エンビディアの戦い・上空
Side・マナ
私はフライングを使い、プリムと共にウイング・オブ・オーダー号から飛び立った。
視界には自在に空を飛びながら、キメラに騎乗した魔族と戦うリッターの姿が映っている。
空戦部隊は約300騎程で、迎撃に当たっているリッターは200人ぐらいかしら。
魔族側は、魔族としての能力に加えてキメラも加わっているから、もしかしたら単独だとあちらの方が実力は上かもしれないけど、こちらはスカファルディングを駆使している分、あちらのキメラより小回りが利くこともあって、戦況はやや優勢といったところね。
とはいえ、あちらの戦力はGランクやPランクモンスターに騎乗したノーマルデーモンやハイデーモンだから、一瞬でも劣勢になったら、そのまま押し切られるかもしれない。
エンシェントオーダーも10人ほどいるけど、だからこそ対抗できていると言えるわ。
だからといって、無駄な犠牲を強いる必要はない。
私は新しく開発した固有魔法サウザンド・ストリームを放ち、キメラの翼を穿つ。
サウザンド・ストリームは、風属性魔法、氷属性魔法、雷属性魔法を融合魔法で束ねて矢と成し、撃ち出す魔法よ。
作り出せる矢の数は約1,000本で基本は撃ちっ放しだけど、念動魔法で数十本単位を1グループとして、最大4グループまでなら自在に操ることもできるから、追尾性も高く味方への誤爆も防ぐことができるようになってるわ。
さすがに慣れてないから、敵味方が入り乱れる戦場じゃ使いにくいんだけど、リッターは迎撃を優先しているから、突出するようなことはしていない。
だから私は遠慮なく、まだ距離のある魔族を狙っているの。
とはいえ私のサウザンド・ストリームの中を、構わずに前に出て次々と魔族を倒しているプリムには、少し呆れるけどね。
まあ私も、プリムに当てないように気を遣ってるんだけど。
「ルナ達がいれば、もう少し楽できたんだけどね。まあ、仕方ないんだけど」
今回の行軍では、従魔や召喚獣達は、誰も連れてきていない。
その理由は、従魔や召喚獣の多くはCランクモンスターだから、戦いについてこられないと判断されたからよ。
私の召喚獣達はSランクやGランクになってはいるけど、それでも厳しいのは間違いない。
大和のジェイドや真子の白雪はMランクに進化しているけど、魔族の相手をするのは難しいでしょうし、キメラの存在まであった以上、その判断は正しかったと思う。
ただそのせいで、私のような召喚魔法士は戦力ダウンしちゃってるのよ。
選抜されたリッターはそれも考慮されてるから、参加している召喚魔法士は私と真子以外だと、ハンターに数人いるぐらいなんだけどさ。
せめてもの救いは、グラーディア大陸への親征には従魔を連れて行かないことを、事前に聞かされていたことね。
だから私も真子も、召喚魔法に頼らない固有魔法を完成させることができたし、おかげで戦力の低下も最低限で済ませることができたわ。
「さて、それじゃあ私も、そろそろ前線に出るとしましょうか!」
サウザンド・ストリームでそこそこ落としはしたけど、まだ魔族もキメラも150騎はいる。
プリムが最前線で飛び回ってるから、私は後方で援護に徹してもいいんだけど、それに関しては真子の方がずっと上手くできるし、私も本領は接近戦だから、ここは前に出させてもらうわ。
ウイング・バーストとフェザーリング・ウインドを同時に展開し、フレアエッジ・ソードを構え、フライングを使って飛翔を開始する。
丁度目の前にトライヘッド・ワイバーンに乗った魔族がいるから、フレアエッジ・ソードに魔力を流して連接を解除した。
多節剣フレアエッジ・ソードは、剣であり鞭でもある。
剣として使うには強度が足りないけど、それはマナリングを行うことでカバーできるし、エレメントクラスの魔力なら、終焉種相手でも十分な殺傷力を発揮してくれるわ。
だからキメラとはいえPランクモンスター相手なら、それだけでも十分に斬り裂ける。
事実として目の前のトライヘッド・ワイバーンの首を、2つ纏めて斬り落とすことに成功し、乗っているハイデーモンも左腕がかろうじてつながってる程度のダメージを与えているわ。
「があああっ!」
「あなた達にかける慈悲はないわ。恨むなら世界の理を乱した神帝、そしてその神帝に組した自分自身を恨みなさい」
そう告げてから、私は左手からウインド・ランスを放ち、ハイデーモンとキメラを纏めて吹き飛ばした。
魔族はヘリオスオーブに存続に多大な害を与える存在である以上、相手が誰であれ、場所がどこであれ、倒すという選択肢しか存在していない。
