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ヘリオスオーブ・クロニクル(旧題:刻印術師の異世界生活・真伝)  作者: 氷山 玲士
第六章・竜の国の迷宮

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雪原の竜

Side・アテナ


 ボク達は2時間ちょっとで、第5階層の湿地帯を攻略した。

 魔物に襲われた回数は3回ぐらいだったから、ちょっと拍子抜けだったよ。

 いや、襲ってきたのはレッサー・ドラグーン4匹だったから、拍子抜けってことはないんだけどさ。


 そのレッサー・ドラグーンは、最初の1匹は大和が攻撃を引き付けてる間に、ボク、ユーリ様、アプリコット様、マリサ、ヴィオラ、ユリアが魔法を放って、ルディアがエーテル・バーストを使いながら、弱点だっていうお腹に強烈な一撃を加えて、エオスがプリムから借りた試作翡翠合金斧槍っていう槍をお腹に力一杯叩き付けてトドメを刺した。

 次に出てきたレッサー・ドラグーンは、プリムが牽制して、ラウスがラピスライト・シールドを使って攻撃をいなしながら、フラムとレベッカが矢を射掛け、エド、マリーナ、フィーナ、キャロルが魔法を放ち、リカ様とミーナの剣がお腹を斬り裂き、そこをリディアがさらに攻撃してトドメ。

 最後は2匹同時に襲ってきたけど、第6階層に降りる直前だったこともあって、1匹は大和が首を斬り落として、もう1匹はプリムがフレア・ペネトレイターで突っ込んで終わっちゃったよ。

 第5階層で遭遇したのはこれだけだから、レベルが上がらなかった人もいるし。

 ボク達は今、第6階層に降りたばかりで、少し休憩してるんだよ。


「レッサー・ドラグーン4匹か。遭遇戦としては悪くない成果だな」

「そうね。あたしや大和は使いにくいけど、普通のハンターには最高級の素材だから、需要がないワケじゃないし」


 そうなんだよね。

 確かレッサー・ドラグーンは、このソルプレッサ迷宮から供給されることが一番多いみたいだけど、ナールシュタットが公爵位を継いでからは、滅多に出回らなくなったってエオスが言ってた。

 年に何度か討伐されてはいるそうだけど、その素材はナールシュタットが取り上げて自分のために使ってるそうだから、ホントにロクでもないよ。


「時間は?」

「3時前ね。次は雪原だから、3時間ちょっとじゃ厳しいわ」

「確かにね」


 今の時期の日の入りは7時近いから、3時間ちょっとかけて第6階層を抜けても大丈夫だと思うんだけど、何か問題があるの?


「日が沈めば気温も下がるだろ?気温が下がると雪が氷ることもあるから、車輪が滑って事故が起こりやすくなる。従魔達も歩きにくくなるしな」


 あー、そっか。

 ウィルネス山も冬には雪が積もることがあるけど、確かに雪が降ると歩きにくいし、朝はその雪が氷ってることもあったよ。

 何度か滑って転んだことがあるから、従魔が歩きにくいっていうのも分かるし、獣車の車輪が滑りやすくなるっていうのもよく分かる。


「第6階層のセーフ・エリアは、分かってる限りじゃ第5階層から降りるとこと第7階層へ降りるとこ、あとはその間に2ヶ所ぐらいあるそうだけど、時間によってはそこで野営した方が良いわね」

「この獣車は外気を遮断していますから、夜の雪原でも問題なく過ごせますしね」


 マナ様の言うようにソルプレッサ迷宮のセーフ・エリアは、第4階層までは何ヶ所か判明してるんだけど、第5階層以降はハンターが降りてこないこともあって、ほとんど分かってない。

 ボク達も攻略を優先してたから、第5階層も新しく見つけたセーフ・エリアは1ヶ所だけだったんだけど、そこ以外は全く分からない。

 それにフィーナが言うように、この獣車は外気を遮断出来るように魔法が付与されてるそうだから、第6階層のセーフ・エリアで野営をしても寒さに震えるようなこともないから、無理して第7階層に降りなくてもいい気もするよ。


