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ヘリオスオーブ・クロニクル(旧題:刻印術師の異世界生活・真伝)  作者: 氷山 玲士
第四章・マイライト山脈の緊急事態

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討伐報告

 見世物の凱旋式も無事……じゃないが、とりあえず終わった。


 ミーナ達の近くに不穏な連中がいたから、気になって土属性C級探索系刻印術式リンクス・マインドを飛ばして会話を聞いてみたんだが、そいつらがジェム・ホークっていうレイドで、話の内容からレティセンシアのスパイだって断定できたから、即座に氷らせて確保できたのは僥倖だったな。

 レックスさんやライナスのおっさんからもツッコまれまくったけど、あいつらを捕まえることそのものは問題視されてない。

 時間と場所をわきまえろ、とは言われたけどな。


 その間に怪我人は、ヒーラーズギルドから派遣されてきたヒーラーに、ノーブル・ヒーリングやエクストラ・ヒーリングで治してもらっている。

 骨折が多かったけど、それもノーブル・ヒーリングやエクストラ・ヒーリングなら治せてしまうし、今回はアライアンスということもあって治療費もかからないから、怪我をした人達には助かるよな。

 ちなみに(シルバー)ランクヒーラーのユーリアナ姫、まだ(ブロンズ)ランクヒーラーだがノーブル・ヒーリングが使えるプリムの実母アプリコットさんも参加してくれている。

 俺達とは二言三言しか言葉を交わせなかったけど、プリムと一緒に無事に帰ってきたことを、すごく喜んでくれてた。


「改めて、お帰りなさい。誰1人欠けることなく無事に帰ってきてくれたことは、本当に、心から喜ばしいわ」


 ハンターズギルドの第十鑑定室に入って、満面の笑みで俺達を迎えてくれたリカさんだけど、次の瞬間には疲れたような顔に変わった。


「それじゃあ、出してくれる?」

「わかりました」


 数は全部で138匹だが、第十鑑定室は広いから、全部出しても問題ない。

 とはいえ、一番数の多いグラン・オークや希少種のジャイアント・オークはそんなに重要じゃないから、奥の方からってことになった。

 もっとも、俺とプリムがオーク・エンペラーとオーク・エンプレスを出した瞬間、鑑定室の中は恐怖と絶望と静寂に支配されてしまったが。


「……確かに、オーク・プリンス2匹、オーク・プリンセス5匹、オーク・キング2匹、オーク・クイーン3匹だな……」

「そしてこいつが、オーク・エンペラーとオーク・エンプレスか。さすがに見たのは初めてだ……」


 終焉種の死体が持ち込まれたのは、これが初めてらしい。

 寿命で死んだと思われる終焉種もいるみたいだが、死体は回収されてないから、あくまでも推測に過ぎない。

 そもそもの話として、寿命がどれぐらいあるのか分かってないんだから、希望的観測ってやつだな。

 一応、亜人は数十年、魔物は数年から数百年と言われているが、あくまでも通常種の話だし、パペットやゴーレムなんかの非生物、スケルトンやゾンビなんかのアンデッドは寿命そのものがないから、正確に調べるのは難しいだろう。


「死体の状況は、報告にあった通りなのね」

「はい」

「どこかの物語みたいな報告書だったけど、この様を見る限りじゃ正確な描写だったから、戦闘の様子もその通りだったってことなのね……」

「オーダーズマスターに限ってそんなことはないと思っていたけど、さすがに虚偽報告を疑ってしまいましたからね」


 領代やギルドマスターが頷くのは分からんでもないが、アライアンスに参加したオーダー、ホーリー・グレイブどころかオーダーズマスター自身まで深く頷いてるのはどういう訳だよ?


「私がどれだけ頭を悩ませて、報告書を仕上げたと思っているんだ?特に君達の事については、真実を書けば書くほど、現実離れした内容になっていったんだぞ?そんな報告書を上げて、信じてもらえると思うのかい?」

「いや、そんなこと言われても……」

「あたし達としては切り札を使ったとはいえ、普通に戦ってただけだものね」


 その通りでございます、と同意の意味を込めて頷く。


「確かにやったのが君達じゃなかったら、一笑に付すか妄想癖を疑うか、無礼だって切って捨てるかだろうね。それでも信じられなかったし、最初は何を書いてるのか理解できなかったよ」

「意味不明にも程がある内容だったからな」


 ラベルナさんの意見に、ライナスのおっさんが同意する。

 なんでもラベルナさんは、報告書を読んだ瞬間に倒れたらしい。

 フラムやリカさん、ミカサさん、サフィアさんまで倒れたって言われたが、それは俺達のせいなのか?


