続く日々
神帝、そして全ての元凶だった邪神アバリシアを倒した俺達は、ウイング・オブ・オーダー号に戻った。
ルディアの右腕が消失していたのは驚いたけど、すぐにサユリ様が治してくれたから良かったよ。
その後は父なる神の言葉に従い、ウイング・オブ・オーダー号の最大速度で引き返し、グラーディア大陸を後にした。
俺達がグラーディア大陸を出てしばらくすると、グラーディア大陸から少し離れた海域から光が立ち上っていく。
どうやらトラベリングが使えるかどうかの境界線だったようだが、その海域から別の世界の理になってたってことみたいだ。
その光はしばらくオーロラのように揺らめいていたが、やがてゆっくりと消えていく。
その先には陸地のようなものが見えたが、確かめるのは次の機会とし、フィリアス大陸への帰還を優先することになった。
ラインハルト陛下は名残惜しそうだったが、まあこればっかりはな。
一晩近くの島で停泊してから、翌日はリッターやハンターの怪我の治療に当てながら、ゆっくりとウイング・オブ・オーダー号はフィリアス大陸へと向かう。
そしてフィリアス大陸が見えた頃に、エンシェントオーダーとリッターズギルドから出向してきたリッターが、それぞれのギルドに報告のためにフロートへと先行した。
それを確認してから、ウイング・オブ・オーダー号は進路をフロートへと向ける。
帰還したフロートでは、物凄い歓声とともに迎え入れられた。
どうやらフィリアス大陸には女神達の声が響いていたらしく、俺達の戦勝はもちろん、滅亡からの回避に戻ってきた2つの大陸の事も知らされたようだ。
とはいえ2つの大陸が消えたのは200年も前のことに加えて交流も無かったそうで、当時を知るグランド・ハンターズマスター ギャザリングさんも知らなかったみたいだ。
そして帰還した日の晩には、各国の王達を招いた凱旋式、並びに祝勝会が行われた。
場所は当然天樹城で、今回参加したリッターやハンターは全員参加だ。
帰還直後になんて大変だと思ったが、先行させたリッターはそのことを伝えるためでもあったそうだし、ある程度の準備はしていたようだから、恙なく準備は完了したんだとさ。
途中離脱した人は妊婦でもあるから、残念ながら呼んでいないが、別途褒賞を授ける予定らしい。
本来なら褒賞の対象にはならないんだが、妊娠のことを考慮しなかったこっちの落ち度もあるってことで、最後まで参加した人達より少なくなるけど、お詫びも兼ねてってことみたいだな。
さらにその宴席で、とんでもない言葉が飛び出してしまった。
「此度のグラーディア大陸遠征には、客人でもある大和天爵、並びに真子夫人の活躍も大きい。特に大和天爵は魔族の王 魔王と化した神帝を見事討ち、妻達と共に邪神アバリシアをも討ち滅ぼした。よって彼等の世界に倣い、大和天爵には勇者、天爵の妻達には聖女の称号を与えたいと思う!」
これですよ!
確かに魔王を倒すのは勇者や聖女の役目だけど、まさかそれが自分の身に降りかかってくるとは思いもしなかったよ!
そもそもそんな話、俺も真子さんも一切した覚えがないってのに、マジでどこから漏れたんだよ!
「まあまあ。ざまあされる側じゃないんだから、別にいいじゃない」
笑顔でそんなことを口にするサユリ様を見て、俺も真子さんも全てを悟った。
元凶はこの人だと!
というか、確かに地球じゃそんな内容の小説だかノベルだかもあるけど、なんでサユリ様が知ってるのさ!
「もちろん私の時代にもあったからよ。というか、始まりは私の世代よ。スマホに入ってる小説やラノベなんかは書き出してあるから、たまに読んでもいるしね」
マジか……。
そんな本が出版されてるなんて聞いたこともないから、サユリ様が個人で楽しむ用か。
まああんまり興味ないし、俺の刻印具にもいくつかの書籍系は書き写した上で個人用にしてるから、人のことは言えんか。
「それよりサユリ様!大和君が勇者になるのはともかく、なんで私まで聖女なんですか!聞いてませんよ!」
「勇者と聖女なら、セットにしてもいいじゃない。だけど真子だけっていうのはどうかと思うし、マナ達も一緒に戦ってたでしょ?なら女神様達にあやかって、12人いる大和君の奥さん達全員を聖女にしてしまった方が、後腐れなんかも無いと思ってね」
「ありまくりです!」
「まあまあ。戦女神と呼ばれるよりマシでしょう?」
「それもそれで、勘弁してほしいんですけどね……」
あ、真子さんが項垂れた。
まあどんだけ喚いても、ラインハルト陛下が公の場で口にしてしまった以上、どう足掻いても覆せないんだが。
俺も嫌だけど、半ば諦めてるよ。
そんな波乱もありつつも、凱旋式と祝勝会は無事に終わった。
その後は俺達の家であるアルカに、ようやくの帰還だ。
「おかえりなさい、ご無事で何よりです」
「おかえりなさい。良かった、みんなが無事で」
妊婦のヒルデと、妊娠が発覚したことで離脱を余儀なくされたリディアが、真っ先に出迎えてくれた。
リカさんもいるし、俺達が帰ってくることを知らされたユーリとアリアもいる。
もちろん可愛い子供達、サキ、アスマ、ツバキ、ミズキ、アサヒ、カズマも、笑顔で俺達を得迎えてくれた。
まあアサヒとカズマは生まれたばかりだから、俺達がそう思っただけなんだが。
