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旭日の西漸 第3部 異界の十字軍篇  作者: 僕突全卯
第2章 聖戦の開幕
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グレンキア半島沖海戦 第2ラウンド 壱

12月16日正午 グレンキア半島沖 北へ290kmの海上


 グレンキア半島沖海戦から11日後、新たな脅威を察知するため、哨戒機オライオン(P-3C)が空を飛んでいた。この間の海戦で出たものだろうか、木片がちらほらと海面を浮遊している。

 そうして乗員たちが海上の監視を続けていたその時、北の水平線に謎の影が現れた。洋上に広がる黒い物体の群れに、それらの姿を見ていた乗組員たちは既視感を覚えていた。


「あれは・・・」

 

 機長の大河内三佐は、左側の窓から見えるそれらの群れを、目をすぼめて観察する。


「9時の方向へ回旋する、船団らしき影を確認した」


 機長のアナウンスが機内に流れた直後、オライオン(P-3C)の機体は北へと傾く。その後、哨戒機に乗る彼らの目の前に現れたのは、11日前に撃退したクロスネルヤード艦隊と同じく、ルシニア基地へ向かっていると思しき艦の群れだった。


「新たな船団を確認!」


 大河内三佐はすぐさま報告を入れる。彼らの眼下に広がっていたのは、11日前に基地を襲おうとしたクロスネルヤード艦隊を明らかに上回る規模の大艦隊だった。

 船種と船籍を確認するため、オライオン(P-3C)は高度を下げ、艦隊に向かってさらに接近する。大河内三佐は、帆をたなびかせる各艦のマストの頂上に付けられた旗を目をこらして見つめる。よく観察すれば、各艦が掲げる旗は2種類が存在していた。


「2種の国旗を確認。どちらもクロスネルヤードでは無い、この場では識別不可能だ」


 艦隊が掲げる旗は、彼の記憶に無いデザインのものだった。これでは敵か味方か正確に判断は出来ない。

 更に言えば2種類あったのは旗だけではない。今回発見した艦隊は、アルティーア戦役、そして11日前の海戦等、今までこの世界で対峙してきたガレオン船・戦列艦型帆船とは明らかに意匠が異なる船種が、その大半を占めていた。


『画像を撮りましょう。基地に帰ってデータを照合します』


「了解」


 機長の言葉を聞いた戦術航空士(TACCO)は、画像を撮影した上で帰還の指示を出す。そして敵艦隊の撮影を終えた後、念の為にソノブイを投下したが、海中に巨大な潜水物は認められなかった。


「・・・敵艦隊より飛行物が接近!」


 艦隊から龍が続々と接近している様子が、コクピットから見えた。国旗の模様が確認出来る程接近している以上、当然ながら艦隊側も哨戒活動を行うオライオン(P-3C)に気付いていた。接近してきた巨大飛行物を追い払おうと、各艦から龍が飛ばされる。それらは全て茶色い翼龍だった。竜騎士が乗る龍の中では最もメジャーであり、尚且つスペックが最も低い。


「・・・帰還する!」


 国籍不明の船団が航空戦力を離陸させた様子を確認した大河内三佐は、機体を反転させ、一路ルシニア基地へと向かった。


・・・


ルシニア基地 会議室


 新たに迫ってきた艦隊に対処する為、再び基地の幹部たちが集まっていた。撮影した艦隊の国旗を名鑑で検索した結果、それらが交戦国であることが判明したからだ。


「新たな船団はそれらが掲げている国旗から、リザーニア王国とリーファント公国のものだと判明しています。いずれもロバンス教皇国の傘下の国々・・・すなわち敵ですね。これら2カ国は、聖戦への参加を表明しています。敵艦隊の規模は670隻前後となっています」


 大村二佐は、新たに出現した敵についての情報を説明する。


「弾薬は・・・?」


 基地司令である大浦一佐は、基地が現時点で保有している弾薬数について尋ねる。それは1番の懸念材料だった。質問を受けた幕僚の1人である古賀順次郎三等海佐は、立ち上がって答える。


