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真相を知りました。(4)

「無邪気に僕に話しかける君に、「僕は腹の中ではこんなことを考えている」って。前と同じことを考えながらも、前はあった罪悪感がなくなった。それまでも君のことは好きだったけど、ストッパーがなくなったからかな、もっと強く君が好きだと思うようになった。――――だから、突然の君の()(ほう)に心が付いていけなかった」


 ただ懐かしげに思い出を語っていたリヒト王子が一転、苦しげな表情に変わる。

 彼が絞り出すように言った最後の一言に、私はハッとして目の前にいる彼に意識を戻した。


「菫ちゃんが予約していた『あな届』のファンブックは、僕が買い取ったんだ。なんかさ、君がそのうちひょっこり帰ってきて、予約した本がどうなったかを聞いてくるような気がして。いつでも渡せるように持ち歩いてた。君の名前が書かれた予約票も……ずっと持ってたよ。――まあ、実は僕も割とすぐ風邪をこじらせての肺炎で死んだんだけど。あの本のお陰で僕も君がいるこの世界に来られたのかな」

「そう……だったんだ」


 乾いた笑いを見せたリヒト王子に、私はつかえながら相槌を打った。

 私の方が生きていて理人が死んでしまったなら、やっぱり心が付いていかなかっただろう。それこそ彼がひょっこり帰って来るかと、双子岩で日がな一日過ごしてしまうこともあったかもしれない。

 想像しただけで虚しい。やるせない。本を持ち歩いていたという理人の気持ちが痛いほどわかり、私は切なさで胸が苦しくなった。


「いつだったか、僕が言い掛けて止めた言葉を「秘密」だと誤魔化したよね。あのとき僕は、君が僕のことを好きなんだと気付いて。だからそれを言おうとしたけど、止めたんだ。君自身がそのことに気付いたとき、君はどんな顔をするんだろうって思ったから」


 リヒト王子の表情が幾分か和らぎ、よく見る微笑のそれに変わる。――彼にしては下手な微笑みではあったけれど。


「だから君がいなくなったあの日から、ずっと後悔してた。どうして僕は、いつでも君に好きだと伝えられると思っていたんだろうって。僕が君に好きだと言って、そのときに君の顔がどんな顔をしてくれるのか、そっちを見ればよかったって。ずっと……後悔してた」

「理人は……どうしてヴィオレッタが菫だと気付いたの? 私も前世を思い出したのに、リヒト王子が理人だなんて、全然わからなかった」

「ああ、それ」


 私の問いにリヒト王子はそこで言葉を句切り、そしてくすっと笑った。

 その笑った顔は、ようやくいつもの彼に戻っていた。


「単純な話だよ。四歳のヴィオがもう、菫ちゃんと同じ癖を持ってた。だからずっとそうじゃないかと思ってた」

「癖?」

「そう、癖。菫ちゃんはさ、考えごとをしていると、テーブルとか自分の身体とかを叩く癖があるんだよ。で、それが三三七拍子。どうみても西洋風な顔つきの女の子がそれをやったときには、思わず笑いかけちゃったよ。中身がめちゃくちゃ日本人! って」

「知らなかった……」


 トントントン

 トントントン

 三三七拍子の三三の部分を、リヒト王子が指先でテーブルを叩いてみせる。

 確かにそのリズム、身に覚えがあるような……。


「でも、同じ癖を持っているだけという可能性も勿論あって。だから次に会ったときに、紙風船をヴィオに贈ったんだ。菫ちゃんの家にあったものとよく似たものを見つけたから、これしかないって思って。でも残念ながら、そのときの君は「こんな珍しい物見たことがない」って言った。その後、会う度に日本ぽい物を渡したけど、やっぱり君は「珍しい物」と認識してた。――だから、『陽だまり』のアップルパイを君が用意してくれたときは、本当に驚いたんだ」


 リヒト王子が、自分の食べかけのアップルパイを見下ろす。それから彼は目を(つむ)り、込み上げる感情を味わうかのように一度大きく息を吸い、吐いた。


「君はあのとき僕に、僕がアップルパイを好きだと聞いたと言ったけど、それは有り得ないんだ。だって僕はあの時点で、リヒト王子として生まれてから一度もアップルパイを食べたことがなかったんだから」

「……え?」

「君にヴィオでない記憶があって、『あな届』のリヒト王子の好物を知っていて。そして菫ちゃんと同じ癖があって。――ようやく確信できた。ずっと会いたかった君に会えた。あのときの衝撃と言ったら、言葉では言い表せない。今も鮮明に覚えているよ」

「あ……」


 リヒト王子の『衝撃』という単語に、アップルパイを前に呆然となっていた彼を思い出す。

 私はそのときただ、そんなに大好物なのかとしか思っていなかった。まさかあれがそんな重大出来事だったなんて。


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