3.14.仙人に会うために
何とか動いてくれるようになったメルを連れて、テールは大通りを歩いていた。
メルは非常に上機嫌で、本当に昔に戻ったみたいだ。
それをテールも楽しんでいる。
歩いている場所から見える出店の看板や垂れ幕……。
そこにはとある一定の売り文句が書かれていた。
『仙人が泊った宿!』
『あの仙人が旨いと褒めた!』
『仙人が手に取る程に美しい商品がここに!』
などといった売り文句が、そこらかしこに並んでいる。
いくら何でも押し過ぎではないだろうかと思ったが、その店に立ち寄る客はあまり気にしていないらしい。
なんならその売り文句が書かれているところにしかいかない人もいるようだ。
「な、なんかすごいね」
「ねー。仙人ってここまで歩いて来るのかな? てことは普通に歩いてるのかな?」
「有名な人ってあんまり表に出てこないイメージあるんだけどなぁ」
「それは分かるかも」
強い人というのは高貴な人柄であるイメージが強い。
ツジの様に砕けている人もいるが、大体そういった人の方が多いのは確かだ。
最強の人物がツジの様に砕けているとは思えないし、なんなら庶民の住んでいるここに足を運んでくるのだろうかという疑問が浮上する。
そんな軽い人ではないだろうし、自分を宣伝するような性格をしているとはなんだか思えなかった。
なのでこの辺りにある看板に書かれている売り文句に違和感を覚えたのだ。
「これ、もしかして許可とか得てないのかな?」
「まぁ言ったもの勝ちなんじゃない?」
「それを許してる仙人さんは心が広いのかもね」
「ただ興味がないだけって感じもするなぁ~」
「あ、分かる分かる! そっちの方がしっくりくるかも!」
「ねっ! 早く会って確かめたいね!」
「だねー!」
想像すればするほど、そんな人なのか気になってくる。
早く会ってどんな人なのか確かめてみたいものだ。
ここに来た目的はまさにそれ。
なのでこれからは観光するのを止めて。仙人に会うためにはどうすればいいのかを聞いてみることにする。
とはいえここではあまりいい話は聞けそうにない。
冒険者ギルドに行けば詳しい人が数人いるだろう。
目的地が決まれば行動は早い。
早速冒険者ギルドの場所を聞き出し、軽い足取りで歩いていく。
リヴァスプロ王国冒険者ギルドには意外と早く辿り着くことができたのだが、二人はその大きさに圧倒されていた。
公爵家の人間が住んでいそうなほどの大きな建物。
教会なのではないだろうかと勘違いしてしまいそうだったが、人の出入りを見てここがリヴァスプロ王国の冒険者ギルドであるということはすぐに分かった。
ここに今から入るのか、と思うとなんだか尻込みしてしまう。
とはいえ入らなければ話は聞けない。
二人は意を決して、同時に冒険者ギルドに足を踏み入れた。
大きな口を開けている入り口の扉を開けると、中は高位冒険者が集まる場所だったようだ。
ここ、リヴァスプロ王国冒険者ギルドは冒険者ランクに別れて依頼を受けることができるギルドが決まっている。
どうやらここはランクの高い冒険者ギルドであるのだが、二人がそのことを知る余地はない。
てくてくとカウンターに歩いていき、メルはキュリアル王国冒険者ギルドでやっていた様に受付に話しかける。
「すいません」
「はい、こんにちは。えーと、ここは初めてですか?」
「あ、はいそうです」
「ではまず冒険者カードをご提示ください」
そう言われたので、メルはすぐに冒険者ギルドカードを提示した。
受付の女性はそれを見て驚いた様子でメルを見たが、すぐに気を取り直してそれを返す。
「お、お若いのに凄いですね」
「ありがとうございます。あの、少しだけお話を聞きたくて」
「なんでしょう?」
「仙人……ってどこに行ったら会えますか?」
「ああ、それは無理です」
「「え?」」
その言葉を聞いて、二人は首を傾げた。
確かに仙人は超有名人ではあるが、まさか会えないとぴしゃりと言われるとは思ってもみなかったのだ。
メルはすぐに理由を聞く。
「キュリアル王国から来たんですよね。まぁ、それだったら知らないのも無理はないですが……。実はですね、仙人様は今隠居されておりまして、人と会いたがらないのですよ。我々も無断で仙人様に近づこうとする者を逮捕したりしていまして……。あの人はこの国に必要な存在です。なのでそう簡単には……」
「そ、そんなぁ……」
「ああ、そんなに気を落とさないでください。実は会えるチャンスはあるんです」
「本当ですか!?」
「……えっ?」
彼女の言葉に露骨に反応したメルだったが、テールはそれに違和感を覚えた。
会えないのに会えるチャンスがあるとはどういうことなのだろうか?
無断で会いに行こうとする者を捕らえているというのも変な話だ。
それだけ取り締まっているのに、人に合わせる方法はあるという。
テールはしばらく考えに耽っていたが、その隣では話が進んでいく。
「ど、どうすればいいんですか?」
「えーとですね。明日、仙人様に会える権利を獲得することができる大会があるんです。とは言ってもそんなに難しい話ではありません。リヴァスプロ王国冒険者ギルドマスターのドーレッグさんと模擬戦で勝てばいいだけです。参加料金は銀貨五枚です」
「高いですね」
「必要な経費ですので……」
「とにかく明日ですね! 勝てばいいんですよね!」
「その通りです! 場所はここの模擬戦場ですので、いつでもいらしてくださいね!」
「はい!」
元気よく返事をして、メルはテールを引っ張って外に行く。
急なことで少し足元がおぼつかなかったが何とか立て直し、メルにどこに行くのかを聞いた。
「ど、どこに行くの?」
「大会は明日! じゃあ今日の宿を取らなきゃ!」
「あ、そっか。忘れてた……。ていうかメル、通行手形見せたら無条件で会わせてくれたんじゃないかな」
ピタッとメルの動きが止まる。
そこまでの力があるかどうかは分からないが、見せてみるだけでもしてみればよかったかもしれない。
メルが受付の話に完全に乗せられていたので、テールの持っている通行手形の存在を忘れていたようだ。
だがテールもこうして提案して気付いたことがある。
この通行手形は普通に危険なものだ。
人に何度も見せていると、狙われる可能性が増える。
それに先ほどまでいた場所は高ランクの冒険者が多いように思えた。
そんなところでこれを見せびらかすのはマズい。
互いにこの通行手形の存在を再確認したところで、テールはバックの一番底にそれを押し込んだ。
「……まぁメルならそっちでもいけるか」
「任せて! んじゃまずは宿を取るわよー!」
そう意気込んで宿を探したまではいいものの、ギルド周辺の宿は既に満員らしいので、随分遠くの宿にまで移動してしまうことになったのは言うまでもない。