ましてやグラーディア大陸、アバリシア神国という敵国の兵である以上、そこに慈悲はもちろん遠慮も一切存在しないわ。
目の前のハイデーモンを倒した私は、次の魔族を倒すべく、フレアエッジ・ソードに魔力を込め、再び空を舞うことにした。
Side・プリム
熾炎の翼とウイング・バーストを纏い、フレア・ペネトレイターを使いながら、あたしは空を自在に飛び回る。
進路上にいるキメラを、騎乗している魔族ごと貫きながら。
指揮官クラスの魔族達は、既に真子のミーティアライト・スフィアで倒されているから、あたし達がやってることは残敵相当に近いけど、魔族達には撤退する様子が見られない。
まあ魔族は、存在しているだけでヘリオスオーブを滅亡に導く神敵に認定されてるから、倒すことに問題はないけどさ。
それに撤退しない理由も、どうせ神帝に処刑されるとでも思ってるからでしょう。
魔族からしてみたら、行くも地獄退くも地獄ね。
望んで魔化結晶を取り込んで魔族になったんだろうから、同情はしないけど。
「プリムローズ様っ!」
ウイング・オブ・オーダー号に接近してきていた魔族を一通り倒した後、一度フレア・ペネトレイターを解除したんだけど、どうやらそこは、丁度ビースターが割り当てられた空域だったらしい。
しかもあたしに声をかけてきたのは、元ハイドランシア公爵家の獣騎士だったから、こんな偶然もあるのかって少し驚いたわ。
「あんた達は戦線を維持しといて!あたしはこのまま、魔族を倒して回るから!」
「はっ!ご武運を!」
そのビースターに指示、というか戦線維持をお願いしてから、あたしは再度フレア・ペネトレイターを纏い、魔族の乗ったキメラに向かって突っ込んだ。
何体目かのキメラを魔族ごと貫いた後に思ったことだけど、やっぱり魔族は、騎獣を使わないと空を飛ぶことができないみたいね。
神帝は刻印術師だから、フライ・ウインドっていう刻印術を使えば空を飛べる。
だけど真子は、フライ・ウインドは管理が厳しく、神帝みたいな犯罪者は習得資格は剥奪されているから、おそらく使えないだろうって考えているわ。
その証拠になるかは分からないけど、リネア会戦どころか30年前の戦いでも、神帝が空を飛んだっていう話は無い。
それでいてドラゴンの隷属やキメラの製造に力を入れているように感じられるから、真子の予想は当たってると思う。
「って言っても乗ってるのはハイデーモンだし、地上に落とすだけじゃ死なないでしょうから、倒すとしたらキメラごとっていうのに変わりはないけど」
「確かにね。それに地上に向かったルディア達の邪魔になるかもしれないから、確実に倒すべきだわ」
来たのね、マナ。
いえ、横目で新しい固有魔法を使ってるのは見てたから、あたしも巻き込まれないように注意はしていたわ。
だけどマナの固有魔法サウザンド・ストリームは、あたしのフレア・ニードルやセラフィム・ストライクと同じ遠隔攻撃用の魔法でもあるから、前に出てくるとは思わなかったわね。
まあ、元々マナは多節剣を使う剣士でもあるから、前に出ることを好んでるし、時間の問題だったとも思うけどさ。
「同感ね。じゃあ、あんまり時間をかけても仕方がないし、一気に行くとしましょうか!」
「賛成よ!」
相手は魔族。
フィリアス大陸を支える12本の宝樹どころか、ヘリオスオーブを支える柱である天樹さえも蝕む、神々ではなく人の手によって生み出された、存在を許されない存在。
ヘリオスオーブを守るため、ツバキ達の未来を掴むため、そして大和と一緒に生きていくためにも、この戦い、絶対に勝つわよ!
そんな決意とともに、あたしは熾炎の翼にさらに魔力を流し、エレメントフォクシーに進化した際に授かった光属性魔法も重ねた。
半年前の迷宮攻略中に完成させたこの羽纏魔法は、あたしの髪や体毛と同じ白銀の炎になっているから、あたしは白炎の翼と呼ぶことにしたわ。
魔力の消耗は激しいけど、白炎の翼の翼を纏った新しいセラフィム・ペネトレイター、命名シルバーレイ・ペネトレイターは、現時点であたしの最強魔法と言っても過言じゃない。
「この白炎に触れたら、魔族ごとき一瞬で燃え尽きるわよ?それでもいいなら、どこからでもかかってきなさい!」
Pランク辺りまでの魔物でも簡単に焼き付くせることは確認済みだから、別に魔族に特別効くっていうワケじゃないけどね。
だけど白炎の翼を見た魔族は怯んでるし、時間をかけるつもりもないから、宣言通り一気に行かせてもらうわよ。
あたしは白炎を纏ったクリムゾン・ウイングを構え、白炎の翼とウインド・バーストを全開にし、エンビディアの空を舞った。




