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第三百四十九話

 

「そういえば、リリウムとフロンってどうやって知り合ったの?」

 なんやかんやあって四人揃った。リューンが落ち着いたので、今日は女子会というやつをやってみようと思う。

 部屋着、部屋着、運動着、寝間着の四人だ。あまり色気はない。

 お菓子の一つも用意しておかなかったのは大きな失態だが、まぁ仕方がない。お茶のみで我慢してもらう。

 テーマはズバリ、出会いについてだ。今考えた。

「ルナのギルドで私が拾ったんだ。質の悪い連中に絡まれていたんでな」

「……嫌な経験をしました」

「へぇー」

 ここで終えてしまうと話を振った意味がない。もう少し掘り下げてみよう。

「リリウムはなんやかんやあって、一人でルナに来たの?」

「そうですね。実家から追い出された後、すぐに冒険者登録をしまして……地元では動きにくかったもので、魔導船の大部屋でルナを目指しました」

 一度くらいは経験してみたい。大層環境が悪い中、どこからでもルナまでは半年近くかかる癖に、万年満員御礼で大人気らしい。

 ルナからは西が若干近く、南が最も遠いはず。東は知らないが、地図によれば北とどっこい。やはり半年コースだろう。

「ルナなら新米剣士でもパーティ組むには困らないっぽいけど、そこで?」

 そうまでして、人はルナを目指す。冒険者の楽園とまで呼ばれる迷宮島へ。

「新人を食い物にする中堅どころという輩はどこにでもいるのです。当時は物を知りませんでしたから、まんまとハメられかけました」

「大きなギルドは職員の目が届かないから、そういうこともあるんだよ。珍しいことじゃないよ」

「経験?」

「経験っ! ほんとにもう……」

 リューンも何か、いいように使われて酷い目に遭っていたんだったか。言葉から伝わる重みが違う。


 迷宮だって護衛だって、一人よりパーティで臨んだ方が安心感が違うと思う。私はずっと一人だったけど……ギースがいなければ、私もそうなっていたかもしれない。

 気力に目覚めず、近当てを体得できず、魔法術式も刻めない。生身の膂力で浄化もどきを振りかざし、魔石目当ての中堅に便利に使われる。結界もなしでカモネギに突撃させられる。最悪だね。

「リリウムを引きこもうとしていたのはそこそこ大きなクランでな。借金を負わせて扱き使うといった非道が常態化していた。一歩遅ければコイツも餌食になっていただろう」

 ──クラン。複数の固定パーティが集まってメンバーを融通し合ったり、協力して大勢で深部へと潜ったり、そういうことをしているグループがある。

 別にパーティメンバーに人数制限があったり、特にギルドに登録や申請が必要であるとかと言えば、そういうことはない。

 ただやはり、自称であろうと非公式であろうとネームバリューがあると話が変わる。

 規模が大きい実績のある長いものに巻かれていれば、楽だ。非公式のものとはいえ、例えお友達料を取られようとも、そういったバックを求めて群れる冒険者というものはそれなりに多いらしい。

 荒くれの集まりだ。完全に統率が行き届いているなんてことは滅多になく、表で裏で、そういう連中は悪さを行う。規模が大きければギルドも手を出せず、一歩進んでギルドを抱き込んでいたりもする。

 盗賊と変わらない。所詮は無頼の徒といったところか。


「それで、二人で迷宮に入っていたんだ」

「そうだ。だが……当時のこいつはどうしようもなくてな。正直足手まといでしかなかった」

 溜息をつけるのは、本当に相当苦労したのか、もう笑い話にできるからか。

「気力は弱い。魔力も弱い。体力もない。ワガママばかり言う。装備だけはそれなりの物を身に着けていたが、新人が持つには過ぎた代物だ。格好のカモでしかない」

「フロンが気力の指導ができなかったのはともかく、遠当てができるくらいには修行してたんでしょ? なんでそんなザマだったのさ」

 気力とは体内を巡る……まぁ、気というか、生命パワーみたいなものだ。普通は漏れることがない。一度回路ができてしまえば、常にそこを通ってグルグル循環する。

 遠当ても近当ても、回路ができる前に意図してそこに穴を開け、塞ぐ感覚を刻み込まなければいけない。気力の循環に目覚める前にビリビリされることによって、向いていればできるようになる。

