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ヘリオスオーブ・クロニクル(旧題:刻印術師の異世界生活・真伝)  作者: 氷山 玲士
エピローグという名の蛇足

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創世秘話

「もう1つ、あなたは先程、海珠共通語と仰いましたね?ということは、この世界は海珠かいじゅで間違いありませんか?」

「仰る通りです」


 またしても地面に文字を書く真子さんだが、そこには漢字で海珠と書かれていた。


「ヘリオスオーブの天に対して海か。ということは海珠という世界は、海が大きいということですね?」

「はい。海珠は海がほとんどを占めており、大地は1割にも満たないと言われています」


 それは確かに海の世界、海珠っていう名前に相応しいな。


「そんなに海が大きいのか。なら移動には、船が必須ね」

「ですね。私達には多機能獣車がありますから、そこは助かりますね」

「本当だよね」


 それは俺も思う。

 だけど海珠の地理が一切わからないから、闇雲に船出っていうのは避けたい。

 総面積の9割以上が海だっていうなら尚更だ。


「ということは海珠を探索するにしても、事前準備は本当に入念にしないと、すぐに遭難しちゃうわね」

「先程の会話から、暮らしている人達もいるようですから、そちらにも注意が必要ですね」

「ああ、その問題もあったか」


 そういえばそんな内容があったな。

 とはいえ、現地の文明レベルどころか、どんな生活をしているかもわからない。

 もしかしたらドラゴニアン達は知ってるかもしれないけど、天樹の守り人だって言ってたから、知らない可能性も低くはないか。


「皆様、ご歓談でしたらこのような場ではなく、こちらをお使いください」

「こちら?もしかして、ここでも天樹の中に入れるの?」

「はい。私ども守り人が、住まいとして利用させていただいております」


 海珠だと天樹はドラゴニアン達の住居になってるのか。

 いや、この島はアルカ程度の大きさだから50人程度の人口なら問題なく暮らせるんだが、ざっと見渡した程度じゃ、どこにも人工物らしきものは見当たらなかったんだよ。

 天樹は幹回りも大きいから裏手に集落があるのかと思ってたんだが、天樹の中に住んでるってことなら、確かに人工物は存在しないわな。


 まあせっかく使わせてくれるんだし、ありがたく借りさせてもらおう。


 天樹の中は、天樹城ほどじゃないけど、装飾が施されていた。

 これだと城じゃなく、むしろ神殿って言った方がしっくりくるな。


「思ってたより綺麗ね。これ、あなた方が整えたの?」

「いえ、この天樹神殿は、私どもが天樹の守り人である証として、神々より賜ったものになります」


 神々からか。

 確かに納得できるけど、ここって本当に神殿だったのか。


「こちらが応接室になります。海珠誕生以来、ここを訪れた者はおりません。あなた方が初めてのお客様となりますからこの部屋を使うのも初めてとなるのですが、設備が整っているかは申し訳ありませんが皆様でお確かめください」

「わかりました、ありがとうございます」

「終わりましたら、こちらのベルをお鳴らし下さい」

「はい」


 案内された応接室は、天樹城ほどじゃないけど綺麗に整えられていた。

 貴族邸と比べても、少し劣るぐらいじゃないだろうか。

 あと神殿内だからなのか、簡易的な祭壇も設えられてるな。

 ああ、祭壇で思い出したけど、確か父なる神が、天樹迷宮を攻略したら話したい事だか伝えたい事だかがあるって言ってたな。

 まさに今がそうだけど、まあ多分ヘリオスオーブに帰ってからになるんだろう。


「待っていたよ。天樹迷宮の攻略、本当におめでとう」


 そう思っていたら、祭壇から声が聞こえてきた。

 あまりにも突然だったから、思わずビクッと跳ねてしまったけど、何年ぶりだろうなこの感じ。


「び、ビックリしたぁ。どこからの声?」

「祭壇っぽいわね。ああ、ということは父なる神ですね?」

「正解。覚えていてくれて嬉しいよ」


 やっぱり父なる神か。

 俺に話があるみたいな感じだったと思うけど、俺としても聞きたいことがあるから丁度良かった。


「まずは改めて、天樹迷宮の攻略おめでとう。ヘリオスオーブ、今後は天珠てんじゅと呼ぶことになるけど、そこから海珠まで至ることができた君達には、1つの選択肢が贈られる。どちらを選んでも構わないけど、僕としてはできれば受け入れてもらいたいと思っている」


 選択肢?

 なんじゃ、そりゃ?


「それはどういうことなのですか?」

「天樹迷宮は、僕達の間では試しの迷宮と呼ばれている。その理由は、この迷宮ダンジョンを攻略した者には、守護者たる神の資格を授けることができるからだよ」


 は?

