開戦の氷炎
Side・マナ
大和が開戦の狼煙としたアイスエッジ・ジャベリンが止んだ直後、今度はプリムが熾炎の翼を纏い、フレア・トルネードを放った。
大和もそれに合わせるように、またアイスエッジ・ジャベリンをフレア・トルネードの中に叩き込んでいく。
大和とプリムの積層魔法パイロクラシック・アイスブレードとなった炎の竜巻は、業火渦巻く中を極低温の氷の刃が飛び交う、炎と氷という相反する属性による魔法。
普通ならできないんだけど、魔力の質を同等にすることで互いに打ち消しあうことなく、それどころか逆に相乗効果を発揮する効果があるらしいわ。
だからなのか、氷の刃が命中すると同時に傷口から炎が立ち上り、一瞬で魔族を焼き尽くしている。
「プリム、こっちは任せた」
「任されたわ。大和もしっかりと、雪辱果たしてきなさいよ」
「わかってる」
伊達に大和の初妻じゃなく、2人の連携はもはや神業レベルに達している。
最近はお仕事があるから一緒に戦う機会は減ってるけど、それでも時間を作って積層魔法まで作ってるぐらいだから、色んな意味で相性が良いってことね。
私も大和との積層魔法を作ってはいるけど、残念なことに召喚魔法も組み込んでいるから、本当に残念だけど今回は使えないのよ。
私だけじゃなくルディアも、リディアと3人で使う積層魔法を作っていたから、こちらも使えないか。
「私は少し下りて、両方のフォローに回るわ。どうにもイヤな予感もするからね」
「不吉なこと言わないでよ」
大和と同じく地上に下りると思ってたのに、空と地上の中間あたりでフォローに回るとか言い出した真子のセリフは、不吉そのものでしかないわ。
真子がイヤな予感を感じるって、本当にロクでもないことが起こるかもしれないってことじゃない。
そんなの、例え真子の杞憂であったとしても、警戒しないワケにはいかないわ。
「真子がイヤな予感って、本当に怖いね。何があるのさ?」
「全く分からないわね。漠然とした予感としか言えないから。覚えがあるような気もするけど、ちょっと違うような気もするし」
「中央の城から、得体のしれない魔力を感じる。おそらくはそのことであろう」
アガート・ラムが補則してくれたけど、それも安心材料にならないどころか不安材料が増えただけでしかないわね。
「何よ、その得体のしれない魔力って」
「澱んだ魔力であることは間違いないが、詳細は不明としか言いようがない。だが放置しておいても、良いことは何もないであろうな」
「ってことは、神帝を倒したら城まで行って、その何かを探さないといけないってことか」
この土壇場で、本当に面倒な話が出てきたわね。
刻印神器であるアガート・ラムがそういう以上、無視なんてできるワケがないわ。
「面倒だけど、アガート・ラムが言う以上行くしかないわね。陛下方も、反対されることはないでしょう」
そりゃね。
ここで反対なんかしても、禍根どころかもっと酷い何かを残しかねないんだから、例えそれが真子やアガート・ラムの杞憂であったとしても、行かないっていう選択肢はあり得ないわ。
「なら、その予感が正しいかどうかを確かめるためにも、ここは早めに片を付けないとだね!」
「ルディアさんに同意します。幸い空の敵は、大和さんとプリムさんの積層魔法のおかげでだいぶ減っていますから」
「私も賛成よ。レックス、悪いんだけどここからは本気で行くから、リッターとハンターは地上に下ろしてくれる?」
「よろしいのですか?いえ、真子夫人が感じた予感は確かに不吉でしかありませんから、時間をかけたくないと仰るのも理解できますが」
「地上の方が魔族も多いし、出撃したリッターは半数ほどだから、どちらにしても全員が魔族の相手をするのは無理でしょう」
今回参戦したリッターは総勢1000名だけど、妊娠が判明した結果、夫と共に離脱した者もそれなりにいるし、先程の戦闘で負傷した者もいる。
キメラに嫌悪感を抱きすぎて戦えなくなった者もいるけど、それでも戦闘が可能な人数は700名近い。
ウイング・オブ・オーダー号の護衛も必要だから、出撃したリッターは400名弱ってところだけど、地上の魔族は200、多く見積もっても300もいないから、人数の上ではこちらが有利。
加えてハンターはほぼ全員が出撃しているから、数の上だけじゃなく質でもこちらが上回ったと判断してもいいでしょう。
その上で真子が予感を感じたということなら、本当に油断はできないわ。
それに白虎以外の四神軍の存在もあるしね。
さすがに四神軍が出てくることはないと思うけど、それでも断定は禁物だから、警戒は必要だわ。
「わかりました。ではリッター、並びにハンターに告ぐ。空の魔族はウイング・クレストに任せ、これより我等は、地上の魔族に向かって攻撃を開始する!これが最後の戦いとなる!総員、奮起せよ!」
レックスが剣を構えながら檄を飛ばしながら下降し、鬨の声を上げながら続くハンターとリッターが頼もしく見える。
さあて、それじゃあ一気に行きましょうか!