「明らかにお前らのせいだろうが。オークの数が予想より多かったのは、クイーンとプリンセスがいたんだから、これは理解できる。ホーリー・グレイブとオーダーが、死者もなく、たった13人でオーク・クイーンを倒したのも、称賛されるべき内容だ。だがお前らのことになると、風と炎の結界にプリンスとプリンセスを閉じ込めて倒し、キングとクイーンはすれ違いざまに吹き飛ばし、エンペラーとエンプレスに至ってはタイマンで圧倒したとかって書いてあったんだぞ?何を信じろってんだよ?」

「そ、それはちょっと、大袈裟じゃないかなぁと……」

「だ、だよな?」


 ライナスのおっさんに報告書の内容を教えられて、挙動不審になる俺とプリム。

 プリンスとプリンセスは、確かに報告書の通りに倒した。

 キングとクイーンは大袈裟なようにも感じるが、確かにエンペラーとエンプレスに向かっていく途中で、ほとんど通りすがり状態で倒したような気もする。

 エンペラーとエンプレスなんて間違いなく俺達がタイマンで倒したし、その後でも一番元気だったから、夜は寝ずの番までしていたな。


 ……うん、レックスさん、過不足なく報告してるわ。


「やっぱり、全部事実だったわね……」

「疑ってはいませんでしたが、現場にいた者達、そして本人からも同様の内容ですからね。ここまで来ると、呆れを通り越して笑ってしまいますよ」


 ソフィア伯爵とアーキライト子爵が乾いた声で笑う。


「はあ~……。ともかく、討伐に関しては報告書通りだと分かりました。次に武器についてですけど、実際に使ってみてどうでしたか?」


 リカさんが大きな溜息を吐いて、強制的に話を切り替えた。


「この武器がなければ、誰かが犠牲になっていたのは間違いありません。私の盾はオーク・クイーンとの戦闘で壊れてしまいましたが、間違いなく命を救われました」

「あれほど魔力を全開にして戦ったのは、おそらく初めてです。オーダーズマスターの仰る通り、この武器がなければ、最悪の場合は彼らを残して全滅していたでしょう」


 レックスさんとミューズさんが代表して答えたが、確かにレックスさんの盾は魔銀ミスリル製だから、クイーンとの戦闘中に魔力疲労とクイーンの攻撃で粉々に砕けてしまっている。

 盾でも問題だが、剣だったら攻撃そのものができなくなるから、もっと大事になってたかもしれない。

 というか、全滅っていう場合でも、俺とプリムは生き残るの?


「君達が討ち死にするようなら、いかなる手段を使ってでもフィールを放棄するよ」


 ラベルナさんに断言されたが、領代までも同意するかのように頷くのはどうなんだ?

 そりゃ、俺だって嫁さん残して討ち死になんてしたくないから、必死に戦うけどさ。


「それはいいとして、ホーリー・グレイブはどうだい?」


 なんかあしらわれた気がするんだが?


「オーダーと同じだよ。この武器がなかったら、途中で武器を交換する隙ができていた。それにグラン・オークやジャイアント・オークも簡単に倒すことができたから、翡翠色銀ヒスイロカネ青鈍色鉄ニビイロカネが広まれば、間違いなくハンターの力は増すよ」


 それは俺も同意だ。

 魔銀ミスリル金剛鉄アダマンタイトじゃハイクラスの魔力に武器が耐えられないけど、できるだけ戦闘中に破損したりしないように、魔力を抑えて使っていたからな。

 当然魔力を抑えてということになると、いかにハイクラスが一騎当千の実力を持っていたとしても、制限が掛けられてしまうようなものだ。


 だけどその制限が無くなるってことは魔力を抑える必要もなくなるし、今まで苦労して倒してた魔物も倒しやすくなるってことだから、狩りの最中の事故も減るだろうし、ハイクラスになるための目標にもなるんじゃないかと思う。