 一度気力を使えるようになった人間が、後天的に気力の衝撃波を使えるようになることはほぼない。魔導具なら、それは壊れているということだ。血管が破れて血が吹き出ているようなものなのだし。

 だから、きっと師匠がいたはず。私にとってのギースのような。

「──だしてきたのです」

 声が小さい。

「……何だって?」

「修行が辛くて辛くて我慢できずに飛び出して来たんですっ! わたくしならできると思っていたんですっ!」

「……と、いうわけだ」

 言葉もない。リューンは呆れた顔をしているが、私は出さないでおいてあげよう。武士の情けだ。


 元貴族のお嬢様。家から放り出されるにあたってどのようなやり取りがあったかはデリケートな問題だと思うので境界を引いておくが、それなりの冒険者道具を工面できる程度の金銭は与えられていたのかもしれない。

 修行をどのタイミングで開始したのか、にもよる。案外私のように、親切なお師匠様に偶然拾われて指導を受けて──逃げ出してきたのかもしれない。

 ギースが仕事で旅立たなかったら、私はあの修行に耐え……られはしたな、きっと。でもリリウムがギースに指導を受けていたら、きっとこんな無様は晒さなかったに違いない。

 なんてったって私のお師匠さんだ。この私が敗北を認め、唯一打ち負かせていない存在だ。世界強者ランキングでは死神や不死龍、それに邪神の上に位置づけられている。

 人間限定なら天辺かもしれない。やっぱりギースは凄いな。最強だな。

「そんなに酷かったの?」

「いえ、その……教えは的確だったように思うのですが……指導にかこつけてお尻を触ってくる手つきが生理的に受け付けられなくなりまして……」

「……私の師匠は人格者でよかったよ」

 心からそう思う。いや、生きるためなら尻の一つや二つ、別に構わないけれども。

 エロジジイだったら尊敬の念など秒で吹き飛んでいたことは想像に難くない。


「リューンとフロンは? 地元のお友達だとは聞いていたけれど」

「友人ではあったけど、昔はあまり親しくはなかったね」

「そうだな。外で知人と出会うことは珍しいから声をかけはしたが、あそこで見送る選択肢も確かにあった」

 フロンの知るリューンは、束縛魔法と身体強化で逃げ回るしかしてこなかった、弓の使えない弓士。放出魔法を使わない、使いたくない魔法士。

 これは昔からそうだったらしい。剣を習っては逃げ、弓を習っては逃げ。投げナイフだけは上手かったらしいが、これはただの一人遊びの延長だったとのこと。クマを狩れるような威力があったわけでもない。