空対空ミサイル(AAM)は全て消費済み、艦対空ミサ(SAM)イルは『しまかぜ』のスタンダード(SM-1)ミサイルを11基残すのみです。

また空対艦ミサイル(ASM)については、オライオン(P-3C)とF−2に搭載する91式空対艦誘導弾やハープーン、80式空対艦誘導弾が計45基、艦対艦ミサ(SSM)イルはハープーンが残り7基。

そして艦砲の残弾は全艦合わせて810発、まともな対空戦闘手段はスタンダード(SM-1)ミサイルとこれだけになりますね・・・」


 大村二佐が述べた最後の一言が、会議に参加している幹部たちの耳に引っかかる。彼ら全員がある1つの懸念を抱いていた。


「問題は対空戦です・・・。最早まともな対空装備の無いF−2に空中戦をさせる訳にはいきませんし、4隻に積まれた5つの砲塔で弾幕を張り、高く見積もって9割5分で命中するとしても、数で押し切られればちょっとまずいかも知れません」


 大村二佐の説明を聞いていた幹部たちの脳裏に、焼け焦げた「しまかぜ」の艦橋の姿が浮かんだ。

 艦とは違い、相手は空を飛び回る龍だ。戦闘機と比べて圧倒的に遅いが、その代わりに急停止・急旋回が容易に出来る。これらが束でかかって来れば、現状、対空装備が艦砲とスタンダード(SM-1)ミサイル11基しか無い4隻にとってはそれなりの脅威と言える。


「飛び立つ前に敵艦を撃沈すれば・・・」


 基地に勤める陸上自衛隊員をまとめている菅野覚二等陸佐/中佐は、敵航空戦力を減らす為に1つの提案を出す。その発案に、上野二佐は眉間にしわを寄せながら懸念を述べる。


「確かイロア海戦ではそれを目的にして、艦対艦ミサ(SSM)イルによる先制攻撃を行いましたね。それなりの戦果があった様ですが、あくまでそれは“ギャンブル”です。この世界には航空母艦という艦種の発想はまだ無い、故に龍を積んでいる艦と積んでいない艦の区別はつきません。

先日の戦いでもその前例に倣って、艦対艦ミサ(SSM)イルを発射させましたが、実際どれほどの効果があったのか・・・」


「・・・」


 上野二佐の説明を聞いた菅野二佐は、思わず口を紡ぐ。

 彼らが知ることでは無いが、実際のところ、先日の海戦において行った対艦ミサイル攻撃によって、飛翔前に滅することが出来た龍は0であった。クロスネルヤード艦隊の総指揮官であったベレンガーは、ミサイルによる遠距離対艦攻撃を警戒し、ルシニアに着く2日前から、龍全てを艦に乗せたままにしない様にしていたからだ。

 実際には109騎の龍を2つのグループに分け、“飛行”と“艦での休息”を一定時間ごとに交互に行わせ、そして海戦当日の朝は全ての龍を艦内の格納庫から出し、艦を牽引させていた。対艦ミサイル32基が艦隊を襲ったのは、龍全てを艦から切り離した後のことである。こうしてロバーニア沖海戦やイロア海戦の時のアルティーア軍の様に、艦ごと龍を沈められるという事態を巧みに回避していたのだ。


「要は・・・何機減らせるかは分からないが、敵機を1つでも減らす為に残存の対艦ミサイルを全て消費し尽くして良いのか否か・・・ということですね。最悪、運が悪ければ、残り52発の対艦ミサイル全弾が、龍が居ない艦に当たることもあり得ますから・・・」


 航空自衛隊員の倉場二佐が、議論の要点と問題点をまとめる。しばしの沈黙が続いた後、司令である大浦一佐が久々に口を開いた。


「52の敵艦を確実に沈められる以上、マイナスにはならん。ただ、ミサイルが勿体無いってだけの話かね・・・」


「・・・!」


 司令の発言に幹部たちは顔を見合わせる。直後、「さわぎり」艦長の陸奥宗広二等海佐/中佐が口を開く。


「まあ・・・明日には弾薬を乗せた増援部隊が到着するのです。出し惜しみする意味はもう無いでしょう。ですがせめて・・・目標がある程度絞れる材料があれば・・・」


 陸奥二佐は、52発残っている対艦ミサイルを、敵艦隊に向かってランダムに当てるしかない現状を嘆いていた。その時、何かを思い出したかの様に、大河内三佐が手を上げて発言する。


