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妹と妹の親友の秘密

「は、はぁ……あなたは私の親友のひおちゃんで……この間、異世界に召喚されて? 勇者として魔王を倒して、1週間前にこっちの世界に帰ってきた……ということですか」


「うんうん! そだよー! くんくん……ふわぁ、ポメちゃんの匂いだぁ! ぎゅーっ!」


 俺の背後に隠れていた誉ちゃんを発見した火音は、目にも止まらぬ速さで誉ちゃんを捕まえ、そのまま抱き締めてしまった。

 そのあと、匂いを嗅ぐやら頬と頬を擦りつけるやら火音はやりたい放題だ。


「……あぅ」


 火音に背後から抱き締められ、髪の毛の匂いを嗅がれている誉ちゃんが、俺に死んだような目を向けて来る。

 その視線から『何かヤバイ人がヤバイ事を言いながら自分の親友を騙ってるんですけど……たすけて』と助けを求めるものを感じた。

 その道は俺も1週間前に通った道だ。


「火音、ちょっと誉ちゃんと2人で話をしたいんだが」


「えぇー! 何で? せっかく4年ぶりにポメちゃんに会えたのにぃ……もっと、ポメちゃん分を補給したいよぉー!」


「後で好きなだけ補給してもいいから」


「お、お兄さん!?」


 誉ちゃんが裏切られたような表情を浮かべた。


「うーん、でもぉ……」


「ほらテレビで警察24時の再放送やってるから見とけ」


「わーい! みるみるー!」


 警察24時に目がない火音は、誉ちゃんを解放しテレビ前にあるソファに飛び込んだ。

 これで暫くは時間を稼げるはずだ。


「誉ちゃん大丈夫か?」


 へたり込んだ誉ちゃんに手を伸ばす。


「うぅ……な、何なんですかあの人? 自分のことをひおちゃんだって。あ、頭のおかしい人なんですか? ……で、でも何となくひおちゃんの面影があるような……喋り方もひおちゃんっぽいし……」


 警察24時を見て興奮している火音を、怯えた表情で見る誉ちゃん。

 俺はそんな誉ちゃんを安心させるように、彼女の肩に手を置いた。


「……マジなんだ」


「は、はい?」


「あれな。……マジで火音なんだ」


「お、お兄さんまで何を……」


 絶望的な表情を浮かべる誉ちゃん。

 確かに気持ちは分かる。ヤバイ人が自分の親友を騙ってると思ったら、その親友の兄までヤバイ事を言い出したのだ。

 圧倒的アウェー感に絶望するのも分かる。

 だが――事実なのだ。


「いいか誉ちゃん。アイツはマジで火音なんだ。異世界で4年を過ごして、帰ってきたらあんなにデカくなってたんだ。信じられないかもしれないが、マジなんだ」


 ちゃんと伝わるように、真剣な表情で誉ちゃんに語り掛ける。

 心の底から本気で語り掛ければ、どんな言葉だって伝わるはずだ。


「はぅ……お、お兄さん……ほ、本気ですか……本当に、本当にあの人がひおちゃんだって……そう、言うんですか?」


 真剣さを伝える為に出来るだけ顔を近づけたせいか、ちょっと頬を赤くした誉ちゃん。

 俺は敢えて言葉では語らず、ただ首肯するのみで返答した。


「お兄さんの目……嘘は言ってない、みたいです」


 よし。やっぱり誠意をもって伝えれば、どんな荒唐無稽な話だって信用されるんだ。

 よーし、これで親への説明も気が楽になったぞ。今日にでも電話するか。


「う、うん……ど、瞳孔も開いてないですし、呂律もちゃんと回ってる。うん、変な汗も……かいてないです。ほ、本当に素面であの人がひおちゃんだって言ってる……完全にそう思い込んでる」

 

「誉ちゃん?」


「は、はい! だ、大丈夫です! お、お兄さんは大丈夫ですから! ……わ、私のパパがいいお医者さんを知ってるので! 紹介します! わ、私も責任を持って最後まで付き合いますからっ!」


 安心させるように俺の手をギュッと握ってくる誉ちゃん。

 その目には薄っすら涙が浮かんでいる。

 俺を完全に頭がヤバイ人だと思っているらしい。

 ……親への説明はもっと後にしよう。


「ちゃ、ちゃんと……側で支えますっ。も、もしお兄さんが正気に戻ったら……そ、その時は私と……!」


「よし1回待とう誉ちゃん。君、完全に誤解してるわ」


「そ、そうですよね! け、結婚はまだ早いですよね!? と、とりあえず婚約から……!」


 うーん、埒が明かない。

 この状態でどうやって誉ちゃんを納得させるか……俺がいくら説明しようが、完全に頭がおかしいと思われるだけだ。

 話せば話すほどドツボにハマっていく気がする。



「――ふっふっふ、お困りのようだね、おにーちゃん」


「お前のせいでな」



 何やら不敵な笑みを浮かべながら、俺たちに近づいてくる火音。

 テレビを見るとCMになっていた。あまり時間稼ぎにならなかったようだ。


「ポメちゃんがお兄ちゃんの話を信用してくれない……ってところかな?」


「ああ、そうなんだが……え、聞いてたのか?」


「うん。テレビ見ながら」


 かなり小さい声で話し合ってたはずなんだが。


「わたしめっちゃ耳いいからね。ほら、ダンジョンの攻略とかに必要だから、ちょっとした物音でも聞き分けられるようにめっちゃ鍛えたんだー。凄いよ今のわたし? 本気出したら100メートル先に落ちた針の音も聞き取れるからね」


