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ヘリオスオーブ・クロニクル(旧題:刻印術師の異世界生活・真伝)  作者: 氷山 玲士
最終章・ヘリオスオーブの勇者

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堕ちた鳳凰

Side・サユリ


 北からの援軍、おそらくは霊亀軍でしょうけど、そちらはグランド・ドラグナーズマスター ハルート卿が、奥方のテミス夫人との竜響魔法レゾナンスマジックを使ったことで、早々に決着がついたようね。

 なら南側のこちらも、時間を掛けてはいられないわ。


「あれが鳳凰軍か。む?何か違和感が……ああ、そういうことか」

「どうかしましたか?」

「ああ。どうやら鳳凰軍は、女も多いようだ」


 セルティナが何かに気付いたと思ったら、そんなことなのと思わずにはいられない。

 フィリアス大陸は女性比が高いから女性のリッターやハンターも多いけど、グラーディア大陸は男女比がほぼ同じだからなのか、兵役はほぼ男の仕事みたいになっているように思う。

 ようは地球と同じってことなんだけど、女性のみの部隊とかもあるから、鳳凰軍が女性のみだったとしても、そこまで珍しいとは思えないわよ?


「話はちゃんと聞け。女のみではなく女も多い、だ。見た限りだが、半数は女のようだぞ」

「……本当ですね。ここに至るまでにいくつかの部隊を突破していますが、女性兵はいなかったはず。何故鳳凰軍だけ、女性が混じっているのでしょうか?」

「鳳凰軍だけ?……ああ、そういうことか」


 今の今まで、すっかり忘れてたわ。

 もう何十年も思い出すことのなかった知識だから、無理もない話と思いたいわね。


「どういうことですか?」

「地球の神話なんだけどね、確か鳳凰っていうのは、雄の『鳳』と雌の『凰』っていう瑞鳥の夫婦なのよ。私はこの程度しか思い出せないけど、大和君や真子なら、もう少し詳しいんじゃないかしら」

「雄と雌?ああ、だから半数近くが女というワケか」

「多分だけどね」


 神帝がそこまで考えたかは疑問だし、意味があるとも思えないけどね。

 そもそも神帝も、この世界に来て200年近く経ってるんだから、覚えてたとしても私みたいに中途半端な知識になってる可能性は十分あり得るわ。

 ……自分で言ってなんだけど、神帝と同じってすごくイヤね。


「何か意図があるのかと思っていたが、サユリの推測が正しいなら、その鳳凰が雌雄の番いである以上の意味はなさそうだな」

「女性兵にとっては目指すべき頂になるかもしれませんけど、私達にとっては無意味ですね」

「本当にね」


 もし意味があったら問題だけど、鳳凰軍は眼前に迫ってるから、考えてる時間もないわね。


「ともかく、魔族である以上は戦うだけだ。相手が男だろうと女だろうと、魔族に生きていてもらっては困るんだからな」

「そうですね。まだ応龍軍、蚩尤軍もいますし、マゴついていたら四神軍も出てくるかもしれません。それでも負けるつもりはありませんが、こちらの士気がもたなくなる可能性はあり得ます」

「魔族は倒すけど、最大の目的は神帝の首だものね。残った魔族をどうするかは、その後で考えるとしましょうか」

「だな。ではハンター達よ!眼前の魔族相手に、遠慮は一切いらん!フィリアス大陸にいるのはリッターだけではないと、アバリシアに教えてやれ!」


 セルティナが声を上げると、ハンター達から大きな鬨の声が響いた。

 今回同行したハンターは少ないけど半数近くがエンシェントクラスでもあるから、少数ってことに騙されると命がいくらあっても足りないわよ。

 単独での戦闘力はもちろん、連携だってすごいんだから。

 ほら、今も私が手塩にかけて育てたリリー・ウィッシュが、縦横無尽に動きながらも綺麗な連携で、鳳凰軍の隊列を裂きながら倒しているし。

 もちろんホーリー・グレイブやファルコンズ・ビークも、リリー・ウィッシュに劣らない連携を仕掛けながら、同時に各個撃破も忘れていない。

 むしろこの程度のことができなかったら、参加できなかったハンター達に何を言われるかわかったもんじゃないものね。


「みんな、また強くなっていますね」

「この日のために、っていうワケじゃないけど、鍛錬は欠かしていないからね」

「若者はこうでなくてはな。とはいえ、私達も後ろでふんぞり返っているワケにはいかないぞ?」

「はい。それでは何のために来たのか、わかりませんからね」


 直接会ったことはないけど、私達は3人が3人とも、神帝とは浅からぬ因縁を持っている。

 ヒトミはシンイチさんの子孫で、そのシンイチさんは80年近く前に、神帝を追い返した実績も持っている。

 セルティナは、息子がカズシさんの子孫でもあるトラレンシア妖王家に婿入りしたっていうだけだから、私やヒトミとは少し違うけど、そのカズシさんに師事していたこともあるから、弟子まではいかないけど無関係っていうワケでもない。