 問題があるとすれば、それらの武器を買う金のない奴らが、持ってる人からの強奪を企てることか。

 こればっかりはどんな武器でも起こりえることだから、それぞれで注意してもらうか、いっそのことハイクラス以上にしか売らないようにしてしまえば、誰が持ってるかは管理できるような気もする。

 それは俺が考えるようなことじゃないか。


翡翠色銀ヒスイロカネ、そして青鈍色鉄ニビイロカネの評判は上々。それどころか積極的に利用したいということか」

「気持ちはわかる。俺も一本打ってもらいたいぐらいだからな」


 ライナスのおっさんもハイクラスだし、今はハンターが少ないから、時間があれば狩りに出ている。

 まだ武器は壊してないが、それも時間の問題だろうな。


「すまないね。本当ならライナスさんの武器も打っておくつもりだったんだけど、その前に今回の件が起きたから、どうしてもそっちを優先せざるを得なかったんだよ」

「それは分かってるよ。ってことは、俺にも打ってくれるってことか?」

「もちろんだよ。ライナスさんはサーシェスがいた頃から、フィールのために身を粉にして働いてくれてるんだから、せめてものお礼に、クラフターズギルドから贈らせてもらおうと思ってね」


 ああ、なんでおっさんの分がまだだったのかと思ったら、そういう理由か。

 だけど打つ準備は出来てるみたいだから、何日かしたらおっさんにも武器が贈られることになるだろうな。

 というか、おっさんの武器って、剣でいいのか?


「それはありがたいな。今使ってるミスリルスピアは、そろそろ限界だったからな。さすがに今日明日で折れることはないだろうし予備も買ってはあるが、それでも怖いものは怖い」


 その気持ちはよく分かる。

 俺が壊したミスリルソードの数は、10本を超えてるからな。

 エンシェントヒューマンに進化してからも何度か使ったが、1回使っただけで壊れるとか、マジで勘弁しろよって思ったもんだ。

 そう考えると、多くの異常種や災害種を倒して、さらにエンシェントヒューマンの魔力にもしばらくは耐えてくれたミスリルブレードは、かなり凄かったんだな。


「では武器に関しては使用感も確かめられたということで、そのままの意見をグランド・クラフターズマスターに伝えてもらうことになりますね」

「そうなるね。後でエド達にも伝えておくよ」


 グランド・クラフターズマスターに報告するのは、あいつだからな。


「それでは次は……」


 言い淀むリカさんだが、なんでそんなに疲れた顔をしますかね?


「……次は、アライアンス参加者のレベルアップ、そしてランクアップについて、ですね」


 本当にごめんなさい。

 全て俺が悪ぅございました。

 いや、別に俺が悪いことはないんだが、リカさんの顔を見たらそんなことを思ってしまった。


「まずはオーダーからお願いしたいんだけど、オーダーズマスターとイリスが、レベル50を超えたのよね?」

「はい。私がレベル51、イリスさんはレベル52になりました」


 苦笑しながら答えるレックスさんだが、報告を受けてるはずの皆さんが一斉に溜息を吐いた。

 レベル50オーバーのオーダーが一気に2人も増えたんだから、そこは喜びましょうよ?


「喜ばしいのは間違いないんだけどね。元々2人とローズマリーは、遠くない内にレベル50を超えるって言われてたんだけど、さすがにこんな早く、しかも一気にレベルを上げて帰ってくるとは思ってなかったのよ」

「出発前に、君が武器の問題があるからハイクラスは魔力を十全に使うことができないため、レベルが上がりにくいのではないかと推察していたが、図らずもそれが正しいのではないかという証拠になってしまっていることも問題だ」


 確かにそんな話はしたし、ヤバいと思ったから内密にする方向で話はまとまったんだが、それを自ら公表するように一気にレベルが上がっちまったもんだから、隠しきれるか怪しくなってきたってことですね。

 分かるんだけど、こればっかりはどうしようもないでしょ?


「他のオーダーも、軒並み3から4レベルアップね。だけどまさか、ミューズがレベル56になるなんてね……」

「私としても戸惑っています。なにせアソシエイト・オーダーズマスターはレベル54、グランド・オーダーズマスターでさえレベル55ですから、アミスター最強と言われるお2人のレベルを上回ってしまいました」


 そうだったのか?

