14.
病院の昼食が終わり、出掛ける準備をしている愛菜に看護師が昨日の愛菜の様子を心配して声を掛ける。
「今日は天気が不安定だし、いつ雨も降るか分からないから今日くらいは病棟にいる方が良いんじゃないかしら……」
看護師の言葉に愛菜は一瞬戸惑う。
「今日じゃなきゃ、駄目なの……」
愛菜が看護師の言葉を断り、病棟を出て行く。
そして、学の家に向って歩きだした。
外はどんよりとしており、いつ雨が降るか分からないようなそんな天気だった。念のため傘を持って来ているので、雨に降られても何とかはなる。
「さむ……」
曇りのせいか、薄手のカーディガンでは少し肌寒い感じもする。
(もう少し、暖かい格好でも良かったかな?)
今日の服装に少し後悔しながら道を歩く。
そして、学の家に着いてインターフォンを鳴らそうかどうかを躊躇う。
(……やっぱり、帰った方がいいかも……)
愛菜が学の家の前でうろうろしながら、気持ちが後ろ向きになってくる。
その時だった。
「愛菜ちゃん!!」
上の方から声が聞こえて愛菜が顔を上げる。
顔を上げた先には、学が二階の窓から顔を出して、手を振っているのが見えた。
「ちょっと待っていてね!今、門を開けるから!」
学は大きな声でそう言うと、顔を引っ込める。
しばらくして、学が玄関から出て来て門を開けてくれた。
「いらっしゃい、愛菜ちゃん」
学が笑顔で愛菜を出迎える。
愛菜はその表情にどこかホッとしたようなそんな感覚になり、どことなく安心した。
『もしかしたら、昨日のことで怒っているかもしれない』
という気持ちが愛菜の中にあったので、学が怒っているわけではないことが分かり、安堵感に包まれたのだった。
学に促されて家に入ると、石川が顔を出してくる。
「あら、いらっしゃい。良かったらゆっくりしていってね!今日はパンプキンプリンを作ったから、食べていくといいわよ!」
「……ありがとうございます」
石川の綴る言葉に愛菜が小声でそうお礼を述べる。
「じゃあ、こっちにおいで」
学がいつものように愛菜をリビングに連れて行こうとする。
「あ……あの……!」
愛菜がそこへ口を開く。
「も……もし良かったら学さんのお仕事の部屋を見て……みたいです……。その……学さんの書いた小説を読んで見たくて……」
愛菜がどこか申し訳なさそうな口調でそう言葉を綴る。
その言葉に学は一瞬驚くような顔をするが、すぐに優しい表情になる。
「いいよ。僕の部屋に行こうか」
学の言葉に愛菜が「コクン」と頷く。
そして、学に案内されて愛菜は学の部屋に入っていくと、そこには沢山の本が壁に面するように本棚の中に収納されていた。部屋の中心には机が設置されており、そこにはノートパソコンが置かれている。
愛菜が部屋をぐるりと見渡す。
どんな本が置いてあるのかを見ていると、隅っこの方にある小さな本棚に目が留まった。
その本棚には全て同じ作者の本が並んでいる。
「この人……」
愛菜が最近読んだ本の作者がこの本棚に並んでいる「海月」だったので、その本棚の前で足が止まる。
「あぁ、そこは僕の小説の本棚だよ」
愛菜がその本棚の前で足を止めたので、学がそう声を発する。
「じゃあ……学さんが海月なの?」




