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ヘリオスオーブ・クロニクル(旧題:刻印術師の異世界生活・真伝)  作者: 氷山 玲士
第四章・マイライト山脈の緊急事態

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オークの集落

 寝る前にプリムと一戦済ませたこともあって、俺達は裸で朝を向かえた。

 最近、夜は必ずみんなを抱いてるから裸で寝ることにもすっかり慣れてしまって、今じゃ服を着て寝ると違和感すら感じるほどだ。

 朝に弱いプリムを起こしてから風呂に入って身だしなみを整え、装備を身に着けてから外に出る。

 イークイッピングを奏上してからは、特に防具を身に着けなくてもよくなってはいるんだが、場所が場所だし目的も目的だから、しっかりとアーマーコートを装着しなきゃなのが面倒ではあるが。


「おはよう。昨夜はお楽しみだったかい?」


 ファリスさんにそんなことを言われて真っ赤になった俺達だが、そのファリスさんもツヤツヤした顔してるし、よく見たらサリナさんとクラリスさんも似たような顔をしている。

 まあ、ファリスさんはクリフさんと結婚してるし、サリナさんとクラリスさんも、いずれバークスさんと結婚するみたいだから、別に構わないんだが。


「こんな時だってのに、お盛んなこって」

「妬くなよ、1人者」

「うるせえよ!」


 揶揄ってくるグラムに、言葉の矢を返す。

 男爵家の跡取りだってのに、結婚どころか意中の相手すらいないらしいからな、こいつ。


「落ち着け、グラム。何なら、私が相手をしてやろうか?」

「謹んで辞退申し上げます!」


 ミューズさんの提案を、脊髄反射で返すグラム。

 ミューズさんとしても本気じゃないんだろうが、まさかそんなことを言うとは思わなかったな。


「仕方ないだろう。リアラとダートが、こっそりヤッてたんだからな」


 まさかの暴露に、リアラとダートの顔が瞬時に真っ赤になった。

 そりゃそうだろうよ。


 まあ、他人のもそうだが自分の睦事を聞かれたくはないから、ここいらで話題を変えるか。


「それはそれとして、今日の予定は?」

「そうね。集落への攻撃はお昼前の予定だけど、ここから集落までは、だいたい2時間ぐらいなんでしょ?食事とかを考えても、3時間ぐらいは余裕ができるわよ?」

「そうだな。朝食を食べたら移動を開始して、ある程度進んでから、君達に上空からの偵察を頼むことになるだろう」


 そうなるよな。

 特にマイライトにはフェザー・ドレイクがいるから、上空からの偵察は難しいし、何より空を飛べる従魔と契約してなければ偵察そのものができない。

 だから単独でフェザー・ドレイクを倒せて、なおかつヒポグリフと契約してる俺達は適任ってことになる。


「それぐらいは別に構わないけど、フロライト達が飛び立てる余裕はあるのかしら?」

「森の中だしそれは懸念事項だが、その場合は森の外から出てもらうことになるんじゃないか?」


 そうなるよな。

 事前に偵察しておくのとそうじゃないのとじゃ、偵察しておいた方が良いに決まってるんだから。


「お、どうやらみんな、起きたみたいだぞ」

「ってことは飯か。今朝の飯は何になるんだったっけか?」

「異郷の都謹製のホットサンドよ。具はお肉もあるけど、野菜も多かった気がする」


 ああ、あれか。

 コーヒーショップとかでよく見た覚えがある。

 俺はあんまり行かなかったが師匠の1人が好きだったから、何度か奢ってもらった覚えがあるな。


「今日の予定だが、集落への攻撃は11時半を目途に考えている。それまでに集落の近くまで移動することになるが、できれば集落の様子も見ておきたい。偵察は大和君とプリムさんにお願いすることになるが、構わないだろうか?」