 アソシエイト・オーダーズマスターであるミーナのお父様のレベルは聞いてたが、グランド・オーダーズマスターがレベル55だったのは初耳だ。

 だけど1つぐらいのレベル差はないも同然だし、経験の差もあるから、レベルではミューズさんが上回ったとしても、実際に戦ったらどうなるかは分からないはずだ。


「その通りなんだが、レベルを上回ってしまったという事実が問題なんだ。グランド・オーダーズマスターも父さんも、そのこと自体は喜んでくれると思うが、他のオーダーがどう思うかは別だ。特にグランド・オーダーズマスターはアミスター最強騎士が就任することも多いから、場合によってはミューズさんがグランド・オーダーズマスターになる可能性もあり得る」


 レックスさんの推測に、とてもイヤそうな顔で頷くミューズさん。

 そこまでイヤなのか?


「幸い、と言っていいかはわかりませんが、ミューズさんは女性ですから、誰かに嫁げばグランド・オーダーズマスターに就任することはできなくなります。もちろん女性がグランド・オーダーズマスターになったこともありますが、結婚し子供を生めば、そちらを優先せざるを得なくなりますからね。これはオーダーズマスターも同様ですが」


 女性がオーダーズマスターになった場合、数年で退くことがほとんどだから、有事の際には問題になる。

 だからオーダーズマスターは、基本的に男性が務めることが多いと、ローズマリーさんが教えてくれた。

 もちろん女性が務めなきゃならない場合もあるから、絶対ってわけじゃないみたいだが。


「結婚と言われても、私は……」

「私は以前から言っているじゃありませんか。ミューズさんならば構わないと」


 ここで衝撃の事実が発覚。

 以前ファリスさんが、ミューズさんが落としたい男は1人だけだって言ってたが、どうやらその1人ってのはレックスさんのことだったようだ。


「それはありがたいんだが、レックスはまだ君とも婚約できていないだろう?それなのに私が割り込むのはどうかと思う」

「うちの実家は男爵家の分際で、プライドだけは高いですからね」


 レックスさんとローズマリーさんって、婚約すらしてなかったのか。

 というか、自分の実家のことなのに、散々な言い草だな。


「トライハイト男爵家ね。ローズマリーには悪いけど、確かに評判は良くないわ。そうよね、サフィアさん?」

「申し訳ないですが、その通りです。シュタルシュタイン侯爵領にある街の代官をお任せしているんですが、当代になってからは評判が良くないため、父はもちろん弟も何度も諫言していますね」


 ソフィア伯爵がサフィアさんに話を振ったが、ローズマリーさんの実家ってシュタルシュタイン侯爵領にあったのか。

 え?シュタルシュタイン侯爵領の北にあって、レティセンシアの国境も遠くないの?

 レティセンシアとの国境はベルンシュタイン伯爵領だったはずだが、それでも近いことに変わりないないから、レティセンシア人が来ることもよくあるとかって、イヤな位置にあるのな。

 というか、評判が悪くて領主から諫言されるって、相当マズいんじゃないのか?


「うちの父は、男爵家の跡取りとして甘やかされて育てられましたからね。だから思い通りにならないと、すぐ周りに当たり散らすんですよ」


 子供かよ。

 聞けばそのトライハイト男爵は、跡取りの長男の嫁でさえ、自分が勝手に決めてしまったらしい。

 さすがに本人の同意がないし相手も乗り気じゃなかったから、その話はなかったことになったそうだが、それもあってローズマリーさんのお兄さんは未だに独身で、結婚する気配すら見えないとか。

 ローズマリーさんも上級貴族へ嫁に出すことで繋がりを持ち、シュタルシュタイン侯爵領内での影響力を増そうと考えているらしいから、レックスさんとの結婚には猛烈に反対しているそうだ。

 アミスターには珍しい権力主義の貴族だから、どこの貴族家もまともに相手をしてないため、男爵家の内情もよろしくないらしい。


 それが原因で代官を任されている街に当たり散らしているそうだが、さすがに横暴が過ぎるってことでシュタルシュタイン侯爵としても見過ごせなくなってきたから、近々最終通告を行い、それでも改善しないようならトライハイト男爵は処罰され、家督はローズマリーさんのお兄さんに渡されることになるらしい。