「今日中に第7階層に降りれれば、明日の探索も時間が取れるからな。とはいえ、無理をするつもりもないが」


 明日のためかぁ。

 確か守護者ガーディアンの間は第7階層の中心部にあるってことだけど、島を3つぐらい越えた先らしいから、そんなに遠くはないんだって。

 だけど島の数は10以上あるから、大和やプリムはできるだけ多くの島に行ってみたいみたい。


「というかよ、別に今日中に降りなくても、明日は第7階層に費やして、守護者ガーディアン討伐は明後日でもいいんじゃねえのか?」

「素材を手に入れるんなら、そっちの方が良いよね」

「それに守護者ガーディアンを倒せば、地上に戻るための魔法陣が出てくるって話ですから、帰りの心配をする必要はないんじゃありませんでしたか?」


 エド、マリーナ、フィーナはクラフターだから、希少な素材はできるだけ手に入れておきたいみたい。

 特に(ミスリル)ランクモンスターのドラグーンは、大和達が今着てるクレスト・アーマーコートを仕立て直すために使うし、ボクやエオスの分もそれを使ってくれることになってるから、ボクとしてもそっちの方が良いんじゃないかと思うな。


「あたしもそっちの方が良いと思うんだけど、レティセンシアの動きも気になるし、バリエンテのこともあるから、あんまり時間を掛けるのもどうかと思うのよ」

「確かにね。だけど入る前の状況じゃ、レティセンシアが兵を挙げるとしても、おそらく春になるでしょうし、バリエンテ、というかレオナスが動きをみせたとしても、肝心のプリムがいなきゃどうすることもできないと思うわ」

「プリムお姉様がいても、どうにもなりませんけどね」


 プリムはレティセンシアとバリエンテの動きを気にして、早く出るべきだって思ってるけど、マナ様はレティセンシアが動くのはもう少し時間が掛かるって思ってるし、バリエンテの方はプリムがいないと話が進まないって考えてる。

 ボクもその話は聞いてるけど、レオナスっていうバリエンテの元王子は女癖が悪く、ドラゴニアンからも良い感情を持たれてない。

 そのレオナスはプリムを狙っていて、プリムがアミスターでエンシェントハンターになったことを知ったら、どんな手を使ってくるか分からないって聞いている。

 だけどそのプリムは、アミスターの(オリハルコン)ランクオーダーになった大和と結婚してることが公表されてるから、レオナスがプリムに手を出すと、それはそのままアミスターに手を出すことになるそうだから、仮にレオナスが動きをみせても、プリムがいようといまいと、結果は変わらないってユーリ様は言ってるんだ。


「俺もマナやユーリの言う通りだと思う。仮にレオナスが動いたりしたら、その時は俺が潰すだけだしな」

「確かに大和が動けば、反獣王組織がどれほどの組織でも、簡単に吹き飛ぶよね」


 うん、ボクもそう思うよ。


「そういう訳だ、プリム。(ミスリル)ランクモンスターなんて滅多に狩れないんだから、この機会に狩れるだけ狩っておかないか?」

「確かにバリエンテもレティセンシアも気になるけど、どっちも行動を起こすのにそれなりに時間が掛かる、か。分かったわ。せっかくだし、狩れるだけ狩りましょう」


 プリムもやる気になったみたいだ。

 ということは、今晩は第6階層か第7階層のセーフ・エリアで野営して、明日は第7階層で狩り。

 そして明後日攻略して、地上に戻るってことになるのかな。

 地上に戻ったらドラグニアの竜王城に迷宮核ダンジョンコアを献上しなきゃいけないから、場合によってはもう一晩夜営することになるかもしれないけど、それは大和やプリム、マナ様が判断してくれるかな。


