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第三百十六話

 

 一夜明け、たっぷり午睡を楽しんでもらった後に、ギースや『地爆』さんといった階級高めの幾人かが食堂へと集まってくれた。

 毎度毎度の作戦会議だ。調理場には悪いが、うちの子達にも全員集合してもらっている。


 東側のグループはおおよそ十五から二十人程度の人数が二十程の班に分かれており、それらがギース一行のように順に中央方面へと進軍しているとのこと。

 中央の戦闘要員は四十から、アクシデントがなければ最終的に四百前後まで増える計算になる。

 浄化の使える法術士、法術師が各班に一人か二人割り振られており、最終的に中央には二十から四十の浄化使いが集う。

 焼却を介することで法術士の負担は大幅に軽減されるので……まぁ、足りるのではないだろうか。

 私が抜けても西側の清浄化に不足はないように感じるが、描いた絵図通りに事が運ばないということは既に学んだ。北の殲滅に出向いても、何度か戻ってくる必要はあるだろうことは留意しておかねばならない。

「当面は東の無害化に注力しなければなりません。今しばらくは総力を上げて、これを成し遂げましょう。その頃にはお酒も入ってくることでしょうし」

 望遠アリシアの報告と私の《探査》による推定から、おおよそ五日前後のペースで東からの班が合流を続けるペースになることは分かっている。

 合流して拠点まで戻るのに一日程。三日休んだ後に一日かけてまた北へと進み、新たな班を迎え入れて拠点へと戻る。これをおおよそ二十回、百日程費やせば東からキメラゾンビは居なくなる。

 東側のキメラゾンビの大半は中央方面へと追いやられることになるが、いくらかは北にも反れる。道中に手を抜けば、次はより多くのキメラ達を相手取らなければならないので、割りと総力戦を挑み続けねばならないのが心苦しいが──。

(稼げるんだよねぇ、これ)


 南大陸のアイオナの冒険者ギルドでは、在野のオーガの討伐で大金貨一枚の半分ほど、小金貨にして五枚前後の報酬で依頼が提示されていた。

 あそこはオーガやオークやゲイザーや、ちょっと強めの変な虫なんぞも多くが瘴気持ち化してその辺にうごめいていて、討伐報酬は高くても大体この程度だったので、「労力の割に大層安い報酬だな……」なんて感じたものだが、今回ガルデは腹が太いのか懐が深いのか頭がパーなのか、瘴石換算のキメラ一匹当たりに大金貨一枚もの報酬を提示している。

 南のオーガが五千でも、北のゴブリンを殺せば一万手に入る。正確にはゴブリンの魔石は一匹分に相当しないので、数匹分集めてやっと一枚分となるだろうけど、それでも破格もいいところ。

 昨日(さくじつ)は一人当たり四十五匹、総計で千八百二十七匹を討伐してもらったが、これだけで単純に考えて千八百万程度の大金がガルデから冒険者に流れることになる。

 一日当たり四十五万というのは、継続して当たれる任務の日当としてはそれなりに破格だ。四級冒険者が受注できる仕事としては──かなりだ。すごくだ。とてもだ。

 大金貨の五枚もあれば、一日二日は酒場で豪遊できるのだ。一日働けば二十日は酒場に缶詰できる。

 小金貨の一枚二枚あれば、その辺の宿で一泊できたりできなかったりする。普通の胃袋をしていれば、その十分の一の銀貨一枚で買える屋台のパニーノ三つで一日分のカロリーを得られる。

 ──そんな仕事をこれから年単位で続けられる。一生分稼ぐ人も出てくるかもしれない。

(これ別に、心苦しく感じる必要なくない……?)

 と言うかあれだ、お酒やお肉をケチってる場合じゃないな。ここの冒険者は生きて帰って報酬を受け取ることさえできれば、お金持ちだ。経済を思いっきり回してもらっても差し支えないのではないか。

 王様も馬鹿じゃない。報酬をケチれば人が集まらないことも、支払いが滞れば私の雷が落ちることも、それらがガルデの滅亡に直結することも、重々承知のはず。相応の予算は組んでいるはず。

 ならば、彼らはお金持ちだ。手っ取り早く戦意を高揚させるアイテムとして、酒類はこの上なく安価で手っ取り早い、コストパフォーマンスに優れたアイテムなんじゃなかろうか。

「あー……そうか、そうですね。これは……こうしましょう」

 よくよく考えればそうだ。私はあまりお酒を楽しめる性ではないので軽視しがちだが、多くの人間は飲めば楽しくなれる。

 資材リストを書き出したメモを取り出し、その辺りの嗜好品と、ついでに主食の桁を二つばかり繰り上げておく。

 唐突に悩み始め、独断で数字を弄り始めた女に怪訝な目を向けていた一部から歓声が上がり、歓喜の渦が伝播したのを見るに、この判断は正解だったようだ。

 ギースが嬉しそうで何よりです。


 発注書の管轄を私から輜重担当のメイドさんを経由して元締めっぽい初老の執事に預け、キメラゾンビの生体や処理法、そしてアンナノについての情報を新たに加わった冒険者と共有した後、適当なタイミングでお開きにする。