「いっそのこと、爵位剥奪でも構わないと思うんですけどね」


 よっぽど親父さんが嫌いなんだな。

 お兄さんは(ゴールド)ランククラフターだから食うには困らないし、結婚してないから家督の問題もある。

 それならいっそのこと、って考えもわからないでもないが、さすがにそれは色々飛ばし過ぎでしょ。


「トライハイト男爵家のことは私達じゃ手を出しにくいから、気にかけておく程度になるわ。自分達の領地やフィールに被害が及ぶようなら、その限りじゃないけど」

「いえ、それで十分です。実家の事でご迷惑をおかけし、申し訳ございません」


 深く頭を下げるローズマリーさん。

 忌々しそうな顔してるから、マジで申し訳ないって思ってるな、これは。


「思わぬ話になってしまったけど、ホーリー・グレイブは確か、クリフさんが(ゴールド)ランクに昇格できるのよね?」

「ええ。レベル53になってましたね。私はレベル57、他の3人は揃ってレベル49ですから、レイドのハイクラス全員が(ゴールド)ランクになるのも、そんなに遠い日じゃないでしょう」

「これはこれで喜ばしいことなんだが、やはりオーダーと同じような問題に直面するな」

「いや、国に所属しているとはいえハンターは国に縛られないから、オーダーより厄介でしょうな」


 アーキライト子爵とライナスのおっさんが難しい顔をするが、確かにハンターも国に所属してはいる。

 だがオーダーと違って、拠点にしている街を長期間空けることも珍しくないし、他国まで足を延ばすのもよくあることだ。

 とくに迷宮ダンジョンはハンターの間でも人気が高いから、拠点そのものを移すこともあるらしい。


「私達は王都を拠点にしていますが、幸いにもマナリース殿下に懇意にしていただいてますから、今のところ他国に行くことは考えてないですね」


 ホーリー・グレイブは、王太子のラインハルト王子が懇意にしているトライアル・ハーツっていうレイドに推薦されて、マナリース姫と行動を共にするようになったそうだ。

 王族は様々な問題が出てくるからってことでレイドには加入しないことになっているが、正式に婚約したり、王位継承権を放棄すれば別らしい。

 だからラインハルト王子もマナリース姫もレイドには加入していないそうだが、それぞれが懇意にしているレイドに参加しているような状態になっている。

 だが狩人魔法ハンターズマジックの観点から見たら問題だらけだから、王家からの指名依頼扱いにすることで広義の意味でレイドに加わり、狩人魔法ハンターズマジックを使っているそうだ。

 俺もよくわかってないが、最初の契約時にそういう契約をすることができるってことで納得しとけと、ライナスのおっさんに乱暴に切って捨てられた。


「アミスターとしてはありがたいし、助かるわ。ではライナス殿、後程クリフさんのランクアップ手続きをお願いします」

「もちろんです。だがクリフ、悪いがアライアンスを受けた時点じゃ、お前は(シルバー)ランクだったからな。報酬は変わらないぞ?」

「それは理解している。元々契約でもそうなっているし、俺としてもここまでレベルが上がるとは思ってなかったからな」


 ああ、そんな契約もあったな。

 俺にも関わることなんだが、確かにランクアップできるほどレベルが上がるとは思ってなかったから、全く気にしてなかったわ。


「助かる。それと侯爵」

「わかってます。最後にウイング・クレストですが……はあぁ……」


 俺達を見ながら大きな溜息を吐くリカさん。

 さすがにそれは失礼じゃないですかね?


「この場の全員が、侯爵と同じ気持ちだと思うわよ?」


 ソフィア伯爵に心の中を読まれたが、そんなことはないはずだ。

 ……ないよな?


