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ヘリオスオーブ・クロニクル(旧題:刻印術師の異世界生活・真伝)  作者: 氷山 玲士
最終章・ヘリオスオーブの勇者

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ウイング・クレスト出陣

 麒麟軍に続いて霊亀軍、鳳凰軍までも下した連合軍は、それ以上の増援も現れなかったことから、全員がウイング・オブ・オーダー号へと帰還した。

 どうやら麒麟軍の指揮官はレックスさんが、霊亀軍の指揮官はハルート卿が、そして鳳凰軍の指揮官はファリスさんが倒したらしい。

 最初に接敵した麒麟軍はともかく霊亀軍と鳳凰軍は合流することもできたはずなのに、それをしなかったばかりか、そもそもするつもりすらなかったとはなぁ。

 戦力の逐次投入は、よっぽどの戦力差がない限りは愚策だってのに、神帝はそんな基本的なことも知らないのかねぇ。

 まあ、おかげでこっちの被害は軽微だから、儲けもんなんだが。

 四肢を失ったリッターはいるけど、帰りしなにでも真子さん達ヒーラーが治す予定だから、軽微ってことでいいと思う。


「少しは休めるかと思ったが、さすがにそう上手くはいかないか」


 ところがハルート卿の言うように、東の空から多くの影が飛来する様が確認できた。

 多分応龍軍だろうが、あっちにはキメラがいるのか。


「キメラの研究所なり育成所なりが、あっちにあるってことなんじゃない?」

「でしょうね」


 まあ、そうなるよな。

 さすがに東側に、プリムの言うような施設があるとは考えてなかったぞ。

 もし東側に迂回してから攻め込むことを考えていたら、最初に接敵していたのはキメラ達ってことになるのか。

 まあ相手がキメラでも、倒すべき敵っていうことに違いはないから、やることは変わらないんだが。


「あれだけの数のキメラを、アロガンシアの街中で育成していたとは思えない。であるならば、あのキメラは応龍軍である可能性が高いだろう。だがあのルートでは、城に寄っていたとしてもおかしくはない」

「ということは、蚩尤軍だけじゃなく神帝も来る、と?」

「それはわからんが、可能性は考えておくべきだろう」


 ハルート卿の分析に、俺も同意する。

 というか、おそらくあいつは来ると思う。

 前回父さんと母さんにいいようにやられた挙句、見逃されたんだからな。

 もう父さんと母さんはいないけど、雪辱を果たしたいと考えているなら、来ない訳がない。


「じゃあ準備します。神帝も出てくる可能性があるんだから、行くなとは言いませんよね?」


 ここに来た最大の目的だし、そのために俺は今まであまり戦ってこなかったんだからな。

 もしいないならいないで、倒した後に城まで乗り込めばいいだけだから、ここからは俺の出番だ。


「もちろんだ。最後の最後に君を頼ってしまうことは不甲斐なく思うが、相手が神帝である以上、相手をするのは大和君、君だ」


 ラインハルト陛下の許可も得たし、グラーディア大陸での最後の戦いだ、気合を入れないとな。


「はい!」

「それじゃ大和、行きましょうか」

「あの時と違って、今回は私とプリムも一緒だしね」


 そういえばリネア会戦の時は、マナは出産直後、プリムとフラムは妊娠中だったから、参戦してなかったっけな。

 だから2人とも、既にやる気が漲ってる感じだ。


「ああ、頼りにしてるよ。真子さん、デッキに上がると同時に生成します。いいですよね?」

「もちろんよ」


 神帝が来るまで刻印神器を生成しない、なんて馬鹿な考えはとうに捨てている。

 神帝が生成するまであいつが待つ保証はないし、できる隙があるっていう保証もないからな。

 だから先に生成しておいた方が確実だし、そもそもこれは試合や決闘の類じゃなく、また戦争でもなく、世界の存亡をかけた戦いなんだから、俺個人の感情なんて後回しで構わない。


