第26話 その男、「最強」
「……これが、グラシア・ブルームという人間の全てです」
「「……」」
そう自身の「人生」を話し終えたグラシアに、春風とレベッカは少しの間何も言えないでいると、
「……その『予言』についてはアタシも聞いた事があるけど、まさかアンタが遺したものだったとわねぇ」
と、レベッカはそう言って「なんてこった」と言わんばかりに手で自身の顔を覆った。
そんなレベッカを見て、
「はい。といいましても、殆どの部分は五神教会によって改竄されてしまいましたが……」
と、グラシアが表情を暗くしながらそう言うと、
「……じゃあ、今日俺が見た、あの先頭にいた男の人がグラシアさんを殺したんですね?」
と、春風が下を向きながら、グラシアに向かってそう尋ねた。
グラシアはそれを見て、
「はい」
と、ゆっくりと頷きながら答えると、
「……っ」
春風はギリッと歯を食いしばりながら、左右の拳をグッと握った。
レベッカはその様子を見て、
「ハル、よしな……」
と、春風に声をかけると、
「春風様」
と、グラシアが優しく話しかけてきて、春風の片方の拳に手を置くと、
「春風様、どうか、あの男に関わらないでください」
と言ったので、
「どうして!?」
と、春風はバッと顔を上げると、
「私の話を聞いて、春風様はあの男を許せないと思ったでしょう?」
と、グラシアがそう尋ねてきたので、
「……はい」
と、春風はそう答えると、グラシアは真っ直ぐ春風を見て話を続ける。
「私だって、死んでしまった今でも、あの男を……断罪官達を許せません。ですが、彼らを殺したところで、私も、私の大切な人達も生き返ったりはしません。何よりも、春風様には『大切なもの』と『生きて帰る場所』、そして果たすと決めた『目的』があるのでしょう? ですから、そんなあなたを、あんな連中に関わらせたくありません」
そう話したグラシアの言葉の重さに、春風は「そ、それは……」と応えようとした、まさにその時、
「私も彼女に賛成です」
「「「っ!」」」
と、すぐに傍でそう声がしたので、春風、グラシア、レベッカが驚いてその声がした方へと振り向くと、いつの間にか開いていた部屋の扉の近くに、
「こんにちは」
ハンターギルド総本部長のフレデリックと、
「よ!」
大手レギオン「紅蓮の猛牛」リーダーのヴァレリー、
「やぁ」
もう1つの大手レギオン「黄金の両手」リーダーのタイラーがいたので、
「な、なんで皆さんがいるんですか!?」
と、春風が目を大きく見開きながら尋ねると、
「たまに外で食事しようと思いまして……」
「いやぁ、レナがいないうちにお前をスカウトしようと思ってな」
「僕は何やら面白そうな気配を察知してね」
と、3人は笑顔でそれぞれの理由を話した。
それを聞いて春風とレベッカはポカンとなったが、
「……あの。それで、何処から聞いてたんですか?」
と、恐る恐る再び尋ねると、
「そちらのレディが昔話を語り始めようとしてるところからですが、なにか?」
と、フレデリックはチラッとグラシアを見ながら尋ね返したので、
(最初からじゃねぇかよ!)
と、春風はそう思いながら手で自身の顔を覆い、レベッカは「はは……」と乾いた笑い声をこぼした。
そんな春風とレベッカを無視して、
「グラシアさんといいましたね、盗み聞きしまい、大変申し訳ありませんでした」
と、フレデリックはグラシアに向かって深々と頭を下げて謝罪し、それに対して、グラシアが「あ、いえ……」と困ったような表情をしていると、
「さて、ハルさん……いえ、春風さんでよろしいでしょうか?」
と、フレデリックは今度は春風に向かってそう尋ねてきたので、
「ふえ!? あ、えっと……ハルで、お願いします」
と、春風はハッと我に返りながらそう答えた。
それを聞いて、フレデリックが「わかりました」と言うと、
「ハルさん、もう一度言いますが、私はグラシアさんの意見に賛成です。断罪官……というよりも、あの男に関わらない方がいいでしょう」
と、真面目な表情でそう言った。
その言葉を聞いて、
「総本部長さんは、あの男の人の事を知ってるんですか?」
と、春風はフレデリックにそう尋ねると、フレデリックはこくりと頷いて答える。
「ええ。彼の名は、ギデオン・シンクレア。断罪官の大隊長を務める人物です」
「大隊長……というと、1番偉い人って事ですか?」
「その通りです。そして、彼は歴代の大隊長の中でも、『最強』と言われている人物でもあります」
そう話したフレデリックの言葉に、春風が「マジですか」と冷や汗を流すと、今度はヴァレリーとタイラーが口を開く。
「そうさ。奴は神々の為ならどんな相手でも容赦する事なくぶっ殺す、五神教会の『闇の幹部』とも呼ばれている男なんだが……」
「それとは別に、強い奴との戦いを好む『戦闘狂』でもあるという噂もあるんです」
その言葉を聞いて、春風が「えぇ?」と若干ドン引きしていると、またフレデリックが口を開く。
「そう、つまりそれほどまでに危険な人物という事なのです。そんな相手と関われば、あなた自身の今後に悪い影響を及ぼすでしょう。ですので、出来れば全力で関わらない事をおすすめします。あなた自身の為、そして、今この場にいないレナ・ヒューズさんの為にも、ね」
と、フレデリックがそう言った瞬間、
「あ……」
と、声を漏らした春風の脳裏に、今この場にいないレナの顔が浮かんだので、
「……はい。わかり……ました」
と、春風は顔を下に向けながらそう返事をした。