 朝飯を食いながら、予定を話し合ってると、レックスさんに偵察を打診された。


「そうなりますよね。俺は構いませんよ」

「もちろん、あたしもよ」

「助かるよ。ファリスさん、ヒポグリフが飛び立てそうな場所は、近くにありますか?」

「さすがにそんな場所はなかったと思うよ」


 やっぱりか。

 オークの集落は森の中が多いから、近くまで行くとなったら、こっちも森の中で待機ってことになってしまう。

 ヒポグリフが飛ぶためには助走が必要だから森の中だと厳しいし、仮に場所が取れても、木々が邪魔になって羽ばたけないからなぁ。


「となると、森の外からですか。集落って、森の奥なんでしたっけ?」

「ああ。ここから1時間程進むと森に入るんだが、そこからさらに1時間ってところだね。だから偵察に出るなら、森に入る前にした方が良いよ」


 ということは多少の余裕を見て、森に入るのを10時ぐらいにしておけば時間的には問題ないか。

 徒歩で1時間ってことはジェイドとフロライトなら数分で着けるから、偵察は9時ぐらいに出るのがいいかもしれない。


「そうだな、それで行こう。食事が終わったら森の入り口まで進んで、ジェイドとフロライト以外の従魔は送還し、時間までは待機になってしまうが」


 俺達は2時間ぐらいだが、他のみんなは3時間ぐらい待ちぼうけになるか。


「場所が場所だから魔物が出てくるだろうし、その際にオーダーは試し切りをしておけばいいんじゃないかな?」

「それが無難だろうな。実際昨日の襲撃は、数はそこそこだったが、それでもほとんどが一撃で終わってるから、試せてないオーダーもいたはずだ」


 ファリスさんとミューズさんの意見に、リアラとダートが手を上げた。

 そういやこの2人が魔物を警戒してた時って、魔物が襲ってくる頻度が低かった気がするな。


「それもあるけど、私達の所に来る前に、クラリスさんが仕留めちゃってたのよ」


 あー、なるほど。


 ホーリー・グレイブのクラリスさんは、今回のアライアンス参加者の中で、唯一の弓術士だ。

 俺は剣術士、プリムは槍術士、ファリスさんは斧術士、クリフさんは大剣士、バークスさんは武闘士、サリナさんはプリムと同じ槍術士、オーダーは言わずもがな騎士だから、遠隔攻撃はクラリスさんに頼ることになる。

 だから矢切れにならないよう、クラリスさんには優先的に魔銀ミスリルの矢も支給されているんだが、それでも1人しかいない弓術士だから、バークスさんとサリナさんが援護に回ることになっている。

 接近戦ができないワケじゃないし、ハイヴァンパイアでもあるから普通なら問題ないんだが、今回は集落のオークで、上位種のグラン・オーク、希少種のジャイアント・オークはもちろん災害種のオーク・キングとオーク・クイーンまでいるんだから、怖いのは矢の総数を使い切ることじゃなく、矢筒に入っている矢が切れた瞬間だろう。

 一応、俺達が使ってる固有魔法スキルマジックのアロー系を説明しているし、来る時には試してたから、使えるようにはなってるみたいだが。


「悪いとは思うけど、私としても大和君から教えてもらった固有魔法スキルマジックを、使いこなせるようにならなきゃいけなかったからね」

「わかってますよ。唯一の弓術士なんですから、何かあったら支援がなくなっちゃいますし」


 オーダーズギルドにも槍や弓を使うオーダーはいるんだが、残念ながらフィールにいるそういったオーダーは、ハイクラスには進化していない。

 だから連れてこれなかったんだよな。


 この場にいるのは全員がハイクラスで、多少なりとも固有魔法スキルマジックを開発してるから全く遠隔攻撃ができない訳じゃないってのもあるし、さらに俺には刻印術もあるから遠隔だろうと近接だろうとどっちでもこなせる。

 さらにジェイドとフロライトにも空からの援護を頼んでるから、万全とは言えないものの無策で挑んでるって訳でもない。


 とりあえずって訳じゃないが、朝食を食った俺達は、森へ移動を開始した。


 そして時間までは襲ってきた魔物を撃退しながら待機し、俺とプリムは9時になると同時にジェイドとフロライトの背に乗って、空へと飛び立った。


「あれか。けっこう深いな」

「そうね。これじゃ偵察も難しいわ。フェザー・ドレイクに襲われないためなんだろうけど、予想以上に森が深いから、これじゃ偵察もままならないわ」


 普通なら、だけどな。


「幸いと言うか、俺には何とかできるからな」

「ホント、刻印術って便利よね。で、どうなの?」


 既に俺は、イーグル・アイを発動させている。

 本当は土属性の探索系術式を使うべきなんだが、空を飛んでると土属性探索系は精度が落ちるから、逆に使いにくい。

 だから風属性のイーグル・アイを使うしかないんだよ。

 雨が降ってたりしたら水属性のドルフィン・アイが使えたんだが、そこは言っても仕方がない。


「これ、けっこうヤバくないか?予想より数が多い感じだな。多分、100は超えてるぞ」

「そんなに?」

「ああ。それにジャイアント・オークがけっこういる。ざっと見ただけでも、10……いや、20近いな」


 ジャイアント・オークは希少種だから、いても10匹程度だと思われてたんだが、俺が確認しただけでも倍近い数がいるし、全体的な数も100じゃ到底きかない。

 さらにキングとクイーンがいるんだから、これはマジで戦力が足りないんじゃなかろうか?


