22.
「こんにちはー。新しい本を寄贈にしに来ましたー」
「ま……学さん?!」
学が突然、図書室に現れて愛菜が呆然とする。
「あら、久しぶりね」
看護師が笑顔で学にそう声を掛ける。
「こんにちは、愛菜ちゃん」
学が愛菜に優しい眼差しを向けながら、そう声を掛ける。
「あら?二人は知り合いだったの?」
看護師が二人の様子を見て、そう口を開く。
学は愛菜に会った経緯を看護師に話すと、看護師は納得したようだった。
そして、学が看護師にあるお願いをした。
「……良かったよ。了承してくれて」
学が川沿いの道を歩きながら、隣を歩いている愛菜にそう声を掛ける。
学が看護師にお願いしたのは、「一緒に散歩に行っていいか」という事だった。その言葉に看護師は快く了承してくれて、夕飯までには戻るという条件でこうやって愛菜と散歩にやって来た。
いつもの川沿いの道は、天気が良いのもあって風が気持ちよく吹き抜けていく。
二人は並んで歩きながら、お互い特に声を発することがない。
(な……何か言わなきゃ……)
愛菜が心の中でそう叫ぶ。
「あ……あの……!!」
愛菜が思い切って声を発する。
「ん?」
学が優しい顔を愛菜に向けながらそう声を出す。
「なんで……なんで、学さんはここまで優しくしてくれるの?私、あんな酷いことしたのに……」
愛菜が立ち止まって俯きながら、涙を堪えるようにそう言葉を綴る。
学も歩く足を止めて、愛菜の瞳に溜まっている涙を手でそっと拭うと、優しく言葉を紡ぎ出す。
「あの時は本当にごめんね……。傷つける気は本当になかったんだ……。何とかしてあげたくて、焦ってしまって、あんな事をしてしまったんだよ……。気遣いが足りなかったって反省している……。でも……愛菜ちゃんを救いたいっていう気持ちは今も変わらないよ……」
学の言葉に愛菜がポロポロと涙を流す。
学の優しさに応えたい……。
学のその言葉に応えたい……。
でも……もし……また裏切られたら……。
愛菜の心の中で激しい葛藤が渦巻く。
応えたい気持ちと、裏切られた時の怖さが交じり合い、素直になることが出来ない。
学が愛菜の様子を見て、何かを悟ったのか、愛菜の手を取り、ゆっくりと、一緒に歩きだす。
愛菜はその手を振りほどくことなく、無言のまま、学とともに歩きだす。
川沿いを抜けて、公園に向っていると、公園の入り口近くから公園の中にいる揚羽たちに気付く。
揚羽の髪が短く切られていて、それを綺麗に整えているところを見ると、藤木に切られたものの、切られた髪を綺麗にしてもらったのだという事が分かる。それと同時に、藤木の髪がかなり短くなっているのを見て、揚羽の髪を切った罰でそうなったかもしれないという想いが溢れてくる。
(私……とんでもないことしちゃったんだな……)