Side・大和


 休憩を終えて、俺達は第6階層の攻略を開始した。

 道に雪はないし両側は雪の壁だが、道幅はけっこう広いから、普通なら魔物が襲ってきてもいいんだが、一向にその気配がない。


「話には聞いてたけど、本当に第5階層以降って魔物の襲撃が少ないね」


 御者をしてる俺の隣に座ってるルディアがそんなことを言うが、確かにそんな話は俺も聞いている。

 それでも道を進む獣車なんて目立つんだから、魔物だって気が付いてもおかしくはないんだがな。


「少なすぎだろ。いや、だから第7階層が最下層だってことが分かったようなもんだから、悪いって訳でもないんだろうが」


 第7階層が最下層だってことを突き止めたハンターは、第5階層以降はほとんど魔物と出くわさなかったって聞いている。

 全員がワイバーンと従魔契約を結んでたってこともあるんだろうが、襲われてもセーフ・エリアに逃げ込むことで、戦いを避けてたらしい。

 だけど第7階層には(ミスリル)ランクモンスターしかおらず、それどころか(アダマン)ランクモンスターもいたって非公式な記録まであるそうだから、守護者ガーディアンの間を確認してすぐにエスケーピングで撤退したって話だな。


 エスケーピングは狩人魔法ハンターズマジックの1つで、迷宮ダンジョンから脱出するための魔法だ。

 使い方によっては魔物の群れからでも逃げることができるため、迷宮ダンジョンに入るハンターには必須の魔法になっている。

 もちろん迷宮離脱用の魔法だから、再突入は第1階層からになるし、迷宮ダンジョン内じゃ長距離転移魔法トラベリングは使えないらしいが。


「それにしても、この雪原ってすげえな。さっきのとこなんて、道の両サイドは雪の壁だったぞ」

「ですね」


 第6階層を進んで30分程経つが、確かにこの階層はすごい。

 エドとキャロルが驚いているように、つい5分ぐらい前までは、両サイドが5メートル近くある雪の壁だったからな。

 日本にもあるが、そっちは確かブルドーザーとかを使ってたはずだ。

 大谷だったか?

 だけどここは迷宮ダンジョンが、道が雪に埋もれないようにしてるらしいから、足元に雪が残ってるようなことはない。

 時々崩れたりはするらしいが、その程度だ。

 ちなみにこの雪壁、セーフ・エリアから続いてることもあって中に魔物が潜んでることはないし、獣車がすれ違えるぐらいの幅しかないから、大型の魔物が襲ってくることはないらしい。

 小型の魔物は襲ってくるが、第6階層ともなると大型の魔物がほとんどだから、ここまで来れば逃げ切れることも多いって話だ。


 その雪壁エリアを抜けると、見渡す限りの雪原が広がっていた。

 山や森、湖まで見えるな。


「さすがに広いわね」

「だけどこの雪の壁がセーフ・エリアの目印になってるそうだから、探すのは難しくなさそうだわ」


 プリムとマナが話してるように、第6階層のセーフ・エリアや第7階層への入り口は、雪壁のあるエリアに繋がってるらしい。

 魔物のランクは上がってるが、探索の難易度は下がってる気がするのは俺だけか?

 いや、雪原なんだから、難易度が低い訳がないんだが。


「別にそんなことはないわよ。それに雪の壁に魔物が潜んでることはなくても、小型の魔物が襲ってくることはあるんだから」

「そうですね。確かスノー・ラプトルとホワイティクスがいたはずです。どちらも人間より少し大きい程度ですが、すごく足が速い魔物ですから、逃げるのも難しいですよ」


 スノー・ラプトルとホワイティクスか。

 確かにどっちも(プラチナ)ランクだが、上位種のスノー・ラプトルと違ってホワイティクスは希少種だったはずだ。

 ただどちらもバトル・ホースより速いって話だから、襲われたら逃げるのは難しいな。


 もっとも、そいつらより厄介なのは、やっぱりドラグーンだが。

 こんな感じの。


「大和さん!上空からドラグーンが!」


 ミーナも気が付いたか。


「わかってるよ」


 あれはレッサー・ドラグーンの上位種で、スノー・ドラグーンだな。

 ドラグーンのランクは少々複雑で、このスノー・ドラグーンみたいに属性系の名が付いたドラグーンは(ミスリル)(アッパー)ランク、色名を冠したドラグーンは(ミスリル)(レア)ランクになり、(プラチナ)ランクはレッサー・ドラグーンしかいない。

