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ヘリオスオーブ・クロニクル(旧題:刻印術師の異世界生活・真伝)  作者: 氷山 玲士
エピローグという名の蛇足

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100年後、天樹迷宮攻略

 神帝、そして邪神アバリシアの掃討戦は、後にグラーディア大戦と呼ばれるようになった。

 グラーディア大陸が、邪神アバリシアによって異世界から呼び寄せられた大陸だということも、合わせて広まっている。


 そのグラーディア大陸が消えると同時に現れた、ヘリオスオーブに本来存在していた2つの大陸 リヴァル大陸とエレヴ大陸にはいくつもの国があり、200年もの長きに渡って時間が停止していたことに誰も気が付いておらず、それどころか何事もなかったかのように生活をしていた。

 だけどフィリアス大陸からすれば新大陸発見ってことで、多くのハンターやスカラーが乗り込んだもんだよ。

 まあ、俺達も行ったけどな。

 その2つの大陸に関しては、機会があったらってことで。


 フィリアス大陸に戻ってからの俺達は、ハンターとしてより貴族としての仕事に忙殺された。

 グラーディア大陸という最大の脅威が文字通り消え、滅亡の恐怖から解放されたこともあって、開拓や開発が進んだからなぁ。

 時折魔物による被害は出るし、終焉種が出てくることが十年に一度ぐらいはあるようになってしまったが、幸いにもそれらは全て討伐できているし、大きな被害を被ったことは少ない。


 領地開発も順調で、俺が拝領したフレイドランシア天爵領、マナが拝領したラピスラズライト天爵領もそれぞれ領都となる街が完成し、移住者も順調に移ってきてくれたな。

 他の領値も同じく順調に領地経営ができてたようで、魔物以外の大きな問題も特に起こらず、この100年ほどは平和に過ぎ去っていった。


 俺達は、子供達が20歳を迎えると同時に家督を譲り、ユーリの娘で末子の天姫あまきがエスメラルダ天爵位を継いでから、本格的にハンター活動を再開させた。

 俺達が本格的にリヴァル大陸やエレヴ大陸に行くようになったのは、その頃からだな。

 それまでも行ってはいたが、貴族として行くことが多かったから、あんまり自由に動けなかったんだよなぁ。

 だからしばらくは、感覚を確かめる意味も込めて、リヴァル大陸やエレヴ大陸の迷宮ダンジョンに入ることが多かった。

 その頃にはレベルが150も超え、アーククラスの1つ前と思われるグランドクラスにも進化したな。

 さすがにアーククラスの前にもあるとは思ってなかったんだが、あったものは仕方がない。

 なので全員がグランドクラスに進化するまでは、ひたすらレベリングに勤しんでいた。


 そして全員がグランドクラスに進化してから、父なる神から言われていた天樹迷宮の攻略に挑むことになった。

 天樹迷宮そのものは、グラーディア大陸から凱旋してしばらくしてから開放されている。

 だが難易度が高く、攻略は不可能と言われるぐらいの超絶高難易度だった。

 俺達も試しに入ってみたが、階層がアホみたいに多いこともあって、攻略までにどれほどの時間がかかるのかはまったく予想できない。

 その時点での最高到達階層は、いくつかのレイドがアライアンスを組んで到達した603階層なんだが、まだまだ先があるのは確実で、恐ろしいことに異常種以上災害種未満の魔物が群れを成して襲ってくるそうだ。

 階層もそこそこ広いから、危険性を考えてそこで離脱したって言ってたな。


 ちなみだが、階層があまりにも多い天樹迷宮には、転領陣てんりょうじんと呼ばれる迷宮ダンジョン内のショートカット用魔法陣があったりする。

 使用条件は100階層ごとに存在するボス 領域守護者エリアガーディアンを倒すことで、討伐した証明はライブラリーの称号蘭に追記されるから、偽造は一切できないようになっている。

 どうも天樹迷宮、1~100階層までは(ティン)ランクモンスターのみ、101~200階層までは(アイアン)ランクモンスターのみと、100階層ごとに魔物のランクが変わる仕組みみたいだ。