「凄すぎて軽くキモイわ」


「えへへ」


 褒めたと思ったのか照れくさそうに笑う火音。

 火音が近づいてきたことで、誉ちゃんは再び俺の背中に隠れてしまった。


「お、お兄さんっ……と、とりあえず警察を呼ぶのでっ、話はそれからゆっくり私の家でしましょうっ」


 不審者いもうとを通報しようとする誉ちゃん。

 マジで通報されたら火音の状態やらで、結構ヤバイ事態になるのだが、それでもなおも不敵に笑う火音。

 

「ふっふっふ……任せてお兄ちゃん。ちゃーんと考えがあるから。パツイチでポメちゃんに、私が私だって信用させる、とっておきの策がね」


「ほんとにぃ?」


 正直信じがたい。火音のトーク力ではとてもじゃないが、誉ちゃんを説得することなど出来ないだろう。火に油やガソリン、TNT爆薬を放り込んで大炎上する結果が見える。


「さ、ポメちゃん。こっちおいでー」


「ひっ」


 火音がニコニコしながらオイデオイデすると、誉ちゃんは震えたまま俺の背中にしがみ付いた。今の誉ちゃんからの心境からすると、恐怖以外のなにものでもないだろう。

 

「もうっ。さっきからずっとお兄ちゃんにくっ付いて……わたしにも構って――よっと」


 火音の姿が消えてたと思ったら、いつの間にか誉ちゃんを小脇に抱えていた。

 遅れて何かが側を駆け抜けていったような風が吹いた。

 

 こ、こいつ……何て速さで動きやがる。

 全く見えなかった。時間でも止められたみたいだ。


「へ……え……はぇ?」


 困惑しているのは誉ちゃんもだった。

 俺の背中にしがみ付いていたと思ったら、いつの間にか不審者いもうとに抱えられていた。

 そりゃ意味が分からないだろう。


「はい、じゃあここに立ってね」


「へ? え? は、はい……?」


 頭が追いついておらず、火音の言う通り、その場に立たせられる誉ちゃん。

 一体何が始まるって言うんです?


「おい、火音。一体何を――」


「まーいいからいいから。ちゃんと見ててね。今から証拠を見せるから」


 証拠?

 火音が火音だっていう証拠? それとも異世界に行っていたっていう証拠か?

 何をする気なんだコイツ。

 あんまりいい予感がしないんだが。こういう時の俺の勘はよく当たる。


「よーし。ポメちゃん、ジッとしててねー」


「は……? え、あの……い、いったい何がどうなって……」


「よいしょー!」


 突如、火音が自分のシャツを捲り上げた。

 腹部、そしてヘソが丸見えになり、大きく育った胸の下部分が露わになる。

 当然のようにノーブラだった。

 

 そして――


「え…………?」


 突然の出来事に完全に固まる誉ちゃん。

 その視線は奇行を働いた火音にではなく――火音の手によって、大きく捲り上げられた自分のワンピースに向かっていた。


 一瞬の静寂の後、誉ちゃんの悲鳴が響く。


「――きゃぁああああああああっ!」


「はいお兄ちゃん」


「正気かお前」


 完全に乱心したとしか思えてない火音の行動に、やっぱりコイツ火音を騙るヤバイ奴なんじゃないかと思ってきた。

 何を思っていきなり、自分と親友の服を捲り上げるのか。

 

「ほら見てみて。ポメちゃんのお腹見て―」


「み、見ないでくださいっ、ひぅっ」


 誉ちゃんには悪いが、もう見てしまっている。

 あまりにショッキングな出来事だったため、正直俺も動揺している。

 目を逸らす前に、誉ちゃんの露わになった体を見てしまった。


 日焼けした小麦色の肌、その下半身には真っ白な下着。肌の色が色だけに、その白さを際立たせている。

 水着を着て日焼けしたのか、下着の周辺の肌は以前見た白い肌のままだった。

 その上にはやはり健康的に日焼けしたお腹。更に上に視線を向けると下と同じようにわずかに白い肌を残した胸部を覆う白いブラ。

 どうやら上下お揃いらしい。質の良さを伺える生地に綺麗な刺繍も施され、とてもお高そうな下着だ。

 下しか、いや下すら履かないこともある火音に見習ってほしい装いだ。


「あぅ……お、お兄さんに見られちゃってるよぉ……なにこれ……夢? うん、そうだ……夢だ、夢に決まってる……あ、そういえばおまじないの本読んで昨日寝る前に、お兄さんの写真を枕の下に入れたっけ……素敵な夢が見られるって聞いたけど、え……? これ、素敵……? う、うーん……シチュ的には無いことも無いけど……もっと、こうお兄さんと2人だけであまーい感じのもにゃもにゃ……」