 斥候や野伏(のぶせ)としての経験や技術を持ち併せていたというわけでもない。薬草を見分けたりはできるようだが。

 リリウムに頭を悩ませていたフロンの葛藤を思うと涙が出てくる。苦労人体質だね。

「剣に目を引かれた──というのが本音なのだろう。あれは真っ先に逃げ出していたはずだ、違和感を覚えてな」

 ひょんなことから再会した知り合いは、いつの間にか剣を下げるようになっていた。

 迷宮で拾い、鑑定の末に魔力に長けたハイエルフ向けの剣であることが判明した初代『黒いの』。

 切れ味はそこそこで、それこそ私の二代目『黒いの』と比べれば雲泥の差があるのだが、魔力吸収は卑怯の一言に尽きる。

 捕食対象さえ尽きなければ永遠に魔力を使い続けられる。アホだと思う。魔力由来の魔法現象も食べられる。規格外も(はなは)だしい。

 今にして思えば、なるほど。リューンらしい得物だ。

 フロンがいなければ、こうして四人が集まることはなかったわけだ。そう思うと感慨深い。


「サクラとリューンさんはどうだったのですか?」

 私の番が回ってきた。ドヤ顔で自信満々にしているリューンちゃんが隣にいるのだが、その自信はどこから湧いてくるのだろう。不思議でならない。

「ガルデの東に大通りがあるじゃない?」

「えぇ、ありますわね」

「仕事の合間に甘い物でも食べに行こうと散歩がてら歩いてたんだ。そこで男に囲まれて号泣してて、通りすがったところを助けたんだけど──」

「あらあら」

「その後話をしようと宿に連れてったら、押し倒されて食われた」

「────」

「リューン……」

「もっと言い方があるでしょう!? あの感動的な出会いをなんだと思ってるのよっ!!」

 慌てて異議を呈し出すハイなエルフ。肩を掴まれ左右にグワングワンと揺らされるが、何も間違ったことは言っていない。


「五、六歳児に囲まれていじめられていたリューンちゃんは地べたに座り込んで人目も(はばか)らずに大泣きしていました。一度はスルーしたのだけれども、あまりにも無様な姿が脳裏をチラついて離れなくなったので、仕方なくおやつを諦め、道を戻って助けました。助けたはずなのになぜか情報の対価に、しかも身体を要求されました。その直後に返事も待たずに食われました」

 せっかく細部は濁してやったのに。

「──他にどう言えって言うのよ」

 横目でジトーっと睨みつければ、真っ赤になったぐぬぬ顔がそこにある。

「……お前、子供に泣かされたのか?」

「なんて図々しい……」

「ちがっ! 違うのっ! 語弊! 語弊があるのっ!」

「何が語弊だ。言い訳できるものならしてみなさいよ」

 何も盛っちゃいない。その後も仕事を終えるために頑張って宥め、ガルデとパイトを走って往復して、出会ってからの数日はものすごく忙しかった。

「違うのっ! そうじゃないの! あれは……運命! 運命だったんだよ!」

 必死になって弁明しても、隣のソファーの二人の視線は冷ややかなままだ。今更だが、机を挟むようにしてL字型に並べられている。


「そういえば、あの三人とはリューンと出会う前からの知り合いだったんだろう。出会ったのはその頃なのか?」

 あの三人とは、わんこズと飼い主のことだ。この辺はちょっと話がややこしくなる。

「出会ったのは三人ともリューンより前だね。ソフィアとはそれなりに親しくしてたけど、あの二人とはちょっとした顔見知り程度の間柄でしかなかったよ。そもそもガルデにはあまり長居したわけじゃなかったから」

 昔も今も、まずソフィアと出会った。昔は情報をお漏らしされたことで見限ってしまったが、今回は熱意に負けて連れて行くことにした。熱意というか、崖っぷちでカチンカチンとセルフロシアンルーレットを始めたものだから仕方なく……といった感じだったけれども。

 その後騎士学生組と出会いはしたが、当時三人は知り合いでもなんでもなく、また私とも別段お友達と呼べる間柄でもなかった。鑑定の仕事をお願いして、散歩に付き合ったくらい。

 縁が絡まったのはリスタート後だ。三人はいつの間にかお友達になっていて、ヴァーリルまで一緒についてきて、つい先日まで私達とも行動を共にしていた。


 今のところ、どこぞに私や剣の情報を漏らしたりしている様子もない。極力人前で名前を呼ばないようにという言いつけも守ってくれているので、お姉様呼びも甘受している。

 身内だけでいる時にその辺を徹底できているかは神のみぞ知るといったところだが……まぁ、詮索はしないでおいてあげよう。実害が出なければあまりうるさく言うつもりはない。

「昔は可愛かったんだよ、ソフィア。小さくて、儚げで……まさに聖女ちゃん! って感じで。今は脳筋わんこになっちゃったけど」

 元気で健康に楽しくやれているなら、それはそれでいい。私の庇護下で好みに改造していたら──治癒と結界、メイスで殴殺、衣装はお揃いの白で、私も金刺繍くらいは施していたことだろう。