「プリムさんがレベル67、大和君に至ってはレベル71って……」

「いや、こいつらの戦果を考えれば、思ったより上がってないですな」

「同感だね。プリムちゃんも、レベル70を超えててもおかしくないと思ってたよ」

「一気に10近くもレベルを上げるなんて、聞いたことないんだけど?」

「それを言うなら1ヶ月足らずで20近くもレベルを上げて、さらにはエンシェントクラスにまで進化したという話も初耳なんだが?」


 プリムがライナスのおっさんとラベルナさんに反論するが、それもすぐに封殺されてしまった。

 どうやら俺達の味方はいないらしい。


「大和、お前のランクアップ手続きもするが、報酬はクリフに言った通り、変更はないからな?」

「念入りに言わなくても分かってるよ」


 クリフさんには申し訳なさそうだったのに、俺には無理矢理納得させるような圧力まで掛けやがった。


「最後にお披露目についてだけど、明日の昼過ぎに中央広場で行います。だけど当初の予定通り、終焉種の存在は伏せてもらいます」


 明日の昼かよ。

 思ってたより早いが、王都に行くのが3日後だから、それまでにはやらなきゃならなかった訳だし、下手に時間かけられるよりはマシか。


「他にも、異常種もいなかったことにしてもらうし、キングとクイーンは1匹ずつということにしてもらうから、お披露目では注意してもらいたい」

「オーダーとホーリー・グレイブが討伐したクイーンはそのままですが、キングについては大和君とプリムローズ嬢が2人で倒したことにしてもらいます。面倒なのはわかってるけど、異常種に災害種が何体もいて、その上で終焉種までいたことが広まれば街の人の混乱を抑えきれませんし、終焉種の討伐なんてことが知られたら必ず他国が動きますから、それは避けなければなりません」


 面倒な。

 ってことはお披露目で使うキングの死体は、プリムも攻撃したってわかるようなのを選ばないといけないのか。

 選ぶっていっても2匹しかいないし、どっちもどっちな気はするんだが……。


「それは了解したけど、そもそも異常種のプリンスとプリンセスは、いてもいなくても変わらなかったぐらいだから、私達の記憶からも薄れてきています。大和君とプリムちゃんに至っては、覚えてるかも怪しいですね」

「ちゃんと覚えてるわよ。プリンスが3匹で、プリンセスが4匹でしょ?」


 いや、プリムさん、間違ってますから。

 プリンス1匹とプリンセス6匹ですよ。


「ほらね?」

「正解はプリンス2匹、プリンセス5匹だ。あれだけ簡単に倒したんだから、記憶があやふやになるのは仕方ないのかもしれないが……」


 冷たい視線が俺とプリムに突き刺さるが、目を逸らすことでその視線から逃げる。


「キングとクイーンは、こいつらが単独討伐したってことの方が説明が楽だと思うんだが、俺達がクイーンを討伐したことにする理由は?」

「理由も何も、どちらも2人が単独討伐ってことにしてしまうと、あなた達の活躍が小さくなってしまうでしょう?それにあなた達がクイーンを倒したのは紛れもない事実なんだから、そんなことはできないわよ」


 クリフさんの疑問にソフィア伯爵が答えてくれたが、ちゃんと考えてくれてたのか。

 フィールの人達は、俺とプリムが2人で災害種を倒せることは知っているが、単独討伐は異常種までだって思ってるはずだから、誤魔化しもきくだろう。


「いや、異常種の単独討伐って時点で、誤魔化しも何もないからな?というかハイクラスだった頃にそれをやってんだから、エンシェントクラスに進化した今なら災害種の単独討伐もできるんじゃないかって噂は、けっこうあるんだからな?」


 おうふ、そうなのか。


「言いたい事や聞きたい事はまだまだあるけど、とりあえずは以上です。大和君とクリフさんのランクアップ手続きもあるから、2時間後に私の屋敷に集まってください。出発前にお話したように、祝勝会の用意をしてありますから」


 お待ちかねだな。

 アビス・タウルスの肉を使った料理が、俺達を待っている。

 明日はお披露目があるがミーナ達の武器もできる日でもあるから、アルベルト工房には朝の内に行っておくか。

 で、お披露目が終わったら、試し切りに行こう。

 獣車の試乗をしてもいいな。

 さすがにエド達を街の外に連れ出す訳にはいかないから、アルベルト工房から広場までか牧場までになるだろうが。

 だけど王都への行きはともかく、帰りは陸路になる予定だから、少しでも乗り心地を確かめておく必要はある。

 先に風呂や寝室の使い心地は確かめてあるが、できればゆっくりと使いたいもんだ。


 あ、確か獣車は宿に持ち込めたな。

 料金は変わらずだが、獣車を持ち込めば部屋数が少なくても大人数で泊まれるし、何より防音がしっかりしてるから、外に音が漏れることもない。

 一応気を遣ってはいたが、それでもハッスルしてしまうことはあったから、明日の晩から試してみよう。


 え?

 今晩はどうするのかって?

 リカさんとこに泊まる予定ですが何か?

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