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第三百五十八話


 私には秘密裏に進めているいくつかの企画(Project)がある。

 プロジェクト『テンプレート』、プロジェクト『ソーラーシステム』、伝導再現計画、剣と槍のメルヘンサクラちゃんモード、エトセトラエトセトラ。

 これまでは物資と研究環境の関係で机上でカリカリやっているだけであったが、自宅の住居環境が整い魔石を無尽蔵に収集できるようになったこと、そして何と言っても鍛冶場が解放されたことで、そのどれもを進められるようになった。

 今推し進めるべきは『ソーラーシステム』、その中核を(にな)う『ソーラーパネル』の実現だ。


 自宅をお屋敷購入時の環境にまで戻してようやく各々が好きに時間を使えるようになった頃から神域と化した鍛冶場で一人、金属ではなく魔石をこねくり回して試作品を製作し続けた。

「これが、そうなのですか?」

 そして幾日かが過ぎ去り、やっと助手を招く段階にまで漕ぎ着けた。

 縦ロールを失った縦ロール。使徒とかリリウムとか呼ばれている女だ。

 鍛冶場の隅に設置した机に広げられたいくつもの物品、その中の一つをお嬢が手にして問いかける。

「そう、これが昇華紫石」

「確かに色味は違いますし……存在感も薄いですわね」

 親指の爪ほどのサイズの小さな宝石。透明感のあるアメジストを思わせる淡さが引き立つ元・浄化紫石。これこそが第二プロジェクトの中核を担う最重要機密の一つ。

「これで、水白金を攻略する!」

 今日は燃えている。なぜ自分でも忘却の彼方にあった魔法の分解霧散機能なんてものをわざわざ《結界》から取り出し、わざわざ魔法の領域に落とし込んで、わざわざ術式の効率化に苦心する必要があったのか──。

 全ては水白金に繋がっているのだ。


「まず、これは光るんだよ」

「そうですね。……怖いので近づけないでください」

 《次元箱》から取り出したお鍋、その中で元気いっぱいに輝いている私の可愛い水白金。指を近づけると嬉しそうに吸い付いてきて、落ち着くと身体の一部であるかのように馴染む。お嬢に近づけようとすると逃げられる。

 この子は私の騎士(Knight)でもある。他人が触ろうとすると「ビリビリするぞ!」と威圧して守ってくれるのだ。相手がリリウムだろうと例外ではない。

 伝説上の金属扱いされているこれは大変着心地が良く、身に着けていても動きを阻害せず、防具として扱うに十分な硬度を持ち得ている。

 メロンパンや十手に並ぶ貴重品だが、どうしてもこれを下着にしたかった。私の柔肌にこの上なく馴染む次世代の下着。マジカルインナー。形状記憶金属。私の鉄壁を越えた後、最後に立ちはだかる忠義の騎士。カッコイイ! 心も身体も許しちゃうワ!

 だが「したいなら、すればいいじゃん?」、で解決するほど話は簡単ではない。その秘められた可能性を活かすにはいくつもの問題を解決する必要があった。

 何せ元は女神様の神域、泉の底の実家を延々と照らしていた照明金属だ。その場に存在するだけで元気いっぱいに光輝き、光量を抑えて? と可愛くお願いしてみても、騎士のくせにまるで聞く耳を持ってくれない。勘違いでなければ光量を増しさえする。

 秘密裏に運用するためにはこの光を何とかする必要があるということは、入手直後のパイト滞在時から覚悟していた。


 この頃から光量を抑えることのできるあれこれについて思案を重ね、手持ちの黒大根の皮や闇石、その上位品である浄化紫石を使えば何とかなるんじゃないかな──なんて軽い気持ちでいたのだが、甘かった。

 魔石を変形させて包んでみても、他の魔石を併用してみても、おまけに黒大根の布で覆ってみても、どうしても光が漏れてしまう。

「これ、ただの光とはちょっと違うんだよね」

「そう……ですね。照明魔導具の光とも、自然の光とも、言われてみれば異なった印象を受けます」

 言葉の定義に自信はないが、この子が発している光はただの光ではなく、光子に近いが光子ではない、全く別の素粒子から成っている。

 光とはまた別の光というか……細かな解明はまたいつかにしよう。

 何というかこう、ギュッと圧縮された光というか、小さく力強い光というか──ただものではないのだ。

 魔石の隙間や大根布の細胞間をもすり抜けて存在を、健在っぷりをアピールしてくる。

 とにかく光がただの光ではなくメルヘンライトであったことで、暗幕作戦は一度頓挫した。この辺りで北大陸でのお仕事が忙しくなってきたということもある。


 その後数年に渡り基礎学力の向上に努め、独自に研究を積み重ねたことによって、闇石が元来持っている光を吸収する特性を術式により強化できることを、机上ではなく実地で実現させることに成功。

