7.11.過去最高金額依頼
木幕の提案に、レミと柳、沖田川は頷いた。
効率よく回収するために二手に分かれるのは確かにいい案だと言えるのでテールとメルもコクリと頷いたのだが、チーム分けをした時に疑問を抱くことになる。
まずレッセント家に行くのは木幕、テール、沖田川。
そして砥石を回収しに行くのがレミ、柳、メル、スゥ。
レッセント家を説得するために木幕と師匠であった沖田川が同行するのはよく分かるのだが、何故テールが必要になるのか理解できない。
それに、砥石を回収しに行くのであれば、研ぎを知り、砥石を知っている沖田川か葛篭が適任なのではないかと思うのだが、このようなメンバーになってしまった。
もしや柳も研ぎに関して何か知っていることがあるのだろうかと期待したが、彼は研ぎに関してはからっきしだという。
では何故?
その問いにはレミが答えてくれた。
「テール君は日本刀を見てもらわないと。それが沖田川さんの修行方法の一つでもあるんだし。んで、砥石がある所はもう知ってるの。研ぎに精通していなくても、集めることくらいはできるわ。まぁ最後の加工は沖田川さんにやってもらわないとだけど」
「うむうむ、任せるのじゃ」
説明を聞いて、二人はようやく納得する。
日本刀を見ることによってどんな修行になるのかは分からないが、ここは従っておいても大丈夫そうだ。
砥石がある場所を知っているのであれば、彼らでも問題なく採取はできるだろう。
「では早速参ろうか。レミ、案内を頼む」
「分かりました。メルちゃん、スゥちゃん、離れないでね」
「分かりました」
「っ!」
大きな日本刀を肩に担いだスゥが、レミより先に走っていく。
ぴょんぴょんと飛びながら駆けていく姿は兎のようだ。
そんな光景を微笑ましく思いつつ、砥石回収組はその場を移動した。
彼らの背中を見えなくなるまで見送ったあと、木幕が踵を返す。
目的地はメルたちが向かった先と真反対らしい。
ゆったりとした足取りで向かう木幕の後ろを、のんびりとテールと沖田川がついて行く。
「……む?」
突然、木幕が足を止めた。
眉を顰めて見据える先には、大きな屋根のついた立て札が立っている。
テールと沖田川もその視線の先を見やれば、立て札に張り付いている大量の依頼書を発見することができた。
「冒険者の依頼書?」
少なからず冒険者活動の事を勉強していたテールは、それが何かをすぐに理解した。
こういう大きな国には、外にも依頼書が張り出されていることがある。
大体は指名手配犯や大型の魔物狩猟依頼だったりと、とんでもなく高額の依頼であることがほとんどなので誰も引き受けようとはしない。
だがそこにある依頼書には数多くの冒険者が集まっており、一枚の依頼書を奪い合っている姿が目に入った。
他にも同じ依頼書があるはずなのだが、どうして奪い合う必要があるのだろか。
疑問に思っていると、灼灼岩金が呟いた。
『……どうやら、失せ物探しの仕事のようだが』
「え、灼さん文字読めたんですか?」
『なわけなかろう。奇術の応用で奴らの話を聞いたまで。……なにやら、失せ物探しの仕事だというのに、依頼達成報酬が馬鹿にならぬらしい』
「その失せ物ってのは?」
『……今、そこの翁が携えている、日本刀だ』
「えっ」
テールはすぐに沖田川が携えている日本刀に目をやる。
魂から形取られた物なので言葉を聞くことはできないが、殺傷能力はあるという変な武器だ。
一見するだけでは白くて少し太めの棒にしか見えない。
そこで嫌な予感がしたテールは、沖田川の羽織を掴んでその武器を隠す。
急に何をするのかと沖田川は驚くが、声を上げられる前にテールが耳打ちする。
「お、沖田川さん! その武器隠せますか!?」
「隠す?」
「あ、あそこにいる冒険者、その武器を探し回っています。魂から形取られた物といっても形状が同じなので、見つかるとマズいかと……!」
「むむ……足止めをされるのであっては敵わぬからな……。分かった」
沖田川の腰から、日本刀がフッと消え去った。
魂で形取られた物なだけあって、消すことは容易いようだ。
状況を理解していない木幕と沖田川は、なぜ立て札の前の冒険者たちが沖田川の日本刀を探しているのか理解できていない。
テールはその疑問に答えるべく、先ほど灼灼岩金から聞いたことを彼らに共有した。
すると、やはりというべきか二人の表情が曇る。
「……木幕や」
「……うむ。まずはレッセント家に向かう」
すたすたと歩いていく木幕に置いていかれないように、テールもその後を追う。
しばらく何かを思案していた沖田川は、ゆったりとした歩調を乱すことなく静かにレッセント家へと向かった。
そこでふと、藤雪に言われたことを思い出す。
彼らであれば、何か知っている事だろう。
「も、木幕さん」
「……」
「乾芭道丹って知ってますか?」