「艦と言えば・・・敵艦隊の中には、今まで見てきたガレオン型帆船の他に、明らかにそれらとは意匠が異なるダウ船らしき艦も確認出来まして、エルムスタシア海軍のイリノー殿に尋ねたところ、それらは恐らくアラバンヌ帝国文化圏の船だろうということでした」


「アラバンヌ帝国・・・?」


 大河内三佐が発した聞き慣れない国名に、幹部たちが反応する。解説を目で求める会議の参加者たちに対して、大河内三佐は説明を続ける。


「“西の七龍”アラバンヌ帝国は“古豪”と呼ばれ、7カ国の中では1番の古株らしく、かつてはジュペリア大陸で最大の権勢を誇っていた様ですが、500年前に帝国の前身である“クロスネル王国”との戦いに敗れ、それ以降は緩やかに凋落したそうです。

現状、彼の国とその周辺諸国は、教皇国が度々動員している“教化軍”によって断続的に脅かされており、今回確認出来たダウ船型帆船は、今まで教化軍によって制圧されたアラバンヌ文化圏の被征服民が徴用されたのでしょう」


 大河内三佐は説明を終え、席に着く。彼の話を聞いていた大浦一佐は、何かを思いついたかの様に1つの質問を投げかける。


「成る程、それで・・・敵はどんな布陣になっちょったかね?」


 司令の問いかけを受けた大河内三佐は、自身の哨戒活動中に見た敵艦隊の様子をそのまま伝える。


「ガレオン型帆船による隊列の進行方向と両脇を、ダウ船型で覆う様な形でした。まるでガレオン船の艦隊を守る様に・・・」


 両手でのジェスチャーを交えながら、大河内三佐はリザーニアとリーファントの連合艦隊の様子を大まかに説明する。その内容を聞いていた幕僚の1人である「じんつう」艦長の新宮寺馬二等海佐/中佐は、手を顎に触れながら敵の目論見を考察する。


「つまり・・・ダウ船は艦砲射撃からの”壁代わり”か。はじめから戦力としては加算されていない。・・・じゃあ、少なくともそのダウ船らしき艦とやらには、龍は積んでいる可能性は低い・・・。貴重な航空戦力を壁代わりの艦隊には乗せないはずだ・・・」


 敵艦隊の布陣の様子から新宮二佐は1つの予想を立てていた。直後、基地司令である大浦一佐が立ち上がり、幹部たちに対して1つの命令を下す。


「良し・・・海戦に先立って先制攻撃を行う! 残った空対艦ミサ(ASM)イル全てをオライオン(P-3C)及びF−2に搭載し、目標を隊列後方のガレオン型帆船に限定した上で、敵艦隊に対して一撃を加える!」


「はい!」


 司令の命令を受けた幹部たちは、大きな返事と共に椅子から立ち上がると、次々と会議室を後にする。

 そのまま会議は解散となり、その後、幹部たちから指示を受けた基地の各隊員たちは、空対艦ミサ(ASM)イルを各機に搭載する準備に取りかかるのだった。


・・・


ルシニア市 内陸部郊外 基地滑走路


 会議終了から2時間後、滑走路に3機のオライオン(P-3C)と7機のF−2の姿がある。その機体の下にはそれぞれ空対艦ミサイルを満載しており、それらは合計して45基、基地にある全ての空対艦ミサイルが動員されていた。


『敵艦隊については大河内三佐が目撃した位置より予測し、その大まかな位置情報はすでに入力済みです』


 管制塔から各機に通信が入る。


「あとは発射するだけってことだな、了解」


 F−2に乗るベテランの操縦士である倉場二佐は、1を聞いて10を知る様に、航空管制官が言わんとしたことを悟る。直後、オライオン(P-3C)の前列で離陸体勢を整えていたF−2戦闘機7機のパイロットたちに対して離陸命令が下る。


離陸(Take off)!」


 滑走路に並ぶF−2戦闘機のエンジンに火が灯る。滑走路の上を進む機体は一気に加速し、その機首を上にあげると空高く飛んで行く。そうして最初に飛び上がった1機に続いて2機目、3機目と次々と滑走路から飛び上がって行った。