 その俺に続くように、ミーナ、フラム、ルディア、アテナも続く。


「では、先に行きます」

「ああ、頼む。レックス、リッター並びにハンターに通達を」

「はっ!」


 少し駆け足で部屋に戻り、デッキへと駆け上がる。

 そしてデッキへ出ると真子さんと二心融合術を行い、クラウ・ソラスとアガート・ラムを生成する。

 アガート・ラムは真子さんの背に装備されるが、クラウ・ソラスは輪剣状のまま保持しておく。

 それからフライングを使って空に上がり、ウイング・オブ・オーダー号の前に出ると同時にスカファルディングを使ってそこに立つ。

 陸路から来ている援軍もいるが大半は空からのようだから、ここにいるのが正解だろう。


 キメラに乗った魔族達も俺達に気付いたのか、動きが遅くなり、やがて眼前で止まる。

 神帝はいないようだが、身につけている装備が違うな。

 ってことは予想通り、応龍軍と蚩尤軍の混成部隊か。

 キメラがいる分他の四霊軍より手強いだろうが、ウイング・オブ・オーダー号に乗り込まれる恐れがあるから、キメラは最優先で仕留めよう。


「貴様らか、我が故国へ侵略を企てた愚か者どもは」

「はあ?先に侵略しといて、どの口が言うんだ?」

「侵略?この世界の全ては神帝陛下、並びに最高神アバリシア様のもの。自らの所有物をどう扱おうと、それは勝手であろうよ」


 ああ、そういう考えなのか。

 不愉快極まりないが、逆に叩きのめすのに罪悪感を抱く必要もなくなるから、これはこれでいいか。


「はっ、妄想が凄いな、あんた。世界の全てが神帝の物?ならなんで、2年前の戦争じゃ軍勢を壊滅させられて、神帝1人だけで無様に逃げ帰るなんていう事態が発生したんだよ」


 何度もアバリシア兵に聞いてる鬼門とでもいえる質問だが、それはこの指揮官も同じだったようだ。

 顔を真っ赤にして、鬼のような形相になりやがった。


「ほざけえっ!あれは貴様らが、卑怯な手を用いたからに決まっている!そうでなければ我が国の兵が1人残らず全滅するなど、ありえない話だ!」


 前回アバリシア軍を全滅させたのは父さんと母さんだから、まあ卑怯っちゃ卑怯か。

 いや、真子さんも時間はかかるけど倒すだけならできたみたいだから、全滅するまでの時間が早いか遅いかの違いでしかないな。


「何言ってんだ?んな方法、ある訳ないだろうが。ああ、自分達の弱さを棚に上げて、言い訳三昧してるってことか」

「というかさ、そもそもの話として、神帝だって這う這うの体で逃げ帰ったんだから、そんな手段なんてあるワケないじゃない。もしあるなら、とっくに使ってるわ」


 はい、マナの言う通り。

 まあ実際はあるんだけど連発できるようなもんじゃないし、今の俺や真子さんじゃ一度使うとしばらくは使えない。

 何よりここは敵地だから、本当の最終手段ってことで話はついてるんだよ。

 ラインハルト陛下の許可も必要だしな。


「黙れよ!青龍ごとき弱兵と、アバリシア最強にして神兵でもある我等蚩尤を一緒にするな!貴様らは黙って、我等に討たれればいいのだ!」


 おお、早速言ってることが支離滅裂になりやがった。

 最初は自国の兵の精強さを謳ってたのに、それを弱兵と罵り自分達を最強と宣うとは、これも魔化結晶による魔族化の副作用って言っていいのかね?