 小麦色の肌を赤くした誉ちゃんが現実逃避を始めた。

 気持ちは分かる。俺だって見なかったことにして、昼食作りを再開したい。

 

「んもう! ちゃんと見てよ! お腹だよお腹!」


 半ば諦め気味に誉ちゃんのお腹に視線を向けると、ヘソの周りにホクロが3つあった。

 

「ん? これ……」


 どこかで見たことがある配置だ。

 このホクロの位置。

 火音の腹部に視線を向ける。


 そこには誉ちゃんと同じ位置にホクロがあった。

 どうやら2人とも同じ位置に同じ数のホクロがあるらしい。


「どう? 見た? 凄いでしょー? わたしとポメちゃん、同じ所にホクロあるんだよー?」


「そうか」


 だから何だよって言いたかった。

 それがこの現状を打開できる情報なのか。恐らく、この後誉ちゃんは間違いなく警察に通報するだろう。

 そうなると火音は、戸籍上の年齢やらの違いで間違いなく面倒臭いことになる。

 誉ちゃんの証言によっては、俺も未成年を家に連れ込んでアレコレしたことになって、前科を持つことになるだろう。そしてトラウマを抱える誉ちゃん。全員が敗者じゃねーか。


「へ? そ、それ……何で?」


 当の誉ちゃんは懸命にワンピースの裾をグイグイ下ろそうとしながら、驚愕の表情で火音の腹部を見ていた。

 

「それ……ひおちゃんと同じ……そ、それに私も同じだって、ひおちゃんしか知らないはず……」


「2人だけの秘密だもんねー? あ、お兄ちゃんも知っちゃったか。3人だけの秘密に変更!」


 そしてようやく火音は、誉ちゃんのワンピースから手を離した。

 誉ちゃんは慌てて火音から距離をとり、俺の背中に隠れようとして……流石にさっきのを見られて恥ずかしいのか、俺からも少し距離を置いた。


「も、もう意味が分からないよぉ……あ、あなた誰なんです? 何で、私とひおちゃんしか知らない秘密を……」


「だからわたしが火音なんだって。他にも色々知ってるよ? そもそもポメちゃんとお友達になったのだって、このホクロが切っ掛けだったよね?」


 火音は語った。

 水泳の授業で水着に着替える際、誉ちゃんはみんなが教室から出て行ってから着替えていた。

 一番に着替え終わってプールに向かったが、キャップを教室に忘れて教室に戻った火音と遭遇。

 そこで誉ちゃんの腹部を目撃する。

 変な位置にホクロがあることを隠していた誉ちゃんだが、火音によってその秘密はバレてしまった。

 だが……幸運なことに、火音も同じホクロを持っていたのだった。

 運命染みた親近感を覚えた2人は、同じ秘密を共有して、次第に仲良くなっていったのだった。おしまい。


「え、ウソ……ほんとに……あの時のこと……」


「覚えてるよー! 他にも、誉ちゃんが家族と喧嘩して家出をした時のこともちゃーんと覚えてるよ」


「あ、いや、そ、その話は……」


 誉ちゃんの視線が俺に向く。

 慌てた様子で火音の話を遮ろうとするが、構わず火音は喋りだす。


「わたしが誉ちゃんを見つけて、雨の中2人で公園の遊具の中で過ごしたよねー。で、お互いいつまでも親友でいようって。どんな時も助け合うって。三国志の……えっと、あの……劉関と張羽みたいに誓いあったよね」


「う、うん……何か色々まちがってるけど……そう、だね。ひおちゃんにはずっとずっと、助けられて……ひおちゃんがいなかったら私……」


「で、何かの漫画で見た契約? 指と指を切ってくっ付け合う奴やろうとして痛そうだったからやめて」


「そ、そこから先は……!」


「お互いのお腹とお腹を合わせて――」


「わ、分かった。分かったからぁっ! あなたはひおちゃん! ひおちゃんだからそれ以上はやめてっ!」


 もう既に色々と暴露されてしまったが、顔を真っ赤にした誉ちゃんが慌てて火音の口を塞ぐ。

 慎重さのせいか、口を塞ぐことは出来ず、誉ちゃんからハグを求めた形になってしまい、火音がその体を受けとめた。


「ポメちゃんっ! わたしの親友っ!」


「むぐっ、む、胸が……! く、苦しい……!」


 そうしてようやく、親友同士の4年ぶりの会合が果たされたのだった――。

 俺は場の雰囲気に飲まれて感動してしまい、ちょっと涙してしまった。

  

 だけど、別に誉ちゃんの服を捲らなくても、火音が自分のお腹だけ見せて秘密トークをすればよかったんじゃないだろうか……そう思ったが、空気を読んで黙っていた。



■■■



 暫くしてから、上記のことを言ってみたら


「……ひおちゃん。ケーキなしね」


 という罰が火音に与えられて、火音の悲鳴が響いたのだった。


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