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呪い研ぎの研ぎ師  作者: 真打
第八章 不死の毒牙
193/422

8.22.弱点を突く


 隼丸は、魔法を使った後に一秒間のクールタイムがある。

 この一秒間というのは、乾芭にとってはとても長い時間だ。

 それだけあれば吹き矢で二人は始末することができる。

 なのでテールたちが移動した場所が、乾芭の視界に入っていれば即座に第二手の攻撃を仕掛けることが可能なのだ。


 先ほど、隼丸が移動してすぐに攻撃を仕掛けた時、彼らは移動しなかった。

 それどころか回避を選択したので何か引っかかりを覚えたのだ。

 その引っ掛かりを確かめるべく、もう一度攻撃を仕掛け、移動先に今一度攻撃をしてみると、やはり移動することはなかった。


 魔法を理解した乾芭は、木の陰でにたりと笑う。

 あの少年が所持している魔法は溶岩を生み出す術と、瞬間的に移動する術。

 後者の術は使用後一秒から二秒間移動することができない。

 これだけ分かれば儲けものだ。


 未だに少女の方の魔法が分からないが、そもそも持っていない可能性もある。

 とはいえ警戒は怠らず、もう少し調査をしてみてから忍殺を目的に動くことにした。


「くくくく……」

『小僧! 右手の木の裏だ!! 踏み込めぃ!!』

「分かりました! はぁっ!!」


 ダンッと踏み込んだ瞬間、乾芭の足元が熱を帯びる。

 条件反射でその場を飛びのくと、その場から大量の溶岩が噴き出して先ほどまで隠れていた木を盛大も燃やしていく。

 街道に装飾用として植えられている木なので森林火災になることはないが、隣にある樹木には燃え移ってしまった様だ。


 後退した後、手裏剣を構えて睨みを利かせる。

 どうやら相手の位置が分かるのは、あの子供だけではないらしい。

 やはり厄介だなと心の中で舌を打ち、でろりと溶けて消えていった。


「駄目か!」

『いや、上出来だ。ぬぬ……溶けている状態では場所が分からぬ……。警戒せよ!』

「はい!」


 強い風が抜けていく街道。

 少し離れた場所からスゥが戦っている音が聞こえてくる。

 どうやら苦戦しているようだ。

 こちらの援護にはしばらく来てくれないだろう。


 警戒心を強め、テールとメルは背中合わせになって武器を構えた。

 気配を一向に掴むことのできない相手との一戦は、骨が折れるどころの話ではない。

 倒し方が分かったところで、相手も対策を打ってくる。

 そのおかげで一切近づいて来なくなった。

 接近しなければならない状況だというのに、こちらの魔法は相手にバレてしまい、その上でさらに対策と取られてしまう。

 このまま長期戦を行い続けるのは……不利すぎる。


「ど、どうするの?」

「灼さん……!」

『今思案しているところだ! 暫し待たぬか!』

『『待てる状況じゃないでしょこれ! 奇術使ったら移動先で攻撃されるし! そもそも近づけないし!』』

『ぐぬぬぬ……!』


 ごぽっ。

 メルの足元で、粘液質の液体から空気が出てくるような音がした。

 バッと目線を落としてみれば、満面の笑みを浮かべたくちと目玉が、そこに転がっている。


「きゃあああああ!!」

『『わぁ!?』』


 反射的に隼丸が魔法を使用する。

 最大距離を移動してメルが叫んだ原因から遠のいたが、その瞬間……黒い影がテールに落ちてきた。


『小僧上だ!!』

「うえ!?」


 振り向くと同時に灼灼岩金を上段へと振り抜く。

 切り上げはテールの父親、リバスからよく習っていたので得意技の一つとなっている。

 その為いい切り上げができたと思ったのだが、それは虚しく空を切る。

 ひょうという音が虚しく鳴ったと同時に、ズッという鈍い音が全員に耳に届いた。


 違和感。

 テールは持ち上げていた首を下げ、恐る恐る下を見る。

