16.
石川が泣いている愛菜を見て、学を叱咤する。
「ち……違うんです……」
愛菜が慌てた様子で石川にそう声を掛ける。
「わ……私がこの本を読んで泣いちゃっただけで……学さんが泣かしたんじゃないです……。主人公の事を考えたら、辛くて苦しかったんだろうなって思って……」
愛菜が瞳に涙を溜めながら石川に必死の想いでそう説明する。
石川は愛菜の言葉に「学が泣かしたわけではない」という事が分かり、安堵の表情を浮かべる。
そして、愛菜が読んでいた本をそっと手に取り、言葉を紡ぐ。
「これ……、確かに泣いちゃうわよね。私も泣きそうになったもの。まぁ、今の愛菜ちゃんみたくボロボロには泣かなかったけどね。でも、愛菜ちゃんは涙もろくて優しい子なのね。なんでホワイトが懐いたのかが、何となく分かるわ……」
石川が穏やかな顔をしながらそう言葉を綴る。
その時だった。
「ニャー……ニャー……」
ホワイトの鳴き声がして、愛菜が声の方に振り向く。
ホワイトは愛菜の所に一直線に来て、愛菜の膝の上に飛び乗り、くつろぎ始める。
愛菜が泣いていたので、ホワイトも愛菜を慰めるように、愛菜の流した涙をぺろぺろと舐めて拭っていく。
「ふふっ……。くすぐったいよ……ホワイト……」
そのホワイトの仕草に愛菜の表情から少し笑みがこぼれる。
そして、病院に戻る時間になったので学から別の本を借りて、愛菜は学の家を後にした。
***
「……あら、お帰りなさい」
愛菜が病院に戻ると、看護師が愛菜に声を掛ける。でも、愛菜の表情を見て看護師は大丈夫であることが分かると、特に何かを聞くことはしなかった。
そして、病院での夕飯が終わり、愛菜は早速本を開いて読み始めた。
***
「まさか、あそこまで泣くなんてね……」
石川がリビングで学と向かい合わせにソファーに座りながら、そう声を出す。
愛菜が帰った後、学たちも夕飯を終えて、石川がいつものように食後のお茶を運んできたので、一緒にくつろぎながら時間を過ごしていた。
そして、今日の愛菜が本を読んでボロボロに泣いたことを学と石川はお互いしんみりとした表情で話している。
「愛菜ちゃんは他人の気持ちに同調してしまうのね。相手が嬉しいと自分も嬉しい。相手が辛いと自分も辛い。それに、愛菜ちゃんってすごく周りにも気を遣う子じゃないかしら……?」
石川が今日の愛菜の様子で感じたことを学に話す。
「うん、きっとそうだろうね……。愛菜ちゃんは凄く優しい子だけど、優しい分、凄い脆い子だと思う……。支えが無いと崩れていきそうな、そんな危なっかしさがあるよね……」
学が感じたことをそう言葉に綴る。
その言葉を聞いて石川が言葉を覆う。
「だから、自分が支えてあげることが出来れば……って、思っているのでしょう?」
石川の言葉に学が「気付いていたか」と、観念したのか片手で自分の顔を覆う。
「……そうだよ。僕が愛菜ちゃんの心の支えになれれば……とは、思っているよ……」
学の言葉に石川が微笑みながら更に言葉を重ねる。
「素直になりなさいな。本当は恋人になりたいのでしょう?」
石川の言葉に学は顔を真っ赤にして何も言わない。それを見て石川は「それが答えね」と穏やかな眼で言った。
***
「……うん、何とか大丈夫……」