「マズいわね。だけど大和、広域系の刻印術を使えば、数は減らせるんじゃない?」

「やるとしたら開幕でだが、集落の規模も予想より大きいから、俺の広域系じゃ全域は覆えないな」


 外周部まで気を配る必要はないかもしれないが、できれば打ち漏らしはしたくない。

 俺の広域系は半径200メートルが限界だが、集落は半径300メートル近くあって、しかも円状じゃないから、どうしても端っこまではカバーできないんだよな。


「多少の打ち漏らしは仕方ないわよ。今回の目的は、キングとクイーンなんだから」

「確かにそうなんだけどな。とりあえず予想以上に数が多いことはわかったし、集落の全体像も見えたから、そろそろ戻るか」

「そうしましょうか。森のお蔭でこっちが偵察してることは気付かれてないけど、こっちも偵察しにくいからこれ以上は難しいし」


 思ったより森が深かったから、偵察でわかったのは集落の全体像と総数が増えてるんじゃないかっていうことぐらいだった。

 キングやクイーンの姿ぐらいは確認しておきたかったが、普段は巣の中に引き籠ってるって話だから、それは無理か。

 引き籠って何をしてるかって?

 クイーンは1日に何度も出産するんだから、わかるだろ?


「ジャイアント・オークがそんなに……」

「確かに予想外だが、キングとクイーンがいる集落なんだから、増える可能性は考えておくべきだったね」

「そうだな。確かに面倒な相手ではあるが、異常種程じゃない。さすがに怪我は避けられないが、その程度は覚悟の上だ」


 戻って伝えると、ジャイアント・オークが増えてたことには驚かれたが、それでもファリスさんとクリフさんを筆頭に、誰も撤退とは言い出さなかった。


「グラン・オークも増えているということだが、これは想定内だ。総数が100を超えているのは予想外ではあったが、それでも増えるのは分かっていたことだからね」


 レックスさんもそう言うが、確かに数が増えるのは分かってたよな。

 それでも普通は、希少種であっても妊娠してから出産まではだいたい1週間ぐらいで、生まれてきた子供が成長するには、さらに10日ぐらいかかるって考えられている。

 だけどクイーンやプリンセスが産む子は、1日も掛からずに成体になるって言われてるから厄介だ。


「ではオーダーズマスター、襲撃は当初の予定通り、ホーリー・グレイブが会敵したという場所からで?」

「ええ。崖になっていますし、大和君達の報告も合わせて考えると、そこが一番発見されにくい」


 オーク・プリンセスがいたら、さらに数が増えてた可能性があるからな。


「少し回り込む必要があるね。見つからないように慎重に歩いていくとして、多分20分は余分に見ておいた方がいい」

「となると、今が9時半過ぎたところだから、11時前には着けるか。そこで一息入れると、丁度いい時間になるな。ファリスさん、マーキングは?」

「してあるよ」


 狩人魔法ハンターズマジックマーキングは、森にある木や荒野の岩、魔石なんかに魔力を通すことで位置を確認できる魔法だ。

 レイドメンバーだけしか見れないが、道に迷ってもマーキングを頼りにすれば合流も難しくないから、ハンターにとっては必須の魔法だ。

 もちろんマーキングされた木や岩を壊されたりしたら効果を失うが、それを踏まえて複数のターゲットにマーキングを使っておくことで、安全性を高めている。

 ちなみにホーリー・グレイブがマーキングしたのは集落に襲撃を掛ける前で、ホーン・ラビットの魔石を使い、さらに地面に埋めたそうだから、壊される心配はないと言ってもいい。


「では案内をお願いします。それから大和君、プリムさん。すまないがジェイドとフロライトは、一度送還してくれ」


 送還か。

 確かにジェイドもフロライトも、体長4メートル近いから、森を歩くと目立って仕方がない。

 空を飛ぶって手もあるにはあるが、合流場所がオーク集落の目の前なんだから、絶対にバレるに決まってる。

 そうなると、確かに一度送還して、襲撃直前に再召喚するしかないか。


「わかりました。悪い、ジェイド。時間になったら呼ぶから、少しフィールで待っててくれ」

「クワッ!」

「ごめんね、フロライト。大丈夫よ、牧場でみんなと遊んでたら、すぐに時間になるから」

「クワァ……」


 相変わらず、フロライトは聞き分けが悪いな。

 だけど最終的には理解してくれるし、最近じゃ牧場のバトル・ホースやグラントプスとも遊ぶようになってきてるから、大丈夫だとは思う。


「それと、時間になったら召喚するから、これを牧場の人に渡してくれ。2匹が召喚されても慌てる必要はなくなるし、領代にこちらの状況を伝えるための書状もある」

「了解。ジェイド、頼んだ」

「クワッ!」


 俺はレックスさんから手渡された書状を、ジェイドの右前脚に括り付けた。

 ジェイドもフロライトもこちらの言うことはしっかりと理解してくれてるから、どっちの書状も、多分フィアットさんにしっかりと渡してくれるだろう。

 フィアットさんにもだいぶ慣れてきてるし、時折甘えてくるって嬉しそうに言ってたからな。


 そんな訳で俺とプリムはジェイドとフロライトを、ホーリー・グレイブは獣車を引いていたグラントプスを、オーダーはバトル・ホースを送還し、獣車はストレージに収納した。

 これから森の中を歩くことになるから、全員が装備を整えた後、俺達は森の中に入っていった。

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