表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/44

最後の戦い 3










 春になり、ヘルブラントはさすがにレギン王国の貴族を追い返した。一年居座っていることになるので、彼らも外交面から考えて一度戻らねばならないだろう。彼らも、国元に情報をもたらさなければならない。


「レギン王が動く前に決着をつけたいな」

「バイエルスベルヘン公が思い通りに動いてくれるとは思えませんが……」

「時間がかかるとまずいのは、公も同じです」


 ルーベンス公爵の意見に、オーヴェレーム公爵がきりっと言い返した。


「姫様が公の基盤であった北方を制圧いたしましたし、国内の彼の勢力はかなり削られています。早いうちに手を加えなければ、残っている勢力もこちらに翻る可能性があります。できるだけ早く、手を打ちたいのではないでしょうか」

「だなぁ。俺ならそうする」


 ヘルブラントがうなずいて笑った。同席している彼の弟妹は面白くはなさそうだが。


「え、えっ。こんなにのんびりしてていいんですか」

「別にのんびりしてるわけじゃないぞ。俺たちが話している裏では、みんなが駆けずり回っている」

「えっ。それもどうなんでしょう」


 リュークとヘルブラントの会話に、リシャナが少し笑った。


「ロドルフが攻めてくるなら、南西の港に上陸し、そこから攻めあがってくるでしょうか」

「東から陸路は厳しいからなぁ。北から攻めてくる可能性もあるが、今、ラーズ王国と険悪だろう」


 東の国境を接しているヴァイセンブルクはヘルブラントの姉のアルベルティナが嫁いだ国で、関係は良好だ。ロドルフたちが通ることを許すとは思えない。

 北は北で、リシャナが去年流した噂が完全に払しょくできていない。ただの流言なのでは、という話も出ているそうだが、人々の不信感はぬぐえなかったようだ。


「南西はもともとバイエルスベルヘン公の支配が及んでいない地域ですから、攻めあがってくるのに難儀するでしょうね」

「なりふり構わずに攻めてくれば、民に被害が出ない?」


 不安そうにリシャナがオーヴェレーム公爵を見た。公爵は「出るでしょうね」とうなずく。


「ですが、こちらには姫様がいます。そうした弱者に配慮してくれるのは姫様だ、ともう国民たちは知っています。バイエルスベルヘン公も察しているでしょう。あまりに残虐な行いをすると、民意がこちらに流れます」


 戦に勝った後、国を治めることを考えると、あまり国民の顰蹙を買うのは避けたいところだ。ロドルフがたとえ気にしなかったとしても、周囲の者が止めるだろう。


「バイエルスベルヘン公がラーズ王国と再度共謀して攻めてくる可能性は低いですが、公が動いたところでラーズ王国がそれに乗じて攻めてくる可能性はありますね」


 冷静にオーヴェレーム公爵はそう言って、ヘルブラントの参謀のシームが後を引き継いだ。


「さようですね。陛下とバイエルスベルヘン公が戦いあって、共倒れでもすれば労せずこの国が手に入りますから」

「……」


 かつて似たようなことを言ったことがあるリシャナが微妙な表情になったのがわかった。彼女の発言はただの願望だったわけで、結局ロドルフとラーズ王国が戦いあうようなことにはならなかった。


「……そうなれば、私が北上いたしますので問題ありません。勝てるかはわかりませんが、負けないでしょう」

「それってどう違うの?」


 リュークに首を傾げられたリシャナが、同じように首をかしげた。ちょっと和む。ではなく。


「全く違うだろう。負けないのは現状維持、と言うことだ」

「……なるほど?」


 ヘルブラントの解説にもピンとこなった様子だが、そのままスルーされた。


「とにかく、リシェに頼む。北方を支配しているのはお前だからな」

「承りました」


 このままだと、リシャナは戦後、領地として北方を与えられそうだ。もしかしたら、ヘリツェン伯は更迭されるかもしれない。まあ、更迭されるほどの動きを見せていない気もするが。

 ほかにもいくつか打ち合わせをして、その場は解散となった。


「いつも思うんだけど、この会議、僕が参加する意味ある?」


 おそらく、話されていることの半分くらいがわからないのだろう。リュークが隣を歩く妹に問いかけた。リシャナは首をかしげる。


「情報共有のために必要なのではありませんか。それに、戦争中の今だけだと思いますし」


 今、ヘルブラントはどうしても兄弟の協力が必要だ。だから、弟妹達とよく話し合って方針を共有する。だが、戦争が終わって地盤が固まれば、ここまで何度も兄妹で会議をしないだろう。


「うう……早く終わるといいね」

「……そうですね」

「何があっても、ロドルフの嫁に行かないでね」

「行きませんよ」


 念押しするリュークに対し、リシャナは真顔だった。


 リュークとも別れて、リシャナは宮殿の自室に入った。








 ロドルフが支援を受けている国から出国した、という情報が入ったのは、それからすぐのことだった。ヘルブラントたちも準備は抜かりない。その報を聞いてすぐさまロドルフの上陸予定地である港湾都市へ向かった。

 ラーズ王国内でも戦準備が見られるが、ロドルフと組んで動いているわけではなく、やはりこちらが王位を争っているうちに、リシャナに掌握されたリル・フィオレ北方を再支配しようとしているようだ。盗られたものを取り返しに来たのだろうが、もともとリル・フィオレの国土である。実効支配できなかったこちらも悪いのだが。

 とにかく、二方面作戦になるのは避けられない。避けられないのであれば、できるだけ早く、どちらかの決着をつけた方がよい。早期決着を行うのであれば、ロドルフの方だ。


 リシャナはロドルフとの戦いの場から反転して北方へ向かう際に、自分の部隊の半分をヘルブラントに預けていくことにした。ヘルブラントに戦力が必要なのもあるが、迅速な行動に大軍は向かないからだ。リニとユスティネは、基本的にリシャナに張り付いていることになる。

 季節は春。ロドルフ出国の報を受けてから約半月。ロドルフの軍とヘルブラントの軍はストラ平原で相対した。街が近く、遮蔽物が多い。ここを戦場に設定したのはヘルブラントだ。リシャナは野戦が得意ではないが、ヘルブラントは野戦が得意である。

 途中でリシャナが抜けるであろうことはばれているだろうが、こちらとしてそんなつもりはありませんよ、と見せなければならない。なので、リシャナは左翼を担当していた。ヘルブラントは右翼に陣を構え、中央にいるのはリュークである。そう、今回はリュークも連れてきていた。本人は震えていたが、参謀もつけてあるし、本陣のある中央は一番守りが厚い。何より、妹が戦う気なのに、兄は妹を助けないのか、と煽られていた。がんばれ、リューク。


 リュークは怯えていたが、他二人の気合が入っていることもあるのか、割と押し気味だ。……気合がどうのと言うより、ロドルフを支援する者が少なくなったのだと思う。ここまで戦いが長引いていること、戦が後半に入り、思いがけずリシャナと言う新しい指揮官が現れたこと、これまでロドルフが多くの傭兵を雇い支援を受けながらも、その清算ができていないこと……理由はいくらでもあるが、今回もロドルフが攻めてきたというより、支援していた国から半ば追い出されたのではないだろうか。


 このまま押し切れる。そう思ったころ、ラーズ王国が攻めてきたという報を聞いた。












ここまでお読みいただき、ありがとうございます。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