 なのでその推測通りにいくと、601階層から現れるのは終焉種ってことになるんだが、出てきたのは異常種で、しかも災害種に近い魔力や強さだって話だったな。

 撤退したのも、一気に攻略するより階層ごとに調べた方がいいと判断が下されたからなんだが、問題は階層を調べるのも簡単じゃないことか。

 だから現在の天樹迷宮は、攻略のために入るハンターはほとんどいない。


 その天樹迷宮を攻略するのは、俺達でも数十年かかるほどだったから、本当に大変だったよ。

 転領陣があってこれなんだから、もしなかったら攻略なんて不可能じゃないかと思う。

 1つ1つの階層が広いうえに、上の方になると出てくる魔物がランクで固定とかになるし、801階層から上は本当に終焉種オンリーだったからな。

 本気でアホかと思ったわ。

 ただ同じ終焉種でも、901階層からの方が明らかに手強かったんだよな。

 それでも終焉種の群れなんて悪夢でしかないし、好んで行きたいとも思わない。

 いや、おかげで俺のレベルも180を超えたから、アーククラスへの進化を目指す以上は行くことになるんだが。


 グラーディア大戦から100年強、みんなは20代前半の美しい容姿を保ったままだが、グランドクラスは加齢による衰えはないから、奥さん達がいつまでも美人で、俺としても嬉しかったりする。


 苦労して天樹迷宮を攻略した俺達13人だが、驚いたことに守護者ガーディアンを倒しても迷宮核ダンジョンコアは現れなかった。

 代わりに奥への道が開かれ、奥にあった扉も開かれていたから、俺達はそこに向かうことにした。

 どうやら外に通じているようだが、ここから外に出ても大丈夫なのかと思わずにはいられない。

 だけど父なる神が待っていると言ってくれたことは覚えているから、意を決して俺は最初に迷宮ダンジョンの外に足を踏み出した。


「これは……」

「どうしたの、大和?」

「みんなも来てくれ。大丈夫だから」

「そう?それじゃあ……!」

「嘘……」


 俺に続いてみんなも迷宮ダンジョンからでてきたが、一様に驚いている。

 まあ無理もない。

 なにせ俺達の眼前には、広大な海が広がり、多くのドラゴン達に出迎えられたんだからな。

 あとで調べて判明したが、迷宮ダンジョンの出口はアルカより少し大きな島に通じていたようだ。


「お待ちしておりました、私どもは父なる御方に連なる皆様を歓迎致します」


 ドラゴン達が人に姿を変えたことから、全員がドラゴニアンだとわかる。

 それでも人数は50人もいない。

 主の繁栄云々以前に、絶滅が危惧される人数じゃないか?


「えっと、あなた方は?」

「我々はこの天樹を守るために遣わされた守り人です。種族としては、そちらの御方と同じドラゴニアンになります」


 やっぱりドラゴニアンか。

 他の種族より寿命が長く、竜化することで他の種族より頭1つ抜けて強大な存在となれる種族でもあるから、守り人を任せるのは確かに適任な気がする。

 だけどこの島はそんなに広くないし、普段の生活にも難儀するような立地だと思うのは気のせいか?


「ボクと同じドラゴニアンなのはわかるけど、こんなとこで暮らしていけるの?迷宮ダンジョンはあるけど、ここから入ったら出てくるのは終焉種だけだし、とてもじゃないけど狩りなんかできないよ?」

「終焉種?ああ、こちらは出口になりますので、入ることはできません。入口はもう少し東にありますし、出てくる魔物は通常種ノーマルのみですから、食事に困ることはありません」


 ん?なんか違和感が……。


「そうなの?」

「はい。天樹迷宮は、地下にして天空の世界天珠(てんじゅ)へと通じていると言われています」

「天珠?いえ、私達はヘリオスオーブから来たんだけど?」

「はい。その天珠です」


 会話成立してるか?

 なんか噛み合ってないように聞こえるんだが?