 この拠点には今後も随時冒険者が増え続けるが、その都度私が説明なんてしていたらキリがない。お酒の管理も同じだ。

 学生の群れでもあるまいし、不正を行えば命はないことは理解してくれているはず。この辺りは丸投げしてしまって構わないだろうと判断した。

 地力に不安がある中央組は既にアンナノとは遭遇しているし、東からの合流組は精鋭揃いだ。龍という目立った標的も討伐された今、生き急いで無茶をすることもあるまい。

 うちの年寄り組を三人共ガルデへと戻してしまったのは予定になく、そのせいで主にミッター君への負担が増えてしまっているが……これも経験だと思って諦めてもらおう。

 彼はやる気満々勢筆頭なので、望むところだっ! といった感じだとは思うのだが。

(それにしても……些かやる気がありすぎないか、彼は)

 いつからだろうか。元々私の無理めな修行にも文句一つ零さず──溶岩と氷海は嫌がったけれども──、ソフィアやペトラちゃんをまとめて上手くやっていた彼だが、ここ最近の頑張りは人一倍目を引く。

 うちの聖女ちゃんは生来の頑張り屋さんでペトラちゃんも委員長気質の真面目っ娘だが、アリシアと彼が並ぶとわんこズが霞んでしまいそうになる。この二人は最近特に活躍目覚ましい。

 ルナにいた頃までは、特に気になることもなかったので……やはりこの一件が始まってから、ということになるのだろう。

「何か心境の変化でもあったのかな」

 今し方出てきた食堂をチラリ。今も中では、ギースや『地爆』さんといった冒険者達と交流を深めているはず。にわかな私達と違って、彼らはガチの先輩冒険者だ。話を聞くだけでも、学べる点は多いと思う。

 騎士を目指すというのであればこの頑張りも分からない話ではないが、その件は直接否定されている。さっさと階級を上げたいというのも違う気がする。

「まぁ……いいか」

 直接尋ねるようなことでもないし、やる気があるのは大変結構なことだ。あって困るものではない。

 これはいよいよ、巣立ちの日が近いのかもしれない。喜ばしい気持ちの方が圧倒的に強いが、やっぱり少しは寂しくもなる。可愛い可愛い弟分だ。


 数日が過ぎる。

 第二陣を受け入れるべく体制を整えて出立した我々は、特に問題なくキメラの殲滅を終え、一夜開けたところで無事十五人との合流を果たした。

 四級冒険者からなる四十人ほどの元祖中央勢にギース一行十四人を加えたことで、軍団の能力は大幅な向上を見せた。

 少数の実力者が防波堤となって迫り来るキメラの勢いを殺し、前中後衛の連携で確実に処理をする。先日採用したものと同じ作戦を採ったようだが、まだ二度目だというのに、早速私がいらないくらいの安定感を見せている。

 今日は防波堤役にギース、『地爆』さん、折れた槍の人に加え、赤いトゲトゲ大盾を持った気の弱そうな少女が同行していた。そこにほぼ観戦者と化している私と、連絡員のアリシアを含めても最大六人。

 特に(ひと)種の、背丈ほどもある赤いトゲトゲ大盾の少女の安定感が目を引く。迷宮産出の物品らしいちょっと頭のおかしい外見をしているが、トゲ付きの盾でぶん殴ればキメラは穴が開き、その状態で振り払えば切り裂け、人ならそれだけで即死級の被害を受けるだろう。

 そんな攻防一体の防壁を自在に操る技術は、確実におびただしい実戦の上で磨き上げられたものだ。正直、美しさすら感じる。大変好みだ。

 ──攻防一体。攻防一体はいい言葉だ。大変好みで、非常に惹かれる響き。

 話を聞いてみたくなったが……ジッと眺め続けていたことで警戒されてしまったのか、恥ずかしがり屋は生来のものなのか、ろくすっぽ顔を合わせてくれなくなってしまったことで難航している。

「彼女はすごいですね。自分から向かっていった時は肝を冷やしましたが、その動きは終始見事の一言に尽きました。索敵術式を併せて立ち回っているのでしょうか」

「いや、ありゃあ勘らしいぜ。当然見えてはいないんだが、何か……生命力を感じるだとか、空気の流れを見るだとか言ってたな」

 その日の帰路、近くに居た槍の人に話を振ってみたところ、そんなふんわりした答えが帰ってきた。

 普通は生命力なんて朧気なものは感じられないし、眼球は風の動きを見えるように作られていない。できるわけがないのに、それができるという。

 世界は広い。人の数だけ技術や知識があって、私が身につけたものなど砂山の数粒くらいにしかならないのだろう。世界は未知で満ち満ちている。

(これ使うの二度目だな……やっぱりイマイチだ)




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[一言] 生命力が見える眼にはどんな姿に映っているのやら
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