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第百二十五話

 

(水はある、外套もある、偽装魔法袋の扱いも問題ない。魔石は適当に次元箱に投げ込めばいい。……ほんと便利だなこれ。遺品回収用の箱も用意してもらえる。後は何がいるんだっけ、こんなもんかな?)

 一人で仮眠室に居るが別に眠くはない。さっさと向かって終わらせてしまいたいが、そうもいかないわけで……。

(ここで寝ちゃうと夜眠れなくなるもんな……暇だけど仕方ない。じっとしておこう)

 ここまでは前回と同じような流れになったが、いざ六層へ向かったら騎士団が全滅してました、なんてオチもあり得る。頑張れ聖女ちゃん。あと少しだけ頑張ったら助かるよ。


 作戦は前回と全く同じ。私が単騎で乗り込んで霊鎧を散らし、他の人達が救援しておしまい。

 今回は私の外套はなしだ。なんと王都で防汚の人造魔導服が手に入ったのだ! 防御力は皆無だが、生地の伸縮性に優れていて動きを阻害しない。今の私には十分すぎる品だ。一式購入して予備も発注してある。

 帽子をかぶってコートを着たコスプレ軍人っぽい。格好良すぎるのが若干問題だが……カッコ悪いよりはいい。もちろんスカートではなくズボンだ。

 そして腰のベルトに十手用の鞘を下げている。鞘とは言っても簡単に引っ掛けているだけだが……手持ちしなくてよくなったのは便利でいいね。

(黙っていれば……切れ者のお姉さんに見えるに違いない。ふふっ)

 連絡要員二名と共に階層を走り抜け、六層への侵入を果たす。

「侵入しました! 後は手筈通りお願いします!」

 返事を待たずに七層側の大岩へ駆け寄り大音量を鳴らして一匹浄化してから声を上げる。


「生存者の方はいらっしゃいますか!」

「ああ! いる! いるぞ! まだ生きている! 怪我人が多い! 助けてくれ!!」

「落ち着いて聞いて下さい! 一度しか言いません! 現在救援部隊がこちらへ向かっています! 救援部隊が七層まで迎えにきます! それまではそこで待機していてください! 戦闘の必要はありません! 医療班も待機しています! 笛の音が状況開始の合図です! 分かりましたね!?」

「ああ! 分かった! 待機している!」

 さて、お仕事を始めよう。


「とはいえまぁ……やっぱりこれ、何かしたんじゃないの? 数が多すぎる。前回確か百を越えたんだよね……」

 階層の霊鎧は六十と少し、多くても七十を越えることはない。一・五倍ともなれば、誤差と強弁するのも難しい。

 鎧の山を一撃で屠って魔石を回収する作業を続ける。収縮にかかる時間が一瞬なので、微妙に討伐速度が上がっているのが嬉しい。テンポよく討伐を続けていく。

(数秒程度でも、積もり積もれば……ね)

 盾の上からでもお構いなしに一撃で浄化できる。我ながら成長したものだ。数匹薙ぎ払ってまとめて浄化、といければもっと楽なんだけど。

 三十を狩り、八十を狩り、百を越えるのにそう時間はかからない。ここで笛を鳴らして救援を開始してもらった。

 残りも《探査》を頼りに着実に数を減らして全滅させた。確信できるっていうのはいいね、気が楽だ。

(いやはや、ほんと便利だこれ……生き返った個体も即時討伐しに行けるし。消費も少ないから救援任務中くらいは使いっぱなしにできる。ふわふわは本当にゴリ押しだったんだな……)


 前回どの程度だったかは覚えていないが、結局今回は百二十匹を越えた。問題は悪霊の数で、黒いモヤをまとった個体が二十匹以上。

 普段は六十程度狩って悪霊は二匹前後だ。絶対におかしい。確実に何かされている。

(それがエイクイルか、他の誰かの仕業かは分からないけれど……。私は正直、何をしたのかにとても興味がある。迷宮の魔物を瘴気持ちだらけにできるというのなら……それはとても、とてもとても、魅力的な話だよね?)

 階層には聖女ちゃん一行と救援に従事している人達以外には誰もいない。隅から隅まで確認をしている。

(私の目を掻い潜っているというなら、それは結界以外の何かだ。隠蔽系の、結界に由来しない力の魔導具とか)

 時期はもう覚えていないのだが、この事件の前後にここで戦闘音が聞こえたことがあった。霊鎧の数がしばらく減って不思議に思ったのを覚えている。エイクイルが一番怪しいのだが、もしかしたらこっちがこの異変の仕掛け人かもしれない。