 この第6階層に出るって話はなかったんだが、そもそもドラグーンはレッサー・ドラグーンが属性を帯びて進化したって言われてるから、この雪原階層なら生息してても不思議じゃないってことなんだろう。


「っと!あんまり考えてる余裕はないな」


 そのスノー・ドラグーンは、上空からいきなりスノー・ブレスを吐いてきやがった。

 ニブルヘイムを展開させることで防いだが、さすがに(ミスリル)ランクモンスターだけあって、けっこう大変だったぞ。


「あたしが落とすわ」

「頼む」


 言うが早いか、プリムが極炎の翼(フレア・ウイング)を纏って、スノー・ドラグーンに向かって飛び出した。


「早いわね。だけどあんなとこにいたんじゃ攻撃も届きにくいから、落としてくれるならありがたいわ」

「私とレベッカのレベルじゃ、さすがに(ミスリル)ランクモンスターに攻撃は通りませんからね」


 ルディアは固有魔法スキルマジックを含めて完全な近接戦闘型だし、フラムとレベッカはまだハイクラスに進化してないから、レッサー・ドラグーン相手でも攻撃が通らない時があったからな。

 とはいえそのレッサー・ドラグーンとの戦闘で、フラムとレベッカはレベルが上がってるんだが。

 そのフラムとレベッカ、それからミーナが進化できるかもだから、今回はこの3人にマナとアテナってことにしておこう。


「プリムが叩き落したら俺が引き付けるから、フラムとレベッカが矢を射掛けて牽制して、隙をついてマナ、ミーナ、アテナは攻撃してくれ」

「わかりました」

「頑張りますぅ」

「はい!」

「うん!」

「了解よ」


 ハイクラスのマナでなければ、スノー・ドラグーンに有効な攻撃は出来ないだろうが、レベルを上げることが目的だから、おそらく大丈夫だろう。


「落ちてきました!」


 リディアの声で上空を見ると、スノー・ドラグーンの片翼に穴が空き、さらには燃えていた。

 ドラグーンに限らず、ヘリオスオーブの魔物は空を飛ぶ際、自身の魔力を使っている。

 だけど翼は風を掴んだり方向を変えたりするために使ってるから、翼がないと空を飛べなくなるっていうのも間違いじゃない。

 その翼の片方が使い物にならなくなってるんだから、あのスノー・ドラグーンは飛べなくなったってことだ。

 しかもプリムは、獣車から離れた所に叩き落してくれたから、獣車にいるみんなに被害が及ぶこともない。


「リディア、ルディア、ラウス。悪いがしばらく獣車を頼んだ」


 ハイクラスの3人に獣車を任せるが、さすがに(プラチナ)ランクや(ミスリル)ランクモンスターが相手だと、3人じゃ厳しい。

 だからそっちにも、しっかりと気を配っておかないとな。


「大和、あたしはどうする?」

「フラムとレベッカのフォローをしながら、獣車を気に掛けててくれ」


 スノー・ドラグーンを叩き落したプリムが、俺に指示を求めてきた。

 プリムのレベルは第5階層のレッサー・ドラグーンを倒したことで69になっているが、ソルプレッサ迷宮に入ると決めてから、プリムのレベル問題は棚上げされている。

 最下層は(ミスリル)ランクモンスターの巣、第5階層や第6階層でも(プラチナ)ランクモンスターがうようよしてるんだから、プリムにも戦ってもらわないと何が起こるかわからないし、俺の負担が大きすぎるって、みんなはもちろんプリム本人からも言われているからな。

