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呪い研ぎの研ぎ師  作者: 真打
第六章 迅速の二枚刃
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6.7.外部顧問


 剣を交える音がテールたちに聞こえない位置についたレミとメルは、互いに構えて様子を伺っていた。

 研ぎを学ぶには時間がかかる。

 なのでここで一度暫く特訓に付き合ってみようと、レミは思ったのだ。


 それに、槙田の戦いを見た後ということもある。

 彼女があの戦いで何を見て、何を学んだのか、その手で実際に確かめてみたかったのだ。

 先のナルスの部下たちとの戦いでは学んだことを活かせないまま終わってしまった。

 そのことをしっかりと看破していた。


 メルより強い相手でなければ、あの戦いで見たことは使えない。

 だからこそ、今はレミが対応する。


「……そう言えば思ったんですけど」

「なにかしら?」

「スゥさんってどれくらい強いんですか?」

「私より強いわよ」

「……え? レミさんより? ていうかレミさんがあの中で一番弱いって本当だったんですか!?」

「そうそう。スゥちゃん含めて、一番弱いわよ」


 自分が弱いということをしっかりと認めるレミ。

 そこにプライドはないようだ。

 だがそれは剣術だけであれば、ということらしい。


「魔法も使っていいなら、まぁそこそこ上位にはなれるかな? 分かんないけど」

「全部使えるんですよね」

「得手不得手はあるんだけどね。まぁ今度教えてあげるわ。さ、行くわよ」

「はい!」


 基本姿勢を取ったレミに対して、メルは腰だめに剣を構えた。

 前とは違う構えを取ったメルを見て、レミは少しだけ警戒する。

 槙田と里川の戦いはとても濃厚だった。

 あれだけで一体どれだけ学べたのか気になるところだ。


 レミは受けの姿勢を貫き、メルが攻めて来るのを待った。

 彼女もそのことに気付いているようで、じりじりと滑るように移動してから、一気に足を踏み込んで走り出す。

 まだ初動の動きは遅いらしい。

 この辺はあとで教えておかなければと思いながら、半歩引いて様子を見る。


 腰だめに構えた状態で接近し、まずは突きを繰り出した。

 既に半歩下がり、長物を扱っているレミは冷静にその刃を弾く。

 すると、メルはもう一歩大きく踏み込んで薙刀の柄をガシッと掴んだ。


「お!」


 そのまま手を引いたことにより、レミがこちらに自ずと近づいてくる。

 片手を離した瞬間には振りかぶっていた剣を今度は振り下ろす。

 明らかに入る形で振り下ろされたメルの剣だったが、レミもそう簡単にはやられない。


 レミも大きく一歩踏み込みメルへと肉薄する。

 振り下ろしていた手首に手刀を撃ち込み、その斬撃を完全に停止させた。

 手加減した攻撃だったのでメルに怪我はなかったが、本気でやれば彼女の手首は折れていただろう。


 そして肘を折り、メルの腹部にめり込ませる。

 未だにメルは薙刀の柄を握っていたので、今度はこちらが引き寄せて攻撃に移った。

 防具のお陰でそんなにダメージが入らなかったメルではあったが、衝撃は想像以上に強く、息を吐きだして後退する。


「っ……けほっ……」

「ん~いいわね! 私に近づけただけ成長! 薙刀を握るとは思わなかったわ」

「槙田さんに体を使えって言われましたから」

「里川さんの最後の戦いも参考にしてるわね。でも防御がまだ下手」

「格闘術の防御姿勢は苦手なんです……」

「じゃあ回避専念ね。受け流しも覚えておいた方がいいから、その辺も教えてあげるわ」

「はい!」

「それじゃもう一回」

「いいんですか?」

「テール君の方が時間がかかるだろうからね。さ、どんどん打ち込んできて!」


 模擬戦続行の許可が出たメルは、嬉しそうに頷いて剣を構えた。