「割り込んでごめんなさい。1つ聞きたいんだけど、この世界、って言っていいのかわからないけど、文字ってある?」

「もちろんございます。海珠共通語として、世界中で使われている文字が。ちなみに天珠を意味する文字は、こちらになります」


 そういってドラゴニアンの女性が書いてくれた字は、驚いたことに漢字だった。

 すげえ久しぶりに見たけど、これはさすがに覚えてるぞ。


「あー、やっぱりかぁ」

「真子?」

「どうしたんですか?」


 顔を右手で覆って天を仰ぐ真子さんに、みんなが心配そうな視線を向ける。

 俺もそうだけど、ここで漢字を見るなんて思ってもいなかったから、そっちの衝撃の方が大きいか。


「多分だけどこれ、ヘリオスオーブを表す文字です。私もうろ覚えになってきてるんだけど、ヘリオスは地球で太陽神を表す言葉、オーブは珠を意味する言葉でもあるから。太陽は天に輝いているから、そこはこじつけになるけど」


 言われて俺も思い出した。

 確かにヘリオスは、ギリシャかローマの太陽神だったな。

 オーブは宝玉を意味してたと思うけど、珠は球状の宝玉だったとはずだから、確かにこじつけになるけど、天珠と書いてヘリオスオーブと読ませることは可能か。


「そういうこと。って、待って。この文字、私も普通に読めるんだけど、それはどういうこと?」

「え?」

「あ、私も読めます」

「あたしもだな」

「ボクも」


 更に驚いたことに、全員天珠という文字が普通に読めるらしい。

 ヘリオスオーブには漢字なんて存在してないんだから、読めるのはおかしい……ああ、ヘリオスオーブは共通言語だから、それで自動翻訳機能みたいなのが働いた結果か。


「ちょ、ちょっと待って!読めるの?」

「ええ。天の珠と書いて、てんじゅと読むんですよね?」

「そうだけど……ちょっと待ってね。じゃあこれ、なんて読むかわかる?」


 今度は真子さんが、地面に文字を書き始めた。

 書いた文字は……日緋色銀に瑠璃色銀か。


「ヒヒイロカネとルリイロカネですよね」

「私にもそう読めるわ」

「というか、それ以外は読めないよ」

「やっぱりか」


 また頭を抱える真子さんだけど、マジで何がわかったの?


「ヘリオスオーブの言語って、実は日本語がベースだったんじゃないかってことよ。私達は転移してきたから日本語に聞こえてると思ってたでしょう?」

「まあ、世界が違うし、物語とかじゃ自動翻訳は定番だしな」

「それよ。そもそも物語は架空の話であって、現実じゃないわ。私も疑わなかったけど、元々翻訳なんかされてなかったとしたらどう思う?」

「どうって、そんなことが……」


 そこまで言われて思い出したけど、初めてプリムと出会った時、確か切羽詰まった状況だったはずだ。

 にもかかわらず問題なく意思の疎通ができてたから、俺は異世界転移のお約束の自動翻訳だと思い込んでいた。

 ところがそれが俺の勘違いで、実は最初から日本語を話してただけだったとしたら?

 真子さんが言いたいのはそういうことか。


「言いたいことはわかるけど、それじゃあ文字はどうなんだ?漢字は、まあ俺達は普通に使ってたけど、それも自動翻訳がされてないんだとしたら、ヘリオスオーブじゃ文字も日本語が使われてることになりるけど?」

「なるから困ってるのよ。いえ、別に困りはしないけど。それに大和君が言いたいのは、日緋色銀ヒヒイロカネなんかはフレアライトみたいな別名があるけど、それはどう説明するのかっていうことでしょう?」


 うん、そう。

 実際ギルドランクはそっちで表示されてるんだから、言語が、少なくとも文字は自動翻訳されてないと説明が付かないと思うんだが?


「そうでもないでしょう。そもそも騎士を意味する単語が、いくつあると思ってるの?」

「あ……」


 うわ、そうだった。

 ヘリオスオーブで騎士を意味する単語は多い。

 オーダーやリッターをはじめ、ファーターやビースターなんかもそうだからな。

 ってことはフレアライトなんかも、単にそう読むこともできるってだけでしかないってことか。

 うん、これは頭痛くなってくるわ。


「まあ検証は、帰ってからにしましょう。今はこの方の話が優先よ」

「ああ、確かに」


 頭痛くなってきたけど、確かに検証は今じゃなくてもいい。

 それより真子さんの言う通り、話の続きが先だ。

 もっともその話が、更に頭痛の種になるとは思わなかったが。

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