 普段はともかく興奮すると感情が抑えられなくなるみたいだし、それに加えて言動も怪しくなるって、どう考えても危険物でしかねえよ。


「わざわざアバリシアくんだりまで、討たれるために来る馬鹿がいる訳ねえだろ。言ってることも支離滅裂だし、これ以上会話が成立するかも怪しいな」


 思わず本音が漏れたが、実際これ以上話をしてても無意味だと思うよ。


「ならばそこを動くな!我等蚩尤が、貴様らに神罰を下す!我等が神アバリシア、神の使徒である神帝陛下に、奴らの首を捧げよ!」


 なんてぬかす指揮官が指揮を下すと同時に、アバリシア軍は総攻撃を仕掛けてきた。

 魔族の魔法にキメラの火炎やブレス等、けっこうな数が一斉に俺達に襲い掛かる。


 だがそれらは全て、ウイング・オブ・オーダー号どころか俺達にすら届くことはない。


「思ったより威力がありますけど、私の後ろには絶対に通しません!」


 そう、ミーナの固有魔法スキルマジックワイドミラー・シールドが、魔族どもの攻撃を完璧に防いだ。


「正面からなら終焉種の攻撃すら受け止めるんだから、やっぱり防御力は高いわよね」

「側面からの攻撃にはそうでもありませんけどね。それに万が一がありましたから、真子さんが準備してくださっていたことで余裕も生まれましたし」


 ああ、真子さんもフィールド・コスモスをスタンバってたのか。

 どちらも終焉種の攻撃すら防げるから、防御に関しては最上級の固有魔法スキルマジックと言っていい。

 それを同時に展開なんてされたら、突破するのは不可能だぞ。

 俺だって自信ないわ。


 そんな最上位の防御魔法を目にした魔族達は、激しく動揺している。


「ば、馬鹿な……!我らが授かった神なる力に加え、キメラという神獣の力まで防いだだと!?あり得ん!」

「現実を直視しろよ。というか魔族の力が神の力で、キメラが神獣だと?妄想もいいとこじゃねえかよ」

「稀代の妄想家でも、もっとまともな妄想をするわよ」


 真子さんに同意だけど、稀代の妄想家なんて初めて聞いたフレーズだな。


「稀代の妄想家って、初めて聞くわね」

「というか、そもそもそんな人いるの?」

「いないでしょ、さすがに」


 プリム、アテナ、ルディアも呆れ気味だが、それだけあり得ない話ってことでいいか。

 まあそんなことより、先に攻撃もされたことだし、こっちからも反撃といきますか。


「もう終わりってことで良さそうだな。なら今度は、こっちから行くぞ!」


 クラウ・ソラスから50本ほどの刃を分離させ、ミスト・インフレーションを付与し、それを核にアイスエッジ・ジャベリンを作り出す。

 挨拶代わりだから、指揮官はとりあえず除外する方向で射出だ!


「……は?」


 だが、どうやら指揮官は、アイスエッジ・ジャベリンを視認することができなかったみたいだ。

 背後から聞こえる魔族の悲鳴を聞き、自分の目で確認もしているが、それでも何が起きたのか理解できていない。


「嘘でしょ。あれが見えなかったの?」

「確かに速かったけど、ハイデーモンなら見えるぐらいの速度だったわよね?」

「だと思いますけど」

「マジで?ちゃんと対処しようとしてた魔族はいたよ?なのに指揮官には見えなかったの?指揮官のくせに?」


 みんなも意外だったみたいで驚いてるが、中でもルディアが辛辣だな。

 だけど実際に俺のアイスエッジ・ジャベリンに反応してた魔族は、対処しきれたかは別として、確かに何人かいた。

 事実3人程、アイスエッジ・ジャベリンを砕いて難を逃れている。


「あ!もしかしてあの指揮官って、縁故とか賄賂とかでなったってこと?」

「でしょうね。蚩尤軍はアバリシア軍の最上位のはずだから、そこのトップが無能なんて、普通にあり得ない話だわ。グラーディア大陸は戦火が消えて久しいからこそ、家柄だけの無能でもトップになれるってことなんでしょうね」

「平和は良い事ですけど、そんなマイナス面もあるんですね」


 うん、これは俺も勉強になるな。


「みたいね。だけど加減してたとはいえ、何人かは大和のアイスエッジ・ジャベリンを防いでたし、こっちも油断してると食われかねないわ」

「ええ。さっきのアイスエッジ・ジャベリンは挨拶代わりだったから見逃すけど、以後あんな腑抜けた攻撃をしたらお説教の対象になるから、しっかりと気を引き締めてね」


 ここで真子さんから恐ろしい宣言がなされ、俺達の顔色が変わる。

 さっきのアイスエッジ・ジャベリンは、真子さんも言ったように挨拶代わりの意味も込めてたから、いくらか加減して放っていた。

 当然真子さんに見抜かれていることは想定済みだったが、まさかそれが恐怖のお説教に繋がるとは思いもしなかった。

 なにせここにいる全員、一度は真子さんからお説教を食らってるんだし、何なら今回同行してるハンターの中にも、真子さんのお説教を受けた人はいるぐらいだ。

 圧力も凄いから、終わったらマジでぐったりだよ。

 さすがにそんなお説教なんて食らいたくないから、この後は本気で行かせていただく。

 直に神帝も来るだろうから、それまでには終わらせてやるさ!

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