 浄化紫石でも同じことができる。しかもただの闇石よりは効果も高く、一応これで光を覆い隠すことはできたのだが……納得のいくレベルにはならなかった。

 それに、術式で集光機能をひたすらに強化して無理やり抑え込んでハイ完成っ! としてしまうには抵抗がある。

 そんなの全然スマートじゃない。そもそも完全に解決させることはできず、新たに別の光……紫色の光の扱いに頭を悩ませることになる。

 ここであれこれトライアルアンドエラーを繰り返した結果、別方面で革新がもたらされた。

 ──昇華品の誕生である。


 通常の魔石に対する浄化品、それを人為──あるいは神為──的に変異させたということで、『昇華品』と名付けた。日本語なら読みが似ている。

 当初は鑑定しても無名であり、名付けてみたら再鑑定で名前が表示されたので、これはおそらくつい先日この世界に初めて誕生した物品だ。

 これは霊石の上位品であるところの浄化真石以外の七種を一段階上の存在に昇華させることで生まれ、その精製プロセスに浄化真石を必要とする。

 早い話、浄化真石で色魔石をパワーアップさせることで完成する。

 これらは個体ごとに魔力が完全に安定してしまって動力として扱うことはできなくなるのだが、別途魔力を注ぐことで中間存在、触媒としてそれまでの浄化品より遥かに高い効能を示すことが確認された。

 浄化白石からは光属性の魔力を取り出せるが、昇華白石からはもう取り出せない。その代わり昇華白石のマジカルフィラメントに光の魔力を注ぐことで、浄化白石のそれより遥かに多くの光量を発するようになる。

 素の状態で白熱電球と発光ダイオード(LED)くらいの性能差がある。これを更に変質術式で魔導具向けにいじくってやれば、ものすごいことになる。目が潰れるかと思った。

 魔力源としては扱えなくなるが、魔導具回路としての適正は大きく大きく向上した。魔力の供給が断たれたところで、自身を食い潰すことがなくなったのだから。

 何でそんな便利なマテリアルが今まで見つかっていなかったの? との問いにはこう答える。「結合に強い神力を要するから」──と。


(まさか魔石が神力を取り込んでいたわけではなかったとはね……)

 そもそも魔石の専門家である私が試していないわけがない。魔石をドーピングして強化できないか、なんて基本的なことを。

 前例がある。南大陸で封印されていた折、私の神力を根こそぎ吸い取ろうとした悪魔の魔導具──浄化瘴石製造機。

 瘴気や灰色の存在と共に私の神力が混じった数百にもなる元浄化赤石は、今も《次元箱》の片隅に(くだん)の箱型魔導具と共に厳重に封印されている。

 それに私の相棒である二代目『黒いの』や数々の神杖の回路として使われている浄化真石は、アダマンタイトと一緒に魔石の特性を残しながらも不壊化している。

 変質や変形とは違った形で魔石を変異させることは決して不可能ではないという希望はあった。狙って魔石と神力を合体させた『魔神石』みたいな物騒な名前を付けられそうな逸品を作れるのではないかと。

 だがいくら試してみても魔石とも瘴気とも灰色とも神力とも違う、分類上そのどれとも違うただのキメラにしかならず、下手に刺激を加えれば何が起こるか分からない劇物ばかりが誕生したことで《次元箱》が危険地帯となり、泣く泣く実験を中止した。

「……どうして今になって成功したのです?」

 (もっと)もな質問だ。

「力づくでやったらできた」

「……はぁ?」

「いや、ほんとにほんとに」

 疑わないで欲しい。呆れないで欲しい。ほんとほんと。

 本当にただ足りていなかったのだ、私の力が。

 傍目からは分かりようがないが、牛を消化しきったことで私の神力は器だけではなく格もアホみたいに強くなっている。


 もし魔石の神様みたいなものがいれば、その神力は魔石を加工するに適した神力の色味をしているはずで、このような不細工な手段を選ばずとも昇華品を作り上げることに成功したことと思う。

 だが私は《浄化》で魔石を作り出せるだけで、専門家を名乗っている癖にこの辺りは管轄外だ。加工に適した《術式》が生えていることも、変形や変質術式の性質に神力が同調することもなかった。ならもう、手段は一つしかない。

 ──パワーだ。

 私は知っている、地球にはプレス機というものがある。あれをイメージした。

 魔石その物を対象とするのではなく、色魔石と浄化真石の原子一つ一つを神力で圧着融合させるようなイメージで、力の逃げ場を封じて私の発揮できる最大のパワーで無理やりギューッ! っとやってみたら、できた。

 炭だって圧力でダイヤモンドに姿を変えるのだから、パワーで何かが変質することはおかしいことではない。私は間違っていない。

「ただ、量産性に課題があってねぇ」

「……でしょうね。これ一つ仕上げるのにどのくらいかかったのですか?」

「十日」

「……目が眩みますわね」

 お嬢の手のひらでキラキラと輝きながら光を吸収するという謎の挙動を取っている親指の爪ほどのサイズをした宝石。これ一つ作り上げるのに十日掛かった。全力で引きこもれば三日ほどでいけそうだけど。

