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第三百七十四話

 

 浴室から風呂を沸かし終えたマリンとリリウムが、台所から食器を片付け終えたリューンとアリシアが戻り、リビングに六人が揃った。

 美人可愛いエルフが揃い踏みで当家の居間は大層華やかなのだが、ちびっ子に釣られて数名表情が陰っている。残念でならない。

 ずーん、なんて擬音が頭上に浮かんでいそうなしょんぼり顔のアリシアに引っ張られ、リューンとマリンもとても心配そうな顔をしている。

 マリンが心配しているのは遠くのわんこではなく、近くの同胞の方なんだろうけれども。

 こんな空気は早々に払拭してしまうに限る。皆の笑顔を取り戻すためにも、お姉ちゃん頑張ります。


 向かいのソファーにアリシアを挟むように心配組が、私の両隣にリリウムとフロンが着座し、向かい合って話を始める。

「聞いているよね。ソフィア達がやらかしたらしいんだよ」

 意思疎通は大事だ。ここを疎かにしてしまったがために今夜の夕飯は抜きになってしまった。

「仔細はアリシアから聞き出しましたわ。救援に向かうのですね?」

「放ってはおけないからね。封印箱は手配してきたから、受け取り次第早速行ってくるよ」

 優しさを滲ませた呆れ笑いを作ってアリシアを見やれば、申し訳無さの最上級系といった上目遣いでこちらを見返してくる。

 小さくなっていてまるで子犬のようだ。庇護欲を掻き立てられる。わちゃわちゃしたい。

 その間迷宮攻略が詰まるので仲間には迷惑をかけてしまうが……どの道滞っていた。現在の戦力や装備で九十四層以遠へと進軍するのは相当に厳しい。

 修行に注力できると思えば、これもある意味でちょうど良いタイミングだったのかもしれない。

「どれくらいかかりそう?」

 そう、それだ。そこが問題なのだよリューンちゃん。

「現状を確認しないと何とも言えないけれど──」

 目をつむって考えこむ。解呪自体はすぐに終わると思うのだが、問題は移動時間をどの程度と見積もるかだ。


 やろうと思えば即日戻ってこられるのだが、五分や十分で戻ってくるのはどう考えてもおかしいし、五日や十日ならおかしくないというわけでもない。

 港町までですら船で片道二百五十日の道程(みちのり)なのだ。どの程度ならおかしくないかと言われれば……二十五日程度なら、全力で頑張ればなんとかなると強弁できないだろうか。

 魔導船とはいえ時速四十キロも速度は出ていないだろう。時速二十か三十の十倍ペースということなら、まぁ……できなくは……できなくはないけれど──。

 レーシングカーのようなスピードで昼も夜もなく爆走し続ける謎の白い女の影。この世界に新たな怪談話が増えてしまう。海鳥の自尊心を折ってしまうかもしれない。

 でも五倍くらいならそうおかしな話でもない。なんてたって私は一級冒険者だ。世間では化け物扱いされている連中の一味なわけで、それくらいなら可能かも──なんて納得してくれるかもしれない。とても便利な立ち位置にいる。

 現に私には一日三時間睡眠で二十一時間全力で来る日も来る日も働き詰めた確かな実績があるのだ。説得力には自信がある。


(……やっぱり落とし所としては片道五十日くらいで見ておくのが安牌かな、仮に実証してみせろと言われたところで一回くらいならなんとでもなるし。帰りは船を使うことになるかもしれないけれど、早めに安心させてあげたいしね──)

 行きは急いで帰りはゆっくり、往路に五十と帰路に二百五十、追加で施術時間とちょっとした移動時間。三百日そこらというのが現実的なプランではある。

 しかしながら帰路も急いで百日そこらで戻ってくれば、アリシアは三百日かけた時の三倍感謝してくれるかもしれない。お姉ちゃん、大好きーっ! って、三倍抱きついて三倍甘えてくれるに違いない。

 お口はダメだぞ。でもほっぺなら許してあげよう。むしろ積極的に差し出す。ほら、ちゅっちゅっちゅーってしてもいいんだよ。

 お風呂で大好きー。お布団で大好きー。ソファーでお茶を飲みながらしゅきしゅきしゅきー、って。

(素晴らしいな──)

 ここのところ誰も私を姉扱いしてくれなくてそういうのに飢えていた。これがいい。これでいこう。

 可愛いエルフの妹分に甘えてもらうためならいくらでも無茶をする。私はそういう女だ。


 北大陸まで五十日。パイトに向かって施術を済ませ、港町まで一日で戻る。そこから自宅に五十日かけて戻ってくる。

(流石に一日はやりすぎかな……全く休みなしというのもどうかと思うし……)

 港町からパイトまでを一日、パイトで施術と休養を兼ねて二日──いや、四……六日くらいは取ろうか。

 再会! 解呪! さようなら! を一日に詰め込んで即座に去ってしまってはソフィアがミッター君に当たり散らしてしまうかもしれない。それは彼が可哀想だ。

 そんでもってパイトから港町まで一日で戻ることにする。合わせて八日、そんでもって百八日。これでいこう。私の煩悩は払えない。


「百と十日くらいかな。何事もなければそれくらいで戻ってくるよ」

 一年も二年もというわけでもなし、これくらいならリューンも頼りになる姉貴分としての体裁を保っていられるんじゃなかろうか。マリンのシゴキでそれどころではないかもしれないが。

