間さん、通行手形ってここ以外で使えるんですか?」

「んにゃ、使えねぇ。俺が裏で暴れまわってた時に作ったやつだし、ここ以外で効力はねぇ。要らねぇなら回収するが」

「ていうか持っていると危なくて……」

「それもそうか」


 テールは通行手形を辻間に返す。

 とりあえずこれで盗まれたりすることも、悪用されたりすることもないだろう。

 こうしておいた方が安全だ。


 辻間が周囲を見渡した。

 今日はもう解散の流れでいいだろうということで、話を進めていく。


「よし、じゃあレミちゃん。見送り頼むぜ」

「はい、分かりました。行きましょ」


 来た時と同様、二人はレミの後に続いて行く。

 しばらく空気になっていたディネットも慌ててその後ろを追ってこの場からいなくなった。

 姿が見えなくなるまでこの場で見送った後、辻間が木幕を見る。


「おい、木幕」

「分かっている。西行」

「はっ、ここに」


 木幕の後ろから音もなく顔を隠している男が出現した。

 レミが二人を連れてくる時、砂利道で姿を現した人物だ。

 声がしたことを確認した後、木幕は振り向くことなく彼に指示を出す。


「分かっているとは思うが、あの二人を護衛せよ」

「ふふ、これから面白いことになりそうですからねぇ。さてさて、仙人という存在を失おうとしている国がどういった行動に出るのかは、想像に難くない」

「お主まで仙人と抜かすな。あれは槙田が面白半分で広めた事よ」

「だからよいのではありませんか。それに、木幕さんも気に入っているのでは?」

「はぁ……。早ういけ」

「フフフフ、御意」


 男は足元に黒い影を作り出し、とぷんと沈んでその場から消え去った。

 気配が完全に消えたことを確認した後、木幕は座って庭を眺める。


「……」

「何を考えておるのじゃ?」

「これからのことだ。沖田川、誰の武器から探せばよいだろうか」

「この場にあるのは葉隠丸(はがくれまる)氷輪御殿(ひょうりんごでん)獣ノ尾太刀(けもののおたち)、それと天泣霖雨(てんきゅうりんう)。場所がはっきりしているのは一刻道仙(いっこくどうせん)のみ……。まずはテールに研ぎを教えたい。一刻道仙の回収がてらルーエン王国へとまず向かうのはどうじゃろうか」

「うむ、良い案だ」


 場所が決まれば後の話はすぐに終わる。

 しかしここからルーエン王国まではかなりの距離があった。

 なので移動手段を確保しなければならない。


 旅をするのに辻間の奇術を使うのはナンセンスだ。

 ここは馬車を用いた旅をしたい。


「辻間。旅の準備を整えよ」

「任せろ。俺の伝手を舐めるんじゃねぇぜ? へっへっへ。んじゃ、ちょっくら行ってくるぜ!」


 塀を飛び越え、辻間はまたリヴァスプロ王国へと戻っていった。

 あとは任せておけばいいだろう。


「……あの天女め」

「どうしたのじゃ?」

「……亡霊が動き出した。某らとかかわった者、すべてが」

「厄介じゃのぉ。では止めねばなるまいな」

「クナイの浄化が発動の条件であったようだ。沖田川、テールを必ずや一人前に育てよ。良いな」

「無論じゃよ」


 沖田川の迷いのない答えに、木幕は満足して目を閉じたのだった。


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真打Twitter(Twitter) 侍の敵討ち(侍の敵討ち)
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