 そこで、ぱちぱちと手を叩く音が聞こえてくる。

 二人がそちらの方を見てみれば、妙な人物が立っていた。

 レミは目を見開いてすぐにその人物の方に切っ先を向ける。

 メルは首を一度傾げたが、彼がどういう人物なのかをいち早く察知して同じ様に構えて警戒した。


 よく見てみれば、その男は木幕たちの服装によく似た服を着ていた。

 大きな帽子にマフラーを付け、ゆったりとした服を着て木の靴を履いている。

 カコン、カコンと一定のリズムを刻みながらこちらに近づいてきた。


 顔を上げると、彼の口には細長い枝が咥えられている。

 ニコニコと笑いながらそれを動かしているが、それよりも目立つもの三つあった。


 まず一つは腕から出ている青い煙。

 これは里川の眼帯から出ていたものとまったく同じものだ。

 そしてもう一つは青い瞳。

 里川の赤色の瞳の特徴と似ている。


 最後に……彼が腰に携えている二振りの日本刀。

 その形状、特徴を見れば……彼がテールを殺しに来た“侍”だということにすぐに気づいた。

 拍手を止めた男は、口に咥えていた細い枝を手に取って話し出す。


「ははははぁ~、いい剣筋だ。この世の人間にしては。いや、剣じゃねぇな。身のこなしってところか」

「……誰ですか」

「俺かい? 乱馬瞬前(みだればしゅんぜん)。暴れている馬を即座に鎮めたってところを見られてこんな苗字になったらしい。なんで鎮じゃねぇんだろうな? 昔の人間が考えることはよく分からねぇぜ……。ちなみに名前はとても気に入ってる。父上は良い名前を付けてくださった。名は体を表すとはよく言ったもので、本当にそうなるんだから驚きだよなぁ?」


 よく喋る。

 それが乱馬に対する二人が抱いた印象だった。


 自慢の語りを武器を向けられたまま聞かれたことに少し不満を覚えたのか、乱馬は枝を咥え直してうなじをかいた。

 そのあと両手で落ち着けというようにジェスチャーする。


「おいおい、初対面で武器構えられちゃ俺だって傷つくぜ。別にお前らを殺そうっていうわけじゃねぇんだから。なんなら少し体の動かし方を教えてやろうって魂胆だぜ? 善意を無下にすんなよー」

「貴方……」

「お、なんだいなんだいそこの嬢ちゃん。君は~あれだな」


 目を凝らしながら指を二つ立てる。

 もう片方の手で足と剣を交互に指さした。


「踏み込み過ぎ。まずは小さく踏み込んで膝を折れ。したら体が前のめりになるからそれで加速できる。その場合は剣をあんな風に構えちゃダメだ。肩から突っ込む形になっちまうから背を伸ばせ。中段か下段が俺的にはいいと思うぞ。まぁ俺の場合は二振り使うから構え変わるけど」

「……え?」

「んでそこの姉ちゃん、お前実力隠してるだろ。そりゃ相手に失礼ってもんだぜ。遊びで付き合って強くなれる奴は居ねぇんだ。どっちも本気で立ち合うから切磋琢磨できるんだぜ? 切は“刻む”、磋は“研ぐ”、琢は“打つ”、磨はそのまんま“磨く”。どれも本気でかかるからこそ輝きを見せる玉を作り出せるんだ。分かったな?」

「……」


 想像していたよりもしっかりとした指摘をしてくれた乱馬に、メルは肩透かしを食らった気分になった。

 一体この人は何なのか。

 だが敵であるということには変わりがない為、気を取り直してもう一度刃を向ける。


「……ああ、そういうこと」


 乱馬は納得したように頷いた。

 静かに手を二振りの日本刀に置き、音もなくゆっくりと抜く。

 一つは肩に担ぎ、もう一つは中段に構えてこちらに切っ先を向けた。


「お前ら、藤雪の仲間か。道理で匂いが濃いわけだ。来る方向間違えたぜ」


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真打Twitter(Twitter) 侍の敵討ち(侍の敵討ち)
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