 そこには……短刀を深々と片足に突き刺していた乾芭が、してやったり、という笑みを浮かべて……その短刀の柄を握っていた。

 刃に伝う紫色の液体が、その傷口に溶け込んでいく。


「っ……!?」

「テール!!」


 振り上げていた灼灼岩金をがむしゃらに振り下ろし、乾芭の背中に直撃させた。

 だがそれは分身だったようで、真っ二つになってでろりと溶ける。

 液体が動いていくが、それより先にテールがそれを突き、灼灼岩金が魔法を発動させた。


 溶岩がその場に出現し、液体が溶けていく。

 それと同時に遠くから絶叫が聞こえてきた。

 もう既に……乾芭はこの場から逃げていたらしい。


『マズい……!』

『『え、ちょっと!? おい!! テールお前怪我したのか!?』』

「うぅ……っ!」


 がくりと膝を落とし、灼灼岩金を手放してしまう。

 何とか抜いた短刀には赤い血液と紫色の液体が滴っていた。

 恐らく、鞘の中に毒を仕込んでおいていつでも使えるようにしてあった短刀だろう。


 テールは足首を握り、毒の周りを少しでも遅くするように力を込めた。

 幸いまだ症状は出ていない。

 しかしそれも時間の問題だった。


「ぐぐ……」

「ど、どうしよう……。どうしよう! えっと、えっと!!」

『喚くな小娘! って言っても聞こえぬのか。小僧! そのままでいろ! 隼丸! 小娘に付け!』

『『そ、そのつもりだ! テールすまない! それだけメルに伝えてくれ!』』

「わか、りました……!」


 すぐに今の話を伝え、隼丸を手渡す。

 メルは慌てながらもそれを受け取った。


『『灼さん! あいつらの居場所!』』

『来た道を戻れ! それでいい!』

『『了解!!』』


 そう言うと、メルと隼丸はシュンッとその場から居なくなった。

 しばらくしていれば、彼女も隼丸の行動の意味を理解するだろう。


『さて問題は小僧だな。まだ大丈夫だな?』

「はい、なんとか……」

『じっとしていろ。動けば回りが早まる』


 急に不安になってくるが、それでもテールは何とか落ち着くために息を整えた。

 手に力を入れ、とにかく毒の周りを遅くするように心がける。

 これに意味があるのか、次第に分からなくなってくるが何もしないよりはマシだろう。


 すると、はらりと何かが落ちてきた。

 それは以前ナルス・アテーギアの船で肩の上に乗っていた、一枚の葉っぱだ。

 いつの間にかいなくなったが……まさかここで現れるとは思わなかった。

 何処に隠れていたのだろうか。


 ふよふよと宙を浮いた後、葉はテールの足に付いた傷口の上に乗った。

 そこで葉の葉柄(ようへい)の部位が傷口に刺さる。


「いった!!」


 なにをするんだ、とすぐに抜こうとしたがペタンと葉がしなって回避される。

 今度は両手で剥がそうとしたのだが、灼灼岩金に止められた。


『待て小僧!』

「え? いだだだだ!!」

『なにやら、妙な気配がする。そのままにしていろ』

「いやっ! 結構痛いんですけどおおおお!! いーーーーってぇ!!」


 傷口を抉られるのは、やはり痛い。

 だが灼灼岩金にしか分からない何かがあるようだし、今はそのままにしておくことにした。

 足を思いっきり押さえてその痛みに耐える。


 しばらくしていると、葉の色が傷口側から変色しはじめた。

 鮮やかな黄緑色から緑色になり、そして黒紫色になっていく。

 全体の色が変わったところではらりと落ち、地面に滑るように降りてぼろぼろと崩れていった。


「『………………え?』」


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真打Twitter(Twitter) 侍の敵討ち(侍の敵討ち)
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