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ヘリオスオーブ・クロニクル(旧題:刻印術師の異世界生活・真伝)  作者: 氷山 玲士
最終章・ヘリオスオーブの勇者

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神帝の心算

Side・神帝


 城内が騒がしいが、その理由は分かっている。

 今朝方、アロガンシアの西に突然現れた、やたらとデカい飛空艇のせいだ。

 おそらくあのクソガキが、軍を率いて侵攻してきやがったんだろう。

 おかげで朝っぱらから四霊軍に指示を出す羽目になったが、そのことも俺をイラつかせる。


「はあ?奴らの上陸地点と思われる町から、キメラを含む全軍が壊滅させられただと?いつの話だ!?ここ数日?なんで俺に、その報告がねえんだ!!」


 しかもさらにイラつくことに、連中がアバリシアに上陸してからというもの、奴らの進行上と思われる町に配備していた軍は壊滅し、キメラも1匹たりとも残っていないときた。

 報告自体は電信を使うことでアロガンシアまで伝えられていたが、俺の下に来たのが本当に今という瀬戸際。

 どいつもこいつも、本当に使えねえ。

 目の前の奴隷を殴りつけることで溜飲を下げようとするも、その奴隷は壁に叩きつけられると同時に死んだのか、ピクリともしやがらねえ。

 俺の部屋に、汚ねえ血を撒き散らしやがって!


「も、申し訳ありません!担当があり得ないと判断し、握り潰していたようで!」

「ならその担当を、俺の前に連れてこい!今すぐだ!」

「は、はいぃぃぃっ!!」


 俺の怒りに恐れをなした侍従が、這う這うの体で俺の部から出ていった。

 報告を握り潰してたとか抜かすドアホは死刑だが、状況が好転する訳じゃねえ。

 西から来たってことは、最初に相対するのは麒麟軍の連中か。

 ならあいつらには時間を稼がせて、残り3軍と蚩尤軍を合流させるしかないな。

 東の応龍軍は時間がかかるかもしれねえが、その分急がせればいいし、あっちにはキメラの製造研究所もあるから、キメラを使えば早くに合流できるだろう。


「おい!誰かいねえか!応龍、鳳凰、霊亀に、至急の連絡だ!最優先で行うよう命令しろ!特に応龍には、キメラどもも連れてくるようにな!」

「は、はっ!」


 慌てた様子で部屋に入ってきた侍従に指示を出し、俺もいつでも出陣できるよう準備を整える。

 同時に机の上に飾ってある1つの石を手にし、忌々しげな視線を送ることも忘れない。


 何を隠そうこの石 封刻印こそが、俺をこの世界に呼び寄せた原因なんだからな。


 この世界に来た当初は右も左もわからず、言葉が理解できたことだけが救いだった。

 俺を騙そうとする奴、奴隷に落として俺を戦力として使い潰そうと考える奴、他にもいろいろいたが、その全てを俺は自分の力でねじ伏せ、このアバリシアという国の統一を果たしたまでは良かった。


 だが本当の問題は、その後だった。


 この封刻印、何が封印されているかはわからねえが、切札として盗み出した物だと聞いている。

 その封刻印を何故俺が持っていたか、それは単純にアジトに戻るまでの間、俺が管理を任されていただけの話だ。

 そのおかげであのクソガキの親父に殺されかけた瞬間、この世界に転移することで生き永らえたんだから忌々しいが、反面俺の命を救ってくれたお守りみたいなもんでもある。


 しかもその封刻印、俺をこの世界に転移させたアバリシアと名乗った神も欲しているようで、事あるごとに寄越せと言い寄ってきやがる。

 俺としてはくれてやっても構わないんだが、その後でお役御免と始末されるのは割に合わねえから、のらりくらりとかわしている。

 あいつも、封刻印はこの世界にあるだけで十分だし、俺が死んだ後なら楽に手に入れられると考えている節があるから、本腰入れてこねえのは助かってるがな。

 ただ自分を祀ることは絶対らしいから、仕方なく俺も行ったことがあるサグラダ・ファミリアを模した教会を建ててやったんだが、どうやら気に入ったらしく、完成直後にはいくつかの知識を教えてくれた。

