9.
一人の女子生徒が怒り声でそう言葉を発する。
「あの三人、退学にはなったみたいだけど、それで許されるの?!揚羽ちゃん、頑張り屋さんで、発表会に向けてあんなに頑張って練習していたのに!!」
別の女子生徒も怒りを露わにしながらそう言葉を発する。
「そうだな……。寺川さん、いろんな子に気遣いが出来て、どの人にも優しかったのに……」
その場にいるサッカー部の男子生徒が悲しそうな表情でそう言葉を綴る。
「先生が言っていたけどさ、たまに開く養護教室に来ている子たちが、寺川さんが居なくなってみんな心配しているって話していたよ。『いつ戻ってくるの?』って、言ってみんな寂しそうだっていう話みたい……」
別のサッカー部の男子生徒が寂しそうな顔をしながら、そう言葉を綴る。
その場にいる人たちからは「絶対に許さない!」という、感情が溢れていた。藤木たちの処分に関しても、「警察沙汰じゃないのか?」という話が出たりして、藤木たちに対する怒りが収まらない。
「ねぇ……」
そこへ、その場にいる一人の女子生徒が口を開く。
「今度の土曜日に、みんなで揚羽ちゃんのお見舞いに行かない?元気が出るようなお見舞い品を持ってさ!どうかな?」
「うん……。そうだね……。よし!お見舞いに行こう!!」
その言葉にその場にいる女子生徒がそう返事をする。
そして、土曜日に揚羽の好きなケーキと紅茶の詰め合わせを買って、お見舞いに行こうという話になった。
***
「……お見舞いに来てくれて、ありがとう」
揚羽の家の玄関先で揚羽の母親が、そう口を開く。
やって来たのは愛理だった。
揚羽に電話しても繋がらないことを心配して家まで訪ねて来て、揚羽に何があったのかを聞きに来た。しかし、当の揚羽はやはり会う事を拒否して、揚羽と会うことが出来なかった。
「ごめんなさいね、せっかく来てくれたのに……」
母親が申し訳なさそうに愛理にそう声を掛ける。
「いえ……。それにしてもそんな酷いことをするなんて……」
揚羽の母親から聞いた話を聞いて、愛理が苦渋の表情を浮かべながら、そう言葉を綴る。
「学校からのお電話では、その事を起こした人たちは退学になったそうだけど、でも、だからと言ってあの子の心が晴れるわけじゃないわ……。それに、揚羽に危害を加えた子たちの話だと、揚羽の髪を切れば良いって言ったのは名前も知らない女の子みたいだし……。一体どこの誰がそんなこと言ったのかしら……。考えただけでその女の子が腹立たしくて憎くなるわ……」
母親が体を震わせながら、そう言葉を綴る。
最愛のわが子にそんな事を言った誰かも分からないその女の子が、憎くて仕方ないのだろう……。母親の表情から苦悶の表情が見て取れるほど、怒りと苦しみに満ちているのが分かる。
「あら、私ったら、愛理ちゃんの前でごめんなさいね」
ふと、自分が険しい表情をしている事に気付き、そう言葉を発する。
「いえ……」
その言葉に愛理は、特に声を掛けることが出来ない。
「あ、そういえば妹さんは元気にしているの?」
母親が微笑みを浮かべながら急に話題を変えて愛理にそう尋ねる。
「えぇ。元気にしていますよ。父が引き取ったので詳しいことは分かりませんが、たまに電話で話をすると「大丈夫」って言っています」
愛理が妹の事をそう話す。
「そう。なら良かったわ」
愛理の話に母親が笑みを浮かべる。
そして、愛理は「また来ます」と言って、その場を離れていく。
結局、愛理が来ている間、揚羽は一歩も部屋から出てこなかった。
愛理の中で「少しでも会えるかも」という淡い願いは叶わずに、愛理は帰り道をとぼとぼと歩いて去って行った。
***
「何もかもから逃げ出せたらいいのに……」