 F−2の離陸を見送った直後、オライオン(P-3C)3機のターボプロップエンジンのプロペラがほぼ一斉に回り出す。滑走路上を整備員の誘導する方向にゆっくりと進んだ後、一気に加速すると、こちらも1機また1機とF−2を追う様にして離陸して行った。


・・・


離陸直後 ルシニアから北へ350kmの海上


 先行して滑走路から飛び立ったF−2戦闘機は2手に分かれ、敵の艦隊の両脇から大きく回り込む様に飛行して、艦隊の後ろを取っていた。低空飛行を行うF−2の機体は敵艦隊から見れば水平線の向こうに隠れており、彼らは後ろを取られたことに気付いていない。そしてすでに7機のF−2戦闘機は、敵艦隊を80式空対艦誘導弾の射程距離に捉えていた。

 F−2から見て、リザーニア・リーファント艦隊を挟んだ対角線上の上空では、オライオン(P-3C)3機が横一列に並び、91式空対艦誘導弾とハープーンを発射する体勢を整えている。


『各機、発射用意(Stand by)!』


 飛行編隊の指揮を任されているのはオライオン(P-3C)機長の1人、三好清次郎三等海佐/少佐である。無線を通じた彼の声が、各機を操る10人のパイロット達の耳元へと届けられた。


『3、2、1・・・発射(Fire)!』


 三好三佐の命令と共に、F−2戦闘機から計28基の80式空対艦誘導弾が発射された。機体から切り離された80式空対艦誘導弾は低空飛行に乗り、亜音速で水平線の向こうへと飛んで行く。

 F−2部隊の前方でも、オライオン(P-3C)が発射を終えていた。計17基の91式空対艦誘導弾とハープーンが低空を飛んでいく。45機の空対艦ミサイルによって、前後から挟み込まれる様な狙撃を受けたリザーニア・リーファント艦隊に逃げ場はすでに無かった。


〜〜〜〜〜


ルシニアから北へ290kmの海上


 「教化軍国家」の主要国であるリザーニア王国・リーファント公国連合艦隊670隻が海の上を行く。しかしながらその半数以上が、教化軍によって故郷の国を滅ぼされたアラバンヌ文化圏の遺民と元海軍の艦を強制的に徴用したものだった。

 イルラ教徒にとっては、アラバンヌ帝国とその文化圏に属する民たちは、歴史的に因縁のある異教徒であり、いずれの教化軍国家も被征服民である彼らに対して、過酷な支配と差別を行っている。だが、すでに故郷を失った彼らは、逆らう気力も無く徴兵を甘んじて受け入れていた。

 尚、2カ国による連合艦隊と化した670隻の指揮を執るのは、リザーニア王国の将官であるゴドフロウ=コクリアーである。リーファント公国艦隊の指揮官であったフルーク=デルトイドは勿論反発したが、軍人としての経験値そのものがゴドフロウの方が上だということ、そしてリザーニア王国とリーファント公国の間には国としての格の差が有ることを理由に説き伏せられ、渋々ゴドフロウが総指揮官であると認めることになった。




旗艦「シヴィーユ」


 海を行く670隻の各艦では、兵士たちが迫る戦闘に向けて様々な雑務を行っていた。数時間前に南の空から現れた謎の飛行物体は、特に何をする訳でもなく消えて行ったが、鳥でも龍でもない異形の姿をした飛行物の登場は、兵士たちの心に敵地が近づいているのだと言う意識を強く植え付けていた。

 天気は良好、風はやや強め。水上を進む故、やや揺れる司令室にて航海日誌をつけていたゴドフロウの元に、1人の兵士が駆け込んでくる。


「艦隊後列の艦より報告! 後方の水平線より高速接近中の物体発見! 生物の類ではありません!」


「な・・・何!?」


 総指揮官の元へ、緊急の知らせが届けられる。見張りの水夫が見つけた28の飛行物体は、水平線の彼方から目を見張る様な超高速で真っ直ぐ艦隊へと近づいていた。それらはF−2が発射した80式空対艦誘導弾だった。


「恐らくそれはミサイルとか言うニホンの航空兵器だ! 何としても撃ち落とせ! 竜騎も上げろ、急げ!」


「はっ!」


 命令を受けた兵士はすぐに部屋を後にする。直後、航海日誌を畳み、羽根ペンをインク瓶の中に立てかけると、外の様子を確認する為、兵士の後を追う様にしてゴドフロウも部屋から出て行った。


