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呪い研ぎの研ぎ師  作者: 真打
第二章 追放
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2.9.完成……!


「お、終わった……」


 鏡のようになった剣を持ったまま、床に座った。

 ナイフを受け渡したあと、一日をかけて剣を磨き上げていたのだ。

 既に外は暗くなっており、灯りがなければ作業できない。


 この剣を打った人は本当に腕がいい。

 真っすぐに鉄を伸ばして形を整えており、直す箇所がほとんどなかったのだ。

 これほどにまでいい職人がこの国の中にいたのかと少しだけ驚いた。


 とはいえ鏡面仕上げにするのにはとても時間を要してしまった。

 なかなか素直になってくれない刃に悪戦苦闘したのだ。

 真っすぐなのに性格はひん曲がっている。

 面白い剣だなと思いながら、付着した水気を取って木箱の中に収納した。


 あとは後片付けだ。

 砥石の面をまっすぐに直し、あった場所に置く。

 そろそろ寒くなってくる時期にさしかかるので、砥石に布を少し多めに巻いた。

 砥石は水を吸う。

 その中の水が凍って膨張し、パキンと割れてしまうことを防ぐためにこうして保護するのだ。


 とはいえまだ水が氷るような寒い時期ではない。

 これは癖みたいなもので、夏でも冬でも使ったあとの砥石は埃や不純物が付着しないようにこうして布に巻くのだ。

 そうしているだけで次に使う時に安心感が生まれる。


 良い道具がなければ、いい仕事はできない。

 自分が使う道具はしっかりと大切に保管することを常に心がけているのだ。


 後片付けをしていると、カルロが作業場に顔を出した。

 木箱に納められた剣を見て、感嘆する。


「おお……できたのか」

「はい! ちょっと時間かかっちゃいましたけど……」

「一日でできたんだから早い方だよ。いやぁ、さすがだね。鏡で作りましたって言われても『そうなんですか』って言いたくなるくらいの出来栄えだ」

「言い過ぎですよ。カルロさんもこれくらいできるでしょう?」

「君より時間はかかるけどね」


 カルロは木箱の蓋を閉めて、それを布で包む。

 恐らくこの箱は使われず、剣を渡してもらった時のケースに入れ替えられるのだろう。

 しかしそれでも、自分たちが研いだ刃物はこうして保管したい。

 それが剣に対する彼らなりの敬意である。


 すべての砥石を片付けたテールは、布で手を拭きながらカルロに近づく。

 音を聞いて近づいてきたのが分かったカルロは、一つため息をついてから口を開いた。

 

「さてと……これからどうなるかな」

「どういうことですか?」

「当初の予定としては、王族に依頼されて使ってもらうっていう感じだったけど、バーシィ様の話からして使われたとしても僕たちは称賛されない。鍛冶師がこの鏡面仕上げもやりましたっていう感じになるんだからね」

「でもまだメルがいます。そっちで挽回できますかね?」

「どうだろうねー」


 王族、貴族からの依頼で生活は何とか続けられているが、未だに研ぎ師スキルが日の目を浴びることはなさそうだ。

 となれば残るは冒険者からの口コミ。

 メルがいるとはいえ、研ぎ師の能力は認められなかった。

 だが今は、メル以外の初めての冒険者が研いだ刃物を使ってくれようとしている。

 それからどうなるか、だ。


「メルちゃんが広めても駄目だったからねぇ。どうなることやら」

「まぁ、あれは仕方ないですよ……」


 数年前に一度、メルに頼んで冒険者に研いだ刃物を使わせてみてくれと頼んだことがある。

 だがその時はそのナイフを作った職人が称賛されてしまった。

 メルがいくら説明しても不遇職である研ぎ師にこんなことができるはずがないと一笑されて終わりだった。


 あの時は申し訳ない事をしたな、と何度か謝ったが向こうはまったく気にしていなかった。

 それよりも他に何か手はないかと一緒に考えてくれたこともある。

 大体のことはあまり上手くいかなかったが。


 しかし今回は違う。

 実際に冒険者というお客さんがお金を払って依頼をしてくれた。

 話が広がっていくのは時間がかかるかもしれないが、もし成功すれば……確実に研ぎ師スキルは注目される。

 使ってくれることも確定しているし、あとはアイニィの反応次第だ。


「どうなったかメルに聞くのがとても楽しみですよ」

「そうだね。よっし、今日はもう休もうか」

「ですね。そういえばカルロさんは今日何をしていたんですか」


 一日を一本の剣に集中していたので、カルロのことをまったく気にしていなかった。

 彼が何もしていない日は絶対にない。

 なので今日何をしていたのか気になった。


 すると、カルロは引き出しから木箱を取り出した。

 箱を開けて見せてくれたのは、暗器。

 ベルトに仕込むタイプの隠しナイフだ。

 簡単な仕組みだが、ナイフになっている部分は形が特殊で、研ぐのに苦労しそうだった。


 しかしそれは鏡のように輝いている。

 どうやって研いだのだろうかと疑問に思っていると、すぐにそれに答えてくれた。


「明らかに普通の砥石では研げない形状をしている刃物は、砥石の形を変えてやるんだ」

「砥石を?」

「そっそ。彫刻刀みたいに丸くなっている刃だったら、砥石を丸くしてあげる。ま、形を合わせるのに凄い時間かかったんだけどね」

「てことは……最低でも三つはこの刃に合う砥石を作ったんですか?」

「そうなるね」

「すごー……」


 さすが師匠だと素直に称賛する。

 自分の知識はまだまだ浅いようだ。

 実力だけあっても知識がなければすべての刃を研ぐことは不可能だろう。

 また今度教えてもらわなければ。


 だが今日は疲れてしまった。

 研ぎが終わった瞬間の疲労度は言葉では言い表せないくらいの脱力感が襲ってくるのだ。

 油断すると眠ってしまいそうである。


「きょ、今日は寝ます……」

「お疲れ。テール君」


 晩御飯を食べるのを忘れていたが、寝ると決めた瞬間睡魔が襲ってきた。

 それに抗うことはできず、その場で寝落ちてしまう。


 カルロはやれやれと思いながら、テールを抱えて二階へと運んだのだった。


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真打Twitter(Twitter) 侍の敵討ち(侍の敵討ち)
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