 マラソンなんて決してさせ──いや、させたか。させたな──。でもこう、楚々とした振る舞いを是とし、癒し系神官少女として溺愛したことだろう。

 そばに置いておけば、二人で鉄壁の後衛ズとしての役割を持てる。ソフィアの治癒は姉の贔屓目を抜きにしても図抜けているのだ。なんせ杖なしで大抵の怪我は即座に治す。

「治癒も杖なんかの外部術式で効果を増やせるんだよね?」

「元となる術式次第ではあるが、基本的には可能であると考えてくれて構わない」

「治癒もややこしい魔法の一つでね、汎用的に何でもかんでもとはいかないんだけど……高価なんだよ、そういう杖は」

 あるにはあるらしい。あるなら、作れる。

 癒し系魔導剣とか作りたい。切った相手を癒してしまいそうになりそうな物が。


「そんなちびっ娘が更なるちびっ娘を拾ってくるようになるんだから……血は争えないねぇ」

 魔導具談義は趣旨から外れるので程々で切り上げる。最後の出会いはアリシアだ。

 弓の使える、矢の尽きた弓士。今は浮遊系魔法少女と化している風の申し子。

「東でもセント・ルナは冒険者の聖地として名高い。一芸持っていればとりあえず食えはするからな、まずここを目指すというのは理に適っている」

「……そうだね」

 一芸持っていたが、迷宮に入れず食えなかった子がここにいます。

「あれはこれと違って行動力があり、努力もでき、何より機転が利く。あのまま放っておいてもやっていくことはできただろう」

「……そうだね」

 リューンちゃんの怒りゲージがみるみるうちに増えていく。珍しく、楽しそうにフロンが当てつけている。

「だが、いい出会いをした。この数年は必ずや、今後の人生を彩ってくれる時間となったことだろう」

「……そうだね」

 トーンが変わる。魔力に長けていようが、肉体強度は並みのそれ。ちょっとした怪我で血が止まらなくなり、頭を殴られれば一発で意識が落ちる。それがエルフだ。

 若いうちは尚の事。その時間をきっちり修行に当て、当面行動を共に出来る信頼の置ける仲間を得られたことは中々に得難いものなのだと、先輩二人は感慨深そうに口にする。

「あの三人、防御力だけは高いからね。治癒もあるし、無茶をしなければ大丈夫でしょ」

 あの剣は簡単には折れない。あの盾は簡単には破られない。革鎧も頑強で、軽く動きを阻害しない。魔法袋四枚には大樽四十四から四十八個分の物資を詰め込むことができる。階級は三級四級四級五級。今回の仕事で蓄えもできて、仕事も十二分に選べる段階にある。

 お姫様(アリシア)の護衛を担う騎士として、申し分ないメンバーだ。


「そういえばサクラ、前々から気にはなっていたのですが」

「どしたの」

 話も佳境に入りつつある。というかもう特にない。切り上げてご飯を食べて眠ろうか、といったところで声をかけられる。

「あのドワーフのご老人……ギースとは、どういった間柄なので?」

「昔の師匠だよ」

「……まぁっ! そうだったのですね!」

 何か楽しそうにしている。お酒の席で意気投合でもしたんだろうか。


 師と呼ぶことのできる人は、結構多い。

 ギース、気力学校の変な語尾の先生、ヴァーリルの老ドワーフ達。フロンだってそうだ。

 リューンもそうだけど、これはあんまり師事しているとか、そういう感じではない。

「今回は縁がないと思っていたのだけれど……また会えるとは思ってなかったから、正直嬉しかったね」

 その中で一番の師匠を選べと言われれば、私はギースを選ぶ。躊躇いも葛藤もない。即決できる。一番のお師匠さんだ。

 ほんの数日世話になっただけの相手だが、あの数日の思い出は決して色褪せないだろう。それだけのインパクトがあった。

 私の学名がサクラ・サクラ・サクラになってしまったのは全部あの人のせいだ。邪神を撲殺できるまでになった。

「あの変な形の道具を回収しなかったのは、受けた恩義の返礼ということですか」

(……あ)

 忘れていた。すっかり忘れていた。ショベル、回収してない。

 最近は何かと忙しかったこともあるが、時計の入手ができなかったことで忘却の彼方に追いやられていた。いいやもう。

「そういうこと。本当にお世話になったからね」

 そういうことにしておこう。もう一つあることだし。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] サクラ・サクラ・サクラ……とは?? [一言] さらっと学名出てきて笑ってしまった
[良い点] リューンとの出会いが改めて見ると色々とヒドい。勿論良い意味で。 でも残念美人なところも含めてリューンのキャラは魅力的で愛着が湧きますよね。 [一言] 仮に過去サクラさんがソフィアを旅に連れ…
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