 数十秒後、急いで甲板に出た総指揮官に参謀の1人が駆け寄る。ゴドフロウは彼に今の状況を尋ねる。周りを見れば、緊急の飛翔命令を受けた竜騎士たちが竜騎の手綱を取り、何騎か飛び上がっていた。


「接近中の飛行物は!?」


「そ、それがもう間近まで・・・」


 参謀がそこまで言いかけたところで、別の兵士がゴドフロウに駆け寄り、左膝を甲板に付け、彼らの会話を遮りながら報告をする。


「ご報告申し上げます! 艦隊前列の艦より、前方からも高速接近中の物体有りとのこと!」


「何・・・!? 前からもだと!?」


 突然訪れた危機、まだルシニアまでは1日はかかる距離に居るにも関わらず、敵の挟み撃ちを許してしまったことに、ゴドフロウは大きく狼狽していた。


「前から来るものなど、“盾”で防げるからどうでも良い! 今は後ろから迫っている飛行物を防がねば・・・」


 会話を遮られた参謀が、追加の報告を届けた兵士に対して叱責する様な声と視線を向ける。その直後、巨大な爆音が艦隊の後方から響き渡る。それは1つではない。明らかに10を超える爆発と黒煙がゴドフロウらの視界に捉えられていた。


「ご報告申し上げます! リザーニア艦隊12隻、及びリーファント艦隊16隻、計28隻の艦が沈没! 同艦内に積まれていた竜騎も20騎を損失しました!」


 兵士の1人がゴドフロウに対して被害状況を説明する。直後、別の兵士が更なる報告を入れる。


「前方から接近していた飛行物についてですが、突如海面から飛び上がり、“盾”を回避して本隊の方へ向かっているとのこと!」


「・・・は?」


 兵士の報告にゴドフロウは思わず、きょとんとした表情を浮かべる。その刹那、彼らの目に飛び上がった17基の空対艦ミサイルの姿が映った。それらは斜め上空から飛び込むように艦隊を襲い、17隻の艦を瞬く間に沈めた。


『リザーニア艦隊7隻、及びリーファント艦隊10隻、計17隻の艦が撃沈!』


 音信兵の報告に、旗艦に乗る兵士たちの間に戦慄が走った。確率的には低いとは言え、17本の“空飛ぶ槍”が旗艦に当たる可能性は十分にあったからだ。その事実を前に震えていたのは彼らだけではない。生き残った艦の兵士たちは、爆煙を上げて沈む艦を見つめながら、自らが乗る艦に攻撃が当たらなかったことを、心から安堵していた。


「くそっ! “盾”を回避して直接我らを狙うとは!」


 参謀の1人が左掌を右拳で殴りながら独白する。彼の顔は悔しさや焦燥感など、様々な感情が入り交じった複雑な表情を浮かべていた。


「竜騎の被害状況は!?」


 総指揮官のゴドフロウは、近くにいた音信兵に損失の具合について尋ねる。質問を受けた兵士は敬礼し、問われたことについて答える。


「沈没した17隻の中で2隻に乗せられていた10騎の内8騎が、逃げ遅れて艦ごと沈んだとのことです・・・」


「先程失ったのが20騎・・・、で次が8騎。計28騎を損失した訳か・・・。残りは?」


「2国の竜騎は合計で155騎でしたから、残りは127騎になります」


「2割近い損失か・・・! 決して小さな損害とは言えないな・・・」


 ゴドフロウは眉間にしわを寄せる。状況の把握を終えた彼は、艦隊のあちこちで昇る煙と、突然の事態に右往左往する兵士たちの姿を眺めながら、命令を下した。


「各艦に通達、直ちに生存者の救助を! そして竜騎は甲板の上で寝起きさせろ、格納庫にはもう入れるな。また艦ごと沈められては敵わん」


「はっ! ではその様に!」


 命令を受けたその音信兵は再び敬礼すると、貝を用いて全艦隊に命令を伝達する為に船室へと戻って行った。その後しばらく、彼らは新たな攻撃に戦々恐々しながら、南へ進むこととなる。

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