 魔力を介した電信技術も、その1つだ。


「ん?誰だ?」

「はっ!恐れながら、通信使と通信局長をお連れしました!」

「そうか、入れ!」


 来たか。

 通信局長もとは思わなかったが、責任者だから連れてきたか、それともこいつも関与しているかだな。

 前者なら生かしておいてやるが、後者ならこいつも殺すか。

 連れてきた侍従は、2人に部屋に入るよう促してから、自分は外からドアを閉める。

 これから何が行われるかをよく知っている行動だが、いると邪魔になることもあるから、それは別に構わねえ。

 何より今の問題は、この通信使だからな。

 その2人は、部屋に入って少し進み、俺に向かって跪いた。


「よう」


 それを確認してから俺が声を掛けると、2人の肩がビクっとはねた。

 恐怖を感じているのか震えも隠せてねえが、無礼にも程があるだろ。

 先程までの怒りが、また俺の中で燻り出してきたぜ。


「てめえ、侵略者どもが軍やキメラを倒しながら進んでるっていう報告を、握り潰してたんだってなぁ?」

「も、もうし……申し訳ございません!!」

「いつ、どこで、誰が、てめえにそんな権限を与えたんだ?」

「申し訳ございません!申し訳ございません!!」


 謝るばかりで、俺の質問に対する答えは一切無しか。

 心底イラつかせるな。


「おい、俺は答えろって言ってんだよ。なのに同じ言葉を繰り返すだけだぁ?ふざけてんのか!とっとと答えろや!!」


 ライフ・リーパーを生成し、奴の眼前に思いっきり突き刺す。

 一瞬顔が見えたが、涙と鼻水に塗れた汚ねえツラだな。


「おい、どうした?答えねえなら、このままお前を処刑するだけだが?」

「お、恐れながら陛下!直答をお許し下さい!」

「あん?俺に意見か?よっぽど死にてえらしいな。まあいい、言ってみろ」

「ありがたき幸せ!その者が通信を虚偽と判断したのは、その者の上司による指示なのです!私もつい先ほど、その話を聞いたばかりでして!」


 ほう、そいつの上司か。

 言い逃れの可能性もあるが、それはそれで気になるな。

 だが今は時間がない、その件は後でじっくり精査するとしよう。


「つまりだ、てめえの怠慢が原因ってことか。部下の管理も、てめえの仕事だろうが。それを怠り俺に余計な仕事をさせたんだ。覚悟はできてんだろうな?」

「は、は?」

「上司とやらに指示されたとしてもやったのはてめえだ。よっててめえら2人は、この場で死刑。ああ、安心しろ。その上司が本当にそんなことしてやがったんなら、てめえらの後を追わせてやるからよ!」


 そう口にしてから、俺は水性B級対象干渉系術式ブルー・コフィンを発動させ、2人を氷の棺に閉じ込めた。

 汚ねえ氷像ができたが、こんなもんはオブジェにもなりゃしねえ。

 だがここで砕くと部屋が汚れるから、とりあえずはこのまま運び出させるとするか。

 全てが終わってから、俺が直々に砕いてやるからよ。


 2つの氷像と殴り殺した奴隷の死体を運び出させてからしばらくして、再び部屋のドアがノック音が響く。

 許可を出すと、四霊に指示を出すよう伝えた侍従が入ってきた。


「報告致します。霊亀軍、鳳凰軍ともに了解したとの電信が返ってまいりました。応龍軍からも同様の内容ですが、蚩尤軍も同行させるため一度城に寄るとの内容もあったことをお伝えいたします」

「わかった。なら蚩尤にも伝えろ。応龍が来たら全戦力をもって出撃、先に戦っているであろう霊亀、鳳凰と合流し、あの連中を血祭りにあげろとな。その際は俺も出ることも、忘れずに伝えろ」

「はっ!すぐに伝えます!」


 あいつらが何を考えてやってきたのかは知らんが、ここまできた以上は相手をしてやる。

 確かあっちの大陸には進化っていう現象があって、けっこうな数がエンシェントっていうのに進化してやがったな。

 どれほどの数で攻めてきたのかは知らねえが、進路上の軍やキメラすら蹴散らしてきている以上、こっちも全軍でかからないとならねえ。

 麒麟の連中は運が無かったと思ってもらうしかねえが、他の3軍は健在だから、こいつらを蚩尤に合流させた上で叩くのが最上だ。

 その上で四神にも指示を出してアロガンシアに集結させれば、地の利もあるし数でも質でも上回れる。

 ああ、進路上にある白虎は、さすがに無理か。

 まあいい、これもすぐに支持を出しておかねえとな。

 あの時は確かに撤退せざるを得なかったが、その理由はあのクソガキの親父どもが、突然現れたことだ。

 さすがにあいつの相手をするのは分が悪いが、今の今まで攻めてこなかったということは、あいつらはおそらく地球に帰っている。

 であるなら、あのクソガキは俺の敵じゃねえから、残るは片桐真子だけ。

 そいつさえ倒せれば、あとは烏合の衆だ。

 それに加えて飛空艇まで手に入れることができるんなら、こんなおいしい戦いはねえだろ。

 最初はイラついたが、よく考えてみれば脅威となるのは片桐1人だけで、あいつなら確かに進路上の軍やキメラを一網打尽にすることができるだろうから、この結果も特におかしくはなかったぜ。


 とはいえ、あいつが相手なら俺も油断はできねえし、応龍の近くにいるキメラどもも、全て出動させねえとだな。

 キメラの研究が完成したのは俺が帰ってきてからだが、それなりに使いやすいってことで評判は悪くない。

 だがドラゴンと比べると遥かに劣るから、まだまだ研究は必要か。

 それもこれも、全ては愚かな侵略者どもを駆逐してからの話だ。


 そんなことを考えながら、俺は戦闘準備を整え始めた。

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