3.1.これからどうしよう
第三章のはじまりでございっ!
雲一つない快晴。
過ごしやすい気候に、丁度いい暖かさの太陽の光。
心地よい風に身を任せていると寝てしまいそうだ。
まさにピクニック日和。
こんな時はお弁当などを作って気晴らしに散歩をしたいものだが、残念ながら今のテールにそんな余裕は一切ない。
行先も何も決めずに勢いそのままにキュリアル王国を出てしまったので、これからどうしよう、と頭を悩ませているのが現状である。
とりあえず、ぽつんと立っていた大きな木の根元に腰を下ろし、腕組をして思案し続けていた。
「地図もなにも持ってこなかったのは……旅慣れていない証拠だなぁ……。冒険者だったら忘れないよ絶対。ていうか一人旅って大丈夫かな? なんだか心配になってきた……」
様々な物を詰めてきたバックの中身を見て嘆息する。
あるのは仕事道具一式に数着の着替え、金貨二百枚に二日分の食料。
それと今身に付けている両親から貰った装備だけである。
なんとも心もとない。
お金だけは余裕があるが、他は皆無だ。
旅に必要そうな物資はないし、なんならテントも持っていない。
魔法袋という高価なものがあるわけではないので持てる数には限りがあったとはいえ、もう少し考えてから国を出ればよかったと今になって後悔していた。
どこかに旅商人がいたら乗せてもらいたいところだが、周囲を見てみても人っ子一人居ない草原だ。
キュリアル王国のこんな近くにここまで広大な草原があったんだなと少し驚いた。
幸いにして、こういう所に危険な魔物はいない。
草食動物や温厚な魔物がいるくらいだ。
とはいえ魔物は攻撃するとしっかり反撃してくる。
なのでこちらから手を出さないことが安全にこの草原を抜け出すことができる策だ。
冒険者の仕事の経験は一切ないが、魔物や地形に関しての知識はそれなりにある。
これは父親のリバスと一緒に勉強し、キュリアル王国での生活の中でもメルの話や本を頼りに勉強していた賜物だ。
こんなところで役に立つとは思っていなかったが、勉強はしておくものだな、とテールは頷く。
しかしここでうだうだしていても仕方がない。
どこでもいいから移動しなければ、野垂れ死んでしまう。
それだけは何としても回避したいので、街道に出ることを目的にまずは動いてみることにした。
未だにキュリアル王国は遠くに見える。
確か自分が出た門は西の城門だったなということを思い出し、おおよその方角を割り出した。
バッグを背負って恐らく街道があるであろう場所へと歩いていく。
「……あれ? でもなんで僕、街道から逸れたんだろう」
西の城門前はしっかり整備されており、普通に歩いていけば街道から逸れることはないはずだ。
しかしいつの間にか草原に足を踏み入れ、何も考えずに歩いてしまっていた。
何か変な魔物に方向感覚を狂わされたのだろうか?
だがテールの知識の中にそんな能力を持つ魔物は居なかった。
変だな、と思いながらも今のところ害はないので、もし居たとしても実際に危害を加えてくる魔物ではないのだろうと軽く受け止めた。
「チチッ」
「あっ。ラッツだ」
鳴き声の方向に目を向けると、小さな兎の姿をした動物がいた。
色は紫でなんだか毒々しいが、比較的温厚な性格の草食動物なのでその肉は意外に美味しい。
見た目からは想像がつかないだろうが、珍味なのである。
そこでテールは今持っている食料について思い出す。
あるのは二日分の食料。
これでは長い期間移動するなんて到底無理なので、どこかで食料を調達しなければならない。
狩りもその手段の一つだ。
今持っている食料は保存食なので、本当に困った時に食べるのがいいだろう。
となればあのラッツを狩らなければ、今日のご飯は確保できない。
「……」
テールは懐から小さなナイフを取り出し、姿勢を低くして狙いを定める。
昔リバスに教えてもらった投擲術だ。
振りかぶった状態でしばらく動かず、ラッツが首を違う方向へと向けた瞬間ナイフを投げる。
ヒョウッ。
スッ。
「……チチッ?」
「え」
投げたナイフは見事にラッツの首に当たったのだが、今の一撃で骨も両断して首が切断された。
コトリと地面に落ちた首は自分が斬られていることに一瞬気付かなかったのか、一度小さく鳴いてから動かなくなる。
テールは自分が持っている武器すべてを完璧なまでに研いでおり、その鋭さは一級品。
とはいえ投げただけでラッツの首が飛ぶとは予想していなかったので、投げた状態のまま固まって放心してしまった。
はっと我に返ってから近寄って確認してみると、ラッツから大量の血液が流れており、投げたナイフは地面に突き刺さっている。
ナイフを引っこ抜いて刃を確認してみると、地面に突き刺さってしまったので傷が生じていた。
これはあとで研ぎ直さないといけないなと考えながら、それを懐に仕舞う。
「……あ、やった! 狩れた狩れた!」
久しぶりの狩りが成功して気分がいい。
早速ラッツの足を持って宙ぶらりんにし、血抜きをしていく。
「お父さんに狩りを教わっておいてよかったなぁ」
昔のことを思い出しながら、血抜きが終わったラッツを解体する。
本当は水に浸けたいところだが、そんな場所はこの辺にない。
完璧な血抜きはできないが、ラッツのような小さい体の動物であればこれでも十分だろう。
内臓と肉を分け、綺麗に捌いた皮を広げてその上に肉を置いて包む。
臨時の肉袋だ。
あとで火を起こして食べよう。
さて、今日の食料が手に入ったところで街道へと向かおうとすると……後ろから唸り声が聞こえた。
「……あっ」
血の匂いに誘われていつの間にか忍び寄っていたハイエナの様な獣が、姿勢を低くしてこちらを狙っていたのだった。