 ただカズシさんもシンイチさんも、神帝を追い返した戦いの際に重傷を負ってしまった。

 怪我は当時の回復魔法で全快しているんだけど、ライフ・リーパーという刻印法具の影響もあってなのか徐々に生命力を失い、数年後に亡くなられてしまっている。

 お年を召してらしたからそれも一因なんでしょうけど、神帝が攻めてこなければまだご健在だったかもしれないから、本当に残念だわ。


 そして私は、神帝と同じ世界からの客人まれびと

 神帝は私より数十年未来の人間で、真子と同世代の刻印術師でもあった。

 とはいえその真子も、神帝の顔は一切知らず、刻印術師優位論っていう頭のおかしい理論に傾倒している集団の中でも下っ端だと言ってたわね。

 だけど私と同じ世界の人間だっていう事実は変わらないし、その人間がヘリオスオーブを滅ぼそうとしているなら、それを止めるのは同じ世界出身の私の責任だと思う。

 残念ながらエンシェントヒューマンに進化したとはいえ、私じゃ神帝と戦うこともできないから、その役目は大和君に任せるしかない。


 だけどだからと言って、黙ってみているつもりもないわよ。

 直接戦うのは無理でも、周囲の魔族ぐらいは相手にできる実力はあるつもり。

 そもそも私とヒトミは、そのためにエンシェントクラスに進化したようなものだからね。

 だから今目の前にいる鳳凰軍も、捻ってあげるとしましょうか!


Side・ファリス


 セルティナ様の檄を合図に、私達ハンターは一斉に魔族に攻撃を仕掛けた。

 私はその攻撃を避けた集団に、固有魔法スキルマジックグランド・サンダー・レイをぶち込む。

 他にもエルやフューリアス・レイディの方々が、私と同じように攻撃を避けた集団に狙いを定めているね。

 セルティナ様達の話は聞こえていたけど、相手が男女混合だろうと容赦する理由にはならないし、そもそもアバリシア側の事情なんて知ったことじゃないよ。


「バークス、あんまり突出しすぎるんじゃないよ」

「わーってるよ!おらあっ!」


 武闘士でありエンシェントヒューマンに進化しているバークスが、魔族を殴り倒している。

 瑠璃色銀ルリイロカネ製のガントレットに火属性魔法ファイアマジックを纏わせ、喜々とした表情で殴り倒していく様は、どこからどうみても悪役だ。

 まあ相手が魔族だし、無茶さえしなければ構わないけどさ。


「全く、相変わらず向こう見ずなんだから!」

「フォローするこっちのことも考えなさいよね!


 そのバークスを援護するように、風属性魔法ウインドマジックを纏わせた矢を放つクラリス、雷属性魔法サンダーマジックを纏わせた槍で突きを連発するサリナ。

 この2人も瑠璃色銀ルリイロカネ製の弓と槍に変更しているし、何よりエンシェントヴァンパイア、エンシェントエルフに進化しているから、夫であるバークスのフォローをしつつも危なげなく魔族を倒していく。


