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第百八話

 

「もう嫌ですわぁぁ……」

 リリウムは三十分と経たずに音を上げた。だがフロンがそれを許さず、今も水色ゴーレムの間をベソをかきながら延々と歩いている。頭に板を一枚乗せて。

 まず普通に歩かせた。そして全身に気力を全力で込めさせ、剣を持たせて思いっきりゴーレムに打ち込ませた。それで彼女の気力の強さを覚え、全身に気力を込めさせたまま、頭に板を乗せて普通に歩かせた。板を落としたらフロンの火弾が飛ぶ。歩調が乱れても飛ぶ。板を拾うのが遅れてもへたり込んでも飛ぶ。

「今日からはお茶を飲むときもご飯を食べるときも、外を出歩く時も常にそれだからね。お風呂に入る時もだよ。寝る時は許してあげるけど、手を抜いたら衝撃波入れるからね」

 私には人に合った効果的な修行の選択なんてできない。できるのは、私が効果的だと思った修行をやらせることくらい。頭に板を乗せるよう提案したのはリューンだ、いい手だと思う。

 私は反動軽減に全力で魔力を振って、四種強化で淡々とゴーレムの胸を穿つ作業を続けている。フロンを問い詰めたところ、やはり四肢を砕く必要はなかった。加工しやすいというだけらしい。

「きついですわぁ……つらいですわぁ……これが本当に修行なんですのぉ……」

「嫌なら止めてもいいけど、私はこれ以外の修行なんて付けられないからね」

「止めたら置いていく。強くなりたいと言ったのはお前だろう? それに、修行がきつくて辛いのは当たり前だ」

「大丈夫だよリリウム。サクラはずっとこれを続けてたんだよ!」

 三者三様だが、私とリリウム以外は続けて欲しいと思っている。まぁ頑張ってくれ、確かに効果はあるはずだ。


 リリウムの修行は続く。習慣にしてしまえばいい、辛いと思うから辛いのだ。私がそう言うと、フロンの監視にも熱が入った。リリウムは出会った頃のリューンみたいに泣きながら日々修行を続けた。

 半分とはいえドワーフだ。(ひと)種……私より気力は強くなるだろうと思う。彼女は私やリューンと一緒にストレッチやランニングなどにも付き合っている。継続すれば……そのうち気力だけでも戦えるようになるはず。一人で戦えるようになるはず。


 ルナは流通の中継地だけあって、世界中の人や物、そして情報が集まる。王都ガルデのオークションについての話が届くのも、至極当然の話であって……。

「私はルパに向かおうと思う。最高品質の大型の浄化真石がオークションに出品されるらしいのだ。しかもその造形がまた秀逸とのことでな、人の頭蓋骨の形をしているらしい……是非一度見てみたい。可能であるならば落札してくるつもりだ」

 個人で独自に修練をしている私や、元々毎日迷宮に入ろうとしないリューン、そして基礎からやり直しをしているリリウム。この三人と比べて、フロンは割りとアクティブに方々を飛び回っている。迷宮だったり市場だったり、酒場にもよく出向いているようだ。そんなフロンが持ってきた情報に、私は飲んでいたお茶を吹き出しそうになった。

「浄化真石って……フロン、貴方まだ諦めていないんです?」

「当たり前だ! 何のために私がルナに滞在して、姉さんに転移を明かしてまでゴーレムの素体集めを手伝ってもらっていると思っているんだ」

 売っていたんじゃなかったのか、あのゴーレム。建材の需要でもあるのかと特に尋ねてはいなかった。視線をリューンに向けると、彼女は首を横に振っている。何に使っているかまでは彼女も知らないっぽい。

「真石って、何に使うのさ。大型の頭蓋骨型って、パイト産の数百億とか一千億以上するとか言われているやつでしょ」

「姉さんも耳が早いな、正にそれだ。浄化真石が動力源として優秀なのは知っているか?」

 首を横に振る。全く知らない。薬や装飾品に使われているとか、私の知っている情報なんてのはその程度だ。そしてパイト産でリューンが察した。思いっきり呆れたような顔をしている。魔法袋の購入を検討する際に、近々お金が入るということを彼女には言ってあったわけで。

「魔導船や飛空艇などはそこに色々と足すのだが、とにかく浄化真石は、そういう大型の移動型魔導具の動力源としてとても優秀なのだ。随一と言ってもいい。この際に重要なのはその質でな。あの品質の査定に厳しいパイトが最高品質と謳っているのだ。これは是非とも見に行かなければならない! 私はこれから金策に奔走する。リリウムの監視は任せたぞ」

 今にも飛び出しそうなフロンを……どうするか。隠してもいいんだが、あれの売り手は私なわけで。燃料にするだけなら浄化真石はいくらでも取ってこれる。それに移動用魔導具……かなり興味がある。