 それにフロートやドラグニアはもちろんフィールでも情報統制はされているはずだが、プリムがエンシェントフォクシーに進化したことはフィールの人なら誰でも知っているから、そこから漏れる可能性だって無い訳じゃない。

 もっとも漏れた所で、生存だけじゃなく俺との結婚も公表されてるから、手出ししてくるようなら潰すだけだが。


「了解。本格的な戦闘は、第7階層まで取っておくわ」


 少し残念そうなプリムだが、気持ちは分からなくもない。

 俺もプリムも、まともに戦ったのはレッサー・ドラグーンだけだからな。


 今回ソルプレッサ迷宮に来た理由は、攻略、(ミスリル)ランクモンスター素材の入手の他にも、みんなのレベルを上げ、可能ならば進化させることも含まれている。

 なにせハイクラスに進化すると50年、エンシェントクラスに進化するとさらに100年寿命が伸びるんだから、できることならみんなにもハイクラス、エンシェントクラスに進化してもらいたいっていう思いがあるんだよ。

 俺とプリムはエンシェントクラスだから、レベルも加味すると270年ぐらいは生きられる。

 だけど他のみんなは、ドラゴニアンのアテナ以外は100年も生きられない。

 ハイクラスのマナ、リディア、ルディアでさえ、150年ってところだろう。

 みんなとは1日でも長く一緒に過ごしたいから、そのためならいくらでも協力するってもんだ。

 ドラゴニアンのアテナだけはどうにもならないが、その分俺が長生きできるようにレベルを上げれば、と思ってる。


 だからといってみんなに無理をさせるつもりもないから、怪我しないようにしっかりとフォローしないとな。


 プリムに片翼を燃やされて落ちてきたスノー・ドラグーンは、地面に激突して少し目を回してたようだが、すぐに復活した。

 だが俺はその隙に、火性A級広域干渉系術式ジュピターを展開させ、さらに騎士魔法オーダーズマジックアレスティングを使い、スノー・ドラグーンの動きを止める。


「よし、いいぞ!」

「はい!」


 俺の合図で、フラムとレベッカが矢を放った。

 相手が相手だから、アイス・アローはまず効果がない。

 だから2人にとっては苦手なファイア・アローを使ってるが、2人ともムスペルヘイムの中にいるから、ファイア・アローに干渉することで、威力を底上げする。


「ギャウアアアアアアアアアアアッ!!」


 さすがに鱗を突き破ることはできなかったが、プリムが穴を空けた翼に何本か命中し、スノー・ドラグーンが悲鳴を上げた。


「せえいっ!」

「たああっ!」


 その隙をついてミーナとアテナが突っ込んで、前足を斬り付ける。

 残念ながら無傷だが、2人は諦めずに同じ場所に攻撃を続けているな。

 お、マナが参戦してラピスウィップ・エッジで前足を斬り付けたおかげで、ミーナとアテナの攻撃も通りやすくなったか?


「そこです!」


 スノー・ドラグーンがマナ、ミーナ、アテナに気を取られた隙に、フラムがラピスウイング・ボウに、今までにない程巨大な水の矢を番えた。

 矢っていうより短槍だな、あれは。

 スノー・ドラグーンに氷属性魔法アイスマジックは効果が薄く、水属性魔法アクアマジックも有効かは分からないが、フラムはウンディーネっていう種族柄、水属性魔法アクアマジックが最も得意だから使ってるんだろう。

 あれはフラムが開発してた固有魔法スキルマジックか。

 なら援護しないとだな。


「『タイダル・ブラスター』!」


 フラムの固有魔法スキルマジックタイダル・ブラスターは、水属性魔法アクアマジックで作り出した矢に雷属性魔法サンダーマジックを纏わせ、さらに風属性魔法ウインドマジックで渦を巻くようにして巨大な矢を放つ魔法だ。