でもみんなの顔を見ると、帰ってきたって実感するな。
ああ、後でエドに、ルディアのフレア・グラップルのガントレットを頼まないといけない。
アバリシアの攻撃は、日緋色銀製のフレア・グラップルすら破壊どころか消滅させてたからな。
幸いルディアは無事だったし、サユリ様のエクストラ・ヒーリングのおかげで右腕も再生しているから良かったけど、一歩間違えれば命を落としてたって言われたから、聞いた時は背筋が凍ったもんだ。
その日は家族団欒で過ごして、次の日からは早速仕事を再開だ。
うん、かなり仕事が溜まってたんだよ。
フレイドランシア天爵領唯一の街となるオルテンシアは、攻略済みの迷宮があるってことでハンターが増えてきてるんだが、それに比例して治安も悪化してきてるそうだから、オーダーに指示を出すのはもちろん、無事に帰ってきたことを俺自身の口から伝えた方がいいらしい。
他にも細々とした問題はあるけど、俺がサインしなきゃいけない書類も多かったなぁ。
まあ俺がやらなきゃならない仕事だし、子供達のためにも頑張るしかないんだが。
ところがオルテンシアに建てたフレイドランシア天爵邸の執務室で、頑張って書類を確認しながらサインをしていると、突然ドアが、激しくノックされた。
「騒々しい!何事だ!」
執務の補佐をしてくれている男性エルフの代官が、怒りながらもドアを開けると、そこには顔色の悪いオーダーの姿があった。
「一体何が……」
「申し上げます!対岸となるテュルキス公爵領に、終焉種が現れました!」
そのオーダーの一言で、代官が絶句して固まった。
マジか。
テュルキス公爵領にいるはずの終焉種っていうと……ああ、あれか。
ブライン山脈北部に縄張りがあったはずだが、進化したのは数ヶ月前だったっけかな。
少なくとも、テュルキス公爵領とを繋ぐ街道を作った時には、まだ災害種どころか異常種にすら進化してなかったはずだ。
「終焉種、レプス・コルヌトゥスですか?」
「はっ、そう報告されています」
やっぱりか。
レプス・コルヌトゥスはホーン・ラビットの終焉種になるが、ホーン・ラビットそのものはIランクの中でも下の方の魔物だ。
生息域は広く、平原でも山でも、植物があるところなら基本どこにでも生息している。
そんなホーン・ラビットの終焉種ってこともあり、また縄張りがブライン山脈北部の山奥ってこともあって、緊急性は低いと判断されていたんだよ。
ところがそんなレプス・コルヌトゥスが山から下りてきたってことは、最悪の場合別の終焉種が生まれている可能性もあるな。
さすがにこれは放置できないし、一度アルカに戻って準備してから、急いでテュルキス公爵領に行かなきゃいけない。
「わかりました。では一度戻って、準備をしてきます」
「恐れながら殿下、レプス・コルヌトゥスは、現在エモシオンを襲撃中とのことです!」
「はい?って、それはマズい!すぐに出ます!」
まさかエモシオンを襲ってるとは思わなかった。
エモシオンはテュルキス公爵領の領都で、バリエンテ地方との交通の要衝にもなっている重要な街だ。
そんな街が終焉種の襲撃を受けたなんて、本当に緊急事態じゃないか。
「お願いいたします。現地ではオーダーが遅延戦闘を行っているそうですが、相手が終焉種ということもあり、既に被害が出ているとの報告もありますから」
「了解!ああ、同じ報告を、うちのバトラーにしておいてください。誰かいれば急ぎで来てくれるはずですから」
「はっ!お気をつけて!」
「じゃあ行ってきます!」
急ぎ指示を出してからイークイッピングで装備を纏い、トラベリングを使ってエモシオンに飛ぶ。
報告通り倒れているオーダーはいるが、援軍を期待しての遅延戦闘に徹していたため、被害は思ったより大きくはない。
街壁も無事そうだから、レプス・コルヌトゥスさえ倒せれば、エモシオンの安全は確保できるだろう。
「帰ってきて早々に終焉種が出るとは思わなかったが、これも仕事だし、行くとするか!」
日緋色刀・天照を抜き、ウイングビット・リベレーターを生成する。
ウイング・バーストにフェザーリング・ライトも纏い、戦闘準備を整えてから、レプス・コルヌトゥスに向かってアイスエッジ・ジャベリンを放つ。
うおう、全部直撃しやがった。
さすがに致命傷にはなってないけど、まさか全部当たるとは思わなかった。
まあ進化して間もない個体だろうから、こんなもんかもしれないが。
「オーダー!後は引き継ぎます!負傷者の手当てを優先してください!」
「はっ!ご武運を、殿下!」
未だに殿下と呼ばれるのは慣れないが、そう呼ばれる身分になったんだなと思わず苦笑してしまう。
っと、レプス・コルヌトゥスが俺を敵と見定めたようで、こっちに向かって来たか。
2本の角が生えたデカい白兎だが、全長は5メートルぐらいしかないな。
ホーン・ラビット種として見ると規格外のデカさだが、終焉種として見ると小さいし、何より元がIランクモンスターでしかないから、さして脅威は感じない。
だけど油断なんてしてたら命を落とすだけだから、ここは一気に倒すとしますか!
レプス・コルヌトゥスの突進を避けた俺は、再度アイスエッジ・ジャベリンを放ち、日緋色刀・天照に氷のグランド・ソードを纏わせ、レプス・コルヌトゥスに向かって高速で向かっていった。