 幸いなことに、これは小さな粒の集合体でしかない。まとまった時間が取れずとも、毎日余暇にちまちまやっていれば進捗は進む。

「これをね、下着の上を覆い隠せるくらいまで量産する。そんでその量産した昇華紫石を、更なる内着にでも仕込むんよ」

「密着していなくても……まぁ、これなら……」

 薄暗い部屋で水白金を小分けにして手のひらに置き、昇華紫石を近づければ面白い光景が見られる。光が曲がって吸い取られていくのだ。

 それに、ただ面白いだけではない。吸い取られた光はどうなったのか。


 闇石や浄化紫石は素の状態で光を吸い取る、寄せ付ける特性があり、術式でそれを強化することができる。

 その際微細な魔力を発していてもハイテクな観測機などない以上、闇石の魔力かな? なんて見過ごしてしまいそうになるが、私は違う。

 昇華紫石自身が魔力を発することはない。少なくとも私の理解の上ではなく、これはおかしいゾ? と疑念を挟むことができる。

 その結果、闇石が──。

 光を吸ってただの紫色の光を発しているのではなく。

 光を吸って自身の紫色の闇の魔力を発散しているのでもなく。

 光を吸い取ってただの光から微細な闇の魔力を生み出し、それをお漏らししていることを発見できたのだ!

「革命だよね」

 これを発見した日のご機嫌はこの上なく(うるわ)しかった。冷静になってみればこのくらいの発見は先駆者がいてもおかしくないような気もするが、その発見が手元にあるという事実を思えばなんてことない。

 だが昇華紫石の吸光性能は浄化紫石とは比較するのがおこがましいほどに強く、単位量辺りでも遥かに多くの闇魔力を生成することができることに気づいたのは、絶対に私が初めて。

「……これ、表に出したらマズイのでは……?」

「マズイけど、生成魔力はそんなでもないんだよね」

 お日様の光でも魔力は生み出せるが、光が弱すぎて小学生の理科レベルのそれにしかならない。質より量でそれなりになるかもしれないが、私はそんな量のソーラーパネルを作りたくない。吸魔装置だって大量に必要になる。そんなの過労死一直線だ。

 太陽光発電と同様に極めてエコではあるのだが、原子力発電から代替できるほどのものでもない。懸念は分かるが心配は無用に近いと思う。


 この身が一日で生み出す魔力の総量を百だとしたら、水白金を全て身に着けて自由に使える無属性魔力は二十とか二十五とか、たぶんそのくらいしか生成できないのだ。魔力の属性を変換する際にどうしてもロスが生まれるし、結界魔法で変換する以上、それにも魔力を使う。

 闇の魔力をそのままにすればロスなくより多くの魔力を使えるが、これはまだ用途の製作に着手できていない。

 これはあくまで私の趣味。夢の永久機関を実現させたに過ぎない。それでいい。


「そんなわけで、光を抑え込むことも、魔力を生み出すことも、それを吸い取ることも問題なくなった。肌を死守する必要もなくなったから、和装──パイトで頼んでたあれはポシャっていいよ」

 昇華紫石なら光が布を抜け出す前に捕らえて魔力に変換させることができる。それくらい誘引力が強い。実装しながら調整は加えるが、昇華紫石を増やせばそれで対応できる範囲の問題しか発生しないはず。あとは黒大根レベルの暗幕性能で十分隠し通せる。

「分かりました。そのようにいたしますが……サクラ、戦闘服はどうなさるおつもりで?」

 吸魔機構に話が飛ばない辺りがフロンとリリウムの違いか。これにもドラマがあったのに。

 お針子としてはそっちが気になるご様子。可愛いね。

「何でもいいっちゃいいけど、薄着は避け──あー、スカートは止めておこうかな」

 うっかり股間から光が漏れたら大惨事だ。動いていれば万が一は起こり得る。

「あとは、黒大根含めて二枚くらいは重ねたいかな……細部はリリウムに任せるよ」

 こいつは私と違って命名以外のセンスがいいので、お任せしても変な物は作らないはず。旧戦闘服の白ワンピだって私は全く口を出していないが、良い物を作ってくれた。

「承知しましたわ──ふふっ!」

 それだけ口にして、貴重な昇華品と水白金で遊び出したお嬢の脳内で、私はどんなことになっているんだろう。口元に滲ませた笑みが不気味だ。



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― 新着の感想 ―
[一言] 最近は物語の目的?方向性みたいなのが感じられないので流し読みしてます。 他の神との対決とか出て来るといいな
[良い点] また壊れ性能の物品を作っちゃいましたねぇ。しかもこれ、武器や防具に仕込んだり、属性を組み合わせて活用したりしたら更に凶悪な性能のものが出来そうですね。 [気になる点] そう言えば今更ですが…
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