 ちびっこ達の顔が驚愕に彩られているが、手遅れになってさえいなければ心配は無用だ。顔を見れずとも、誰かに無事を知らせる手紙でも書いてもらって届ければアリシアも安心してくれるだろう。


 表向きのタイムスケジュールはともかく、額面通りに五十日遊んでから解呪に向かうのというのはあんまりなのでナシ。仕事は明日明後日にでも早々に済ませてしまおう。

 この世界の暦と時間感覚はひたすらにルーズであることだし、特に突っ込まれることもないと思う。

 その後は経過観察なんて名目で数日パイトに居残って、残りの期間は顔を隠して一人どこかで遊んでいればいい。

 早いところ私の愛しい女神様の神域、その断崖絶壁を回収して狼対策を兼ねて縦穴を物理的に塞いでおきたいのだが、この肝心な時に間の悪いことだ。身体強化魔法が使えない。

 縦穴を塞ぐ岩山の調達の段階で既に嫌気がさしている。それにあそこはパイトからも程近い。

 快癒したソフィアが謎の嗅覚と勘とを発揮して神域を嗅ぎつけてきても困る。今回は早々に大陸を離れてしまおう。


「姉さん、リリウムを護衛として連れて行ってくれないか」

「んー?」

 お風呂に入って保存食でもかじり、今日は早々に眠ってしまおうと──腰を上げかけたところでフロンから待ったがかかった。

「念のためだ。万が一は避けねばならん」

「あー……」

 確かに相手が迷宮産魔導具で、しかも産出元がパイトだ。その上確実に呪われている。

 直接触れなければ問題ないとされてはいるものの、あまり軽い気持ちで接見するべきではないのも確かではある。リリウムアイでアレな魔導具かどうかが事前に分かれば心構えが違ってくる。良い案だ。

(一応治癒と浄化魔法の増強装置も作っておくかな……)

 よもやそんなことはありえないと思うが、神力での《浄化》が効かないなんて可能性も決して零ではない。

 素手で浄化魔法を行使しても私のそれはかなりのものだが、道具で補強してあげればより強い浄化魔法が使えるようになるわけで。魔力で片付くのであればそれに越したことはない。

 今後別件で使うこともあるだろう。作って無駄になるような物でもなし、備えは十全にしておくべきだ。

 解呪したところで後遺症が残らないとも限らない。治癒は結界や浄化ほど自信がないわけで、元々これは拵えなければと思ってはいた。

 無味無臭の身奇麗なまま《転移》の連打でパイトまで向かってしまうと勘のいいペトラちゃん辺りに疑問に思われそうだ。汗だくボロボロで磯の香りもマシマシ、その上悲痛の表情を作って駆け込んでみれば自然な形で必死さを演出できるのではなかろうか。

 ソフィアやペトラちゃんにもお姉ちゃんしゅきしゅきーって言われたい。わちゃわちゃされたい。

 これもいい案だ。明日の昼まではまだ時間がある。鍛冶場で汗を流してくたびれておこう。

「……そうねぇ。一緒に行く?」

「もちろんですとも、お供致しますわ!」

 リューンが何も言わないので、これは事前に話し合っていたのだろう。それならご飯残しておいてくれてもよかったのに。


 強いて難点を挙げるとすれば《転移》の際に余分な神力を使うことになるのだが、一人増えるくらいは誤差の範疇だ。

 三人四人となっていくと、両腕に抱えていくとか、おんぶするとか、エルフエプロンだとか、そういった別の方面で手間がかかってきてしまうのだが。

 話し相手がいた方が私も気が楽ではある。お家がハイエルフオンリーとなってしまうけれども、今のアリシアには却って良い環境かもしれない。

 美人で優しく頼りがいのある同族のお姉様方と妖精の楽園を築いてもらいたい。舞い戻るその日を今から楽しみにしている。

「じゃあ、リリウムと行ってくるよ。家とアリシアのことはお願いね」

「こちらのことは心配しなくていい。気をつけてな」

 私一人だけくたびれているのもおかしな話だ。今宵はリリウムにも徹夜してもらう。



年末年始にかけて色々とありまして自宅に戻れない状況が続いていました。

やっと落ち着きましたのでまた投稿を続けていきます。ご心配をお掛けしてしまい大変申し訳ありませんでした。

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― 新着の感想 ―
[一言] お疲れ様です。 更新ありがとうございます。
[一言] 自宅に戻れないとはかなり大変だったやうで…………更新再開嬉しいです
[一言] 先程の感想で間違いがありましたので訂正を。アリシアのところじゃなくてソフィアのところでした、サクラさんが向かう場所。というかアリシアは現在進行形で一緒にいると言うのに何とち狂ったことを書いて…
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