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不穏

20190901 0時更新

            ※




 とおるたちが店を出て暫くした頃、不良グループはカラオケに来ていた。


「……んでさ~、史一ふみひとの友達っていつ来るわけ?」


 麗子に言われて、史一は携帯を確認する。


「今、連絡があった。

 もう着くみてぇだ」


 カラオケで合流することになっているのは史一の中学時代の友人だ。

 高校に入学してから直接会うのは初めてになる。


「めっちゃ楽しみ~。

 イケメン? だったらあたし、喰っちゃおうかなぁ?」

「ちょっ……麗子~、ビッチすぎだし」

「あははっ、冗談だってば。あたしは史一だけだし~」


 品のない冗談で室内は下卑た笑いに満ちた。

 まるで性の獣たちだ。

 この年代の学生にとっては、最も興味がある事の一つであるのは間違いないが。


「ねぇ史人、もう先に始めない? 今日も持ってきてんっしょ?」

「……もう少し待ってろ」

「待てない~……早く欲しいのぉ~?」


 頬を上気させる麗子。

 だが、期待に目を輝かせているのは彼女だけではない。

 この場にいる男女の多くがそうだった。


「ったく、仕方ねぇな」


 麗子は艶っぽい笑み浮かべて、史一の膝の上に乗る。 

 そして、ぎゅっと身体を抱き柔らかな胸を擦り付けた。

 その時――カチャッと、部屋の扉が開いた。

 史一が視線を向けると、爽やかな好青年風の男子が扉の外に立っている。


「……ったく、おせぇぞ」

「悪い、待たせた」


 爽やかな好青年風の男子が口を開いた。

 しかし、部屋の異様な状況を見ても不思議に思っていないようだ。 


「あん? 一人か? 女は?」

「都合が付かないってことで断られた」

「ははっ、テメェの誘いを断る奴がいるんだな。

 すげぇいい女だって言うから、楽しみにしてたのによ」

「こっちは優等生なんでね。

 無理強いはできない」


 史一の言葉に苦笑する好青年。


「でも、これは持ってきた」


 少年は透明な小さい瓶を取り出して机に置く。

 その中には白い錠剤のようなものが入っていた。


「うわっ! すっごいじゃん! これ全部あれなん?」

「これだけあれば……マジ気持ちよくなれそ~」


 二人の女子が歓喜に震える。

 彼女たちにとってそれは、宝物のように価値があるものなのかもしれない。


「……ふふっ、好きに使ってくれていいから」

「マジで!? すっごいじゃん! あんたって何者!?」

「キミたちと同じ高校生だよ」


 言って、青年はソファに腰を下ろした。


「女を連れてこれなかった代わりに、『薬』を持ってきたわけだ」

「まあね。

 これだけあれば十分楽しめるだろ?」


 少年は真意を全く読み取らせない笑みを浮かべる。


「ったく……何が優等生だ。

 オレなんかよりよっぽどたちが悪いじゃねえか」

「使うか使わないかは個人の自由さ。

 オレは強制させたことはないからね。

 それに……女の子を連れてこれなかったお詫びだよ」

「詫びねぇ。

 それよりも、女の顔が見てぇな。

 写真はねえのか?」

「ああ……何人か映ってるのでいいなら。

 この金髪の子だ」


 そう言って、彼はスマホの画面を史一に見せた。


「どれ、お前が目を付けてた女は――あん? こいつ……」


 不良の目が一点に止まる。


「どしたん、史一? もしかしてめっちゃ美人だったとか?

 うち以外の女にデレデレしてほしくないんですけど~?」


 意中の相手が目を見開くのを見て、麗子もスマホを覗き込んだ。


「……っ、めっちゃ可愛いいじゃん。

 で、でも、うちだって……って、あれ……?」


 麗子は何かに気付いたのか、マジマジとスマホを見つめる。


「もしかして、知り合いだったかな?」

「あ~えっと……もしかしたらなんだけど……」


 好青年に問われて、麗子は口ごもる。

 そして自分のスマホを取り出した。


「なんとなく……似てない?

 中学時代の同級生なんだけど……いや、でも、流石に別人だよね?」


 麗子のスマホに映っている黒髪、おさげ、眼鏡の女子生徒。

 見るからに地味。

 だが顔立ちはどことなく、好青年のスマホの中にある写真の金髪の少女に似ている。


「こいつ最悪でさぁ~、めっちゃウケるエピソードいっぱいあんだよねぇ~」


 恍惚に染まる少女の表情は、見る者が見れば嫌悪感に吐き気すら感じるような醜いものだった。

 だが、その様子を見て彼の興味は強くなっていく。


「最悪……か。

 少し話を聞きたいな。

 この子の名前、聞いてもいいかい?」

「うん。えっと――」


 麗子の口から地味な少女名前を聞いて、少年は可笑しくて仕方ないと言うみたいに、歪んだ笑みをたたえるのだった。

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