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呪い研ぎの研ぎ師  作者: 真打
第七章 雷閃流継承者
158/422

7.27.師を越えて


 バヂリッと体に電気を纏ったライアは、一つ大きく深呼吸した。

 髪の毛が立ち上がり、体中からほとばしる電気は地面を走り、硬貨を焼き、鉱石を割る。

 強烈な殺意を感じ取った沖田川は、再び日本刀を肩に担いで構えを取った。


『……何と……悲しきかな……』


 慈愛に満ちた声が、ライアの持っている一刻道仙からこぼれた。

 部屋の外から戦っている姿を見ているテールと、腰に携えている日本刀たちにこの声はよく響いて耳に届く。


 かつての主が二人、何の因果か戦いを強制させられている。

 自身に纏わりつく呪いの影響だということを、一刻道仙自身も理解していたが所詮は物。

 これを主に伝えることは不可能だ。

 半場諦めにも感じ取れるため息が、電撃によって掻き消えた。


 その間にもライアがまとう電気は勢いを増していく。

 この時代、ここまで雷を自在に操れる人物はいない。

 ましてや無詠唱だ。

 それだけでもすごいというのに、何という威力の塊か。

 離れて見ているレアルたちにも、そのすごさがピリピリと伝わってきた。


「雷閃流……奇術」

「雷閃流……極地」


 ライアが、自らの師を越える技。

 これだけは師匠である沖田川も、あまりうまく扱えなかった。

 馴染みのない魔法だから、というのもあるだろうが、なによりライアは適性があったのだ。


 ──一閃は雷の如く。

 その姿を一瞬でも目にできた者は、幸運だろう。

 だがそれより先に、見たものは光を失っているかもしれないが。


 ライアがグッと力を込めた。

 沖田川がダンと足を踏み込んだ。


雷神(いかづちのかみ)雷鼓(らいこ)

虚の雷鼓(きょのらいこ)


 ドンッ!!!!

 地響きが鳴るかのような、腹を叩きつける大きな音が部屋の中を揺らした。

 強烈な音にテールとレアルがのけぞり、何とか体勢を立て直す。


 ……どうなった?

 何ら変わりない二人の動き。

 ライアは納刀状態で固まっているし、沖田川は刃を振り下ろそうとしているところで静止していた。

 なぜ攻撃を止めたのだろうか。

 だがその答えは、すぐに分かった。


「強くなったの」

「当たり前です」


 身近い会話を終えた瞬間、沖田川が塵のようになって消えてしまった。

 そして一拍おいた後、周囲の床と壁、天井に大小様々な大量の斬撃痕が現れる。

 割れるような鋭い音を立てて出現したそれは、優に数百を超えているのではないだろうか。


 そこで異変がもう一つ。

 木幕が胸を押さえて咳き込んだのだ。

 片膝をつき、何度か咳き込んだ後黒い塊を手に吐いた。

 すぐに握りつぶしてしまったが……テールはそれを覚えていた。


「も、木幕さんそれ……!」

「……呪いだ。沖田川に使っていた一割の力が消滅した。仲間が死ねば、某にも反映される」

「え!? そ、そそそれって……!!」

「案ずるな。沖田川は死んでおらぬ。力も幾日かすれば元に戻る。その間、沖田川は出られぬがな」


 潰した黒い塊を地面へと投げつける。

 側にあった高級そうな布で手を拭ったあと、それも捨てた。


「では……」


 ゆらりと背を伸ばしたライアが、ついにこちらへと殺気を向けた。

 一歩踏みしめる度に電撃が周囲にほとばしり、地面を焦がす。

 誰にも邪魔はさせない。

 その強い意志が歩き方から伝わってくる。


 わたわたと慌てるレアルは、先ほど現れた斬撃痕にとにかく恐怖していた。

 あれはライアがやったのか?

 魔法? 剣術? 自分の中にある知識では到底理解できない現状が、目の前に広がっていた。

 あの一瞬で、何が起こったか分からない。

 だが一つだけ言えるのは、ライアが沖田川を討ち取ったということ。


 ──それが、こちらに歩いてきているのだ。


「せっせせせ仙人様!! せん、仙人、様!!」

「落ち着け」

「いやしっしし、しか、しかし!」

「テール」


 こちらを振り向かないまま、木幕はテールに声を掛けた。

 小さく返事をすると、すぐにまた声が返ってくる。


「沖田川の日本刀、一刻道仙は、何か口にしたか?」

「……はい。なんと、悲しきかな……って言ってました」

「左様か」


 どうして急に声が聞こえるようになったのかは分からない。

 だが、確かにそう言っていた。

 二人を憐れんでいるように、本当に、悲しそうにそう言ったのだ。


『『因果だよねぇ~』』


 少し興味なさそうに、隼丸は言った。

 灼灼岩金はそれに小さく笑う。


 そうしている間にも、ライアはこちらに近づいてくる。

 ついに木幕の前に立ち、構えた。


「……邪魔しますか? 木幕さん」

「某はせぬ。だが」


 袂をまくって手を広げる。

 その中に現れた光る球体が、走り回って急に姿を現した。


「こ奴が相手する」

「久しぶりだね、ライア君」


 そこに立っていたのは……片鎌槍を片手に持った西形正和だった。


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真打Twitter(Twitter) 侍の敵討ち(侍の敵討ち)
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