25:予言魔術師の死2
私たちは別室で待機させられていた、三人の弟子に話を聞くことにした。
一人目のゼノンは野心家の誉れ高い、自信に満ちた男だった。
「師の予言など、馬鹿馬鹿しい。あれは我々弟子を試すための、ただの狂言だったのですよ。まさか本当に死んでしまわれるとは、私も予想外でしたが……」
彼は師の死を悼む言葉を口にするが、その魔力は抑えきれない野心の炎で揺らめいていた。師の死は、彼にとって自らが頂点に立つための、またとない好機なのだ。
だがゼノンのアリバイは鉄壁だった。彼は予言の後、他の二人、特に錯乱気味だったカシウスを厳しく監視し、「誰も部屋に近づけさせなかった」と証言し、他の二人もそれを認めている。
ゼノンは腕の良い魔術師だ。壁越しに師を殺すだけの魔力を放つのは可能だろう。
が、弟子たちが互いに監視している状況下で実行するのは、相当な困難を伴う。相手を厳しく監視するということは、相手からも注目を浴びるということなのだから。
二人目のエリアーラは師を心から崇拝していたという、唯一の女性弟子だった。
「私が、もっと強くお止めしていれば! あの予言は、何かの間違いだったのです! 先生が私たちを裏切り者だなんて、思うはずが……!」
彼女はただ泣き崩れていた。魔力は純粋な悲しみと、師を守れなかった後悔で深く濁っている。
その悲しみの中に、師を「守りたい」「その伝説を汚させはしない」という、ほとんど狂信に近いほどの強すぎる想いを感じ取り、私はわずかな寒気を覚えた。
しかし彼女は温厚な性格で、戦闘的な魔術は不得手。壁越しに人の心臓を精密に攻撃するような、高度な暗殺魔術を行使できるとは到底思えなかった。
そして三人目のカシウス。才能はあるが極度に気弱で、自己評価が低い青年だ。
「僕が……僕が、裏切り者だと……先生は、そうおっしゃった……。でも、僕は何も……何もしていない……いや、もしかしたら、僕が、無意識のうちに……?」
彼の言っていることは支離滅裂だ。精神を完全に不安定化させており、私たちの質問にまともに答えることができない。
マスター・レオニダスは優れた予言者にして魔術師だったが、弟子にとって良き師匠ではなかったようだ。長年の師からの精神的抑圧が、彼の魂をボロボロにしているのが、私には痛いほどわかった。
賢者の塔に戻った私たちは、書斎の暖炉の前で、事件の奇妙な構造について改めて整理していた。
私の膝の上では、幽霊猫のファントムが丸くなっている。ファントムは人間たちの話し合いに無関心で、ごろごろと喉を鳴らしていた。
「ゼノンには師の地位を奪うという、わかりやすい野心がある。動機としては十分すぎるほどですね。ですが彼のアリバイは完璧すぎる。むしろ彼が厳しく監視していたからこそ、あの完璧な密室が成立したとさえ言える」
私がそう言うと、セオドア様は羊皮紙に書き出した相関図を眺めながら頷いた。
「エリアーラには師の伝説を守るという、歪んだ形での崇拝があった。最近のマスター・レオニダスは、実力に衰えが見えたからな。師がこれ以上醜態を晒す前に、完璧な予言を成就させてその伝説を永遠のものにしたい……という動機は、あり得なくはない。だが」
彼は、取り寄せた宮廷魔術師団の記録を指し示す。
「彼女の魔術師としての記録を調べたが、やはり、あの殺害方法を行使できるほどの高度な攻撃魔術の技量はない。彼女の専門は、あくまで古代ルーン文字の解読と防御術式だ」
「では、やはりカシウスでしょうか。彼は、長年の精神的抑圧から、師を殺したいと願っていてもおかしくはない。師から『お前が私を殺す』と予言され続ければ、追い詰められて、その通りに行動してしまうことも……」
「だが、あんな精神状態で、これほど巧妙な計画殺人を実行できるとは思えん」
と、セオドア様は私の言葉を引き取った。
「それに、アリアーナ。君が彼の魂から感じ取ったのは、憎しみだけではなかったのだろう?」
「ええ……。それ以上に、強い『恐怖』と、師に認められたいという『依存』でした」
全員に動機がある。だが全員に、犯行は不可能。
私たちは迷宮に迷い込んだかのように、出口のない思考を繰り返していた。
「まるで、腕の良い手品師に、まんまと騙された観客の気分ですわね」
私がそう言ってため息をついた、その時だった。
「……手品師?」
セオドア様の青灰色の瞳が、きらりと光った。
「アリアーナ、君は今、重要なことを言った。手品師は観客の意識を偽りの場所に向けさせることで、トリックを成功させる。我々も何か、根本的なことを見誤っているのかもしれない……」
彼の視線は机の上に広げられた、レオニダスの過去の予言記録へと注がれていた。
「我々は、レオニダスの最後の予言が『真実』であることを、無意識のうちに大前提としていた。だが、もしその前提そのものが、手品師の差し出した偽りのシルクハットだったとしたら?」




