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第六十九話

 

 戦闘時間は三十分かそこらだったろう。多くの騎士による連携を交えた戦闘は、初めての私には見応えのあるものだった。

 撤退を指示したリーダー格の騎士と数人が殿を引き受け、足早に階層の通路へ引き返していく。

(しかしまぁ、酷い有様だ……。バラバラになった虫とミミズがうじゃうじゃと。こいつら共食いするんだろうか)

 私は現場を見たことがないが、魔物の死骸は迷宮に取り込まれると聞いている。だが死してすぐというわけではなく、一定の時間を置くらしい。不思議なもんだね。今更だけど。

 聖女と一緒に早めに通路まで退避して、考え事をしていた私に向けて可愛いのが飛んでくる。

「ど、どうでしたか!? 私、ちゃんと戦えてましたか!?」

 犬かな? いや、犬は王都の逆ナン少女か。あれは最後に疑惑が生じたけど。

「すごかったよ、びっくりしちゃった。剣も頑張ってたんだね」

 これは本音だ。凄かったしびっくりした。華奢な少女が剣を振り回すなら、ガチムチのお兄さんが術師をやってることもあるのだろう。目の前にいるのがこの娘でよかった。

 抱き付いて嬉しそうにしている聖女ちゃんの頭を撫でながら褒める。何かどんどん犬っぽくなっていくな。ちょっとあせく……いや、言うまい。

「私、元々気力が得意だったんですけど、魔物と戦うのは怖くて……聖女の適性もあったので、聖女をやっていたんです。でもっ、また剣を頑張ってみようって、思って、練習を再開して!」

 何か熱くなってきた。体を動かして戦うと昂るよね、それはよく分かる。……と思う。

「かっこよかったよ。ずっと練習してたんだって分かった。いっぱい頑張ったんだね」

(聖女の適性……二つ持ちとはまた違うのかな? 聖女ちゃんの結界は魔力由来のものだった。近くにいた聖女も魔力を使っていたみたいだから、条件の一つに魔力持ちかどうか、ってのはあるんだろう。その上で何かが必要なのか、あるいは適性という言葉に大した意味はないのか……考えても詮無いことか)

 とりあえずここを出て管理所へ向かいたいが、魔石は宿に置いてある。手元にあるのは……一セットだったら次でもいいか。その前に離れる気配のないこの娘をなんとかしないといけない。

「ほら、まだ修行は続くんでしょ? きちんと休まないとダメよ。皆の所にいってらっしゃい。私も用事があるから帰るよ」

 頬を両手で挟んでむにむにしながら引き離す。名残惜しい。彼女はうーうー言っているが、ここで折れるわけにはいかない。

「では、私はこれでお暇します。お邪魔しました。またね」

 最後に聖女ちゃんに手を振って第二迷宮を後にした。聖女ちゃんも手を振ってくれた。かわいい。


 四層から入り口までは特に代わり映えしなかった。橙石をいくつか取ってみたが、ダチョウよりも小さいものしか取れない。階層ごとの魔物の強さ……魔石の質が共通というわけではないのだろう。紫石も少し小さかった気がするし。

(その内五層以降まで出向かないとダメだな。五層のを一匹潰しておきたかったけど、邪魔はしないって言ったしね)

 迷宮入り口に中年女神官はいなかったが、騎士や神官が入り口周囲に溜まっている。

(こんなところを専有して、邪魔だなぁ……これ他の冒険者から苦情来ないのかな?)

 絡まれない内に離れるに限る。さっさと契約書をまとめてお風呂に行きたい。


 いつもの屋台でパニーノを買い込み、その足で管理所へ向かう。少し臭うかもしれないが勘弁して欲しい。

 仕事をしていた役人に、所長室へ向かうように手振りで指示を受け、直接奥へ向かう。楽でいいなこれ。

 ノックをしてから中に入ると、そこには魔石担当の男も既に待っていた。

「お待たせしてしまい申し訳ありません」

「まだ時間には早い。気にする必要はない」

 促されてソファーの向かいに腰を下ろす。二人の手元には草案と思しき書類が数枚。

 オークションについては、正直私はどうでもいいと思っている。余程酷い条件を突き付けられない限りはイエスマンでいるつもりだ。そうしないという信頼もある。少なくとも、今のところは。

「昼食をとっていなかったのですか?」

 やはり気づかれる。今日は臭いの強いものだったのか、布袋一枚じゃ香りは抑えきれなかった。

「はい。所用で第二迷宮へ向かったのですが、そこで時間を取られてしまい……」

「第二か。最近エイクイルが盛んに活動していると耳にする」

「朝早くから大勢で賑やかでしたよ。私はいつもの聖女の娘に迷宮前で見つかりまして、お願いを断れずに彼女の戦いぶりを見学することになりました」

 困ったものですね。と苦笑するが、私が彼女に甘いのは所長にはバレている。

 ギースと再会して魔力身体強化の体得や戦闘訓練が済めば、オークションの代金を貰ってパイトを離れることになるだろうと考えている。聖女ちゃんの修行がいつまで続いているかは分からないが、別れの時はそう遠くはないだろう。少し甘やかすくらいは許して欲しい。

 あまり仲良くしすぎると別れが辛くなるだろうけど……私はこれからも、嫌になるほどこれを繰り返すことになるんだ。


 オークションについての契約書は、草案に問題がなかったのでそれをほぼそのまま用いてもらうことにした。

 展示の打診を受けるのほぼ確定になるため、可能であれば王都でその際の確認を行ってもらいたいとのことだったが、ギースが戻ってくるようならそちらを優先したいので固辞する。これは譲れない。

