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それはまるでヤのつくご職業の方のようで?


「俺やよ、俺」


 俺俺言われましても。昨今流行の俺俺詐欺の訪問販売編か何か? ……まあ、いいか。最初は人相が悪すぎて、本気でヤのつく危ないご職業の方かと思ったけれど、よくよく声を聞けばわかる。


 私のいとこ、悠くんだ。よくよく見ればおじさんに似ていた。おじさんverヤング。


「あ、悠くん。久しぶり……」


 と、ごく普通に話を続けようとしたけれど……「とある部分」にどうしても目がいってしまう。だから、つい、聞いてしまった。


「頭どうかしたの?」


 頭どうかしたの。

 もうちょっとオブラートな表現があったんじゃ……。

 これでは悠くんの髪ではなく、別のものがどうにかしちゃったように聞こえるよ……。


「そ、そう! 髪、髪のことなんだけど!」


 ごまかすように早口で訂正。

 当の本人は気にした様子もなく、つるりとした頭をぽりぽりと掻いている。ついでにぽりぽりとトレーナーの下の背中も掻いているようで。あーあ、無精髭なんて生やしちゃって、ますます老け顔が老けてしまって。


 あなたのいとこは残念な気持ちで一杯です。

 ところで以前のワックスべったりでたまに妙な色が入っていたツンツン頭よりはだいぶマシに見えるとはいえ、何があったと尋ねてもいいですか。


 ……なんて、口にはしなかったけれども。


「親父にばれた」


 バリカンで思いっきり刈られたわー、などと言っている悠くん。

 私の知る限り、悠くんは小学校時代などは叱られついでにたびたび坊主にさせられていたと聞いたけれど、大人になってからこんなことになった記憶はなかった。しかも、坊主にさせられていた時というのは、悠くんがかなりまずいことをやらかした時で……。

 やらかしたんだな、悠くん。


「何がばれたの」

「二股」

「は? 悠くんがしたの? 何で?」

「魔が差したからって……あれ、こずえちゃん。めっちゃ引いてない? え、俺傷つく」

「それは自業自得」


 私はモモを後ろから抱えた。モモのつぶらな瞳が悠くんに向く……わけもなく、うつむいている。


「ほら! モモもがっかりーって顔をしているよ! 浮気する悠くんなんて大っ嫌いーって言っているよ」


 ね、モモ! 女の敵なんやものね!


 悠くんが気まずそうな顔をしたのに溜飲を下げた私はさらに続きを促した。


「それでなんでおじさんにばれちゃったの」

「ここにご飯食べに帰ってきてたら、マキからの電話がかかってきてばれたんだわ」


 マキさんというと、夏に会った金髪女子のこと?

 で、マキさんとの電話越しの修羅場を耳にしたおじさんはすべての事情を吐かせた、と。

 結局、マキさんとはそのままさようなら。

 そして、そもそもマキさんに二股がばれたきっかけが……。


「ま、端的にいやぁ、あれだ」


 悠くんがしまりのない、にやあっとした笑みを浮かべた。私が嫌いな悠くんの顔だ。


「ベッドの上でアレしようとしていたら、マキが飛び込んできてだなぁ」

「……最低」

「なにおう。こずえちゃんが大人になっているから包み隠さず言っているんだぞ」


 私が下ネタ苦手なのを知っていて、言ってくるんだから始末が悪い。

 別に男友達二人で話しているのならいいのだけれど、いきなり私に振られても反応に困る。悠くんが言うと、生々しさとか嫌悪感みたいなものがこみ上げてきて、どうしても好きになれない。


 私は悠くんから目をそらして、モモの前足を撫でた。あ、爪が欠けた部分があった。


「そういえば、悠くんはもう正月休みに入ったの? こっちには掃除に?」


 悠くんの言葉を流して、別の話題を放り込む。

 私はこっちにいる時は掃除やおせち作りを手伝ったけれど、悠くんはゲームしながらごろごろしているだけだった。まさか、今年もか。一人暮らしの部屋も大掃除していなくて、やや散らかっているらしいから、あり得る。


「いや、徹夜でゲームしにきた」

「――そう」


 私は半眼になった。悠くん……あなたは菱川さんの爪の垢を煎じて飲めばいいと思うんだ。この間来た時、食事の後片付けを手伝ってくれたんだよ。今、いい掃除道具があったら情報交換するぐらいなんだ。菱川さんのお宅は今頃、ぴかぴかになっているに違いないんだ……。


 ひとまず悠くんに関しては放っておくことにした。動いて掃除を邪魔することもあるまい。

 手伝えることは手伝ってしまおう。この際、私よりも悠くんの方が実家に来る頻度が高いという事実は置いておく。私が掃除苦手だということも置いておく。


 車を降りてすぐに家の中に入っていったおじさんが顔を出す。


「こずえー。ちょっと手伝えー」

「はーい」


 私は素直にその言葉に頷いて、ころころとキャリーバッグを持ち上げて玄関に入る。おばさんが二階から下りてくるのが見えた。


「あら、おかえりなさい」

「はい……戻りました」


 私は軽く頭を下げた。

 「おかえりなさい」に対応するのは「ただいま」だけれど、こういうときはいつも迷った挙げ句、別の言葉を使ってしまうことが多い。妙な距離感を感じる。でもそれはおじさんたちのせいではなくて、私の問題だということも知っている。


 難しい。










見た目こそあれですが、悠くんはまじめに工場に勤めています。

地元では優良企業として有名なところに就職しました。

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