輝煌聖晶竜
Side・真子
「お、アテナが完全竜化した」
「え?……あ、ホントだわ」
空のキメラ達を掃討し、制空権を完全に確保できたことで、私は展開させている固有魔法フィールド・コスモスとS級術式ミーティアライト・スフィアの発動範囲を、地上優先に切り替えた。
そのタイミングでアテナが完全竜化したって、探索系術式を使って地上の様子を見ていた大和君が教えてくれたから、私もイーグル・アイを使って見てみたんだけど、丁度アテナのマグマライト・ブレスが、地上の魔族達を飲み込んでいるところだったわ。
完全竜化してシャイニング・クリスタル・ドラゴニアンとなったアテナは、クリスタル・ドラゴニアンだった頃よりも大きくなり、さらに神々しい雰囲気まで醸し出している。
もう聖竜と言ってもいいかもしれないわね。
シャイニング・クリスタル・ドラゴニアンだから輝光水晶竜……いえ、輝煌聖晶竜って言うべきかしら。
さすがに魔族特攻とかはないはずだけど、それでもノーマルデーモンだと威容に呑まれて、何もできなかったみたいだし。
いえ、ハイデーモンも何もできずにマグマライト・ブレスの光の中に消えていったっぽいから、今のアテナなら、エンシェントデーモン相手でも対等に戦うことができるようになっているかもしれない。
まあエンシェントデーモンは神帝しかいないでしょうし、そいつは大和君がやる気だから、実際に戦うことはないでしょうけど。
余談だけど、エレメントドラゴニアンに進化したことで、アテナの名前はアテナ・シャイニング・フレイドランシアに変わったわ。
シャイニング・クリスタルってなるのかと思ったけど、それだと名前が長くなるし、クリスタルはエンシェントクラスの時の名前になってたから、エレメントクラスだとシャイニングってことになるんでしょうね。
他の属性のドラゴニアンがどうなるかは、まだ誰もエレメントクラスに進化できていないから、誰かが進化しない限りわからないけど。
「思ったより射程が短いわね。ああ、そう調整してるのか」
「ええ。グランバイト・イラプションにしろブレスエッジ・ブラスターにしろ、マグマライト・ブレスが大本なんで、そっちを調整してもらうと精度が上がりますから」
なるほど、大和君との竜響魔法の調整のためにも、アテナにマグマライト・ブレスの精度を上げてもらう必要があったのか。
確かにグランバイト・イラプションはともかくブレスエッジ・ブラスターは精度を上げないと、小型どころか中型の魔物ですら完全に焼き尽くされるでしょうし、大型の魔物であっても素材の大半がダメになりかねないものね。
「なるほどね。でもブレスエッジ・ブラスターは、大和君も氷属性魔法を上手く使わないと、でしょ?」
「ええ。弱すぎるとマグマライト・ブレスの熱を抑えられないし、かといって強すぎると、今度は凍傷で似たような状況になるから、調整が難しいんですよね」
ブレスエッジ・ブラスターは、アテナのマグマライト・ブレスを大和君の氷属性魔法でコーティングし、マグマライト・ブレスを超巨大な刃とする竜響魔法。
何度か大型の魔物相手に使ってはいるけど、微調整がとても難しいらしく、良くても素材の3割、最悪だと素材どころか完全に焼き尽くしたこともあるって言っていた。
アテナのブレスそのものを超巨大な剣にするようなものだから調整が難しいのは当然なんだけど、今のところはアテナに射程をセーブしてもらうことで、大和君の氷属性魔法を均等にコーティングできるよう、頑張って調整しているところらしいわ。
「あ、今度は飛び立った……いや、ちょっと違う?」
「でも翼は広げてるわね。あ、ブレイズライト・ブレードも使ったわ」
今度は何をしてるのかと思えば、少しだけ浮き上がってからブレイズライト・ブレードを両手の爪に使ってからウイング・バーストを纏った。
そしてクラウチングスタートっぽいような恰好になってから、指揮官らしき魔族めがけて、一気に加速し、突っ込んでいく。
なるほど、スカファルディングも使ってたのね。
壁を蹴る要領で加速できるし、ウイング・バーストだけじゃなくフィジカリングやマナリングも全開にしてるから、指揮官らしき魔族のところまではほとんど一瞬で到達。
ただ、ちょっと狙いが甘かったみたいで指揮官の少し上をそのまま通り過ぎちゃってたけど、ソニックブームも発生してたから、指揮官のみならずアテナの進行上にいた魔族達は吹き飛ばされて、大きなダメージを受けている。
固有魔法ライト・フェザーも併用してれば、多分あれだけで倒せたと思うけど、アテナとミーナ、そしてフラムがエレメントクラスに進化したのはアバリシアへの進軍直前だったから、まだ慣れてないのよ。
でもさっきの攻撃、というより移動しただけだけど、あれも上手く使うことができれば、アテナの新しい固有魔法になるんじゃないかと思う。
確かエレメントドラゴニアンに進化した際に得たのは火属性魔法と結界魔法だったはずだから、ソニックブームの衝撃もなんとかできるような気もするし。