 水は雷を通すから、水の矢が命中すると漏れなく感電し、大きなダメージを負うことになる。

 しかもその水の矢は、風属性魔法ウインドマジックで螺旋回転を加えられているから、貫通力も高い。

 さすがにまだ進化してないフラムの一撃が(ミスリル)ランクモンスターに通用するとは思えないが、タイダル・ブラスターは俺がアドバイスをしていた魔法でもあるから、何をどうすればフォローできるかはわかる。

 ジュピターを展開させてるから水系の刻印術を重ねるのは難しいが、刻印術じゃ雷は火属性に分類されてるから、俺はジュピターをタイダル・ブラスターに干渉させることで、雷属性魔法サンダーマジックの威力を上げることにした。


「グギャオオオオオオオオオオオッ!!!」


 フラムが狙ったのはスノー・ドラグーンの首だが、見事に命中し、スノー・ドラグーンの鱗を貫通した。

 刺さった矢は水の矢でもあるからすぐに飛び散ってしまったが、スノー・ドラグーンの首元は水で濡れ、ジュピターの干渉で威力を増した雷属性魔法サンダーマジックがダメージを与えている。


「はあああっ!」


 さらにミーナが、シルバリオ・ソードに土属性魔法アースマジックで巨大なメイスを模り、火属性魔法ファイアマジックを纏わせ、横から叩きつけた。

 ミーナの固有魔法スキルマジックメイス・クエイクか。

 こちらは援護が遅れてしまったが、3メートル近い大きさのメイスで横殴りにされたスノー・ドラグーンは、わずかに吹き飛びはしたものの、倒れはしていない。

 それどころか、吹き飛ばしたミーナに怒りの視線を向けてすらいる。


「たあっ!なっ!?」


 そこをマナが、スターリング・ディバイダーで首を斬り付けた。

 巨大な剣だからスノー・ドラグーンも避けきれないんだが、それが分かってたかのように首に魔力を集中し、スターリング・ディバイダーに耐えやがった。

 スノー・ドラグーンはスターリング・ディバイダーで斬り付けたマナじゃなく、メイス・クエイクで殴りつけてきたミーナに向かって、大きな顎を開いてやがる。


「させるかっての!」


 当然だが俺がそんな真似を許すはずもなく、アイスエッジ・ジャベリンをスノー・ドラグーンに向かって放つ。

 今回はミスト・ソリューションを発動させてるから、雪だろうが氷だろうが溶かしてくれる所存だ。


 アイスエッジ・ジャベリンはあっさりとスノー・ドラグーンの鱗を貫き、発動させていたミスト・ソリューションで血液を溶かされて力なく倒れた。

 それでもまだ息があるみたいだな。

 魔物も無意識レベルで身体強化、魔力強化をしているとはいえ、ここまで弱ってれば効果も落ちてるはずだ。


「ミーナ、フラム。もう一度だ!」

「はい!」

「わかりました!」


 ミーナが再びメイス・クエイクを展開させ、そこにジュピターを干渉させることで、溶岩の戦槌と化す。

 そのメイス・クエイクを両手で持ち、ミーナは力一杯、スノー・ドラグーンの頭に向かって叩き下ろした。

 衝撃で長い首が鞭打つように跳ねたが、それでも頭部は原型を保ってやがる。

 だがフラムのタイダル・ブラスターが、スノー・ドラグーンの眉間に突き刺さった。

 さっきと同じくジュピターで威力を増した雷属性魔法サンダーマジックが、今度は直接脳に流し込まれてるから、さすがにどうすることもできまい。


 案の定、スノー・ドラグーンは二度と動かなくなった。

 俺が援護したとはいえ、ミーナとフラムの固有魔法スキルマジックも良い感じに仕上がったし、しっかりと倒すこともできたんだから、結果としては上々だな。

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