 気が向いたら調べに来ようと思う。──縁があれば会えるかもしれない。


 しばらく探査を気にしながら待機して、笛の音に笛で応え、五層側の大岩へと足を向ける。

「お疲れさまです。生存者、並びに遺体と遺品は確認できませんでした。もうしばらく探してみます。報告には伺うと、所長……指揮を執っていた職員にお伝え下さい」

「ああ、引き受けた。気をつけてな」

 会釈を返して連絡員が戻るのを確認した後、外縁部へ向かう。さてはて、無事でいてくれるといいけど。


 つくづくおかしな身体になってしまったものだ。結界魔法の隠蔽がまるで意味をなしていない。なにせ普通に見えるのだから。そしてそれだけで効能まで理解できる。

 音も視界も遮断し、内側からも外側からも見通せない。──私以外には。いや、高度な術者なら見破れたりするんだろうか。

 あの時と同じように、聖女ちゃん以外は死んだように地面に倒れこんでいる。死んでないよね? 流石にそこまで判別できないけれど……。

(遺品回収の箱ある、水ある、外套ある。よしよし、開けちゃおう)

 準備を整え、結界に手を触れて解除する。


「助けにきましたよ、お嬢さん」

 座り込んで唖然とした顔でこちらを見つめてくるのも、たぶん同じだ。自然と顔がほころぶ。頭を一つ撫でてから、倒れこんでいる騎士達を足蹴にして回る。

「いつまで寝ているつもりだ! 立て!」

 ガシャンガシャンと音を立てて男女平等に半数程度を蹴り飛ばし、木箱を取り出して突き刺さってる剣や脱ぎ捨てられた兜などを放り込んでいく。

 それを次元箱にしまい込み、聖女ちゃんを外套でくるんでお姫様抱っこする。杖は持っていてもらおう。

「もたもたしているとリビングメイルが湧いてくるぞ? 私はむさ苦しい男や固い胸の女を抱き上げる趣味はない! 死にたくなければ歩け!」

 おそらくもたもたしていても、リビングメイルはもう湧いてこない。一応探査は効かせてあるが、前回と違って生存者は連れ帰るということになっている。捨てていくわけにもいかない。

 だが脅しは効いたようだ。リビングメイルが湧いてくる。今はまっさらな死の階層に、リビングメイルが湧いてくる。

 騎士達はガシャガシャと大きな音を立てながら立ち上がり、先を歩いていた私の後をついてきた。探査のお陰で後ろを確認する必要がない。きちんと十二人いる。

「あの結界は貴方が張っていたの?」

 無言でコクコクと頷く。うん、やはりこの頃の聖女ちゃんはプリティーだ。犬化した後もあれはあれで可愛かったが、この儚い雰囲気は消えてしまった。もったいない。

「そっか、よく頑張ったね。皆を守ったんだね」

 またも顔がほころぶ。色々話をしてもよかったが、結局その後は口を開くことはなかった。無事に終わってよかったよほんと。

 五層と四層には冒険者が残ってくれていて、三層と二層のヒヨコは魔物とは呼べない。そして一層まで無事辿り着いた。騎士がやけに疲労困憊だが……そういえば水と休憩を与えていなかったな。


「お疲れさまです。連絡の後六層にて騎士十二、少女一人を発見、保護しました。遺体は確認していません。回収した物品はこちらです」

 聖女ちゃんを地面に下ろして、偽装魔法袋から金属製品の入った木箱を取り出す。

「ご苦労だった。今日はもう休んでくれ。明日もう一度管理所へ来てくれないか」

「分かりました。ではお昼頃にでも──」

 さてどうしようか。お風呂……連れて行ったら懐かれるよなぁ……でも流石にこの状態で放置するのは、同性として心苦しい。

「──すいません、この娘もらっていきます。明日一緒に連れていきますので」

「心得た。私の方で対応しておこう」

 流石お父様。話が早くて大好きだ。


 再度ちっこいのをお姫様抱っこして第三迷宮付近の浴場まで駆け、いつかのように有無を言わさず浴室へ放り込んだ。外套は使い捨てだ。安物を選んでいる。

 お湯を頭から容赦なくザバザバとぶっ掛け、全身隈無く泡まみれにしていく。それにしてもやっぱり髪も肌も綺麗だ。絶対この娘お嬢だろう。出会った頃のリリウムより遥かに艷やかだ。

 何でそんなお嬢がわざわざ聖女、迷宮、修行……まぁ、気にしても仕方ないか。

「あの……ありがとうございます。助けにきてくれて。お風呂にも……」

「どういたしまして。きちんと洗いなさいね?」

 タオルも石鹸も予備は大量にある。存分に洗い倒そう。流石に浄化を使うのはなしだ。

 聖女ちゃんの服もいつかのように洗濯していく。これももう慣れた作業だ。この世界には全自動洗濯機なんて便利な物はないので、ルナの家でも手洗いしていた。普段着は防汚がついていたから大した量ではなかったけれど。作れないものではないと思うんだけどな……気が向いたらどこかで注文してみるか。

 洗濯を終え、乾燥部屋に突っ込んで戻ってくると、聖女ちゃんは湯船でグスグスと泣いていた。お湯をぶっ掛けたい衝動に駆られるが──我慢できなかった。頭からぶっかけた。

 唖然とした顔で固まっている聖女ちゃんの顔を両手で挟んでしっかりと目を見据える。

「貴方は頑張った。生きて帰れたのだから、この教訓を次に活かしなさい。何がダメだったのか、何が足りなかったのか。ねっ?」



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― 新着の感想 ―
[一言] う〜ん、 聖女ちゃんルートやり直しなのかなぁ(^_^;)
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