まあこの戦いが終わってからの話だし、下手に地上で使うと周囲の被害がとんでもないことになるから、試すとしても迷宮でになるけど。
でも面白いことになりそうだし、あとでアテナに提案してみるとしましょうか。
Side・アテナ
完全竜化し、シャイニング・クリスタル・ドラゴニアンとなったボクは、ボクを見て戦意を喪失している魔族達に向かって、容赦なく固有魔法マグマライト・ブレスを吐いた。
ボクのマグマライト・ブレスは念動魔法が組み込まれているから、途中で軌道を変化させることができるんだけど、エレメントドラゴニアンに進化した際に得た結界魔法も組み込んだから、任意の範囲のみに吐くこともできるようになっている。
だから後方で指揮を執っていたと思う魔族達は、誰一人として傷一つ負ってない。
やろうと思えば、文字通り一息で倒せたと思うけど、それをやっちゃうとリッターやハンターの手柄が無くなっちゃうから、絶対にやらないように言われてたんだ。
面倒くさいけど、それをやっちゃうと大軍を組織して、ウイング・オブ・オーダー号まで使ってきた意味が無くなっちゃうだけじゃなく、不平や不満が溜まって、今後の憂いになるかもしれないって言われたよ。
「うわぁ~……進化したアテナのマグマライト・ブレス見たの初めてだけど、段違いの威力になってるじゃん」
『エレメントドラゴニアンに進化したのは最近だけど、どういう風に強化するかはよく考えてたからね』
呆れたような声を上げるライラだけど、ボクも思ったより強力になったなとは思ってるんだよね。
でもマグマライト・ブレスはボクが初めて作った固有魔法だし、竜化しててもしてなくても使いやすい魔法でもあるから、微調整とかもよくやってたんだ。
それが今っていう状況に繋がってるってことかな。
それにしても、なんか思ったより魔族を倒せてるような気もするけど。
『じゃあボクは、あのレオのキメラを倒してくるね』
「ああ、任せる。残りの魔族達は、俺達が相手をするぞ」
「だね」
残りの魔族を引き受けてくれたルーカスとライラに軽く目配せをしてから、ボクは2対4枚の翼を広げ、少しだけ浮き上がる。
加減を間違ったら上空のウイング・オブ・オーダー号にぶつかっちゃうかもしれないから、今回はスカファルディングを使って、地上から10メートルぐらいのところで滞空してみた。
この後は、ボクの背後にスカファルディングを見えない壁として使って、それを蹴って加速して突撃するつもりだよ。
だけどその前に、ボクは固有魔法ブレイズライト・ブレードを、両腕の爪に纏わせておく。
土属性魔法で延伸した爪に火属性魔法を纏わせて風属性魔法で煽り、更に雷属性魔法を追加することで、プリムの熾炎の翼みたいな効果を生み出しているから、生半可な武器じゃボクの爪を受けることなんてできないよ。
そして最後にウイング・バーストを纏ってからフライングを使って少し浮き上がって、後方に作り出したスカファルディングをスターターにして加速してから、ボクはレオのキメラに向かって突っ込む!
「なっ!!」
勢い余ってレオのキメラの少し上を通り過ぎちゃったけど、背中に乗っていた魔族の指揮官は衝撃だけで大きく吹き飛んで、地面に叩きつけられていた。
見ればレオのキメラもけっこうなケガをしてるけど、あれだけでそこまでのケガをするもんなの?
ボク、ただ移動しただけだよ?
ちょっと驚いたけど、魔族にキメラが相手だから、倒さないっていう選択肢はありえない。
だからボクはブレイズライト・ブレードを延伸させて、真横に薙いだ。
すると近くにいた魔族が数人まとめて斬り刻まれていく。
その中には吹き飛ばされた指揮官もいたけど、構わず斬り刻む。
そして残ったレオのキメラは念動魔法で拘束してから引き寄せて、槍状に変形させたブレイズライト・ブレードを突き刺してから真上に放り投げて、マグマライト・ブレスでトドメを刺した。
レオのキメラはAランクモンスターだから、素材は貴重だし使い道も多いんだけど、キメラになった魔物の素材なんて怖くて使えないし使いたいとも思わないから、遠慮なく倒せるよ。
ちょっと拍子抜けするぐらい簡単に終わっちゃったけど、元々ドラゴニアンは完全竜化すると格上の魔物でも対等以上に戦えるようになるから、エレメントドラゴニアンに進化したボクなら、キメラとはいえAランクモンスターでも優位に戦えるってことなんだと思う。
おっと、また魔族はいるんだった。
ボクを見て腰が引けてるけど、ボクに容赦するつもりは微塵もない。
でもこの位置だと、下手に攻撃すると味方を巻き込んじゃうから、下手に固有魔法は使えないかな。
こんなことならボクも、新しい固有魔法を作っておけばよかった。
サボってたワケじゃなくて、シャイニング・クリスタル・ドラゴニアンの姿に慣れることを優先してたから、余裕がなかったんだよ。
だけどそれも言い訳だし、それ以前に固有魔法を考えるはあったんだから、やっぱり怠慢ってことになるのかな?
なるよね、やっぱり。
帰ったら、じゃなくてこの戦いが終わったら、ちゃんと考えるようにしよう。




