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蝶と鳥のワルツ  作者: 華ノ月
後編 飛べない鳥は羽を見つける

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17.


 次の日、愛菜は出掛ける準備が出来ると、病院を出た。学に借りた「海月」の本を一晩で読み終えてしまったので、その本を返しに行くことにしたのだった。


 川沿いの道を歩いていると心地よい風が流れているお陰で気持ちがいい。そして、時折、鞄の中を開けては、折り紙で作った三十面体の球体タイプのユニットが崩れていないかを確認して崩れていないことが分かるとホッとしてポロリと「大丈夫」という声が漏れてしまっていた。


 折り紙で作った球体ユニットは学と石川に一つずつお礼として、今日の朝早くに急いで作ったものだ。病院では持ち込みが禁止されているものが多いので、どうやってお礼をしたらいいか考えていた時、折り紙が売店に売っていることを思い出す。


 折り紙なら病室にも持ち込めるし、ちょっと凝ったものを作って渡せば、お礼としていけるかもしれないと思ったので、朝食後に急いで折り紙を買いに売店に走り、急いでこの球体ユニットを作り上げた。


 そして、学の家に着いてインターフォンを鳴らす。


「……あら、いらっしゃい」


 玄関から顔を出したのは石川だった。


 そして、門を開けてくれて愛菜を家に招き入れる。そのまま、いつものように愛菜をリビングに通して、石川は学を呼びに行く。


 愛菜がリビングで学が来るのを待っている時だった。


「ニャー……ニャー……」


 ホワイトがリビングにやって来て、愛菜の所にとことことやって来る。


 そして、いつものように愛菜の膝の上に飛び乗り、気持ちよさそうにくつろぎ始めた。


 そこへ、リビングに学が顔を出してきた。


「いらっしゃい、愛菜ちゃん」


 学は笑顔で愛菜に声を掛けて、いつものように愛菜の隣に腰を下ろす。


「あの……これ……」


 愛菜が急いで鞄から本を取り出す。


「これ……、ありがとうございました。とっても良かったです……」


 愛菜が本を学に渡しながらちょっと恥ずかしそうな顔で、そう言葉を綴る。


 そして、再度鞄の中をごそごそと動かして、折り紙で作った球体ユニットを取り出し、一つを学に差し出す。


「その……お金が無いから……お礼にこんなものですごく申し訳ないんだけど、何かお礼はしたくて……」


 愛菜が口をもごもごとさせながら、おずおずとその球体ユニットを学に渡そうとする。


 学に作った球体ユニットは青色系統で作られていた。


「その……学さんのイメージカラーは青色系統だと思って作ったの……。その……学さんって青い空や穏やかな海のようなイメージだから……それで……これを……」


 愛菜がもごもごとした口調で、学に伝わるように必死で話す。


 学は愛菜の言葉が上手く伝わっていないのか、その折り紙の球体ユニットを見てポカンとした表情で固まっている。


「ご……ごめんんさい!や……やっぱりお礼が折り紙で作ったものなんておかしいよね!!」


 愛菜が学の様子でそう感じ、慌ててそう言葉を綴る。


 そして、その球体ユニットを鞄に戻そうとしていた時だった。


 愛菜が球体ユニットを鞄に戻そうとしていた手を学が優しく包み、言葉を綴る。


「ありがとう、愛菜ちゃん。その……嬉しくてどう反応していいか分からなくなっちゃたんだ……。これ、貰っていいの?」


 学が愛菜に優しくそう尋ねる。


 その言葉に愛菜は恥ずかしそうに頷く。


 そして、その球体ユニットを学に手渡すと、学は嬉しそうにそれを眺めている。


「愛菜ちゃんから見て僕のイメージカラーは青い空や穏やかな海の青色なんだね。何だか嬉しいよ……。そんな風に思ってくれていると思うと……」


 学が微笑みながらそう言葉を綴る。


 そこへ、石川がクッキーと飲み物を持ってリビングにやって来た。


「あら?折り紙?」


 学が手に持っているものを見て石川がそう声を発する。


「綺麗な色で作ったのね!」


 石川がそう微笑みながら、手際よくクッキーと飲み物をテーブルに並べていく。


 今日はチョコチップクッキーだった。綺麗に成形されているクッキーは一瞬お店のものと勘違いするような出来栄えだ。


「良かったら食べてくださいね」


 石川の言葉に愛菜が小さな声で「ありがとうございます」とお礼を言う。


「あ……あの……」


 愛菜が鞄を再度ごそごそとさせて、もう一つの球体ユニットを取り出す。そして、それを石川に差し出す。


「石川さんにも作ってきました……。その……石川さんは穏やかな太陽のようなイメージだったので、この色で作ってみました……」


 愛菜がおずおずと石川にその球体ユニットを渡そうとする。


 その球体ユニットは黄色やオレンジを使った明るい雰囲気が漂うユニットだった。


「ありがとう、愛菜ちゃん」


 石川が愛菜からその球体ユニットを受け取る。石川の表情はどこか寂しさもあるような雰囲気を漂わせながら、でも、嬉しそうな、そんな表情をしている。


「愛菜ちゃんから見て、私は穏やかな太陽なのね。ありがとう、大事にするわね」


 石川がそのユニットを眺めていると、何かを思い出しているのか、ポツリと言葉を呟く。


「あの子も、こういうのが好きだったわね……」





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