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呪い研ぎの研ぎ師  作者: 真打
第三章 仙人たちとの出会い
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3.19.仙人の住まい


 レミの案内について行っていると、だんだんと森が開けてきた。

 砂利道が続いており、石で作られたかがり火を入れる置物が何個か設置されており、その道中には石で作った人形の置物が幾つも置かれている。

 どれもが手を合わせており、時々真珠のネックレスを持った人形も見受けられる。


 初めて見る物ばかりで興味津々なテールとメルは、歩きながら周囲をキョロキョロと見渡している。

 すると、先頭を歩いているレミが後ろを振り向きながら周囲に置かれている石について教えてくれた。


「それはお地蔵様」

「おじぞうさま?」

「いろんな形があるけど、これを作ったのは一人の職人よ。まぁ会うことはないだろうけどね」


 そこでレミは足を止める。

 魔法袋から取り出した長物の石突で砂利道を二度突いた。

 ジャッジャッという音が鳴る。


『レミさーん。なんか最近連れてくる人多くないですかー?』

「私のせいじゃないです」

『んじゃそいつかぁ~……』


 森の中から、声が聞こえてくる。

 何処にいるのかはまったく分からず、声の出所も把握できなかった。


「どーも」

「「うわああああああっ!?」」

「あ、ごめんね」


 急に後ろから顔を隠した男性が姿を現した。

 真後ろから声が聞こえたので二人してびっくりしてしまう。


 彼は真っ黒な服を着ていた。

 顔は隠れていて目だけしか見ることができない。

 絞られた腕と足の服はなんだか奇妙な姿であると二人は感じた。


 その瞬間、二人の首筋にナイフが当てられる。


「「!!?」」

「で、レミさん。こいつらは殺してもいい奴?」

「駄目なやつです」

「また木幕さんに怒られますよ?」

「私のせいじゃないのでまだ大丈夫かと」

「そうですかー」


 そう言って彼はナイフを仕舞う。

 すぐに距離を取った二人は警戒するが、再び目を合わせた時には既にその場所にはいなかった。

 またどこからか声が聞こえてくる。


『普通は見られたら殺す主義なんだけどねー』

「今のは見せたんでしょ」

『そりゃそうです。だって木幕さんの前に人を連れていきたくないもん』

「今回は我慢してもらいます」

『はーい』


 森がざわめき、先ほどの声はもう聞こえなくなった。

 レミは一つ息を吐いた後、何も言わずに歩いて行く。

 置いて行かれないようにして二人はその後を追いかけた。


 ディネットはフンッと鼻を鳴らしてから歩いて行く。

 なにやら不機嫌であったようだが、前を歩く彼らがそれを知ることはなかった。



 ◆



 しばらく砂利道を歩いて行くと、巨大な門が出現した。

 木で作られているようで、厳格な姿でその場に鎮座している。

 これは二人が知っている門とはまったく違う物だ。

 その左右には塀が続いていて、簡単には中に侵入できないようになっていたが、ランクの高い冒険者であればこれくらいの塀は飛び越えられそうだった。


 レミは門を開けて中へと入る。

 観音開き式の門が開け放たれると、その奥には美しい幻想的な庭園が広がっていた。

 近くに湧水があるようで小さな小川を作っている。

 丸く整えられた低木、この世界でよく見かけることができる樹木などには苔が生えており、目に優しい光景がどこまでも続いていた。


 その奥に、これまた木造建築で作られた大きな屋敷がある。

 これも初めて見る建造物であり、二人はまだ仙人に会っていないというのに興奮していた。

 先ほどナイフを当てられたことなどすっかり忘れてしまう程に、心を奪われるような美しい場所なのだ。


 入り口と思われる場所にレミは足を踏み入れる。

 次に二人の行く手を持っていた武器で阻止した。


「靴は脱いでね」

「あ、はい」

「分かりました」


 確かにこんなに綺麗な場所に土足で上がるのは失礼な気がした。

 二人はすぐに靴を脱いで石畳の隅っこに並べて置いた。


「あ、あの」

「テール君だったわね。なにかしら?」

「武器はこのまま持って行ってもいいんですか?」

「ええ、構わないわよ。使おうとしても使う前にその首が泣き別れるだけだから」

「ひぇ……」

「ふふ、冗談。でもやろうと思えばできる。屋敷が汚れるからできれば大人しくしていて欲しいけどね」


 本気なのか冗談なのかいまいち理解できない。

 だがそれができるだけの自信はあるようだ。

 やる気はないけど、その実力は持ち合わせているということなのだろう。


 しかしそんなに早く武器を振るうことができるのだろうか?

 レミは常に後ろを取られている状態だ。

 気付くのすら難しいのではないだろうかと、テールは心の中で考えた。


 とはいえこちらも何かするつもりは毛頭ない。

 大人しくレミの後ろをついて行くことにした。


 それからしばらく誰も口を開かないまま木造の屋敷の中を歩いて回った。

 ずいぶん広い屋敷だが、人の姿はないし、なんなら気配すらも感じない。

 面白い構造をしているな、とテールはまた周囲を見渡しているが、メルは人の気配のなさに不気味さを覚えていた。


 だがそれも、とある部屋の前でレミが立ち止まった瞬間に掻き消える。

 四枚の襖を丁寧に開けたレミは、敷居を踏まないようにして中へと入った。

 二人もその後に続いて中に入る。


 中は少し大きめの広間の様になっており、見方を変えれば道場のような気もした。

 だが殺風景で特に何もない。

 あるものといえばここから見える大きな庭くらいだ。


 すると、声を掛けられる。


「……人間……か」


 酷く低い声が発する言葉が、二人に投げられる。

 その声を聞いただけで背筋が伸び、悪寒が走った。

 恐怖とは違う何か重たい空気が、二人を潰さんと襲い掛かってくる。

 それだけで理解できた。

 今目の前にいる人物こそが、仙人なのだと。


 恐る恐る、彼の顔を見た。

 そこには老齢の男性が深緑色の服を着て座っており、こちらを睨みつけるようにして見ている。

 髪の毛は細くほとんどが真っ白ではあったが、まだ黒い部分も残っていた。

 長くなった髪の毛は後ろで一つにして束ねている。


 深く刻まれた皺と顔だちは貫禄を漂わせていた。

 痩せてはいるがまだ力強い瞳をしており、その中で眠る炎が今も尚燻っているようだ。


 歳は七十代前半といった見た目をしている。

 死なない人物だ、とメルから教えてもらっていたがなんだかまだ若いように思えた。

 とはいえ彼から放たれている重圧はどう見積もっても一般人のそれではない。


「レミよ……お主は何をしていた」

「私のせいじゃないですよ善さん。いつものあれです」

「……早く終わらせよう」


 仙人が立ち上がった。

 その背は思っていたよりも小さく、明らかに老人と言うにふさわしい見た目だ。

 隣にあった武器を手に取り、一定の距離を取って二人の前に立つ。


「まず聞こう……。何をしに来た」


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真打Twitter(Twitter) 侍の敵討ち(侍の敵討ち)
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