21.
愛菜が心の中でため息を吐く。
【愛菜が憎いのは、こんな醜い自分自身だという事を……】
愛菜が頭の中でそう整理する。
憎いのは醜い自分自身だという事は分かっていた。でも、それを認めたくなくてその考えを否定してきた。
「はぁ~……」
愛菜がベッドから起き上がり、図書室に足を運ぶことにする。看護師にその事を伝えると、愛菜を心配して一緒に図書室に行くことになる。
看護師と図書室に着くと、愛菜は何の本を読むかを探していた。その時、ふと「海月」の作品が目に入る。
「海月」の作品は十冊ほどあった。どの本にも季語が入っており、柔らかな色で表紙が飾られている。
愛菜が「海月」の作品が並んでいる前で立ち尽くしながら眺めていると、看護師が声を掛けた。
「あら、瀬川君の本ね」
看護師が学の苗字を口に出す。
「……知っているんですか?」
看護師の言葉に愛菜が少し驚いたようにそう口を開く。
「えぇ。元々瀬川君はここに入院していたからね」
「え……?」
看護師の言葉に愛菜が呆然とする。
「入院していた……の……?」
愛菜がそう声を発する。
そして、看護師が少しだけ学の事を話し始めた。
「瀬川君はね、当時酷いいじめを受けていたのよ。だから、それが原因で心を閉ざしてしまってね、私たちが話しかけても何も言ってくれなかったわ。「もう誰も信じない」って言うぐらいの勢いで周りを憎んでいる感じだったの。「社会は僕の敵だ!」って言うくらいにね。あの時は、どうしたらこの子の心を分かってあげられるんだろうって本気で思ったわ。でも、ある出会いが瀬川君の心を溶かしたのよ……」
看護士が当時の事を思い浮かべながら、そう言葉を語る。
愛菜は看護師の話を聞きながら、学の過去の話を思い出していた。
それと同時に、学ともう一度会いたい衝動に駆られる……。
でも、愛菜は自分にはそんな資格がないかもしれないと悲観する。
(あんな酷いことをしてしまったのだから、もう会うことなんて出来ないよね……。私が自分の手で救われるチャンスを手放してしまったんだから……)
愛菜の中で苦しみが溢れ返る。
(私は、なんて馬鹿な事をしたんだろう……)
愛菜の心の中で後悔という想いが溢れ出してきて、涙が溢れそうになる。
学の優しさ……。
学の温かさ……。
それを自らの手で断ち切ってしまった自分の愚かさに悔しい思いが込み上げてくる。
(学さんは優しかった……。どうして私は、その優しさに答えなかったのかな……)
愛菜の中で後悔の想いが溢れて流れ出す。
(私がずっと欲しかったものは、あの時手を振り払わなければ、ようやっと掴めていたのに……)
愛菜の中でそんな気持ちが溢れていく……。
それと同時に、失ったものの大きさを改めて感じる……。
看護師がそんな愛菜の様子を見て、何があったのかを聞かない代わりに、優しく愛菜の背中を撫でる。
その時だった。




