第19話 春風流、シャルウィーダンス?
(ど、どうしよう、フーちゃんのところに行きたいのに)
海神歩夢は困っていた。
春風に新しい飲み物を渡そうと急いで戻ろうすると、
「おぉ、これはこれは勇者殿」
(ん?)
歩夢の前に1人の立派な身なりをした男性が現れた。
ただその男性、かなり酔っ払ってる様子で、その右手に持っていたグラスの中身は、今にも溢れてしまうのではないかと思われるくらい揺れていた。
それを見て、
(あ、これ関わっちゃいけない人かも)
と、考えた歩夢は、
「ど、どうもこんばんは、失礼しま……」
と、そそくさとその場から離れようとしたが、
「おやおや、つれないですねぇ」
と、男性に阻まれてしまい、
「あ、あの、どいてください」
と、歩夢は男性に向かってそう頼んだが、
「アッハッハ、そう言わずにこの私と踊りましょうじゃありませんか」
と、男性はなんともいやらしい笑みを浮かべながら、歩夢に詰め寄ろうとした。
そこに恐怖を感じたのか、
(た、助けて……フーちゃ……)
と、歩夢が泣きそうになった、まさにその時、
「ちょっと失礼」
「「っ!」」
歩夢と男性の間に、ドレス姿の春風が割って入ってきた。
「え? あ? お……?」
突然の事に驚く男性。
その男性とは対照的に、
「ふ、フーちゃん」
と、歩夢は落ち着きを取り戻した。
そんな歩夢に向かって、
「もう大丈夫」
と、春風が穏やかな笑みを浮かべながらそう言うと、
「ねぇ、お兄さん」
と、目の前にいる男性に向かってそう声をかけた。
その言葉に漸くハッとなったのか、
「な、何でしょうか?」
と、春風に向かって返事すると、
「よろしければ、私の相手になってくださらない?」
と、春風は妖艶な笑みを浮かべながらそう言った。
その言葉を聞いて、男性だけでなく歩夢や周囲の人達までもが、皆ゴクリと唾を飲んだ。
そんな状況の中、
「そ、その……相手……とは?」
と、男性が恐る恐るそう尋ねると、春風は再び妖艶な笑みを浮かべながら、
「知りたかったら、私を捕まえてごらんなさい」
と、まるで挑発するかのようにそう答えた。
その答え周囲の人達が再びゴクリと唾を飲むと、
「ユメちゃん、師匠のところに行って」
と、春風は歩夢にそう言って、その場から移動を始めた。
向かった先は、会場の中央。
そこでは先ほどまで男女のペアが踊っていたが、何故か全員踊るのをやめて春風をジッと見つめていた。
いや、彼らだけではない。それまで音楽を奏でていた人達も、春風のジッと見つめていて、演奏を止めていた。
そんな彼らに向かって、
「すみません、何か一曲、お願いします」
と、春風がそう言うと、全員ハッとなって再び音楽を奏で始めた。
春風はそれを見届けると、凛咲から受け取った扇を広げて、
「いらっしゃい、お兄さん」
と、その扇をヒラヒラと動かしながら男性を誘った。
それを見て、男性はニヤリと顔を歪めると、すぐに春風に近づいて、その手を伸ばした。
それを見て周囲から「あ!」と声が上がったが、
「おっと」
と、春風はその手をヒラリと回避した。そしてそれと同時に、周囲から「おぉ!」と歓声が上がった。
その声にハッとなったのか、男性は再び春風に手を伸ばしたが、
「おっとっと」
と、こちらも春風は回避した。
その瞬間、男性はその場に転びそうになったが、どうにか踏ん張ると、また春風を見て手を伸ばした。
それからも春風は、自身に向かって男性のその手が伸びてきた度に、ヒラリ、またヒラリと避け続けた。
そして、何度も避けられていくうちに、
「ぐ、ぎ、こ、このぉ……」
と、流石に苛立ってきた男性は、また何度も春風を捕まえようとしたが、
「ふふふ」
と、その度に春風はそれら全てを避けていった。ドレスを着ているにも関わらず、美しく、華麗にだ。
そんな事が続いていくうちに、やがて苛立ちが頂点に達したのか、
「ヌオオオオオオ! これで、どうだぁあああああ!」
と、男性は怒って春風に飛びかかった。
それを見て、
『あ、危ない!』
と、周囲からそんな声があがったが、春風は落ち着いた表情でニヤリと笑うと、
「えい!」
と、その男性を回避した。
その瞬間、男性は目標がなくなった事に気付くが、だからといって自身の動きを止める事が出来ず、結局その場に四つん這いする事になった。
それを見た後、春風はニヤリと笑って、
「よいしょっと!」
「うぐぅ!」
なんと、四つん這いになった男性の背中に座り込んだのだ。
まさかの結末に、
「はがぁ!」
と、男性がショックを受けていると、
「まだやりますか?」
と、春風が座り込んだ状態からそう尋ねてきたので、その質問を聞いた男性は「うぐぅ」と悔しそうな表情になった後、
「……いえ、私の……負けです」
と、男性はガクリとしながらそう答えた。
その瞬間、
『わぁあああああああ!』
と、周囲からパチパチと拍手と同時にそんな歓声があがった。