「ちょっと待ってフロン。フロンは移動用の魔導具というものを作っているの?」

「その通りだ。今はまだ部品を加工している段階だが、私が作っているものは飛空船だ。船が空を飛ぶ……というものを想像してくれ。大体そのようなものだ。小型ではあるが、速度と航続距離に重きを置いた、実用的な物に仕上がると自負している」

「船……あの水色ゴーレムの身体はそれに使うわけか」

「その通りだ。あれは皆も知っての通り強度も高く、あらゆる面で水に強いのだ。高級船舶の建材として需要が高い。空と海、両方を駆ける飛空船には持ってこいの素材でな」

「それは大型の浄化真石があればすぐにでも完成するの?」

「まさか。仮にオークションの品が本当に私が必要とする最高品質のもので、それが手に入ったとしても……そうだな、五十年はかからないだろう。資金さえあれば数年でできるかもしれないが、今すぐというわけにはいかん」

「浄化真石は質が重要であって、別に形や大きさはどうでもいいんだね?」

「そうだ。その場合はある程度の数が必要になるが、小型が十個でも中型が五個でも構わない」

 リューンに再度視線を向けると、頷きを返してきた。人手はあった方がいいだろう。私としても、リューンがそういった技術を学んでくれると助かる。移動用魔導具はどこかで買おうと思っていたが、メンテナンスをさせる人材が必要だった。

 ちょっと待ってて。と言い残して寝室に向かい、次元箱からあるだけの浄化真石を含めた全ての魔石を持ち出す。

「まぁ、ルパに行くのはちょっと待ってよ。先に話をしよう」

 居間に戻り、テーブルの上に浄化真石をぶちまけてからソファーに腰掛けた。


 百個と少しあるかどうかかな。ちょこちょこ溜め込んでいたが、そう大した数ではない。私にとってはそうでも、リューンは慣れていても……フロンとリリウムにとっては違う。目を見開いて硬直している。

 他の色付きの浄化品は袋ごとに分けているが、おそらくこれらの中身も察してくれただろう。リリウムは未だに固まっているが、フロンが先に再起動を終えた。

「……姉さん、これはパイト産かい?」

「ほとんどはそうだね。この間の……北西の四十八層、あそこの魔石も二十個くらい混ざってるよ」

 よくよく見比べれば、幽霊大鬼のものは霊鎧のものより若干小さい。質に関してはなんとも言えない。専門家の匙加減次第だ。個人的には幽霊大鬼の方が若干高品質ではないかと思っている。

「これは驚いた……いや、本当に驚いているんだ。何だこの純度は……モヤの一つもかかっていないとは……」

 触ってもいいかと視線で尋ねて来たので、どうぞと手振りで返す。これ、最初は皆素手で触りたがらない。フロンもハンカチを介して見つめている。

「パイトで魔石査定を担当してくれていた人にも最初は同じ点を驚かれたよ。白いモヤが全くかかっていないって。ちなみに、あの髑髏魔石はこれ……というか、パイトのリビングメイルの物より若干質がいいらしいよ。素人目には同じようにしか見えないけどね」

「……大型というのは、どれ位の大きさなんだ?」

「私の頭より二回りくらい大きいのかな、横がこのくらいで、高さがこのくらい?」

 手で大きさを示してみるが、私もうろ覚えだ。確かなことは、その程度の量を集めるなら迷宮に二、三回も入れば十分に集まると言うこと。

「それで数百億とか……そんなに精緻なの?」

「そうだね。かなり不気味ではあるんだけど、綺麗と言えなくもないね。美術的な価値はかなり高いって。オークションがいつ始まるか知らないけど、博物館かどこかに展示して太客を集めるとか言ってたから、今向かえば見られるかもよ。王都に物が届くまで、情報は流さないようにお願いしてたんだ」

 今になって情報が入ってきたということは……私達がルナへ向かった時には既に王都へ魔石が届いていて、同じ船で情報もルナに届いたか、あれから二ヶ月……もう経ったのかな? 次の船で情報が入ってきたかだ。

「サ、サクラさん! わ、わたくしもこれ、これ、み、みた、みてみた……!」

「いいよ、黒石以外はその辺に入ってるから。広げてもいいけど、仕分けが面倒だから混ぜないでね」

 フロンからだいぶ時間を置いてリリウムも戻ってきた。多少壊れているが、彼女も真石を手にとってまじまじと眺め始める。なんか懐かしいね、こういうの。パイトでは日常だった。

「とまぁ……これが規格に合うなら、ガルデで大金貨放り捨てなくても都合はつくよって話。別に見に行くのを止めるつもりはないよ」

「ふむ……うむ……ここにあるのは二種の魔物産の物のみ、なのだね?」

「そうだよ。パイトのリビングメイルが大半で、ルナのオーガレイスの物が二十個くらい。他の物は混ざってないよ」

「オーガレイスは北西の四十八層だな……」

「他の階層に出てくるのかは知らないけど、私はそこでしか戦ったことがないね」

「ルパへ向かう必要はなくなったかもしれないな。姉さん、取引をしないかい?」



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