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仮面がない

 ない。


 帰宅して玄関の照明のスイッチを押してすぐ、その異変に気付きました。


 仮面がない。


 玄関の壁に掛けてあるはずの増女の仮面がないのです。


 圧。


 なかなかの圧。


 心が不安に漬かりゆく。


 今にも圧し潰されそう。


 一歩。二歩。三歩。僕は自宅の廊下を、足音を立てぬように細心の注意を払いゆっくりと歩きます。


 何故今晩に限って自宅の廊下このように歩くのか、我ながら明確な理由は見出せません。


 体が勝手に、まるで空き巣のような忍び足で僕を歩かせるのです。


 足枷に繋がった鉄球が音も立てずに僕の後ろを付いて来ます。


 リビングの扉を静かに開け、傍らにあるスイッチを押すと、天井のダウンライトが柔らかく点灯します。


 母がいない。


 いつもの時間の、いつもの席に、いつもなら観光地の民芸品店に陳列された陳腐な置物のように座っている母がいない。


 嫌な予感。


 トイレかな? 


 買い物かな? 


 自室で眠っているのかな? 


 咄嗟に安易な憶測をして、真っ向から迫り来る濃霧を払おうと試みます。


 でもそれは悪足掻きというもの。


 ついさっきまで霧の如く漂っていいたその予感は、瞬く間に言語として固体化し、僕の脳内に直立をしました。


 予感。


 母は、僕の部屋で自殺をしている。


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