 王都にはお酒を取りに行く予定があるので、噛み合えば同席することもできるだろうが、そこから私の情報が漏れないとも限らない。私がパイト管理部にある程度の情報を開示しているのは、彼らを今のところ信頼しているからだ。王都にそれはない。

 王都は退屈だが、まだ利用する機会があるかもしれないし、目立つのは避けたかった。

「上は二割でもいいと言っているが、本当に三割でいいのか?」

「構いません。そのまま進めて下さい」

 飲める要求は飲んでもいいが、飲みたくない物は絶対に飲まない。思い通りになるとは思わないで欲しいので、締めるところは締めなければいけない。上手くいっているかは怪しいところだが。

「では、これで進める。進捗はこちらか中央の本部へ尋ねて貰えばいい。手間を取らせてすまなかったな」

「この程度問題ではありません。あとはよろしくお願いします」

 次元箱に持ち込める魔法袋について所長に聞きたかったが……今は我慢しよう。自力で探す。ここまで質問が続けば、感付かれてもおかしくない。魔法袋を持ち歩いていない上にそんな質問をすれば、持ってますと言っているようなものだ。既に気付かれている可能性の方が、どちらかと言えば大きいとすら思っているのだ。

 まだ宿に置いてある魔法袋の魔力は抜けきっていない。とりあえずこれを試してからにはなるが……あれをそのまま持ち込める可能性は薄いと思っている。万が一を潰しておきたいだけだ。仮に持ち込めたところで、次元箱にしまうのにその都度魔力を抜かなくてはならないというのは持ち込めないのと扱いの上では変わらない。

(ここは考え事をするには向かない。宿に帰ってもいいけど、どことなく気が乗らない……。今朝行ったばかりだけど、もう一度六層に行こうかな)

 暇乞いをして管理所を後にした。食べながら、考え事をしながらになるが……まぁ、霊鎧を狩るだけなら問題ない。奴らの扱いが雑になりすぎている気がするけど、私が天敵だったことを恨んで欲しい。

 パンを頬張りながら六層まで歩き、数が戻っているのを確認するとそのままゆっくりと狩りを始める。

 今日は大きめの手提げ型の布袋を持参している。左の肘にひっかけておけば、片手でも問題なく作業を行える。

 瘴気が漂ってる中で食事をするのもどうかと思うが……。第三迷宮の二十層に比べれば薄い。気にするほどのことでもないと強弁できる程度にはまともだ。囲まれないように周囲に気を遣ってはいたが、特に問題なく着々と資金源を袋に放り込み続けた。


 食事も終わり、特に急ぐ気にもなれずにそのままのペースでゆっくりと狩りを続けていたところで、宝箱を発見した。

 死神との戦いの後、階層通路上に鎮座していた、艶のない黒色をしたあれだ。第四迷宮死の階層、その外縁部に近い場所。今朝は何もなかったと思う。少なくとも昨日まではなかった。この辺りは仕上げの際に周回しているコースだ。気を散らしていたとしても、見慣れた風景に異物が紛れ込んでいれば、いくら私でも気付く。

「普通の宝箱もこの色なんだね。これ第三迷宮にあったら気付かないんじゃないかな……」

 近くまで寄ってきていた霊鎧を見もせずにあしらい、魔石を回収してから箱に近づく。

「罠……気にしても仕方ない。好奇心には勝てない。これは持って帰ります」

 蓋を軽く持ち上げるとそのまま自動で開き、例の如く蓋が上がりきったところで消滅した。

「さて、何が残っ……」

 残されていたのは白い装身具だ。細身で、組成は金属質か。針金をコの字に折り曲げたような姿形をしている。やや複雑に折り曲がったそれは、顔に掛けると収まりが良さそうだ。私はこの手の道具に日本で馴染みがある。視力を補正する、そう、メガネとかいう……。

「もー! もうっ! 買った! これ買ったの! もう持ってるのっ!」

 笑いを、苦笑をこらえきれない。つい最近中年冒険者から購入したメガネ型の魔導具。それと瓜二つ……というか、これは同じものだろう。本当に細部まで似通っている。予感もある。鑑定するまで断言はできないが。

「あー、ちょっともう……勘弁してよ。良いものだけどさ……どういうことなのよ、ほんとに」

 拾ってそのまま手提げに突っ込む。優先順位の第一位にこれの鑑定が来てしまった。代行の依頼を出さねばならないか。誰でもいいけど、強いて言えば信頼できる人に指名依頼したい。そうなると候補はそう居るものではなく、管理所の人か……聖女ちゃんか。とりあえず前者かな。

「今ならまだ役人さんいるよね、話を振ってみよう。規則で受けてもらえないとか、そういうのあるかもしれないけど……」

 役人なら、私がこれをかけていることを知っているが、恐らく彼女はこのメガネの正確な機能までは把握していないだろうと思う。一方、所長は機能まで把握しているかもしれない。私が今身に着けているこれの鑑定書を持っていることも知っている。鑑定を依頼するのは不審だ。

 その点役人であれば、きちんと代金を払って仕事として頼めば情報を外に漏らすこともないだろう。おかしなことを頼むわけでもない。

 まだ若干霊鎧が残っているが、もういい。五十三だったかな。この懸念は早めに晴らしたい。全く同じ物だと決め付けるのは早計だ。中身が別物だということも、十分すぎるほどあり得るのだから。

 一つ溜息をついて管理所へと引き返す。鑑定神殿の詳細な営業時間は把握していないが、彼女ならおそらくそれも知っていると思う。



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