19.
愛菜の長袖を捲り、愛菜が隠していた傷を曝け出す。
「……この傷も僕が全部受け止めて――――」
学がそこまで言った時だった。
――――バシッ……!!!
「……放して!!!」
愛菜が叫びながら席を立ち、強い力で学が掴んでいた手を解く。
愛菜は息を荒くしていた。
そして――――、
「やめてよ!!同情なんていらない!!いらないんだから!!放っておいて!!放っておいてよ!!」
愛菜が泣きながら大きな声でそう叫ぶ。
そして、そのまま鞄を掴んで学の家を飛び出して行く。
石川がその叫び声に驚いてリビングに飛んできたが、愛菜は立ち止まることなくその場を駆け足で去ってしまった。
愛菜に何があったのか、石川が学に聞いたが、学は呆然としたまま答えない。
やがて、学は項垂れるようにその場に崩れる。
「僕はただ……救いたかったんだ……」
学が小さな声でそう呟く。
そして、涙を流しながらその場で蹲った。
***
「はぁ……はぁ……ぁ……」
川沿い辺りまで来て愛菜が呼吸を整える。
急に走ったせいで、愛菜の呼吸は乱れていた。なので、一旦立ち止まって呼吸を整える。そして、ある程度落ち着いてきたところで、川沿いの道を歩き始める。
すると、前から三人の女子高生が歩いて来るのが見えた。
「寺川、マジ気に入らない!あの顔を見ているとむかつくわ!」
「あはは!ホントに藤木は寺川が大嫌いだよなー」
「名前も『揚羽』って『蝶々ですか?』って感じだよねー。なら、どっかの花畑で飛んでろよって感じだよねー」
「言えてるー」
「今日の夜もいつもの公園に集合してだべろうよー」
三人の女子高生の会話が愛菜の耳に入ってくる。
その会話で出てきた名前を聞いて愛菜は「もしかして……」と思い、何かを考え始める。
そして、一旦病院に戻ると、夜になってから看護師の目を盗んで病院を抜け出した。そのまま、目星をつけてある公園に向かう。
公園に着くと、川沿いで見かけた女子高生たちがたむろしているのを見つけた。
愛菜が誰に声を掛けるかを考える。
(多分、あのロングの人が主みたいね……。確か「藤木」って呼ばれていたはず……)
そして、愛菜は三人にそっと近づいて、声を掛けるタイミングを伺う。
割と近くまでいくと、三人の会話が聞こえてきた。藤木たちはやはり揚羽の事を話しており、藤木が揚羽をもっと困らせるようなことはないかと言うような会話が聞こえて来て、愛菜は三人に声を掛ける。
「……あなたが藤木さん?」
愛菜が急に声を掛けてきたので三人は驚くが、愛菜は構わずに言葉を綴る。
「寺川さんをどうしたら困らせれるかって話よね?ならいいアドバイスがあるわ」
「アドバイス?」
「今度逆らってきたら、寺川さんの髪をバッサリ切ってしまうと良いわ。きっとボロボロに泣くと思うわよ?」
愛菜が綴る言葉に藤木は「面白そうじゃん!」と言って、そのアドバイスに乗りかかる。
そして、愛菜はその場を去っていく。
(なんだろ……これ……)




