7.27.師を越えて
バヂリッと体に電気を纏ったライアは、一つ大きく深呼吸した。
髪の毛が立ち上がり、体中からほとばしる電気は地面を走り、硬貨を焼き、鉱石を割る。
強烈な殺意を感じ取った沖田川は、再び日本刀を肩に担いで構えを取った。
『……何と……悲しきかな……』
慈愛に満ちた声が、ライアの持っている一刻道仙からこぼれた。
部屋の外から戦っている姿を見ているテールと、腰に携えている日本刀たちにこの声はよく響いて耳に届く。
かつての主が二人、何の因果か戦いを強制させられている。
自身に纏わりつく呪いの影響だということを、一刻道仙自身も理解していたが所詮は物。
これを主に伝えることは不可能だ。
半場諦めにも感じ取れるため息が、電撃によって掻き消えた。
その間にもライアがまとう電気は勢いを増していく。
この時代、ここまで雷を自在に操れる人物はいない。
ましてや無詠唱だ。
それだけでもすごいというのに、何という威力の塊か。
離れて見ているレアルたちにも、そのすごさがピリピリと伝わってきた。
「雷閃流……奇術」
「雷閃流……極地」
ライアが、自らの師を越える技。
これだけは師匠である沖田川も、あまりうまく扱えなかった。
馴染みのない魔法だから、というのもあるだろうが、なによりライアは適性があったのだ。
──一閃は雷の如く。
その姿を一瞬でも目にできた者は、幸運だろう。
だがそれより先に、見たものは光を失っているかもしれないが。
ライアがグッと力を込めた。
沖田川がダンと足を踏み込んだ。
「雷神の雷鼓」
「虚の雷鼓」
ドンッ!!!!
地響きが鳴るかのような、腹を叩きつける大きな音が部屋の中を揺らした。
強烈な音にテールとレアルがのけぞり、何とか体勢を立て直す。
……どうなった?
何ら変わりない二人の動き。
ライアは納刀状態で固まっているし、沖田川は刃を振り下ろそうとしているところで静止していた。
なぜ攻撃を止めたのだろうか。
だがその答えは、すぐに分かった。
「強くなったの」
「当たり前です」
身近い会話を終えた瞬間、沖田川が塵のようになって消えてしまった。
そして一拍おいた後、周囲の床と壁、天井に大小様々な大量の斬撃痕が現れる。
割れるような鋭い音を立てて出現したそれは、優に数百を超えているのではないだろうか。
そこで異変がもう一つ。
木幕が胸を押さえて咳き込んだのだ。
片膝をつき、何度か咳き込んだ後黒い塊を手に吐いた。
すぐに握りつぶしてしまったが……テールはそれを覚えていた。
「も、木幕さんそれ……!」
「……呪いだ。沖田川に使っていた一割の力が消滅した。仲間が死ねば、某にも反映される」
「え!? そ、そそそれって……!!」
「案ずるな。沖田川は死んでおらぬ。力も幾日かすれば元に戻る。その間、沖田川は出られぬがな」
潰した黒い塊を地面へと投げつける。
側にあった高級そうな布で手を拭ったあと、それも捨てた。
「では……」
ゆらりと背を伸ばしたライアが、ついにこちらへと殺気を向けた。
一歩踏みしめる度に電撃が周囲にほとばしり、地面を焦がす。
誰にも邪魔はさせない。
その強い意志が歩き方から伝わってくる。
わたわたと慌てるレアルは、先ほど現れた斬撃痕にとにかく恐怖していた。
あれはライアがやったのか?
魔法? 剣術? 自分の中にある知識では到底理解できない現状が、目の前に広がっていた。
あの一瞬で、何が起こったか分からない。
だが一つだけ言えるのは、ライアが沖田川を討ち取ったということ。
──それが、こちらに歩いてきているのだ。
「せっせせせ仙人様!! せん、仙人、様!!」
「落ち着け」
「いやしっしし、しか、しかし!」
「テール」
こちらを振り向かないまま、木幕はテールに声を掛けた。
小さく返事をすると、すぐにまた声が返ってくる。
「沖田川の日本刀、一刻道仙は、何か口にしたか?」
「……はい。なんと、悲しきかな……って言ってました」
「左様か」
どうして急に声が聞こえるようになったのかは分からない。
だが、確かにそう言っていた。
二人を憐れんでいるように、本当に、悲しそうにそう言ったのだ。
『『因果だよねぇ~』』
少し興味なさそうに、隼丸は言った。
灼灼岩金はそれに小さく笑う。
そうしている間にも、ライアはこちらに近づいてくる。
ついに木幕の前に立ち、構えた。
「……邪魔しますか? 木幕さん」
「某はせぬ。だが」
袂をまくって手を広げる。
その中に現れた光る球体が、走り回って急に姿を現した。
「こ奴が相手する」
「久しぶりだね、ライア君」
そこに立っていたのは……片鎌槍を片手に持った西形正和だった。