「ば、馬鹿な……!四霊最強である我が鳳凰が、何故こうも容易く……!」


 どうやら鳳凰軍の指揮官が驚愕しているようだ。

 確かに私達は、最精鋭と目される四霊軍の一角を相手にしながらも、大した損害は出していない。

 だけどそれは、エンシェントクラスが20人近いのも理由の1つだけど、それよりも戦力の逐次投入のような状況を自ら作り出した、アバリシア側の体制の問題が大きいだろう。


「四霊最強、ねぇ。何もできず無様に倒されていく姿を見て、それを信じろと?」


 呆れたように口を開くのは、帰還後にグランド・ハンターズマスターに就任することが決まっているヒトミ様。

 挑発も混じってるけど、ヒトミ様にしては珍しい。

 サユリ様やセルティナ様と比較すると礼儀正しく温厚な方だから、暴言の類を吐くのは本当に珍しいんだ。

 当然そのヒトミ様に、鳳凰軍の指揮官は顔を真っ赤にしている。


「黙れ!貴様ら、いったいどんな卑怯な手を使った!我が国を侵略するだけでは飽き足らず、戦意を失った部下達まで皆殺しにするなど、恥を知れ!」

「どの口が言ってるのかしらね。そもそも、先に侵略を仕掛けてきたのはそちらの方でしょう。それが逆に仕掛けられる立場になった、それだけの話じゃない」

「自分はよくても他人にやられるのは認められない、子供でも考えないぞ。少し考えればわかるだろう、因果応報だと」


 サユリ様とセルティナ様も容赦がないけど、私もその通りだと思う。

 だけど鳳凰軍の指揮官は、真っ赤な顔をさらに赤くして、怒鳴り散らしている。


「黙れ黙れ黙れぇぇぇいっ!!!最強の我が鳳凰軍が、貴様らごとき弱卒に後れを取るなどありえん!貴様らはアバリシアを蹂躙し、恐れ多くも神帝陛下が座すアロガンシアまで手にかけようとしている邪悪なる神敵!神敵を抹殺することこそ、我等四霊の存在意義であり!最強である鳳凰の役目なのだ!!」


 支離滅裂に聞こえるけど、魔族になると性格も若干おかしくなるみたいだし、アバリシアが信仰しているのは国名にもなっている邪神アバリシアだから、神敵っていう単語が出るのはおかしくないか。

 それにしてもこの指揮官、最強っていう立場に拘っているというか、縋りついているというか、さっきから鬱陶しいぐらい口にしているね。

 多少の抵抗を試みる魔族もいるけど、それも大した時間を掛けずに、物言わぬ骸と化していく。

 私達はエンシェントクラスではあるけど、その力に溺れず、日々の鍛錬も怠ってはいない。

 さらに、以前大和君に言われたものの即座に断念した、大和君達がウイング・バーストと呼んでいる固有魔法スキルマジックも、今の私は使えるようになっているから、エンシェントクラスの中でも上の方の実力を有していると思っているよ。


 対して鳳凰軍は、アバリシア最精鋭の部隊であることに驕り、ロクに鍛錬すらしていないんじゃないかな。

 これは鳳凰軍に限らない話なんだけど、アバリシアでは軍の権限はかなり強いらしく、それなりに横暴な態度をとる軍人もいると聞いている。

 魔物の脅威もフィリアス大陸ほどじゃないようだし、大陸もアバリシアという国家で統一されているから、外敵はあまり存在していない。

 だから軍は、権限と実力が反比例している組織に成り下がっているんだと思う。

 もちろん最低限の実力があるからこそ、最精鋭と言われる四霊・鳳凰軍に配属されてるんだとは思うけど、その後で鍛錬を続けているかどうかは別の話だ。


「というのが私の予想ですけど、皆さんはどう思われますか?」

「同意するわ」

「同じく」

「それ以外あるまいて」


 フューリアス・レイディの御三方も同意してくださったことで、更に指揮官は怒りを募らせた。

 もう言葉にならないようで、何を言っているのかさっぱりわからない。

 いくら魔化結晶の影響があるとはいえ、さすがにこれはおかしくはないだろうか?


「ファリス、せっかくだしあの指揮官の首、あなたが取ってみない?」

「私が、ですか?御三方ではなく?」

「今回は私がハンターの代表となっているが、レベルはファリス、お前の方が高いだろう。というか、ウイング・クレストとサヤを除くと、お前が最高レベルじゃないか。ならハンターの功を挙げる意味でも、お前がやるべきだと思うが?」

「あ~、そうきますかぁ」


 ウイング・クレストを除くと、私よりレベルの高いハンターはサヤしかいない。

 先日まではファルコンズ・ビークのエルの方が上だったんだが、ウイング・バーストの習得が切っ掛けとなってしまい、逆転してしまったんだ。

 サヤはサヤで、夫や同妻達と色々考えながらやってるみたいだから、私より高いレベルを維持しているけど、今回はオーダー側での参戦になっているからなぁ。


「面倒ですが、仕方ありませんか。では行ってきますよ!」


 本当に面倒だけど、ハンターは今まであまり戦っておらず、リッターより戦功は稼げていない。

 さすがにそれはよろしくないし、帰ったら何を言われるかわかったものじゃないから、私は背中の翼を広げウイング・バーストを纏い、手にしている蒼穹色鉄ソライロカネ製の大斧に雷属性魔法サンダーマジックを纏わせながら、火属性魔法ファイアマジック風属性魔法ウインドマジックを使って爆発的に加速し、指揮官に接近する。

 一瞬のことに呆気にとられた指揮官は、自らの首を落とされたことにも気付かないまま、その場に倒れ、そして動かなくなった。


 これで鳳凰軍も全滅だから、残るは応龍軍、そして蚩尤軍か。

 神帝も出てくるだろうし、いよいよ決戦だね。

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