 神の資格って……どういうこと?


「君達も聞きたい話はあると思うけど、まずはこちらからさせてもらいたい。ああ、安心してほしい。たとえ断ったとしても、君達からの質問には答えるから」


 それは助かるけど、神の資格を授けるって、マジで意味がわからないんだが?


「先に説明しておこう。まず天珠という世界だけど、あれは僕と妻である女神達が初めて作った世界で、この海珠の雛型でもある。箱庭世界と呼ばれているけど、その世界を管理し、無事に発展させることができると、今度はその箱庭世界を核とし、惑星を作ることができるようになるんだ。そうして作ったのが、この惑星海珠だ」


 ヘリオスオーブ改め天珠が球状じゃないのは、そういう理由なのか。

 そしてこの海珠は惑星だってことだから、ちゃんと球状をしていることになる。


「ちなみに海珠っていう名前は、地球を意識して付けているんだよ」


 地の球と海の珠、確かに意識してるって言われると納得だな。

 って、それは今はいいんだよ。


「100年程前に君達が解決してくれたけど、アバリシアが天珠を滅ぼそうと暗躍をしていただろう?その理由は、奴が自分の作り上げた箱庭世界を、ちょっとした不注意で滅ぼしかけてしまったことが原因なんだ。いや、奴は傲慢で己惚れが過ぎていたから、結果的には同じことだったかな」


 それらしい話は、確かに当時も聞いた覚えがあるな。

 ちなみにその世界は、別の神が後を引き継いだこともあって今も存続してはいるが、アバリシアや神帝が無茶をし続けていたこともあってかなり荒廃していて、滅びるのも時間の問題という地獄のような世界になってるらしい。


「奴と僕は、実は同期でね。だからなのか、奴は僕によく突っかかってきたんだ。箱庭世界の創世許可を得たのは僕が先だったから、それを妬んでいたのもあると思う。だけど創世開始からしばらくは、いかなる邪魔も許されていない。だから奴も、その時点では手を出してはこなかったんだ」


 その時点での邪魔となると、問答無用で消滅という罰が下されるから、邪魔をしたくてもできなかったってことか。


「創世期間は邪魔が入らないから、僕は安心して妻達と箱庭世界の創世を始めた。それが天珠の始まりになる。そこから200年程は、僕達が色々と考えたり現地の人達の考えを受け入れたりで、上手く発展していたと思う」


 魔法はその時に授けられたもので、逆に現地からの意見を受け入れることで新たな魔法も生まれた。

 そのために新たな魔法の区分が生まれ、それが奏上魔法デヴォートマジックとして確立されたってことか。


「地球のような人種差別が起こらないように多くの種族を作ってみたんだけど、その甲斐はあったと思う。実際、人種差別は起こっていないだろう?まあ、代わりに進化優位論みたいなのが出てきてしまったから、そこは反省しなきゃいけないけど」


 ああ、確かにあったな。

 今じゃほとんど見かけないけど、100年前まではそれなりにいた覚えがある。

 法もしっかり整えたから、それもあって今じゃ滅多に見かけなくなったが。


「だけどその頃に、奴も箱庭世界の創世許可が下りたんだ。僕に対抗心を燃やしていた奴は、僕とは逆に1つの種族だけを創造し、男女比も1:1にしたようだけど、細心の注意を払っていたこともあって最初の内は上手くいっていった。だけどいくら神とはいえ、1人でできることには限界がある。奴はそのことに気付いていなかった」


 だからちょっとしたミスが重なり、結果として取り返しのつかないミスになってしまったってことか。


「その通りだよ。箱庭創世に失敗した場合、再度許可が与えられるのはかなり先となる。それも10年20年の話じゃなく1000年、下手をすれば1万年単位でだ。だけど奴の世界は、どうやっても滅びを免れなくなってしまった。そこで奴は箱庭世界をどうにかするのではなく、僕を道連れにする方を選んでしまった」


 迷惑な。

 自分のミスで失敗したんなら、そこで潔く諦めろって話だろ。

 巻き込まれたこっちはいい迷惑だぞ。


「ところが選んだまでは良かったんだが、具体的な方法は思いつかなかった。そんな時だ、僕達の先輩で指導員に当たる神の世界で、刻印神器と呼ばれる武具によって、奴の箱庭世界に人間が飛ばされるという事態が起きてしまったのは」