手にしたフレアエッジ・ソードの連接を解除して刀身に光属性魔法を纏わせ、さらに雷属性魔法を重ねる。
刀身から放たれる光に氷属性魔法を使って刀身から氷を剥離させ、剣を振るうたびに数を増やす。
その氷の刀身を風属性魔法を使って、一気に放つ。
光を反射した氷の刃が、七色の光を放ちながら魔族達に次々と突き刺さり、雷属性魔法によって体内を焦がしていく。
新しい固有魔法ダイヤモンド・レインボー・ダストは、私の力だけでも使えるように作ってはいるけど、本来は召喚獣の力も借りる魔法だから、予想はしていたけど威力は落ちてるわね。
まあサウザンド・ストリーム同様、こんな時のために考えた魔法でもあるし、威力の減衰も想定の範囲内だったから、良しとしておきましょう。
「あたしも、いっくよぉっ!」
左右のフレア・グラップルから伸ばした刀身に火属性魔法と雷属性魔法のブレーディングを纏わせたルディアが、フライングとスカファルディング、アクセリングを巧みに使いながら立体的に動き、次々と魔族とキメラを斬り捨てていく。
いえ、よく見たら足刃にもブレーディングを纏わせてるわね。
蹴りと同時に切り刻むなんて、本当に器用だわ。
でも足甲にも刀身があれば、確かに戦闘の幅は広がりそうだし、私も挑戦してみようかしら?
まあそれは、帰ってから考えましょう。
ミーナはワイドミラー・シールドで魔族の攻撃を防ぎ、その後ろからフラムがタイダル・ディザスターで魔族を纏めて射止めている。
アテナもアテナで、クリスタライト・スピアに土属性魔法と氷属性魔法を纏わて巨大なランス状にした固有魔法グレイシャル・ランサーを使って、キメラごと魔族を貫いているわね。
「これで終わりよ!」
そしてトドメとばかりにプリムの固有魔法シルバーレイ・ペネトレイターが、残像を残しながら魔族とキメラを貫き、同時に焼き尽くしていく。
最後の魔族をキメラ諸共貫いたプリムは、周囲を確認しながら戻ってくるけど、白炎の翼は解除していない。
白炎の翼は完成したばかりで、使っている属性魔法も多い。
だから魔力の消耗も大きいんだけど、それでも解除しないってことは、プリムも何かを感じているのかもしれない。
「プリム、大丈夫なの?」
「一応はね。でも大丈夫そうだし、とりあえず極炎の翼に戻すわ」
「了解、無理だけはしないでね」
「もちろん」
極炎の翼は大和と出会ってすぐに作り出した羽纏魔法にして固有魔法だけど、既にプリムの代名詞にもなっている。
プリムも使いこなしているから、今じゃ息をするのと同じ感覚で使えるって言ってたわね。
「それじゃあマナ、あたし達も下りましょうか」
「ええ。リッターやハンターも魔族やキメラと戦っているし、大和も神帝と戦い始めている。本当に最終局面って感じだし、私達も行きましょう」
「了解です」
「はい」
「わかった」
「うん」
戦況はどこも、こちら側が優勢。
魔族達はリッターやハンターが次々と倒していくし、キメラなんて最優先で倒されているわ。
キメラはここまでの道中で見た種ばかりだから、対処法もある程度周知されているのが大きいわね。
大和も大和で、神帝相手に縦横無尽に飛び回り、狙いを定められないようにしている。
この戦い方はリネア会戦でもしていたそうだけど、神帝が刻印術を使うと足を止められてしまい、その隙をついてブラッドルビー・ドラゴンによる奇襲を受け、地面に叩きつけられたそうよ。
当然そのことは意識しているだろうけど、多分大和は前回の意趣返しも狙ってるんでしょうね。
今までは気にしてないように振る舞ってたけど、やっぱり本当は相当気にしてたのね。
まあ仕方ないか。
だけど大和、意趣返しをするのは構わないけど、そっちにばかり集中してたら、前回の二の舞になりかねないわよ?
さすがに今回はブラッドルビー・ドラゴンみたいなドラゴンはいないし、キメラも最優先で倒されてるけど、神帝が奥の手を残していないワケがないんだからね。
大和の身を案じながら、私達は急ぎ地上に向かった。