 げ、マジか。

 ここで刻印神器っていう単語が出るとは思わなかったけど、その刻印神器を使ったのは俺の父さんで、アバリシアの世界に飛ばされたのが神帝じゃねえかよ。


「指導員の先輩の世界は大和君と真子さんの世界でもあるけど、僕達も少しは関与していたんだ。奴はその時に封刻印と呼ばれる石の存在を知り、興味を示した。それを手に入れるために、偶然を装えるタイミングを計り、神帝を自分の世界へ呼び寄せたっていうのが、神帝が奴の世界に転移してしまった真相だよ。もっとも奴にとっても、賭けではあったと思う。だけど奴はその賭けに勝ち、封刻印を手に入れることに成功した」


 そこから先は俺達も知っている、というか当事者になった話か。

 指導員っていう神は怒ったそうだけど、アバリシアは偶然だと押し通した。

 もちろんその言い分は通らなかったんだが、明確な証拠が無かったのも事実だから、結局は有耶無耶になり、アバリシアが罪に問われることはなかった。

 だけど常に疑惑は持たれていたし、その時に転移してしまった人間を利用しているのも間違いないから、指導員の神は父なる神に1匹の蛇を遣わせた。

 それこそが俺や真子さん、サユリ様達客人(まれびと)を天珠へ転移させ、俺が相打ちに近い状態で倒してしまった蛇だったそうだ。

 一瞬冷や汗が流れたけど、その蛇はあくまでも父なる神への救済措置みたいなものだから、倒されたらそれまでらしく、俺にお咎めが来るようなことはないらしい。

 うん、一安心。


「転移してきた人間を利用した、そこまでは稀にあることだから、特に問題にはならない。だからこそ僕も、先輩の力を借りれたんだからね。そこまでは良いよ。だけど奴は、明確に箱庭世界に干渉した。そう、僕の箱庭世界に、自分の世界を無理やり重ねたんだ。これは明確な禁忌で、即座に処罰が下されるものなんだけど、そのことは奴も重々承知の上だったようでね、先手を打って地上に逃げたんだよ」


 地上、つまりグラーディア大陸にってことか。

 無許可とはいえ地上に降りてしまうと、神々も手出しはかなり難しくなる。

 だからそのタイミングで、父なる神に蛇が遣わされることとなったのか。

 だけどアバリシアが降臨してるような話は、当時聞いた覚えがないんだが?


「地上に逃げたとはいえ、急だった上に正規の手順を踏まなかったことから、奴は実体を持てなかった。だから地上にいても、奴から語りかけない限り、存在を知られるようなことはなかっただろうね」


 ああ、そういうことか。

 言ってしまえば幽霊みたいなもんになったってことだけど、こちらからの攻撃は一切通じず、あちらからも会話以外の干渉はできないそうだから、かなり面倒な存在だな。


「だからこそ奴は、自分の肉体として封刻印に封じられていた魔獣を欲したんだ。先輩の世界には、僕の世界の終焉種より強力な魔物が多かったからね。それも奴が欲した理由だと思う」


 ああ、それは理解できるな。

 実際五頭竜(ごずりゅう)は、二度と戦いたくないと思ったのを今でも覚えてるから。

 だけどアバリシアは、その封印されていた五頭竜(ごずりゅう)を手に入れてしまった。


「その時点で、奴の消滅は決まっていたんだ。仮に君達が敗れていたとしても、奴はその後すぐに消滅していただろう。ただしその場合、天珠も道連れになっていたからね、僕としては敗北だよ。だから君達が奴を倒してくれて、本当に助かったんだ」


 だから俺がアバリシアを倒しても、お咎めなんかは一切なかったのか。

 神殺しの何が怖いって、倒した神より上の存在がいたりしたら、今度はそいつから狙われるかもしれない恐怖が付きまとうことだからな。

 100年前の時点で言われてはいたけど、改めて言われると安心できる。


「そしてこの100年、君達のおかげで天珠は更に発展した。奴のせいで、時を止めて隔離するしかなかったリヴァル大陸やエレヴ大陸も同じくだ。そのおかげで僕達は、この海珠を作る許可を得られたんだ」


 驚いたことに、海珠は出来てから、まだ100年も経っていないそうだ。

 ドラゴニアン達は天樹の守り人としての役目を与えているから、天珠に近い水準の文明を与えているけど、現地の人達は村から町を、町から都市を作り出した段階だそうで、明確な国というものは存在していないらしい。

 だからしばらくは海珠に掛かりきりになるから、天珠の守護者として、自分達の眷属となる神が必要となった。

 そのための試練として天樹迷宮があり、いずれは天珠だけじゃなく海珠の守護も担ってほしいと続いた。

 つまり眷属となる神は、現地から選ばれた人間ってことになる。

 これは方法の違いこそあれ、箱庭世界を作る際のルールなんだそうだ。

 もちろん現地からの神が選ばれないこともあるが、そのための設定さえ用意しておけば構わないらしい。


 その現地から選ばれた神という存在になってもらいたい、それが父なる神の願いだった。

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